■ The Five Star Stories RPG リプレイ5「KALLAMITY3100」 ■

プロローグ

◆プロローグ(1)アントン司令◆

 「はぁ・・・」
 ここしばらく、彼の執務室での第一声は、ため息から始まると言っても過言ではなかった。もはや日課とすら言って良いだろう。
 原因は他でもなく、都が陥落し退勢著しい祖国の軍事力の全権を任されたからだった。
 だが、ため息ばかりついていても仕方ないので、一人っきりの執務室で昨日の損害報告から目を通すことを男は決意した。もっとも、彼はイヤな事から先に片づけるタチだから、そのデータから処理し始めただけで、特に確たる目的のあるものではなかった。
 なお、一人で執務している理由は、他者に自らの情けない体たらくを見せたくないからだ。ファティマすら遠ざけているのだから相当と言ってよいだろう。
 彼が仕事をそれなりに熱心にこなしていると、その腰を折るように、一人の男が入室してきた。
 ノックから入室の際の挨拶まで実に慇懃で、表面上非の打ち所のない「騎士様」だったが、だからと言って彼の機嫌が良くなる事はなかった。しかも目の前の騎士は、見目麗しい男装の麗人の装束・・・もとい、まぎれもない男性の女装姿で、彼が『人形使い』だろうとは誰も思わないような出で立ちをしていた。
 そして、その衣装を裏切らない中性的な声、いつもながらの口調の『助言』の言葉を口にしてきた。
「司令、我が前面で遊んでいた敵に、新たな動きが見られます。何らかのリアクションをされた方がよいのではありませんか?」
そう、彼は最初はあくまでも質問や疑問を口にする調子で『助言』してくるのだ。彼が本当に断定口調になるのは、彼の祖国の国益に直接関わる時だけだった。そして、彼が本当にルーンの騎士らしい振る舞いをするのは、公の場合だけ。そう彼はクバルカンの利益を第一に考える為だけに行動する『法の騎士』なのだ。
 彼は、目の前の騎士のどこがどう『法の騎士』なのかと疑問に思いつつも、『助言』に対する返事を行うことにした。
「その件に関しては、こちらでも前線のチャーミー中佐から報告が上がっています。現在それらを踏まえて情報を整理中で・・・」
 長々とした返事をしながら、どうしてこんな事になったのかを再び脳裏の片隅で埒もなく考え始めていた。
 大隊の指揮なら慣れたモノだし、楽しいとすら言えるが、オレにこんな大軍の指揮なんて出来るわけないだろう。誰だ、こんな境遇にオレを追いやったのは・・・。
 そんな彼の内心に気付かないのか、気付いているが無視しているだけなのか、彼の報告に対し、「では、私は独自に情報収集活動を続行しますので、そちらの方はよろしくお願いします。」と返事を残すと、クバルカンから来た男は一礼して去っていった。
 まったく、バスター砲でも打って全てを無茶苦茶にしてやろうか。そうしたら、さぞこの鬱陶しい気分も晴れることだろう。と、できもしない悪態をつくと、再び彼はデータが表示されたモニターへと視線を移した。そして、最後に一言だけ肉声の愚痴をもらした。
「画面の向こうだけの戦争なら楽なんだがなぁ・・・」

◆プロローグ(2)NPC代表◆

 野外の天幕で一人男が考え事をしていたが、大声での呼びかけが彼を現実に引き戻させた。
「団長〜、敵に動きが出ました〜!」
叫びながらやって来る男に視線をゆっくりと移しつつ
「お〜、副長か。503からも似たような報告がきている。副長は、どうすべきだと思う?」
 いかにも『武ばった騎士』と言った表現が似合う男に向かって、のんびりとと表現してよい返事をおこなった男、その風貌と体格から到底騎士とは見えない、左腰に指したスパイドが辛うじてそれを主張していると表現できる男は、反対に問いかけた。
 その短躯の男に副長と呼ばれた騎士は、くだけた調子に男性的な笑みを加えて答えた。
「ケツまくる準備だけは、しておいた方がよいのでは? 我らが『司令官』閣下は、決定的な戦がお好きなようですから・・・」
「それに、後方要員まで巻き込む必要はない・・・か?」
男は騎士の最後を引き継いだ。それに対し騎士は、それ以上進言する必要はないとばかりに深く頷いた。
短躯の男は、新たに発言する前に何かの諧謔を思いついたらしく「では副長、とりあえず綺麗所の皆様に、先に下がる準備をしていただくよう伝えてくれないかな?」と続けた。その言葉に騎士は苦笑を浮かべつつも、男の望んだ反応を示した。
「そう言った言い方だと、皆怒りますよ。貴族趣味のフェミニズム主義者だと」騎士は楽しそうに反論した。
「じゃあ、後方要員の皆様に『醜男マックス』が個人的面接をしたがっている、と伝えてくれるかな?」
騎士の言葉に、自らをマックスと言った短躯の男は、さも愉快と言った風に続けた。これに対して、騎士は半ば儀礼的な大笑いで周りの大気を振るわせた後、
「それなら命令などせずとも、その言葉を伝えただけで、いちもくさんに女性団員は退散するでしょうな、では」と敬礼をもって話を結び、命令を実行すべくもと来た道へと戻っていった。
 それを見送りつつ、短躯の男はそれまでとはうって代わり、ムッツリと押し黙り再び何かを考え始めた。
 騎士が下がると短躯の男の後ろから、彼と同じぐらいの身長だが彼の半分ぐらいの体重しかないと思われる細身の女性が出てきて、彼の空いたカップにコーヒーを注いでいた。その女性は、もちろん彼のファティマ、彼が騎士である事の何よりの証明だった。
 短躯の男は、それに対して丁寧に「ありがとう」と礼を述べると押し黙り、短躯に似合う悪相をさらに悪化させた風貌、まるで大量殺人計画を練っている極悪犯人のような顔にもどった。
 そして、騎士が視界から消え去る時ひと言呟いた。

「Game Start!」