■決戦再び(1)

 1939年に入ると、アメリカ海軍はいよいよ再建なった海軍を一斉に西海岸に回航し、大反攻の第一歩としてハワイ奪還作戦を企図します。対する日本海軍も、アメリカの反攻に対抗するために改装や再編成で本土に下げていた艦隊を、再びハワイに配置します。
 では、ここで双方のキャスティングを見てみましょう。

◆日本側(1939年5月時点)
 第一艦隊(名称があるものは全て戦艦)
「大和」、「武蔵」、「信濃」
「紀伊」、「尾張」、「駿河」、「近江」
「土佐」、「長門」、「陸奥」
「伊勢」、「日向」
重巡:8隻、軽巡:4隻、駆逐艦:2個水雷戦隊

 第二艦隊(名称があるものは全て巡洋戦艦)
「富士」、「阿蘇」、「雲仙」、「浅間」
「葛城」、「愛宕」、「高雄」
「金剛」、「比叡」、「榛名」
重巡:6隻、軽巡:4隻、駆逐艦:2個水雷戦隊

 第一航空艦隊(艦載機:600機)
正規空母:「蒼龍」、「飛龍」、「雲龍」、「天龍」、「神龍」
軽空母:4隻
重巡:2隻、軽巡:1隻、駆逐艦:1個水雷戦隊

 第八艦隊(在ハワイ艦隊)
軽巡:1隻、駆逐艦:1個水雷戦隊
水上機母艦:4隻 +護衛部隊

 第十一航空艦隊・陸軍第三航空集団(在ハワイ駐留部隊)
中攻:約300機 重爆:約50 飛行艇:50
戦闘機:約300機(海:陸=1:2)

航空機種
艦上戦闘機:96式艦戦(改) 一部99式艦戦(零戦)
陸上戦闘機:96式戦 一部98式戦
艦上爆撃機:96式艦爆 98式艦爆
艦上攻撃機:97式艦攻
陸上攻撃機:96式中攻 97式重爆

◆アメリカ側(1939年5月時点)
第一任務部隊
「モンタナ」、「オハイオ」、「メイン」、
「ニューハンプシャー」、「ルイジアナ」、「フロリダ」
「ノースカロライナ」、「ワシントン」、「サウスダコタ」、
「アラバマ」、「インディアナ」、「マサチューセッツ」
航空母艦:(艦載機:290機)
「エンタープライズ」、「インディペンデンス」、「ベローウッド」
重巡:6隻、軽巡:8隻、駆逐艦:2個水雷戦隊

第二任務部隊
「アイオワ」、「ニュージャージ」、「ミズーリ」、
「ウィスコンシン」、「イリノイ」、「ケンタッキー」
航空母艦:(艦載機:190機)
「ホーネット」、「ワスプ」
重巡:6隻、軽巡:8隻、駆逐艦:2個水雷戦隊

第三任務部隊
「コロラド」、「カリフォルニア」、「アーカンソー」
護衛空母:8隻(艦載機:240機)
重巡:3隻、軽巡:6隻、駆逐艦:4個水雷戦隊
攻略船団200隻(4個師団)

航空機種
艦上戦闘機:グラマンF3F-1 F2Fバッファロー
一部F4Fワイルドキャット
艦上爆撃機:カーチスSB2Uヴィンディケーター 
一部グラマンSBD-2ドーントレス
艦上攻撃機:ダグラスTBDデスバーテーター

双方の艦隊編成は以上です。
 では、順番に特記すべき事柄から見ていきましょう。

■各艦概要 抜粋
 各艦とも戦中可能な限りの時間を利用して徹底的に改装されており、それにより変化した艦艇についておさらいの意味も込めて日本艦(正確には「88艦隊計画艦」)に関して要目の抜粋を紹介しておきます。
 基本的には、全艦垂直防御の改善、バルジの装着、高出力機関への換装、対空兵装の強化、上部構造物の刷新など高度なレベルでバランスの取れた高速戦艦たるべく、史実の長門以上の徹底したものになります。
 また、技術的アドバンテージは、アメリカが単独で頑張っているのと対象的に、英国や場合によってはドイツからの技術輸入がされている日本側の方が有利にあります。

