■東亜解放とマレー沖海戦
注:ステップ1のみ他と似ていますが、情勢の変化で若干の違いが生じています。
ステップ1 先述のような軍事的状況のなか、ソヴィエト連邦とそしてアメリカ合衆国を気にしつつも、日本はおのが理想を実現すべく、まず仏印全土に対する進駐を開始します。 外交的には、所有権を主張するヴィシー政府が進駐していいと言っているのですから、何ら問題もありません。 これに文句を言ってくるのは、英国に亡命している自由フランス政府と大英帝国、そしてアジアから一度追い出されてなおでかい面をしてくるアメリカ合衆国です。 もっとも、英国は次は自国が目標となる事から、文句を言うだけで、自らの防衛体制を固めるだけで手一杯です。 しかも日本は樺太油田に加えて、すでに近在の満州に大慶油田を抱えているので、欧米が石油など資源を輸出しないと言ってきてもそれ程気になりません。準備を整えた後、自慢の彼女たちを前面に立てて、反抗的態度に出た事を十分後悔させてやればいいのです。 もちろん、海軍の復活したアメリカの出方は気になりますが、すでに太平洋の端っこまで追い払ってあるので、彼らが日本に戦争を吹っかける理由は余程難癖を付けない限りこの時点ではなく、スキを与えないように警戒を怠らなければ、外交的には無視しても問題ありません。この時代での外交常識に従えばそのはずです。 そして、南進の間の後方の安全を確保するために、対ソ外交が活発に行われますが、ここで問題となっているがノモンハン事変です。ここでの戦いがドローで終わった為に、双方軍事的緊張を解くに解けない状態で、国境を挟んで満州と極東ソ連でにらみ合っている状態です。 ただ、ソヴィエト連邦は、西欧を一瞬で叩きつぶしたドイツに警戒感を持っているので、ある程度の妥協が成立する可能性、そう「日ソ不可侵条約」が締結されるかも知れません。 ですが、日本は支那に大きな利権を持っており、(金儲けしている事は棚に上げて)そこでの苦労の大半が、ソ連のコミンテルンによってもたらされている事は分かり切っています。そして、彼の地でのコミュニスト達は平気で国際条約を無視する輩という事も判明しています。まともな政府なら、ここで暴力団よりもタチの悪い共産主義国と安易な条約を結ぶなどせず、より強固に対立するのが普通でしょう。 幸い、向こうに攻めるだけの力はない筈ですし、別に満州から兵力を抽出しなくても、植民地軍しか駐留していない東南アジア解放ぐらいならなんとかなります。 ですから、対ソ対策はより強硬な態度を取ることで牽制する事になります。ヘタをすれば二正面戦争になりそうですが、外交常識的に英ソが連帯するなどありえないと思うのが、今までの経緯を考えれば普通ですので、この政策が選択されます。
ステップ2 ヴィシー政府公認のもと仏印進駐が終了したら、次はインドネシアに対する侵攻です。ここを征する事は東亜解放の一手であるだけでなく、多数の資源を確保できる事もあらわしています。 しかし、英国に政権が亡命しているオランダがおいそれと進駐や解放を認めてくれる訳がありません。おそらく、と言うよりも間違いなく武力侵攻となるでしょう。 そして、この時点でオランダには宣戦布告すると言う事は、そのバックにいる英国とも開戦となる可能性は高いでしょう。 そして、英国に対する開戦は、ドイツの望むところでもあります。何くれとなく世話をしてくれるに違いありません。 ですが、気になるのはやはりアメリカです。 フィリピンが日本の勢力下におさまっているし、太平洋ではハワイすら日本の勢力圏と化しているので、物理的に彼らが介入する可能性は極めて低いですが、日本のアジアでの勢力拡大を喜ぶわけありません。 この為、外交的にドイツとの同盟関係に鑑みと言う理由で、表玄関から対英蘭宣戦布告を行い、旧植民地帝国に対する戦いだと国内には宣伝し、さらにアメリカが文句言えないぐらいに太平洋での兵力を保持しておく必要があります。 