この定理名をはじめて聞かれた方もいらっしゃることとおもいますが、2つとも人の名前からとった定理です。
高等学校の学習指導要領が改定されてから数年が経ちますが、数学Aにおいて平面幾何が復活し、その中に『メネラウスの定理』と『チェバの定理』というものを扱った章があります。
メネラウス(Menelaus 98頃)はギリシャの数学者、天文学者で、その『球面論』でユークリッドの『原論』にならって球面幾何学を構成し、後の三角法という分野の発展に貢献しました。また、チェバ(Ceva
1647〜1734)はイタリアの数学者で、その定理は1678年に刊行された彼の著書の中で初めて発表されました。
2つの定理は一見して似たような定理ですが、2人の生存していた時期は1500〜1600年も違うのは何かしら不思議に感じてしまいます。この2つの定理は連携して色んな応用がききます。例えば『デザルグの定理』という定理を証明できます。
この2つの定理は、定理そのものを覚えると、『どうして成り立つのだろう?』という関心をもつ生徒が結構います。
これらは相似という原理を普遍化した定理であり、その証明自体は大変簡単ですが、定理自身はなかなか暗記するのが大変です。今回は2つの定理を覚えていなくてもこれらに関連した問題を解けるということをまとめてみました。
実際中学入試から大学入試まで、ずっと役立つ定理であるにもかかわらず、丸覚えして、何がなんだか分からなくなっていた方から、こんな定理見たこともないという方まで、これらの定理が興味深い物として目に映ることをご期待して、この不思議な図形の世界へご招待致したいと思います。
【メネラウスの定理について】
1つの直線が、三角形の各辺またはその延長と交わるとき、その3交点が各辺を内分または外分する比の値の間には、下の図のような関係があります。
これは中学校で学習する『平行線と比の定理』などの相似の原理で簡単に証明できます。
定理の逆は3点が1直線上にあることを証明するのによく用いられます。
【チェバの定理について】
1点から三角形の各頂点にひいた直線が対辺またはその延長と交わるとき、その3交点が各辺を内分または外分する比の値の間には、下の図のような関係があります。
これは『メネラウスの定理』を2回利用して簡単に証明できます。
定理の逆は3直線の共点(3直線が1点で交わること)の証明によく用いられます。
さて、今回のテーマは「かんたんメネラウスの定理・チェバの定理」です。教科書の説明をする訳ではないので、上の2つの定理を証明する事は学校や塾などににお譲りするとしましょう。
それでは、誰でもが経験したり見たことのある”物理の世界”を利用することで、これらの定理を覚えていなくても問題が解けてしまうという、大変便利な方法をご紹介します。小学生にも理解できる素晴らしい方法です。
【いくつかの質点の重心】
さて、最近では公園でも”シーソー”を見かけることが少なくなってきましたが、まず、その”シーソー”や”(小学校の理科の授業などで作った?)やじろべえ”を思い起こしてください。
親子で”シーソー”をする場合、『親子でシーソーをする』なんて、その頃の親子関係からいって、親はたいてい子供よりも体重が重いですから、2人がシーソーの真ん中から同じ距離だけ離れていると親の方がいつも地面についている状態になりますよね。ところが親だけがシーソーの真ん中の方へ近づくと、いつかちょうど子供とつりあう場所を見つけることができるはずです。すなわち”やじろべえ”状態になりますよね?
これは物理の世界で次のように説明できます。
左の図をご覧下さい。軽い棒の両端A,Bに、重さがそれぞれL,Mの重りをぶら下げるとします。
ここで”軽い”というのは話を簡単にするために、ぶら下げた重り以外の重さを無視するためですが、ここではあまり深く考えなくてもいいと思います。
さて、棒ABをM:Lの比に分ける(内分する)点をDとします。このDにひもをつけて棒をつるすと”やじろべえ”状態になります。これを平衡状態にあるといいます。
物理の世界では,重さのかかった点のことを質点といいます。ここでは3点A、B、Dが質点ということになります。また、重さL+Mがかかった質点Dのことを,2つの質点A,Bの重心といいます。
さて、どのようなときに平衡状態になるかというと
(点Aにかかる重さ)×(点Aから重心Dまでの距離)=(点Bにかかる重さ)×(点Bから重心Dまでの距離)
すなわちL×M=M×Lなっているときになるのです。(これをアルキメデスのてこの理という。)
シーソーに話を戻しますが、上の図を利用するとLを子供の体重、ADの長さMを(シーソーの真ん中から子供の座っているところまでの距離)また、Mを親の体重、BDの長さLを(シーソーの真ん中から親の座っているところまでの距離)と考えると、シーソーは平衡状態になっているということになります。
次に、上の説明をちょっと応用して”軽い”三角形の板で考えてみましょう。
3つの頂点 A,B,Cに,それぞれ,重さL,M,Nの重りをぶら下げるとします。このとき,2つの質点A,Bの重心は図のDになりますがお分かりでしょうか?
