■いいわけのようなもの

 さて、何とか21世紀まで『大日本帝国』の繁盛記を追いかけてきたわけですが、いかがだったでしょうか? やはり、社会主義と深く関わりすぎているという意見が大多数なのではと思います。それとも、全然軍国主義日本じゃない、というお声の方が大きいでしょうか?
 あ、そうそう、こんなに都合良く話がいくわけがないといういつものお声は、自動的にスルーしますのであしからず(笑)

 なお、最初の脱稿の頃入れていた、この世界の日本のマイナス要因の幾つかは、特に後半でかなり記述を減らしました。この世界の日本の未来も、バラ色ではありません。よい面ばかりをかなり前面に出してみました。その辺りは、察していただければと思います。

 さて、大日本帝国単独でアメリカ合衆国率いる西側陣営、ソビエト連邦ロシア率いる東側陣営に独自で対抗することはほぼ不可能だと、最初の丼勘定で結論に至りました。
 欧州の混乱につけ込んで、かつての英仏などのように独自の経済圏(大東亜共栄圏?)を作り上げればいいという意見があるかもしれません。ですが、史実の日本の国力などの場合、よほど上手く立ち回り外交巧者であり続けないかぎり難しいというのがプロット前段階での結論でした。大戦前に倍ぐらい水増ししておかないと、国力的にほとんど無理です。
 そして大日本帝国である以上、外交巧者であり続けることは事実上不可能です。やせ我慢の見栄を張るのが精一杯でしょう。地政条件が許せばインドのような振る舞い方もあるかも知れませんが、かなり地味な大日本帝国となるでしょう。それに日本の立地条件が、もう少し平穏な状況を許してくれない筈です。
 そして本来の本命であるアメリカとの連携もしくは同盟関係では、史実と似た日本しか出てこないと言う結論に早くから達しました。アメリカとの連携がどうこうというよりも、日本がアメリカ型の大量消費文明社会になったら、国内の社会体制が変化し過ぎて大日本帝国は大日本帝国でいられなくなるからです。ただの大衆迎合政府でしかなくなるでしょう。中途半端な民主化の場合、仮に発展ができても今のチャイナと似たような歪な構造になってしまいます。
 故にこの世界でも、日本経済の急速な発展から十数年後に大日本帝国の看板を下ろさせました。逆にソ連みたいに経済破綻で潰してもよかったんですが、この場合最悪ノースコリアの近似値を目指しそうなので怖くなって止めました(※影響領域の人口と面積から単純に計れば、約十五倍の規模のノースコリアとなってしまう)。
 また一方では、チャイナと対立させすぎているという意見もあるかもしれません。しかし、戦前からの互いに見下しあった関係が崩れない以上、対立は必然です。加えて両国とも米ソどうこうよりも内政を重視していがみ合うので、かなり遠慮ない状況になる可能性が高い筈です。さらに言えば、両国とも互いに恐れ合っているくせに、外交関係上かなり遠慮なく殴りかかれる外交状況ともなっています。しかも両国とも、あまり心理的余裕がありません。それに『大日本帝国』と『支那』がいがみ合うのは、もはやお約束でしょう(苦笑)
 なお、『大日本帝国』を『大日本帝国』たらしめる大日本帝国憲法や天皇主権に連なる諸々の事象は、体制の大幅刷新がない限りそのままでしょう。あったとしても、明治・大正の雰囲気に戻される程度だと思われます。ドラスティックな改革や変化はほとんどあり得ないでしょう。市民革命など、まず考えられません。何しろ日本です。起きるのは、現代版一揆である暮らしの改善を求めるデモまででしょう。
 また、『大日本帝国』でも『軍国主義』でもないという意見があるかも知れません。
 ですが、我々が表面上イメージしがちな軍国日本や『大日本帝国』は、主に1938年の総力戦体制以後、特に1940年の大政翼賛会成立から1945年夏の敗戦にかけての一部情景をディフォルメ化したものに過ぎません。そしてこの間は、日本は国家を挙げて戦争を遂行していた時期であり、国家形態が軍国主義や全体主義、国家社会主義的なのは、むしろ当たり前です。でないと、当時新興国だった日本が近代的な総力戦など出来る筈もないからです。
 この時代の例外的国家は、本当の先進国だったアメリカとイギリスだけです。つまりは、1940年頃から1945年夏にかけての日本の情景こそがイレギュラーであり、一面を捉えただけの事象に過ぎないと言えるでしょう。今回はその点も多少見直せていたのなら、私個人としては成功だったのではと思います。一方では、この間の日本をイメージされていた方には、期待はずれだった点を謝罪したいと思います。