さて、英蘭に対する東亜での戦闘ですが、仏印とフィリピンがすでに日本の手にありタイなどが史実同様日本に傾く事は間違いありませんから、橋頭堡は問題ありません。 兵力も海軍以外なら、どうとでもなります。 特に航空戦力については史実の二倍以上の戦力が存在しており、植民地軍など鎧袖一触と言ってよいでしょう。 そして、史実と同程度の侵攻スケジュールなら、41年夏までに東亜全域の解放が達成されている事になります。なお、戦闘経過は特に考察しません。ハッキリ言ってその殆どが、内容はどうあれ史実と同様の展開になる可能性が高いからです。 ただし、一つ例外があります。それはイギリス極東艦隊を、連合艦隊がどう料理するかです。 具体的には、ご自慢の八八艦隊で料理するか、新参の海軍航空隊の試し切りの相手とするかです。 ですが、この世界は大艦巨砲主義華咲く世界ですので、最強海軍の沽券にかけて大日本帝国連合艦隊は、南遣艦隊に強力な戦艦部隊を派遣して、これを撃滅しようとするでしょう。 ただ、アメリカを気にせねばならないので、一度に大兵力を叩き付ける事は難しいと言えます。 おそらくは、マレー攻略の後のインドネシア攻略と言う、史実と同じ経過を辿ることになるでしょう。 そして、最も脅威となるのが英国軍、中でも増援を受け取った王立海軍ですので、日本の海空戦力の主力もマレー方面に投入され、第二艦隊と英東洋艦隊との戦闘発生が最も可能性が高くなるのではないでしょうか。 ですが、王立海軍が東洋艦隊の増援として送り込んだのは、ご自慢の「聖者級」と「フッド級」が2隻ずつ。 つまり半分は、日本以外で唯一46cm砲を搭載した、大英帝国の誇る聖者級戦艦です。日本側も46cm砲戦艦を出さねば勝利はおぼつきません。ただし、46cm砲戦艦を1個戦隊でも投入すれば、日本側の勝利はランチェスター先生に計算をお願いしなくても間違いなく、太平洋戦争のように数字を並べ立てた立証は、この時点ではしないでおきます。 それに、英側が聖者級を出すのなら、それよりも有力な艦艇を派遣するのは戦術原則からして当然ですので、連合艦隊も46cm砲戦艦の派遣を行うでしょう。 それに、アメリカの目を気にしつつも大兵力で短期間に粉砕する方が戦略的にも理に適っています。 そこで、日本海軍は、英東洋艦隊を撃滅すべく最強の第一艦隊をマレー沖に派遣する事になります。 ただし、ここで派遣されるのは第一艦隊の半分、46cm砲戦艦4隻を中核とした艦隊と言う事になります。これは、アメリカを意識して全てを派遣できないと言う、止むえない戦略的判断の結果です。これ以外には、第三艦隊が攻略部隊を伴ってマレー半島強襲上陸に向かいます。 そして、英蘭に対する宣戦布告の後、英国最強の聖者級を含む英東洋艦隊を撃滅するため、日本最強の第一艦隊が勇躍マレー沖へと乗り出すことになります。
さて、英国との初めての饗宴です。果たして、王立海軍はどんなステップを踏んでくれるのでしょうか。英国から海軍の事を師事した日本海軍としても、緊張の対面と言えるでしょう。 日本側のキャスティングは、46cm砲搭載の「紀伊」級か「富士」級のどちらかが合計4隻。この場合は少ない戦力しか派遣できないので、最強の「富士」級が派遣されるでしょう。なお、彼女たちは史実の「長門」を上回る規模のお色直し(近代改装工事)を受けているので、どちらも排水量6万トンに達っせんとするナイス・バディ(笑)になっています。 ですから、もはや「巡洋戦艦」などではなく、近代的な「高速戦艦」に生まれ変わっています。つまり、46cm砲に対する防御が施された上で30ノットの速力発揮が可能と言うモンスターに生まれ変わっているわけです。 まさに日本の海洋プレゼンスを象徴する、世界最強の高速戦艦部隊と言えるでしょう。