さて、みなさんは「黄金比」、「フィボナッチ数列」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか?この言葉をご存じなくても、私たちの身の回りには結構この2つの要素をもった物がころがっているので、どこかで一度はご覧になったことがあると思います。このページをお読み頂くことによって、それ以前には何とも思わなかったような物が、興味深い物として目に映ることをご期待しまして、この不思議な数の世界へご招待致したいと思います。
【黄金比(黄金数)について】
タバコのパッケージ(細長くない方のもの)やマンガ本、テレホンカード、クレジットカード、名刺など、すぐに取り出せるもので結構ですから、ちょっと目の前に並べてみてください。よくみるとどれも(大きさは違うけれども)同じ形であることに気づかれることと思います。
さて、右図をご覧ください。長方形ABCDから正方形AEFDを取り去った残りの長方形BCFEが、もとの長方形ABCDと(大きさは違うが)同じ形になっています。このとき、長方形ABCDと長方形BCFEは相似であるといいます。
2つの四角形の相似比を利用して、図中のように計算をした結果、おおよそ
AB:AD=8:5
になっていることがわかります。
この長方形のことを「黄金長方形」、またこの比のことを「黄金比」といいます。
この考え方の起源は、”三平方(ピタゴラス)の定理”で有名な紀元前古代ギリシャのピタゴラス学派(の徽章である星形)に端を発しますが、その頃は「外中比」という言葉が使われていました。「黄金」という”いかにも”という名前をつけたのが誰であるかは、はっきりわかっていません。現在のもっとも有力な説は、19世紀に入ってからの比較的最近のことではないかといわれています。オーム(M.Ohm)が1835年に出版した『「純粋初等数学』のなかに「Goldene(黄金)」という言葉がでてきますので、彼が名付け親かもしれません。(D.E.Smithの『数学の歴史』第2巻による)
「黄金比」はヨーロッパでは古くから最も美しい長方形として親しまれてきました。右図のように、ルーブル美術館に所蔵のミロのビーナス、パリの凱旋門、ギリシャの遺跡パルテノン神殿でこの「黄金比」が利用されています。これら以外にも前述のテレホンカード等の他、画家アングルが描いた「泉」という作品など色々なところに「黄金比」が見られます。
さて、このように黄金比は芸術や建築の世界において多数見出されるとともに、フィボナッチ数列と深い関わりがあるのです。それでは、今度はフィボナッチ数列についてご紹介していきましょう。
フィボナッチ数列の”フィボナッチ”という言葉は、もともと12〜13世紀に実在したイタリアの数学者の名前からきています。ピサの斜塔で有名なピサ市に住むLeonardo filio Bonacij(レオナルド・フィリオ・ボナッチ)という人が、アラビア数学を母国に紹介した書物『算術の書』のはじめに、”Leonardo filio Bonacij Pisano(ピサのボナッチの息子であるレオナルド)”と書いてあるところから、その中にある”filio Bonacij”という言葉がなまって”Fibonacci(フィボナッチ)”と呼ぶようになったといわれています。(ちなみにハンバーガーで有名なマクドナルドのMc(マック)も息子という意味です。)
また、数列とは「ある一定の規則にしたがって並んだ数の列」のことです。
例えば
2,5,8,11,14,・・・のようにはじめの数に同じ数を次々と加えていってできる数列(等差数列)
2,4,8,16,32,・・・のようにはじめの数に同じ数を次々と掛けていってできる数列(等比数列)
など、その他色々な数列が存在します。
さて、それでは話を進めていきましょう。この15章からなる『算術の書』の中に、次のような問題があります。
『1対の子ウサギがいる。子ウサギは1ヶ月たつと親ウサギになり、その1ヶ月後には1対の子ウサギを生むようになる。どの対のウサギも死なないものとすれば、1年間に何対のウサギが生まれるか。』
この問題を考えるのに、下図を利用してみましょう。
対の数は順に 1,1,2,3,5,8,13,21,34・・・となっています。さて、この数列はどのような規則にしたがって並んでいるのでしょうか?
答えは「隣り合う2つの数を加えると、次の数に等しくなる」という規則をもった数列です。
また、この数列の隣り合う2つの数について比の値をつくってみます。
隣り合う2数の比 | 1/1 | 2/1 | 3/2 | 5/3 | 8/5 | 13/8 | 21/13 | 34/21 | ・・・ |
2数の比の値 | 1 | 2 | 1.5 | 1.666・・・ | 1.6 | 1.625 | 1.615・・・ | 1.619・・・ | ・・・ |
2数の比の値をご覧いただいたときに、何かお気づきになられましたでしょうか?ある値に近づいているのですが、その値こそまさしく「黄金比」なのです。このことは、高等学校で履修する”数列の漸化式を解く”と証明できます。
さて、このフィボナッチ数列は自然界に多くみられます。
その例として
1:「花の花弁の枚数が3枚、5枚、8枚、13枚のものが多い」
2:「ひまわりの種の並びは螺旋状に21個、34個、55個、89個・・・となっている」
3:「植物の枝や葉が螺旋状に生えていくとき、隣り合う2つの葉のつくる角度は円の周を黄金比に分割する角度である」などがあります。
ここでは、”パイナップル”や”まつぼっくり”にみられるフィボナッチ数列についてご紹介します。
右図はまつぼっくりを松の枝にくっついている側から見た図です。まつかさは螺旋状に並んでいて、右回りに数えると8個ずつ、左回りに数えると5個ずつになっていることがわかります。もっと小さなまつぼっくりであれば、5個と3個になっているときもあります。このように、まつかさの配置のなかにもフィボナッチ数列がかくれているのです。
その他、ここではHPの容量の制約上割愛させて頂きましたが、「モールス信号で使用するモールス符号の生成」にはフィボナッチ数列の考え方が非常に有効ですし、高校で履修する「2項式のn乗の展開」で出てくる「パスカルの三角形」の中にもフィボナッチ数列が隠れています。もし、御興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、誠に申し訳ありませんが図書館などで関連文献をお調べになって下さい。
それでは最後にフィボナッチ数列を利用した面積のパラドックスの問題をご紹介致しましょう。!!
図1の正方形をAからDに分割して図2のような長方形に並べかえたとします。
さて、図1の正方形の面積が”8×8=64”であるのに対して、図2の長方形の面積は”13×5=65”となります。
この”1”の差はどうなっているのでしょうか?この問題については敢えてご説明をしないでおきます。