■日本艦

■長門級戦艦
基本的に一度改装されているのでそのままです。

■加賀級戦艦
基本的に一度改装されているのでそのままです。

■赤城級巡洋戦艦
基準排水量:48500t 全長:260.4m 全幅:37.2m
機関出力:160000馬力 速力:30ノット
41cm(L45)2*5 14(L50)1*14 12.7(L40)2*6
舷側装甲:254mm(12”) 主甲板装甲:127+50mm
条約をまるで無視した徹底した改装が施されます。

■紀伊級戦艦
基準排水量:56000t 全長:282.0m 全幅:38.4m
機関出力:160000馬力 速力:29.5ノット
46cm(L45)2*4 14(L50)1*14 12.7(L40)2*6
舷側装甲:330mm(15”) 主甲板装甲:178+50mm
条約をまるで無視した徹底した改装が施されます。

■富士級巡洋戦艦
基準排水量:59500t 全長:286.0m 全幅:38.6m
機関出力:180000馬力 速力:30ノット
46cm(L45)2*4 14(L50)2*8 12.7(L40)2*6
舷側装甲:330mm(15”) 主甲板装甲:178+50mm
条約をまるで無視した徹底した改装が施されます。

■葛城級巡洋戦艦
基準排水量:58500t 全長:282.0m 全幅:37.4m
機関出力:180000馬力 速力:31.0ノット
41cm(L45)3*4 14(L50)2*8 12.7(L40)2*6
舷側装甲:330mm(15”) 主甲板装甲:163+50mm
条約をまるで無視した徹底した改装が施されます。

◆日本新造艦
■大和級戦艦
同型艦:「大和」、「武蔵」、「信濃」
基準排水量:62000t 全長:280.0m 全幅:36.6m
機関出力:180000馬力 速力:30ノット
46cm(L45)2*4 14(L50)2*8 12.7(L40)2*6
舷側装甲:400mm(20”) 主甲板装甲:190+50mm
少数精鋭を旨とする日本海軍ですので、条約をまるで無視した富士級の防御力を強化したような大型戦艦として就役します。もちろん4番艦が建造中ですが、この時点では間に合っていません。「信濃」も実戦配備されたばかりです。

■飛龍級航空母艦
同型艦:「飛龍」、「雲龍」、「天龍」、「神龍」
 基本的には以前紹介したものと同じです。基準排水量1.75万頓の中型高速空母です。
 ですから、予備を含めて70機程度しか搭載できませんが、今回は予定された戦場のうえに、自らの拠点近在での迎撃戦ですので、史実の大鳳のように艦載機数を水増しするために甲板に大量に露天搭載しており、常用で約80機(スペア10機)を搭載します。

 また、戦術の編成表にない潜水艦隊、海上護衛総隊は、双方とも数百隻の艦艇を抱える大組織となっており、海外からの積極的な技術導入と戦時のマスプロ生産により、潜水艦隊はドイツのような通商破壊部隊に、海上護衛総隊は英国の史実それと類似したものになり果てており、日本的な艦隊編成を維持しているのは、連合艦隊の主力のみとなっています。

巡洋艦
史実の利根級にあたる艦が4隻建造され、配備される以外は新造艦はありません。
ただ、5500t級は一部が重雷装艦に改装され、決戦時の重要な戦力として位置づけられます。

駆逐艦
史実の朝潮級を戦時で簡易建造したような船体に、酸素魚雷を搭載した強力な駆逐艦が多数整備、前線に配備されます。
また、史実の松級や海防艦に当たる護衛艦艇が大量に就役し、シーレーン警備についています。

潜水艦
戦争初期は、決戦を目的とした日本的な潜水艦が大量に整備されますが、戦争が再開して以後は、敵シーレーン破壊を目的とした中型潜水艦がマスプロ生産で大量に就役し、ドイツ軍のウルフパックよろしく配備されています。