ちなみに、大日本帝国海軍連合艦隊第一艦隊は、日本中の18インチ砲戦艦を集中配備した、『18インチ砲倶楽部』となっています。 そして、この高速戦艦の四姉妹なら、「フッド級」の健脚にも追随する事ができます。 対する英国側は先ほども述べた通り、英国ご自慢の「聖者級」2隻に「フッド級」2隻です。日本艦隊に比べ、「聖者級」は速力で「フッド級」は防御力と砲力で不利となりますが、相手が1個戦隊なら十分対抗できるぐらい強力です。しかも、英側にはご自慢の水上捜索電探が既に装備され索敵面で有利にあります。さらに英軍としては、これに基地航空隊を戦力として計上できると考えているでしょう。ただし、日本側が常識はずれな航続距離を実現した攻撃機を多数保有していることなど、史実同様考えも及びません。この点に関しては、日本軍の方が圧倒的に異常なのです。 さて、ここで「電探」がようやく登場しましたが、この時点で日本側の艦艇はこの新たな髪飾りを装備しているでしょうか。史実より2.5倍の国力があると言う事は、それだけ基礎工業力は大きくなっている事になりますが、電探は当時では最新技術を用いたもので、ドイツですらこの当時は開発に苦労していた工業製品とは言い難いものです。日本軍内での理解が低ければ当然開発は遅れており、41年春の時点では、史実同様せいぜい開発中か試作品が運用試験中という所でしょう。 対する英国は、「バトル・オブ・ブリテン」の例を見るまでもなく科学先進国であり、この時点で十分実用に耐えうる捜索RDF(電探)を装備しています。
ステップ3 さて、双方のキャスティングが揃ったところで、それぞれの戦術を見てみましょう。 日本側には、特にこれといった突飛な戦術はありません。上陸作戦もありますから、警戒を厳重にして索敵を密にしつつ、敵艦隊を発見すれば、攻撃可能な全ての兵力を叩き付けてこれを撃滅するだけです。戦線突破を許せば、上陸作戦に大きな支障が出ることが明白ですから、これが第一とされます。もっとも、本来なら敵の阻止に成功さえすれば、別に撃滅しなくても良いのですが、テンションの高い日本軍ですから、撃滅こそ第一義とされるでしょう。困った軍隊です。 このため、近在の日本軍の兵力は、第二艦隊と第十一航空艦隊が血眼になって、敵艦隊の捜索を行うことになります。 英国側唯一の機動戦力である英東洋艦隊ですが、いかに戦艦4隻を擁するかと言っても、アジアでは全体として圧倒的不利にあることぐらい十二分に承知しています。何しろ、日本海軍は20隻以上の戦艦を保持しているのですかr、あこれは言うまでもない事です。ですから、ある程度有力な艦隊を保持していても、正面から決戦を挑もうとはしないでしょう。 英国にとしては、当面日本軍を撃滅すべき戦力がない以上、翻弄して消耗させるしかありません。いわゆるヒット・アンド・ウェイです。ですから、攻略船団や後方の補給艦隊に対する通商破壊など、ドイツ軍が自国に行っているような戦術を地の利をもって実行しようとするでしょう。と言うよりも、これしかありません。日米が大好きな決戦など以ての外です。テンションの高い日米は戦争をトーナメントのように考えているように見えますが、大人の英国は戦争をペナントレースとして捉え、それに即した戦争を行うのです。 ただ、このヒット・アンド・ウェイ戦法は、史実のマレーで沈んだ艦隊も考えていた事です。つまりこれが一番戦術的に妥当と言う事です。 よって、英艦隊の行動は史実とほぼ同様に、当初の自らのターゲットを上陸しようとする敵船団にしぼり、ヒット・アンド・ウェイに徹する戦術をとろうとする事になります。
