■ラインハルト・ハイドリヒSS上級大将(対外情報担当)
「ハイドリヒだったな。ヒムラーの下では何かとやりにくいだろう。だが、そうであっても、君の名は私の耳元によく届いておるぞ。さ、君の得意なフェンシングの鋭い突きのような、正確無比な諸外国の現状を聞かせてくれたまえ。どうにも、対外担当の大臣や将軍たちの言葉は、余には耳障りでしかたない。それを忘れさせてくれたまへ」 怜悧な、ナチス党やSSを嫌う人間が見れば、悪の権化として喝采したくなるSS将校を地でいくような外見をした男は静かに立ち上がり、型どおりのナチス式敬礼をした後に報告を始めた。 表面的には、よくいる権力にだけ執着する上辺だけの俗物将校と変わりないが、その内容は如何なるものだろうか。
要約すれば、以下のようになる。
では、各国の全般状況について口答で申し上げます。詳細については資料をご覧ください。 なお、主要各国について採り上げなければならないので、他の方よりいささか時間が長くなると思いますが、皆様におかれてはご理解の程よろしく願いたい。
諸外国の現状 大英帝国 まずは、海峡を隔てた隣国連合王国ですが、表面上の軍備は脅威と言って間違いないでしょうし、この点は他の将軍、提督方の方がよくご存じかと思いますが、彼の国の財政状態は我が国より悪い、と言うのが私の分析結果であり、少なくともあと10年、あの国から戦争を仕掛ける能力はないと判断が可能です。そして、それも各地の植民地が維持されている、という前提が必要で、日米が生命線のインドや中東を押さえ、太平洋各地の植民地が両国の軍門に下った現状では、彼らの太陽は沈む一方だと表現できるでしょう。 ですが、カナダ、南アフリカなどいまだ多くの植民地、連邦地域を有しており、形振り構わない世界規模での防戦に入られると厄介です。少なくとも我が国単独で完全に追いつめるには、極めて長い時間と労力が必要とされるでしょう。 幸いな点は、世界の列強と呼びうる国で、この国を表立って援助しようという国が現状では存在しない事で、これは先の大戦で我が国が彼らと戦争を手打ちにした事を全ての列強が肯定しているからに他なりません。つまり、対英国対策だけを考えるなら現状維持こそ最良と言う見方もできます。
日本帝国 非白人種族の国家であるだけに何を考えているのか理解に苦しむ、といわれる事の多い国ですが、彼らの行動原理は極めて単純です。つまり、目につき手に届く範囲での覇権拡大、これに尽きます。つまり無定見な覇権国家の典型です。 そして、東洋の端っこにある国が、中東にまでその手を伸ばしている、と言うことそのものが国力の著しい拡大を雄弁に物語っており、少なくとも洋上戦力と海洋勢力に関しての表面上の数字は、世界第一と言っても過言ではありませんし、その力はそれまでの戦いで証明されているでしょう。こと決戦型海軍として考えれば、世界最強と判断して間違いない筈です。 そしてこれは、1934年に行われた太平洋戦争後のアメリカとの協調外交姿勢が補強しており、太平洋・アジア地域での米日の経済的な手打ち状態が、彼らのインド洋進出を可能にしたと言えるでしょう。 また、15年近く続いている途上国特有の景気上昇の波は、全体としていまだ上昇カーブを描き続けており、彼らの財布が大きくなり続ける限り、彼らの手はさらに遠くに伸びてくる事は確実です。言うまでもありませんが、加工貿易を主体とする経済覇権国家は、常に市場を欲するからです。 なお、彼らの政治スローガンである民族自決や人種差別撤廃は、英国にとって極めて大きな脅威であり、それが現在での彼らの大きな立場を作り上げていますが、これを日本が額面通り掲げ続ける限り、英国との連携は難しいと判断してもよいでしょうし、アメリカとの完全な連携も難しいでしょう。 また、中東利権はアメリカと完全に分割して入り交じっていますので、同方面での我が陣営の行動は常に慎重を要すると言えます。
アメリカ合衆国 大恐慌以後、内政、外交の大きな失敗から国威・国力の低下の続いていたアメリカですが、第二次世界大戦での戦争特需と1940年代に入ってからの日本との協調姿勢と中東での実質的な軍事的成功により勢力を盛り返しつつあり、潜在的に世界最大級の生産力と経済力を持つ国の景気回復が与える影響は世界規模においても極めて大きく、すでに日本を含めたアジア・太平洋全域の経済や貿易に強い影響を与えています。日本とその勢力圏が、なし崩し的に自由資本主義に傾倒しているのも、何も自らの民族自決・共存共栄が理由なのではなく、アメリカのドルの力に押し流されているからに他なりません。 また、日本に一度撃滅された軍事力の再編もほぼ終わっており、中東利権確保のための恒常的な兵力派遣が、これを雄弁に物語っています。 そして、アメリカに対して忘れてはいけない点は、彼らは自らの利益を脅かす存在には全く容赦しない、という事です。ですから、中東問題は日本を見る前に、その背後にいるアメリカをまず注意すべきです。
その他 海洋列強以外で注意すべきは、やはりロシアです。 確かに、ソヴィエト・ボルシェビキ態勢は事実上崩壊し、スターリンも歴史の中の人物となりましたが、ロシア人が我々に完全に屈服したわけでない点は皆様も十分以上にご理解されていると思います。 あの国にに対して好意的な国が少ないのは事実ですが、我が国の行動によって、生産力が半壊したあの国に武器を始めとする様々な物資を供給している国が存在するのも事実で、現に英国はいまだにロシア人に対する援助を続けていますし、米日両国も重要資源のバーター貿易という形で、安全な太平洋側からかなりの物資を供給しています。これは、そうする事が彼らの利益に最も合致するからです。 また、旧欧州の過半の国では、自由政府という形で英国に多数の組織が存在し、自由フランス軍のようにかなりの数の軍事力を保持するものもありますが、軍事的にはほとんど無視してよい数字でしかなく、むしろ植民地を抱えたまま存続するこれらに対する、政治的な解決こそが急務と言えるでしょう。 特に、米日に強く接近している自由フランス政府、自由オランダ政府は、欧州全土に大きな混乱をもたらす可能性を強く持っています。
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