■アメリカ側
■モンタナ級
「モンタナ」、「オハイオ」、「メイン」、
「ニューハンプシャー」、「ルイジアナ」、「フロリダ」
基準排水量:62000t 全長:280.0m 全幅:36.9m
機関出力:172000馬力 速力:28.0ノット
18インチ(L48)2*4 5インチ(L38)2*10
舷側装甲:406mm(20”) 主甲板装甲:154+50mm
「ノースカロライナ級」の後継艦にあたる、アメリカの新造戦艦最終シリーズになります。
簡単に言えば18インチ砲を搭載した史実のモンタナ級です。
日本の改装八八艦隊艦に対抗するために、条約無視となり建造にも時間をかけています。なお、パナマ運河を通る事はできません。
そして、このクラスの改良型がさらに6隻新規で建造中です。

■ノースカロライナ級
「ノースカロライナ」、「ワシントン」、「サウスダコタ」、
「アラバマ」、「インディアナ」、「マサチューセッツ」
基準排水量:48000t 全長:245.0m 全幅:33.0m
機関出力:150000馬力 速力:27.0ノット
16インチ(L50)3*4 5インチ(L38)1*12
舷側装甲:310mm(20”) 主甲板装甲:146+50mm
アメリカの新造戦艦の最初のシリーズになります。
史実の1942年に建造されたノースカロライナ級をストレッチし、大きな機関と主砲を余分に一つ搭載したような艦です。
一応軍縮条約を守った堅実な設計が行われていますが、主砲に比べて防御力がやや低いのとプラットフォームとしてやや小さいのが難点です。

■アイオワ級
「アイオワ」、「ニュージャージ」、「ミズーリ」、
「ウィスコンシン」、「イリノイ」、「ケンタッキー」
基準排水量:48000t 全長:270.6m 全幅:33.0m
機関出力:212000馬力 速力:33.0ノット
16インチ(L50)3*3 5インチ(L38)1*12
舷側装甲:307mm(20”) 主甲板装甲:154+50mm
アメリカの新造戦艦の巡洋戦艦シリーズになります。
いわゆる史実のアイオワ級です。ですが、時代的に対空防御は史実より遙かに劣る装備しか施されていません。

新型空母
史実のヨークタウン級にあたる艦になります。
今回は決戦とハワイの部隊を相手どるために、各艦は渡洋侵攻としては定数オーバーの機数を搭載してきています。

新型重巡洋艦
史実のアストリア級とウィチタ級の中間のようなものになります。そのため対空防御力が低く、その分対艦戦闘能力が向上しています。

新型軽巡洋艦
史実のブルックリン級になり、史実の倍以上の数が建造されます。

新型駆逐艦
史実のマハン級に近い艦になります。もちろん、大量に建造されます。
また、それとは別に大量の護衛駆逐艦も就役しています。

新型潜水艦
ガトー級ではなく、史実のアルファベットを冠したクラスが大量生産されます。

■航空機解説
 戦争の長期化に伴い、日米双方とも兵器開発のスピードが上昇しているので、この時点でいくらか史実よりも半年から1年の前倒しで航空機がいくつか登場します。
 特に、日本の場合は英独から技術輸入がされているので、陸軍の迎撃戦闘機などに影響を与えています。

■日本側
 艦上戦闘機:
●96式艦戦
基本設計は史実のものとほぼ同じですが、戦時の改良でエンジン、機銃を強化し密閉型の風防とドロップタンクを付けた、より実戦的な改装が施されたタイプが主力を占めています。
●99式艦戦(零戦)
史実の零戦と似ていますが、各国の航空機からの影響と史実よりも迎撃が重視されるので、格闘戦よりもスピードに重点が置かれ、「金星」シリーズを登載したものが先行量産され、各精鋭部隊などに一部配備されています。
 陸軍戦闘機:
●96式戦
史実と全く同じものです。陸軍はそれ程アメリカ軍と戦っていないので、この分野での技術は海軍ほど暴走していません。
●98式戦
ドイツから輸入された「ハインケルHe112B-0」をライセンス生産しているものです。
迎撃戦闘機を欲しがった陸軍の要求に応えて、ドイツから兵器実験を兼ねて輸出され、その後陸軍で正式化、ライセンス生産されます。その後改良され、一部エンジンを換装した改良型が精鋭部隊に配備されますが、基本的に迎撃戦闘機です。最前線の主力へと置き換わりつつあり、もちろんハワイにも多数が配備されています。