 そうした状態を前提として、この世界を振り返っていくべき点は、体制の維持やそこに住むここの人々よりも、よりもやはり経済と財政、人口、そして軍事に関してでしょうか。
 果たして大日本帝国のままで、日本は順調な経済成長を遂げることができるのか? 
 答えは問うまでもありませんが、ほぼ確実に史実のような発展は不可能でしょう。史実にあった、1960年代の高度経済成長の可能性はほとんどあり得ません。俗に言うハイテク日本や高度技術立国になるのも、世界の時流に乗れない限りかなり難しいでしょう。高額すぎる軍事予算が、全てを台無しにしてしまいます。法外な軍事予算を何とかしない限り、経済や技術面でジャパン・アズ・ナンバーワンになる可能性の方が低いでしょう。サブカルチャーは、経緯はどうあれ発展してそうですけどね(笑)
 一方、史実で1936年の国民総生産(GNP)に戻ったのが、朝鮮戦争の頃だとされます。単純な数値的には1957年です。ただし世界中での経済成長なども加味しないといけないので、1957年の数字は300億ドル近くなります。また人口差があるので、一人当たり所得が並ぶのはまた別です。また、円ドル交換レートの関係で数字が簡単に変わるし、統計の取り方でも数値の違いがあります。まあそれらを差し引きしても、破滅的な戦争のおかげで、差し引きで20年の空白(ブランク)ができているわけです。
 そして史実において所得倍増計画が始まったのは、池田内閣の1961年です。この頃だと、GNPはアメリカが約3800億ドル、日本はもう400億ドルに達します。戦争で一度国全体が破産しているのに、よくぞここまで復興できたものです。奇跡と言われるのも当然でしょう。
 ですがこの世界では、支那事変も大東亜戦争もしていないので、戦争も敗北も経済の躓きもありません。それどころか欧州大戦(第二次世界大戦)では、第一次世界大戦同様の戦時特需でかなりの経済成長をしています。日本がソ連に寄りかかる前の段階だと、スタートラインはずっと有利となります。
 1945年の段階で、最低見積もりでも史実の1950年代半ばぐらいの経済状況の筈です。最低で約10年分、最大で20年のアドバンテージです。つまり最も良好な場合は、1960年代半ばの状態となります。故に最初に日本経済の成長予測を、アメリカの15%程度(GDPで300億ドル)の可能性があるとしたのです。しかもこの対米15%という数字は、世界全体で見るとなんと8%にも達します。貧乏な軍国主義日本は、大戦傍観のおかげで立派な経済大国に早変わりするわけです。加えてこの世界の日本には、日本がせっせと育てた満州国と朝鮮、台湾があります。これらを含めれば、対世界比率は一割以上に達します。
 最初に1945年の時点で、GDPをアメリカ2000億ドルに対して日本300億ドルとしましたが、この日米の相対的な差は史実では1960年代後半の高度経済成長絶頂期に超えた差とほぼ同じとなります。そのぐらい有利な位置に存在できる可能性がある筈です。
 実のところ、擬似的に軍国主義化したところで、世界大戦をのらりくらりと過ごしてしまうと、国家としては『貧乏日本』ではないのです。
(※気分的なものを含めたGDP目安のグラフを設けたので、参考として見てください。)