そして、侵攻する側の日本軍としては、先述した通りこれを何としても阻止せねばなりません。 当然、水上艦隊である第二、第三艦隊が血眼になって捜しますが、これよりも優れた索敵手段を持った戦闘集団が、この戦域には存在しています。 言うまでもなく、基地航空隊です。 柔軟な兵力運用が可能な航空戦力、しかも長期旅侵攻を旨とする海軍の第十一航空艦隊の半分に当たる2個航空戦隊がこの地域に派遣されています。 一個航空戦隊当たり約100機の中攻を抱える航空戦隊は、水上部隊と共に敵を早期に発見すべく長大な航続距離にまかせてシャム湾一帯をくまなく索敵します。これは、余程の不運がない限り、英東洋艦隊を見つけることができるでしょう。 後は、基地航空隊か主力艦隊のどちらが、英東洋艦隊と戦闘を開始するかと言う事になります。
さて、この時点でのバトルオーダーですが、ここでは双方の航空戦力だけを見てみましょう。 第十一航空艦隊は、このマレー戦区に自軍戦力の半分に当たる2個航空戦隊を派遣します。残り半分は念のため本土で待機です。陸軍航空隊は、マレーの近接支援で一個航空集団が派遣されていますが、あくまで地上支援であり、洋上攻撃には参加しません。 海軍の航空戦隊一個当たり、中攻3個飛行(大)隊、戦闘機1個航空(連)隊、防空戦闘機2個中隊、偵察機隊、輸送機部隊、連絡機少数などから構成されているとします。 つまり108機の中攻と54機の戦闘機が攻撃戦力として計上できる数となります。うち1〜2個中隊の中攻は索敵にかり出されるので、最大で出せる戦力は中攻90機と戦闘機54機です。2個航空戦隊が丸々投入できるのなら、中攻216機と戦闘機108機です。これには陸軍航空隊の戦力は入っていません。そしてこの戦力は、史実程度なら在マレーRAF全軍にすら匹敵する大戦力です。ハッキリ言って、英艦隊の上空援護がたとえあったとしても、防空隊に対抗できる戦力ではありません。ですから、中攻による艦隊攻撃だけを見てみたいと思います。 ここで皆さんが思い浮かべると思われるのは、史実のマレー沖海戦だと思います。85機の中攻(戦艦攻撃参加機は75機)が英国の誇る浮沈戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」と巡洋戦艦「レパルス」を撃沈した戦いです。この戦いで攻撃を担当した中攻隊は、魚雷を中心とした攻撃を、中隊から大隊単位で波状攻撃を行い、この2隻他を撃沈しています。 この時の最終的な命中率は約三割以上、何と3機に1機近くが攻撃は命中しているのです。数字的にはPOWには魚雷7本と爆弾2発、レパルスには魚雷が実に14本と爆弾1発が命中しています。開戦まで訓練に明け暮れた熟練搭乗員達による成果としても、驚異的な数字と言えるでしょう。当時の日本海軍の雷撃の練度がいかに高かったかが分かる良い例と言えます。 ですが、このような結果を全ての戦場で発揮できる訳ではありません。史実においても同じ航空隊でも、その後はこれ以上の成果を挙げることは二度とありませんでした。様々な要因があったとしても、これは奇蹟と呼んで良い数字と言って良いでしょう。この数字を目安に仮想戦記を書かれる人は、これ以外のごく当たり前数字をみるべきです。 そして、この世界でもそれは同様です。しかも、航空隊の規模自体が史実より大きくなり、練度が名人芸でなく普通のレベルになりつつあり、一式陸攻はまだあまり配備されていない上に日華事変が発生していないのですから、より低い数字になるでしょう。その上相手は戦艦4隻だけでなく多数の護衛艦艇も引き連れてるのでなおさらです。 しかし、それでも180機もの攻撃機が、戦艦4隻に襲いかかればいかなる事態になるでしょうか。 ごく平均的な数字の中でも高い割合として、約一割の魚雷が命中したとしても18発の命中になってしまいます。18本もの魚雷が命中しては、いかに破壊力の劣る航空魚雷と言えど、5万トン近い「聖者級」といえど、集中攻撃を受ければ2隻とも撃沈する可能性は十分あります。距離的に反復攻撃が難しいとしても、艦隊壊滅は間違いありません。 そして日本海軍は、上陸支援を陸軍だけに任せて、当面は英艦隊撃滅に全力を投入しています。 