もし分からないときは辺ABと【棒の質点と重心】での棒ABとを比べてみて下さい。
また、Dと残りの質点Cとの重心をGとします。
今度は棒CDについて
(L+M)×N=N×(L+M)がなりたつようにGを決めたのですから、Gにひもをつけて三角形の板をつるすと,平衡状態になります。
ここで、重さL+M+Nがかかった質点Gのことを,3質点A,B,Cの重心といいます。
さて、辺ABから考えた場合についてGは3質点A,B,Cの重心といえましたが、BCやCAから考えてもその点Gが3質点A,B,Cの重心になるのでしょうか?
左図のように2質点B,Cの重心をE,2質点C,Aの重心をFとすると,チェバの定理の逆により,線分AE,BF,CDは1点Hで交わることが証明できます。(別に分からなくてもいいです。証明できるのです。)
また,メネラウスの定理により、Hは2質点C,Dの重心であり,Gと一致することもわかります。同様に,Hが2質点B,Fの重心であり,2質点A,Eの重心でもあることが証明されるわけです。
ちなみにL=M=Nのとき、3質点の重心Gは△ABCの重心と一致します。
実際に厚紙で三角形をつくって,その3頂点に3種の分銅をぶら下げ、まず、2質点の重心の位置を辺上にとり、この重心と残りの質点との重心を三角形上にとります。今度はその位置に穴を開けて、糸で吊るして,三角形が平衡状態にあることを実験してみるのも面白いですよ。
【かんたんメネラウスの定理・チェバの定理】
それでは「メネラウスの定理」や「チェバの定理」を知らなくても、上記の【三角形の質点と重心】を利用して解けることをご説明します。
下の図の問題は
(1)が「メネラウスの定理」を用いて解く問題 (2)が「チェバの定理」を利用して解く問題
として教科書にも載っています。
さあ、やっといままでの説明の総決算です。
説明の便宜上重りの単位はグラムとしてみます。
(1)の解答
Aに3グラム、Bに5グラムの重りをぶら下げると、2質点A,Bの重心Rには8グラムの重さがかかります。また、Aに3グラムの重りがぶら下がっているので、Qには7グラムの重りをぶら下げれば2質点A,Qの重心はCとなります。よってRには8グラム、Qには7グラムの重りがぶら下がっているので、RP:PQ=7:8となります。
(2)の解答
Aに2グラム、Cに1グラムの重りをぶら下げるとBには4グラムの重りをぶら下げればいいことになります。
よってAR:RB=2:1となります。
【最後に】
質点や重心(重さの中心)と,平面幾何学の“美しい”定理であるメネラウスの定理やチェバの定理の関わりについてご理解頂けましたか。重心は三角形の五心でも登場しますが、質量分布の平均的位置である物理的な重心と三角形の五心のひとつである図形からきまる定点としての重心は本来違うのですが高等学校までの教科書ではあまり強調されていません。
例えば
「一様な針金で作った三角形の重心はその三角形の五心の1つである重心と一致しません。」
しかし、前述しましたように
「軽い三角形の板の重心はその三角形の五心の1つである重心と一致します。」
さて、メネラウスの定理やチェバの定理を物理学の分野から考えることによって、無味乾燥に思えた公式の意味が感動的なものに変わりましたでしょうか?また、これらの2つの定理はr次元(アフィン)幾何においては、高次元版の定理として存在します。もし興味を持たれた方は図書館などへいって関連文献を調べて下さいね。