 艦上爆撃機:
●96式艦爆
史実の複葉機型艦爆です。軽空母など一部に配備されています。
●98式艦爆
基本設計は史実のものとほぼ同じですが、英国からの技術導入や、Ju87スツーカをドイツから輸入した事などから、それらを踏まえて変化が見られます。
具体的な変化は、搭載量が500kgある事で、これを実現するために、史実よりも速度が遅く丈夫な機体となります。
具体的には、史実の99式とJu87の中間のような形になります。
もちろん搭載量が500kgの理由は、戦艦の装甲を貫くためです。

 艦上攻撃機:
●97式艦攻
史実と同じものですが、時期的な問題から「栄」でなく「光」エンジンを搭載したタイプが主力になります。

 陸上攻撃機:
●96式中攻
史実と同じものです。これに関しては何も変化なく、大量に生産され各地に配備されます。一部は、対潜用に改良されています。主力は22型です。一部長大な航続距離をもった23型が先行配備されています。
●97式重爆
史実と同じ陸軍の重爆です。対艦攻撃任務にはまず使えません。

■アメリカ側

 艦上戦闘機:
●グラマンF3F-1
史実の同じ複葉機です。
護衛空母部隊の主力として運用されています。
●グラマンF2Fバッファロー
史実の同じものです。日本の97式に対抗するため、史実より早期に開発され艦載戦闘機隊の主力をなします。
●グラマンF4Fワイルドキャット
史実の同じものです。一部が先行量産され配備されています。

 艦上爆撃機:
●カーチスSB2Uヴィンディケーター
この当時の米海軍主力艦爆です。史実と全く同じものです。
●グラマンSBD-2ドーントレス
史実の序盤戦で奮闘したものの初期型を、無理矢理量産したものです。このためこの時点では、史実ほど完成度は高くありません。

 艦上攻撃機:
●ダグラスTBDデスバーテーター
 米海軍の主力艦攻です。史実の初戦で低性能ながらよく奮闘した雷撃機です。この時期ならそれほど遜色した性能ではありません。

■技術的概要
 日米双方とも戦争の長期化により、史実の1940年〜1941年初頭の技術水準にあります。特に、史実よりも大きな国力を実現している日本は、それまでの工業力の進展もあり基礎工業の分野では、史実とは全く違う能力を持ちます。
 また、日本は同盟国の英国から多数の技術が輸入や援助で流れ込んでおり、さらに極東の日本のプレゼンス低下を嫌うドイツの兵器輸出などもあり、一国で戦っているアメリカに対して、先端分野でもそれなりのアドバンテージを持ちます。
 特に英国が得意とする電波技術と対潜技術では、雲泥の差と言えるまでアメリカと開きがあります。また、ドイツから輸入された軍事技術もあり、日本軍はさながら欧州列強の壮大な兵器の実験場と化しています。
 特に大きな変化は、航空機の外国技術の大幅導入と、艦艇などのマスプロ生産、そして無線・電波技術の有無です。
 日本海軍では戦中の大規模夜戦の反省から、電探が大幅に導入され、対水上、対空捜索電探が初期の大型のものながら、主要艦艇の一部に試作装備されるまでになっています。また、英独双方からもたらされた優れた無線技術と航空機、電探を有機的に連動させた、広域防空システムのプロトタイプ的なものが揃えられ、ハワイの防空部隊に試験的に導入されています。
 全ては、圧倒的な制空権下で余計なものに邪魔されずに艦隊砲雷撃戦を行うためです。
 また、日本中の造船所にマスプロ生産で大量の小型艦艇を建造するための施設が作られ、造船所ごとに大量の護衛艦艇とドイツから図面と技術を輸入した潜水艦が建造されています。