 しかし、この世界の第一次オイルショックの頃(1973年)の日本経済は、経緯や内容はともかく数字的には史実より低い値にしかならない筈です。スタートラインは良いのですが、その後ほぼ確実に伸び悩むからです。せいぜい、世界平均値程度の成長しかできないでしょう。
 なぜか? 第一に、史実戦後で行われた各種改革、農業改革、各種労働法の整備、税政改革などは大きく立ち後れる筈だからです。中には行われない政策もあるでしょう。何しろこの世界の日本は、総力戦を経験していません。必然的に経済成長は鈍化します。第二に、巨大な軍事費が国家予算を圧迫して、経済成長を鈍らせます。第三に、西側から阻害されれば貿易相手にも事欠くので、さらに経済成長は抑制される可能性があります。技術発展はもちろん、大量生産能力や生産管理の状況も悪くなるでしょう。労働生産性も低いままの筈です。軍人や中央官僚主導が強まるので、民生の先端技術開発も停滞するでしょう。また、史実での高度経済成長が、順調すぎる経済発展でもありました。
 そして何より、史実で日本経済を牽引したアメリカという世界の半分を占める巨大な消費市場がほとんど使えません。この失点は、大量消費社会型の経済成長上では致命的失点です。戦前ですら日本の輸出の常に三割は、対米貿易だったのです。
 一方ソ連率いる東側陣営に属してプラスとなる点は、主にソ連の資源が同盟国価格、つまり国際価格よりも安価に流れてくる事です。また、限定的ですが、東側世界を市場とする事もできます。反米的な国との交流も容易くなるでしょう。戦前の日本であるなら、相対的に東側の基礎技術が概ね高いので、50年代ぐらいまでは技術導入のメリットもある筈です。日本の中央官僚団による東側の五カ年計画みたいな事も行われ、二次産業(工業)は大きく発展するでしょう。建設による土建業の発展と、大幅な内需拡大の可能性もあります。この辺りの変化と発展は、史実と規模と速度の点以外で大きな違いはないでしょう。
 そして忘れてはいけないのが、軍国日本であろうとも日本は資本主義、市場経済の国だという事です。しかも史実でも、戦前も戦後も日本を切り盛りしていたのは中央官僚団です。史実戦後のドラスティックな改革がなくても、日本が一定方向で上向き、新規技術が一定割合で入手できる限り一定の成果は出続ける筈です。軍人が偉そうにして軍事費を握ってアメリカと睨み合っている以外、あんまり変わらないのです。まあ、そのツケは大きいのですが。
 次に、1970年代に入り東側陣営全体の経済が怪しくなると、自力で何とかしようという考えが再び頭をもたげてくるでしょう。一定以上の独裁国家にとって、経済と体制はセットです。まあどんな国でも似たようなものですが、特に軍国主義国家や独裁国家は情報を徹底的に外部と遮断しない限り、経済が傾くと簡単に倒れてしまいます。
 ところが、大日本帝国は、相手に閉ざされることは日常茶飯事でも、意外に自分の側から閉ざしていません。その必要もないほど相互の海外渡航が少なかったからでもありますが、ソ連やノースコリアのような規制は行わない可能性の方が高いでしょう。大日本帝国が大嫌いな共産主義体制にならず、統制されていようが資本主義体制のままなら事実上国を閉ざす事は不可能です。
 そして一定量の情報が国民の元に入ってくる状態であるなら、経済の維持は軍備の維持と並んで重要課題となります。富国強兵のためではなく、体制の円滑な維持のための富国、つまり一定の経済成長は目指さざるを得ないのです。
 故に、出来る限り頑張ってもらいました。
 なお、この世界の21世紀初頭の日本(+経済圏)のGDPは、世界総GDPの一割程度としました。第二次世界大戦後とほぼ同じ比率です。一見、差し引きゼロの成長しかできなかったように見えますが、21世紀初頭ともなると欧米列強だけの時代とは違っているので(※対世界比率は9割から7割に低下。チャイナの隆盛がなくても結局近似値は近くなる。)、かなりの成長を遂げている事は間違いありません。史実の高度経済成長期からバブルにかけての日本が少しばかり異常なのです。
 また21世紀初頭の一人当たりGDPを、私たちの世界よりも少し少ないながら、かなり大きめに見積もりました。日本以外に欧米の「世界の工場」足りうる国が他になく、また日本が軍需から民需へと資本投下と研究開発が強まれば、十数年で劇的に変化するのはほとんど自明の理です。
(※他の国の世界の工場化は、チャイナは日本が徹底的に叩いているし、インドの隆盛も日本よりもう少し遅れる可能性が高く、NIESの半分は日本の直接勢力下。東南アジアも日本の後に付いてくる形にしかならない。)
 そして結局の所、私を含めた皆様の望む「スゴイ大日本帝国軍」を最低限健全な財政上に維持させようと思うと、これぐらい経済発展させないとどうにもならないんですよね。21世紀でも銃剣突撃する貧相な日本兵が見たいというならともかく、ノースコリア化なんて以ての外です。これぐらいしないと、二十一世紀のイソロクヤマモトが、飛行甲板にフランカーやファルクラムを並べたまともな空母機動部隊を作れないんです(笑)

