■アルベルト・シュペーア軍需省大臣

 「シュペーア君、君にはいつも苦労をかけるな。今日も他が軍人ばかりで肩身が狭い事だろう。だが、それは余も同じだ。さあ、いつもの詳細かつ洗練された報告を余の耳元に届けて欲しい。ここには、小うるさい軍人も官僚も企業家も、党の幹部もいないぞ。君のやりたいように、やりたまえ。」
 唯一の民間人となる男は、いつも通り淡々と立ち上がり、一礼をした後軽く咳払いをおこなって喉を整え、トートが死んでより、もはや日常となったような報告を始めだした。
 いつもとの違いは報告書を手にしている事で、それだけ語るべき情報が多く、ここでの失敗は許されない、という彼なりの決意の現れだろう。

 要約すれば、以下のようになる。

 総統閣下。我が帝国は、今重大な岐路に立たされています。それを思い至られたからこそ、今日のこの会合を持たれたのだと愚考しますが、各将軍方の考えられている以上に、我が帝国は重大な危機に直面しています。
 問題は、我が国そして欧州全土の生産力や、我々が押さえる市場規模のような表面的な事象にありません。もちろん、仮想敵とされる国家の存在、彼我の軍事力格差も小さなものです。
 最も大きな問題は、我が帝国が毎年発行する国債額にあります。
 つまり1930年代半ば以降、我が帝国の抱える「借金」は増える一方で、いかに戦争に勝利し領域を拡大しようとも、支出が過大である限りその金額が劇的に減る事はなく、しかも経済的に遅れた近隣各国の一時的な占領統治により、財政状態の悪化はさらに激しさを増しており、しかもこれを解決する手段は、英米日全ての国を何らかの手段で政治的に屈服させ、莫大な賠償金を手にするか、全ての国との融和外交を行い世界規模での自由貿易体制を作り上げるか、もしくは世界経済を一手に握らない限り好転する事はあり得ないというのが、私どものシンクタンクが達した結論で、そのような事の殆どは、国家財政的に不可能と言えます。
 特に武力を用いる行動は、経済面、財政面から看過する事はできません。海洋帝国との戦争をしている間に我が方の国庫が崩壊し、我が帝国が先に自滅してしまう可能性が高いからです。
 ですが、米日から先に戦争をしかけてくる可能性は、少なくとも現状を維持している限り経済面では低いと判断でき、英国はともかく米日との協調外交を行う事、健全な貿易状態を実現する事ができれば、ドイツのみならず欧州全土の活路も見える可能性が高くなります。
 また、一日も早く欧州全土の完全独立を達成する事も重要です。特に経済的に劣る地域を市場としてではなく、統治地区として保持する事は、国庫の負担以外になり得ず、帝国に本末転倒の結果しかもたらしません。
 故に、私アルベルト・シュペーアは、経済的側面から見た場合に限り、戦略の大幅転換、それが無理でも漸次転換を提言するものであります。
 ご静聴ありがとうございました。

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