 一方のアメリカ軍ですが、史実と違い不景気まっただ中からいきなり戦争に突入し、史実では軍事産業を育てる期間だったこの時期に戦争を行っているので、史実より国力的、技術的に劣っています。特に軍需産業が史実のように育っていないので、戦中にこれを育てていかねばならず、史実のような壮大な生産量を揃えるまでに非常に時間がかかります。もちろん、英国や欧州からの技術の流入は全くありません。西海岸が攻撃された事から、一部科学者・技術者の流出すらしているかもしれません。
 なお、これは重化学工業力全般にも言えます。
 さまざまな理由により、アメリカが完全な戦時生産体勢を整えるのには、丸3年を必要とします。
 また、パナマの破壊と日本軍による通商破壊による流通と経済の混乱とパナマの再建、西海岸防衛を第一に考えた軍備の整備にその力を取られ、また戦艦という、いかに巨大な国力を持っていても整備に非常な努力を伴うものを主兵器として選択してしまっているので、史実ほど巨大な軍の建設は、したくても出来ないのが現状です。
 しかも、史実のように欧州からの亡命技術者や英国からの技術援助は全くないので、全て自力で兵器の開発をしなければならず、主に先端分野で日本軍に大きく後れをとる事態となっています。もちろんレーダーなどは、ようやく地上設置型の試作品が出てきたばかりで、まだまだ実用に耐えられないと言うのが実状です。
 ただし、巨大な工業力が産み出した平凡ながら膨大な数の兵器は、堅実さゆえに日本軍にとって極めて脅威となり、まさに生産力そのものがアメリカ側の持つ大きな技術的アドバンテージとなります。

■双方の艦隊用兵ドクトリン

■日本側
 連合艦隊の戦艦の運用に関しては、基本的に1934年当時と変化ありません。ただし、夜間戦闘はそれまでの戦訓と「電探」という新兵器の導入から一時的に見合わされ、その代わりに新たな漸減戦力として、戦争中盤で大いに苦しめられた「航空機」が登場し、戦術体系に組み込まれます。
 具体的な戦力とその運用方法は、空母整備とその集中運用、超遠距離から攻撃可能な膨大な数の陸上基地航空隊の整備です。
 また、漸減戦力はドイツからの技術輸入と長年に渡る通称破壊の戦訓もあり、潜水艦にもその任務が割り当てられ、史実における九段階にもおよぶ壮大な漸減戦術が、ハワイ防衛を前提として組み上げられます。ただし、漸減作戦そのものの概要は、膨大な戦艦を保持しているが故に史実の同名のものと少し違い、あくまで艦砲が最後の決め手とされます。
 具体的には、第一段から第三段が、政府・軍の努力により膨大な数が建造された潜水艦を、一時通商破壊の任務から外し決戦海面に投入します。その数は最終的には40隻から後先を考えず投入すれば100隻にも及びます。
 そして、決戦海域はハワイ東方海上400海里(750km)辺りに設定されます。これは、欧州の基地機の攻撃機の圏外にありながら、日本軍にとっては十分な攻撃圏内にある事から、米軍の油断を誘うことが出来るからです。
 このエリアまで敵艦隊が進撃してきた時点で、第四段として第一航空艦隊が敵空母にターゲットを絞り全力で攻撃し、さらに第五段として基地の中攻部隊が制空権のなくなった敵戦艦部隊に襲いかかります。もちろん、可能なら反復攻撃を行います。
 そしてそれでも敵艦隊が進撃を継続するようなら、第六段として新たなドクトリンの元整備された超小型潜水艦群をその前面に展開、これによる遊撃を行いその日の攻撃を終了。
 そして敵の進撃にかまわず、翌日第七段として再び第一航空艦隊が敵戦艦部隊を攻撃、その間進撃を継続していた主力艦隊により、第八段としてようやく砲雷撃戦が行われ、主力の撃滅が行われます。
 そして最後に第九段として、残存する全ての戦力を投入しての追撃戦が予定されています。
 なお、日本側としては、第八段まで米艦隊が進撃する事があくまで前提とされます。
 こうしてアメリカ太平洋艦隊は、ロジェストヴェンスキーの艦隊のように、ハワイを見ることなく消滅する予定になっています。ちなみに、この戦法が極めて巧く進展した場合の日本側の損害は、艦隊と航空機の半分から三分の一が失われる事が想定されます。
 また、自軍が敵潜水艦部隊に拘束されないように、大量の対潜部隊をハワイ近在に呼び込んで、徹底した対潜掃討作戦が決戦前に行われる予定になっています。