 あと、世界経済全体について、簡単に振り返りましょう。世界経済は1970年代からの状況が、我々の世界と少し違ってきます。具体的には、我々の世界よりも小規模となります。70年代は西側経済に日本が連動せず日本自身も停滞し、80年代にあったNIES諸国の隆盛は遅れ、90年代からのチャイナの躍進がありません。
 ただし、日本とNIES諸国の隆盛は、十年ずつぐらい後ろにずれています。チャイナの代わりに、日本経済とも連動するインドが少し早めに隆盛します。インドの隆盛は、欧米が生産拠点として求めるので、チャイナが選べない以上ほぼ必然です。日本が抱えていた満州国も、新興国として発展する可能性があります。
 これらのため、極端な世界経済拡大の遅れは発生しません。21世紀初頭の資源高騰と資源国の隆盛は存在するでしょう。遅れに遅れたチャイナの隆盛も、21世紀に入ればようやくエンジンが掛かり始める筈です。
 しかし決定的に欠けている要因が一つあります。アメリカのドルに日本がほとんど迎合しない事です。このためドルの世界的影響力は、我々の世界よりも一割程度小さくなります。最低見積もりでも5%程度は低下します。アメリカ国債の価値も低くなっているでしょう。アメリカの一人当たりGDPもその分低下している筈です。
 まあ、そんなこんなで、世界全体のGDPも我々の世界よりも一割程度小さなものとなっているでしょう。

 では次に、GNPやGDPにも影響するので、人口についても見てみましょう。
 私たちの世界の21世紀初頭の史実日本の総人口は、最大で1億2800万人です。他、台湾が2300万人、ノースコリアも2300万人、サウスコリアが4900万人です。これに満州3省を合わせると約1億1000万人。合計3億4400万人が、大日本帝国内に含まれる地域の史実上でのだいたいの総人口です。
 そしてこの世界では、日本の総人口を1億6000万人としました。このうち2000万人ほどが台湾出身となるので、史実より一割ほど日本列島の人口を多くしています。これは、戦中の国家社会主義的制度がなく、史実戦後の制度の多くの施行が遅れ、加えてこの世界の日本政府に60年以後から少子化対策としての多産政策と取らせたからです。出生率などは、私たちの世界のフランスと似たような状態と算定しました。
 なお、大規模な戦争をしなかった日本は、ある程度の発展がありなおかつそれがスローペースであった場合、史実より総人口が上回る可能性を持っています。なぜかとの問いに簡単に答えれば、経済が大きく成長すれば子供の養育に経費がかかるようになって簡単に少子化するからです。発展に伴う都市化の進展も人口増大の敵です。
 つまり国民の大多数が相応に豊かになって子供が労働の担い手、稼ぎ手でなくなり、教育や養育による経費がかさんだ時点で自動的に出生率は低下して人口増加率も下がっていきます。そしてこの世界の日本は、ゆっくりとした発展は継続するが、史実での国民全般が喜びを伴うような高度経済成長や発展はなく、悲劇的とされる大戦争もしていません。ダラダラと発展を続けて、同じくダラダラと人口も増加します。特に農業地域の近代化や発展は遅れが、人口の拡大を継続させる筈です。
 しかし、やはり人口増加にブレーキはかかります。域内に人口が増えすぎる事と、日本が最低限の発展を継続するからです。
 そして1950年代ぐらいまでは、途上国、新興国特有のピラミッド型人口増加を繰り返して人口は大きく増加します。しかしそれなりに豊かで安定した生活が訪れ始めると、自然人口増加は鈍化します。特に、都市部中間層では顕著となるでしょう。そして、この世界の50年代半ばから、人口増加率の停滞が見え始めると想定しました。都市の巨大化は、人口拡大の天敵です。国家の人口拡大を行わせたいのなら、我々の世界の東京(圏)のような肥大都市は作ってはいけないのです。
 しかし日本政府によるいち早い多産政策で、ブレーキがかかる前に再び後ろから押し始めたので人口増加は継続します。しかもアメリカ型消費社会にほとんどならないまま、半世紀がゆっくりと経過します。加えて、史実のようなアメリカの占領統治による日本式社会の近代化(破壊もしくは強引な改革)もありません。日本独自による緩やかな発展に伴い、特に農村部ではそれまでの生活が維持されます。故に、核家族化や地域コミュニティーの衰退も鈍くなり、これらも人口低下をある程度抑制します。それらを踏まえ、丼勘定で差し引き一割増加としました。
 ただしこれは日本国内に限った話で、実は日本人はもっと増えています。満州、朝鮮、台湾への移民が含まれるからです。しかも満州へは、史実において500万人もの移住が計画されていますし、この世界では恐らく完全実行されている筈です。満州の人口も、中華人民共和国が成立してからは漢民族の移民、流民、難民が止まる筈なので、満州国内での日本人人口の自然増加を助長します。ソ連との連携により満州の安定度も増し、経済発展と合わせて人口増加を促すでしょう。故にこの世界の日本人は、史実より約二割ほど多く闊歩している事になります。正確な数字は出していませんが、ブラジルやアメリカへの移民も、結果的に史実より多くなっている筈です(五割増し程度か?)。日本のあまり豊かではない農村が、人口と移民の供給源となるからです。
 また一方でコリア半島の人口を史実ほぼそのままとしたのは、ノースコリア地域の相応の発展の継続による人口増加を、満州、日本本土への移民や帰化で差し引きゼロと判定したからです。それに日本のコピー国家として、日本の後ろにくっつくだけのコリアが、史実並に発展する可能性はほぼ皆無です。日本もコリアを独立させた後は、過度に援助しないでしょう。
 そして域内全ての余剰人口を受け入れた満州地域の人口を、史実より多め(1億4000万人)に見積もりました。また満州国には、内蒙古の一部と熱河省も含めるのでその分の割り増しもあります。
 そして域内総人口3億7000万人、対世界GDP比率一割以上という数字は、この世界の日本が大国として21世紀を振る舞うために大いに活用されることでしょう。