つまり敵艦隊が発見されれば、2個航空戦隊丸々が英東洋艦隊に殺到すると言う事です。 なお、別のルートで戦艦同士が戦った場合は想定されているので、ここでは戦艦の想定はせずに、このまま進めたいと思います。 それに、「聖者」級なら日本の八八艦隊の大型戦艦を攻略する事も可能かもしれませんが、英東洋艦隊の目的が艦隊決戦にない以上、可能性は極めて低いと言えるでしょう。 それに、万が一対戦する羽目になっても、まともな指揮官なら戦力差が歴然としている以上(数は同じでも、相手は自分より優勢な戦艦ばかり)、ある程度戦えば撤退するものです。
さて、実際の戦闘はどうなるでしょうか。真っ正面からの砲撃戦の可能性が低い以上、まず発生するのは、史実のような日本の基地航空隊による敵発見と同時に行われる航空攻撃です。 先ほどにも説明あるように、まず攻撃を開始するのは、濃密な索敵をしつつ手ぐすね引いて会敵を待ちかねていた2個航空戦隊です。攻撃機数は中攻約180機以上。しかも、護衛の制空戦闘機が多数随伴する事になるので、南ベトナム地域から離陸する海軍航空隊の戦力は、総数で200機以上となります。 この時攻撃に参加する航空機は、制空戦闘機が新鋭の「零式艦上戦闘機」、通称「零戦」です。この機体は、史実通りでも在マレーRAF主力のハリケーンやフルマーなどを圧倒しています。多少機体が異なっていても、これに大きな変化はないでしょう。 攻撃機の方は、「96式陸上攻撃機」と「一式陸上攻撃機」です。「96式」の方は史実の後期型でしょうが、「一式」の方は日本自身の歩みが史実と大きく変わっている事と、戦争の様相そのものも変化していることから、より贅沢な機体となっているでしょう。少なくとも「ワンショット・ライター」と揶揄されるような、防御を考えていない機体にはならないはずです。 贅沢に作られていれば、雷撃の可能な四発重爆撃機となっているでしょう。この場合、魚雷なら2本、水平爆撃なら500kg爆弾が4〜8発が搭載可能となります。 そして機体の装備率は、「96式」:「一式」=2:1程度です。 また、航空隊は、最初から艦隊撃滅を想定した弾薬を準備しているので、その大半が魚雷装備と言ういささか偏重した攻撃を行う事になります。もっとも、水平爆撃の命中率を考えれば、雷撃の方がまだ確率は高いと言えるでしょう。なお、魚雷と爆弾の装備率は3対1程度となります。
そして、この巨大な空中艦隊に対してその迎撃を行わねばならない英東洋艦隊ですが、恐らく史実同様に日本機の行動圏外を行動していると思っているので、索敵機が現れた時点でパニックに陥る事になるでしょう。 その上、RAFから上空援護をもらっても、日本の制空戦闘機の前にそれが蹴散らされてしまうのですから、驚きはさらに大きくなるでしょう。 しかしそれでも、英国はドイツとの激しい戦いを経験しているので、初期型の輪形陣を組んで濃密な防空網を艦隊上空にかけ、可能な限りの防衛体制を整えてこれを待ちかまえます。 そして、この熾烈な対空砲火の前に、史実のような驚異的命中率は望むべくありません。 ごく常識的に考えるなら、命中率は最大1割。投下されるのが魚雷だけなら240本、爆弾だけなら500kgと仮定して600発。 つまり、魚雷が180本、500kg爆弾が150発です。 そして命中する魚雷が18本、500kg爆弾が15発です。ただし、一式陸攻から投下される水平爆撃は、一度に大量の爆弾を落とすので、極常識的に考えればさらに命中率は低下してその半分程度でしょう。つまり、500kg爆弾は8発程度です。そして、この打撃力を持ってすれば中型戦艦なら十分に2〜3隻撃沈できる破壊力です。それがたとえ大和型であったとしても、十分撃沈できる数字でしょう。 もっとも、1隻が集中的に狙われる可能性は、戦場という混乱しやすい状況を考えれば、かなり難しいでしょう。