■アメリカ側
 一方侵攻側のアメリカですが、戦訓を踏まえて1934年当時と比べると、その編成に若干の変化は見られますが、大部隊を正統的に運用した横綱相撲的戦闘を旨とするアメリカ軍ですので、基本的にはあまり変わりません。
 ですが、日本海軍がこの戦争でさんざんやらかした全艦隊をあげての機動戦術が、アメリカ流に改良され取り入れられ、それに従い艦艇も建造されているので、機動性という点において、過去の米海軍とは比較にならない向上が見られます。このため、日本艦隊に対するこの面での不利はなくなっています。
 また、砲力を重視する米新造戦艦は、主砲発射速度と主砲口径で優越しており、その砲力の威力は個艦レベルでも日本側の25%〜33%も優越しており、戦艦数ではほぼ同程度ながら攻撃力がまるで違っています。
 そして、大艦巨砲主義を最も信奉する米海軍としては、初戦での敗退という汚名をそそぐためにも、新造戦艦とこの砲撃力の大きさを材料に、日本海軍とがっぷり四つに組み勝利する事が目標とされます。
 ただし、空母の運用に関しては、艦隊が航空機により大きな脅威にさらされた事がない事から、過去に自分たちで有効に運用しているにも関わらず、戦艦部隊が復活すれば、再び以前のような艦隊上空の防空に使用するため分散配置されます。また、艦隊戦、ハワイ攻略戦ともに制空権獲得が重視されるので、搭載機の三分の二が戦闘機で固められます。
 そして、今回も大規模な奪還部隊とそれを守る艦隊を、機動部隊(打撃部隊)とは別に投入しますが、これは戦訓を踏まえて決戦海域の後方に待機しており、決戦に影響が出る位置にはありません。また、機動力という点ですでに大きく遅れている事が明白な旧式戦艦は、艦砲射撃任務しか考えられておらず、護衛艦隊を兼ねて奪還部隊と共に後方にあります。

■戦力数量比較
 では、少し早いですが双方の作戦に投入される戦艦の排水量と弾薬投射量比較中心にここで見ておきましょう。
 なお、今回の弾薬投射量は、いつもの1斉射分ではなく、日米で主砲発射速度に大きな格差が出ているので、1分間当たりのものを採用します。
 また、補助艦艇や航空機については概算のみを記載します。

●戦艦数(決戦用高速戦艦のみ)
日:米=22:18  比率・日:米=100:82

●排水量(基準排水量)
日:米=107.5:93.9  比率・日:米=100:87

●弾薬投射量(分単位)
日:米=337.5トン:404.7トン  比率・日:米=83:100

●決戦参加補助艦艇数
日:重巡:14隻、軽巡:8隻、駆逐艦:4個水雷戦隊 他
米:重巡:10隻、軽巡:16隻、駆逐艦:4個水雷戦隊

●決戦参加航空戦力
日:航空母艦:5隻、軽空母:4隻
  艦載機:600機(戦闘機300 攻撃機300)
  中攻:約300機 飛行艇:50 戦闘機300

米:航空母艦:5隻
  艦載機:490機(戦闘機280 攻撃機200)
  護衛空母:8隻
  艦載機:240機(戦闘機120 攻撃機120)

 以上のようになり、戦艦では、八八艦隊の各艦に徹底した近代改装を施した日本側が図らずも排水量で優位にあり、弾薬投射量では速射性能の高いアメリカ側が有利にあります。艦の新旧もあり排水量そのものを浮力や防御力と考えるのは多少無理がありますが、単純に見れば攻撃力でアメリカ側が有利で、耐久力で日本側が有利になります。
 そして、戦艦だけで単純に見ると、その結果から導き出される回答は、両者KOするまで戦えば、かろうじてアメリカが勝利しますが、双方の戦艦の大半が水面下に姿を消すと言うことになります。
 また、補助艦艇ではほぼ互角、航空戦力では基地航空隊を投入できれば日本側が圧倒的に有利と言えます。
 では、この次からは事の顛末がどうなるかを、戦況を追いつつ見ていくことにしましょう。

■血戦 第一幕「ウルフ・パック」