 では次に、皆様お待ちかねの軍備について見てみますが、日の丸付けたフランカーやファルクラムが飛んでいる事で、ミリタリーマニアの皆様にはご満足いただける事でしょう(笑)
 という冗談はさておき、大日本帝国がそのまま20世紀を存続し続けた場合の軍備は、海上を目指す海空戦力の多くはソ連軍と似た状態になる可能性が高くなる筈です。貧乏人が金持ちのアメリカに対抗しようとすると、結局はソ連軍と似通ってしまうのです。まあ日本の場合、アメリカより遅れた大型空母や巨大戦艦なんか浮かべて喜んでいるかもしれませんが、実際面では限定的な脅し(ブラフ)つまり祭りの御輿程度にしか役立たないでしょう。本気で正面から殴り合うには、相手が悪すぎます。
 ただしソ連軍と今回の大日本帝国陸海軍の場合、決定的な違いがあります。バカみたいな巨大な陸軍は、帝国に必要ありません。ソ連と連むなら尚更です。チャイナから満州(+台湾)を守るだけの陸軍があれば事足ります。あとは、国内治安維持用を別とすれば、地域紛争に出かけていく海兵隊や緊急展開部隊(RDF)みたいな組織や部隊が必要十分あればよいでしょう。
 そして大日本帝国にとって重要なのは、海空戦力です。西太平洋でアメリカと正面から睨み合う以上、ソ連極東艦隊の数倍の規模の水上艦隊と同等の潜水艦隊が必要になってきます。要するに、海空戦力に特化した場合のソ連軍となるわけです。
 恐らくアメリカは、ハワイを軸にグァムとフィリピンを最前線基地にして、太平洋西部の防衛拠点をオーストラリア北部に置くことになるでしょう。史実での、韓国の代わりがグァムとフィリピンで、日本もしくは沖縄の代わりがオーストラリア北部となるわけです。帝国海軍を仮想敵とする以上、それいぐらい最低用意しないといけなくなります。間合いもいります。第七艦隊に当たる戦力も我々の世界の倍以上用意して、ハワイを徹底した拠点化しなくてはならなくなります。何しろアメリカには横須賀がありませんからね。恐らくアメリカは、かなりの散財を行っている事でしょう。
 これに対して、日本が後ろ盾として使えるソ連は、極東軍備を大幅に減らしたままで過ごす筈です。日本が西側に意趣替えしそうになる状況に備え、大軍をすぐさま満州国境に動かせるようにしないといけませんが、他に必要なのは戦略潜水艦群を中心とした潜水艦隊と戦略爆撃機部隊で、あとはロシア人自身がアラスカと睨み合う部隊だけです。象徴的なもの以外、戦術面での海空戦力のほとんど全ては日本が担う事になる筈です。つまりソ連極東軍は、史実の在日米軍のような役回りに近くなります。
 鏡から見た状況というわけです。
 しかし、史実の日本と大日本帝国には大きな違いがあります。独自の核軍備です。自力開発なら1960年頃、ソ連の援助があればもう5年ほど早く自力の核戦力を持てるでしょう。この世界では、史実日本で核の炎(原子力発電目的)が灯った1957年としました。
 ニューク・キャリアーには、当初は海軍が持っているであろうかなり非常識な重爆撃機が使える筈です。そして帝国海軍ですから、戦術兵器として嬉々として核を兵器体系に組み込むでしょう。加えて帝国海軍は、大きくて速い潜水艦が大好きですから、原子力潜水艦も一生懸命開発するでしょう。見た目の主力となる大型空母や後生大事に持っている戦艦も、使い潰すまで使い切るでしょう。空母艦載機は、ロシア製がダメっぽいので流石に自力で作っているでしょうか。ソ連海軍よりも、かなり凶悪な戦術海軍ができあがっているのではと容易に予測できます。
 そして新軍種となる空軍では、戦略爆撃機と各種長距離ラケータ(ミサイル)を攻撃の主力に位置づけるので、これらを表看板としてせっせと整備している筈です。
 いっぽう、ソ連と手を組んだことで日陰者に追いやられたかに見える帝国陸軍ですが、チャイナといがみ合う以上満州の守護神関東軍を手抜きにするわけにはいきません。ソ連にせっついて、強力な戦車や装甲車・重砲なんかを導入して早期に重武装化している筈です。海空軍との関係上で、ICBMも陸軍の管轄となるでしょう。何しろラケータは砲兵です。また海軍、空軍に対する対抗意識もあるから、兵器の刷新も早くなるでしょう。残念ながら、銃剣突撃する帝国陸軍の姿からは遠のいている事でしょう(笑)。何しろ相手(共産中華)が、圧倒的数で自分たちのお株を奪っているんですから、違う姿を模索するより他ありません。
 また、ソ連軍を見ながら装備や編成を揃えていくので、史実のアメリカ式陸軍ではなくソ連型に似た装備を持った陸軍になっているのではと考えられます。
 しかも戦前の大規模編成のままソ連軍化してしまうと、1個師団当たりの戦力はかなり凶悪です。師団数は少ないままかもしれませんが、東側とはひと味違うソ連兵器装備の陸軍が出現しているかもしれません。
 なお、日本にはソ連にあった宇宙軍や戦略ロケット軍みたいな組織は恐らく誕生しないでしょう。陸海空の三軍がそれぞれ省庁を持っているので、これ以上増えたら軍人ですら色々と大変すぎるからです。海軍が戦略原潜と原潜、空軍が戦略爆撃機と人工衛星、陸軍が大陸間弾道弾を保有して、内輪でいがみ合っているのではと想定しています(発射権限は大本営(+政府)管理)。組織としての統一性のなさは「げに恐ろしき」という感じですが、逆にこの状況こそが帝国軍らしいのではと思います。
 以上正面軍備ばかり見てきましたが、それとは別に帝國陸海軍には大きな問題があります。
 大日本帝国では陸軍と海軍は別の省庁を持つという、軍国主義国家らしい国家組織を持つという点です。国防省のように統一された組織ではないため、兵力の有機的運用が難しくなります。しかも陸軍と海軍それぞれが有力な航空兵力を持っており、自ら使いやすいように特化してしまっています。海軍航空隊は戦術目的の戦略空軍的組織であり、陸軍航空隊は大規模地上戦を目標とした戦術空軍と一部が防空空軍です。困ったもんです。
 そこで今回は、中島飛行機の中島知久平に40年代後半に総理大臣になってもらい、さらに「空軍」を作ってもらいました。三竦みにすれば、対立構造だけは多少はマシになる可能性がありますからね。
 そうした装備や編成面だけなら、百歩譲って我慢も出来るかも知れませんが、やはり省庁までが別という事態は近代国家、現代国家としてはかなり異常です。戦前でも予算の分捕り合いをしたりして、仲が険悪なことは、列強屈指だったのではないでしょうか。せめて軍需省のような組織があれば良いのですが、支那事変も大東亜戦争もしていない大日本帝国だとそれも望み薄です。明治の初期にあった兵部省に統合するというような、軍部の政治権力が強いうちは難しいでしょう。恐らく、そのまま惰性で陸海(+空)軍省が存在し続け、大日本帝国を構成することになるのではないかと考えられます。
 そうした古い体制を引きずり続ける事もまた、大日本帝国を大日本帝国たらしめてくれる事でしょう。このため、経済発展の後に統廃合を行わせてみました。
 なお、こうした軍事に関する事は、また日を改めて詳しく紹介できればと思います。