ただし、今回は、波状的な攻撃になるでしょうから、後から来る攻撃隊はかなりの目標選択の自由があります。煙をあげていたり速力の落ちている艦に攻撃が集中する事はあるでしょう。 そして、速力の遅い艦が狙われるのも確率的には高いので、この場合目立ち安さも考えると、「聖者級」2隻にまず攻撃が集中し、2隻がボロボロになってから、他の「フッド級」などに攻撃が行われるでしょう。 「聖者級」は4.8万トン、実質的には5万トンクラスの大型戦艦です。これを沈めるために必要な魚雷の数は、片舷に集中されたとして6〜8本、まんべんなく打ち込まれればこの倍の数が必要です。そして、戦闘可能限界は航空魚雷と言う事を考えても魚雷3〜5本程度でしょう。 この180機の陸攻の打撃により、「聖者級」はどちらも戦闘不能。場合によっては、撃沈の損害を受けます。さらに、「フッド級」も1隻は中破、その他補助艦艇にも若干の被害が出ているでしょう。しかも、損傷した艦艇は、回避が難しくなり当初の確率よりも高い命中弾を浴びている可能性が高くなります。 恐らく、「聖者級」はどちらも総員退艦のうえ撃沈となるでしょう。 どちらにせよ、英東洋艦隊は、たった一度の大規模空襲により壊滅です。 しかも、まだ無傷の日本第一艦隊は、英東洋艦隊を探し求めてシャム湾を疾走しています。そして間違いなく、基地航空隊の発見報告と同時に東洋艦隊目指して進撃を開始しているでしょう。6万トンの「富士級」を4隻も抱えているのですから、史実のように弱腰になる必要はどこにもありません。むしろ、獲物を飛行機にさらわれないように懸命に追撃を行うでしょう。 そして、壊滅した英艦隊としては、後は逃げの一手です。 これに対する日本側の追撃は、第一艦隊の追撃以外にも最初に攻撃した基地航空隊の反復攻撃が行われるでしょう。双発機による攻撃ですので、時間が少々遅くなってもあまり気にする必要もないので、艦隊が健在なら夕方まで攻撃を続行する事でしょう。 もっとも、全てが反復攻撃できるわけではありません。せいぜい半数が精一杯でしょう。 しかしそれでも第一波が180機でしたから、その半数でも90機です。そして全く同じ打撃力を発揮したとしても 魚雷が9本、500kg爆弾が4発を叩き付ける事ができる計算になります。 しかも、この航空攻撃により南への退避が必然的に遅れますから、日本艦隊に追いつかれる可能性も高くなります。最悪の場合、東洋艦隊全滅すら考えられる事態です。 まあ、そんなに日本の思惑通り事が運ぶ事はありえないので、おそらくは航空攻撃を受けるだけで、英東洋艦隊は自勢力圏内への退避ができるでしょう。 しかし、それでも十数発の命中弾を浴びるわけですから、さらに大型艦1隻が鬼籍に入る事になります。これは、先に損傷していた「フッド級」と言うことになるでしょう。 よって、マレー沖海戦の顛末は「聖者」級2隻、「フッド」級1隻の撃沈となります。 日本側は、基地航空隊が若干の消耗をしただけで、大きな損害を受けることなく、戦闘を乗り切る事ができました。 日本側としては、戦力が保持できたうえに敵艦隊が撃滅できたのですから、出来過ぎなぐらいの結果です。 しかし、この海戦は航空機が作戦行動中の戦艦を撃沈するというエポックメーキング的な出来事となります。 撃沈した側の日本軍としても、この事実に直視せざるをえないでしょう。 恐らく、艦隊編成などにも大きな影響を与える方向に進み、兵備の抜本的な変革すら強いられるかもしれません。 この結果は、史実を知っている私たちなら何てことはない当然の結果と言い切れますが、この世界の人たちにとっては衝撃という言葉程度では言い尽くせないショックになるでしょう。 ただ、英側はそれを知ったからと言って、戦況が逼迫しているので戦術転換する余裕などなく、攻撃側の日本は攻撃側であるが故に認識が浅いので、戦術面での大きな変化はまだ訪れません。