 では最後に、日本の周辺事情について。
 まずは、皆さんも気になる(笑)、この世界のチャイナについてです。
 中華人民共和国は、この世界でも成立します。中華民国の統治体制がどうしようもないので、成立はほぼ必然です。
 しかし、清王朝が領有した外郭地を持たないので、領土は史実の半分以下です。ですが、中華人民共和国の建国は史実の歴史と同じタイムスケジュールにしました。ぶっちゃけ色々と架空戦記するのが面倒くさかったので、領土と経済以外の細かい経緯は史実通りとしました。それに中華民国って、蒋介石がいようがいまいが共産党に勝てる見込みがないんですよね。ほんと、ダメダメです。
 しかし1958年以後は、大日本帝国という天敵を抱え続けることで史実以上に常に停滞を続けます。共産党も日本から分捕ったものがゼロなので、我々の世界よりもずっと貧乏政党で影響力が下がり、相対的に軍閥が幅を利かせています。
 もちろん史実で日本が行った数兆円(数百億ドル)の借款や技術援助もありません。日本がチャイナをまともに援助するのは、建国から十年ほどの間だけです。それらもほとんど全部を、大躍進と文革で自ら潰してしまいます。西側との協調後の市場主義も、日本と西側の和解で経済的に御破算です。しかも満州を持たないので、チャイナの工業化は初期の段階から大きく遅れます。領土が少ない分、地下資源も農作物も少ないままです。資本主義を体感的に知っている人間も、開放政策するまでほとんど皆無なままです。
 そして日本とアメリカが経済的につながらないので、アメリカの生産業壊滅は遅れて高コストの製品を自ら作り続けざるを得ず、世界経済の拡大も遅れます。当然ながら、チャイナが世界の工場化するのをさらに遅らせます。
 そして事あるごとに、日本の手前勝手な行動がチャイナの邪魔をします。何しろ大日本帝国は、チャイナの不倶戴天の天敵です。しかも戦争をすれば、日本は周りも見ず遠慮なく殴りかかってくると判断されている上に、チャイナは自身の体制維持のために西側からは総スカンを食らってしまいます。
 また史実日本が行った企業進出や借款は、主にこの世界で日本と友好関係が常に深い東側諸国に、次いでインドや東南アジアの一部に向かってしまいます。チャイナには、日本円は鐚一文落ちません。ある程度発展した後の日本の工場や市場と化すのは、ロシアと東欧、加えてインド、ベトナム、そしてもう一つの友好国インドネシアとなるでしょう。日本は、万里の長城より南の中華世界には、長い間寸土も触れない筈です。
 80年代からの欧米諸国も、日本としょっちゅういがみ合うチャイナへの進出は不安定さから控えるし、インフラ不足、低いGDPなど経済的価値の低さから尚更チャイナへの進出意欲は低下します。
 しかも80年代半ば以後の当座の進出は、資本主義・市場経済の原則に従ってまずは日本経済圏に向かってしまいます。この点、政治や政策はそれほど重要ではありません。チャイナが外交で頑張ったところで、ハイエク型の傾斜分配資本主義を掲げる国々は貧乏人には見向きもしません。せいぜい、いかに搾り取るかを考えるだけです。ブラックアフリカが典型的例でしょう。そして日本が革新的に発展して以後の世界レベルでの工場進出先は、インドと東南アジアが主軸となります。チャイナの順番は、その後です。どれだけ早くても、21世紀に入ってからです。
 これらの事を丼勘定で追いかけていくと、21世紀初頭のチャイナの状態は、史実から比べて四半世紀遅れぐらいになります。21世紀初頭でも、多くの人が人民服を着ているかも知れません。
 代わりにロシア、インドの経済及び産業が躍進して、ロシアとインドが世界の工場としての地位に近くなっているかもしれません(※どちらも疑問符はあるが)。当然チャイナの総生産額や所得も低迷し、軍拡や宇宙開発で大きな力は発揮できません。代わりにインドとロシアが、史実よりもデカイ面しているでしょう。
 また日本も、継続的な大軍備維持と法外な宇宙開発、西側と反目し続けたツケで、長い間経済的に低迷させました。改革解放前で、史実より十五年程度の経済的遅れと判定しています。
 しかし改革解放後は軍縮と様々な革新の効果で高度経済成長に突入し、約20年間で立派に先進国へと脱皮していきます。土台は多くが元々用意されてあったので、様々な面での革新と最低限の政府さえ存在すれば何とでもなります。
 なお、世界経済全体も、欧米の停滞とチャイナの不台頭などで、全体として一割程度小さくしてあるので、相対的な日本の発展は史実とそれほど違いないものになります。
 ただし、発展が遅れた分だけ資産蓄積も遅れて少なく、先進国と呼ぶには不足する面が多く見られる事でしょう。大国面していられるのは、影響圏の満州などを加えて、史実日本より二割ぐらい大きな経済規模だからです(人口は三倍)。
 それと、ICBMや戦略原潜なんかを平然と沢山並べているんで、私たちの世界よりも、随分デカイ面をしていることでしょう。何しろ世界第三位の核保有国です。雰囲気的には、我々の世界の日本とロシアの真ん中ぐらいな感じではないかと思います。宇宙開発などの一部の技術では突出していますしね。
 ですが、技術分野は一部史実より遅れていて、人口増加もそれなりに続いているので、今の我々の世界の最先端の先進国よりは、韓国などのような新興国に近いでしょう。
 それと、日本の外交ヘタなのは変わりない筈なので、これだけ持っていても国連常任理事国になれるかは難しいでしょうね。

 では最後に、肝心要のアメリカ様ですが、日本の行い以外を史実と似た経緯にしたおかげで、この世界のアメリカには主に70年代以後の経済面、金融面で疑問符がいくつか並んでしまいます。我々の世界と同じく半ば自爆による生産業の壊滅はともかく、色々とまずい状況が並んでしまいます。特に、アメリカ経済の疑問符は、ドルそのものです。
 70年代からこちら、いった誰がアメリカの国債をモリモリと買うのでしょうか。誰が、外貨としてのドルを買い支えるのでしょうか。アメリカの壊滅する生産業は、全部西ドイツ以下のEC諸国が肩代わりするんでしょうか。
 対米デレデレな金持ち日本の抜けた穴は、かなりデカくなります。
 ツンデレ日本はロシアぞっこんで、アメリカは長い間天敵です。チャイナは、日本のおかげで全然発展できていません。EC(西欧)の外貨や外債購入力にも限界がありますし、EU(欧州連合)になってからはユーロでドルに挑戦し始めます。しかも開放政策後の日本が投資するとしたら、むしろユーロになるでしょう。何しろツンデレ日本は、ドル(ヤンキー)が感情的に大嫌いです。
 となると、他にドルを買い支えるのは中東産油国ぐらいです。加えて、チャイナの代わりに世界の工場となるであろうインドぐらいしかありませんが、インドの隆盛は恐らく90年代に入ってからです。しかもインドは、元々東側寄り(反アングロ)の傾向があって日本やロシアとも仲が良いので、ドルを利用しようとは考えても買い支えようとまではしない可能性も十分あります。しかもインドは、チャイナほど真っ向から世界の覇権を狙うなんて事もしないでしょう。インドが求めるのは、地域覇権国家ぐらいまでだと思われます。
 その上日本とロシアは半世紀以上も友好関係を続けているので、ソ連がロシアになって以後の21世紀初頭だと「円」を中心にした「オリエント通貨圏」とでも呼ぶべきものを作り上げようとする可能性すら存在します。対中華包囲網もあって、インドが日露寄りになるとドルの地位はますます危うくなります。
 だからと言って、円がドルやユーロみたいに強い基軸通貨になるには、21世紀初頭ではまず無理でしょう。大阪証券取引所に世界が注目するのが精々でしょうね。

 それでもこの世界では、80年代以後のドル及びアメリカ経済の力は、我々の世界よりも小さくなっているのではと考えられます。そう言う点からでも、80年代以後のアメリカ経済は一層金融業に偏るかもしれません。
 なお、今の我々の世界で近年起きた資源高騰や金融自由化、いわゆるグローバリズムによる活況は、だいたい似た感じで起きている筈です。ジャパンとチャイナの代わりの位置に、どこかの誰かがいるだけです。もしかしたら、世界全体の経済規模や金融規模が少し小さいだけかもしれません。まあ、アメリカ(+西欧諸国)が金融バブルで自滅するのは経済原則から考えて自明ですけどね。
 また北東アジアでは、日本とチャイナが激しく角をつき合わせているので、ノースコリアがあるよりも厳しい情勢かもしれません。冷戦どころか、時折ホットウォー状態ですからね。しかもICBM向け合って。
 それでもまあ、ドラスティックすぎた大東亜戦争を中心とする一連の歴史がないので、軍事を中心に置いた日本の歴史上では、面白みには欠けるかもしれませんね。
 少なくとも、戦艦大和が伝説に近い扱いを受けることはあり得ないでしょう。

 あ、そうそう、一応連載もののエンディングなので、この世界の代表的な艦艇イメージを一つ紹介して幕としたいと思います。

 それでは、また違う平行世界で会いましょう。

 2009年初秋 文責:扶桑 かつみ



戦艦大和 in 1987