■ The Five Star Stories RPG リプレイ5「KALLAMITY3100」 ■

エピローグ

 マヒェン=オルドワの場合

 暗殺劇後の戦闘から一ヶ月して再開した、停戦会議・・・ではなく、講和会議も数ヶ月の交渉を以て何とか締結にこぎ着けようとしていた。
 交渉決裂から再度の会議へと持ち込むことに成功したのは、戦争当事者の努力はもちろんだが、星団評議会すら動かしたクバルカンの威光と彼、マヒェン=オルドワ枢機卿の影から日向からの活躍なくして成立しえないものだった。
 そう言った経緯もあり、数ヶ月前のデジャビューを感じさせる最後の調印式を目の前にして、彼もいくらかの満足感と共に些か興奮気味でもあった。
 もっとも、その姿は壇上はおろか会議の行われた部屋にすらなく、その視線もモニターに注がれたものだった。その上、その出で立ちは、戦場での誰もが『ルーンの騎士様』と認めるような、見目麗しい騎士の姿ではなく、麗しい麗人のそれであった。しかも、それが大方の女性よりも似合っており、顔なども化粧などで変装している事から、機械を使っても彼をルーンの騎士だと思うものはいないだろうと思わせるものがあった。
 その自信がそうさせているのか、部下のルーン騎士数名(同じよう(?)に変そう中)と彼ら自身のファティマもその部屋で悠然とモニター画面を見つめていた。
「さあ、これで私のこの国でのお役目もようやく終わりかな? どう思うTP?」と態度も余裕綽々と言った風に、隣席の自らのファティマに軽口を叩く余裕すら見せていた。
「そろそろお召し替えをされた方がよろしいかと。凱旋する『最強の鉄人』に『DOLL PLAYER』がいないとあっては、祖国の民はもちろん星団中の人々がいぶかしみます」
「そうだね、TP。あ、君ももちろん着替えてね」
と、デルタ・ベルン風家政婦の格好をした自らのパートナーに微笑みかけると、騎士らしい颯爽とした仕草で立ち上がり周りの者たちに芝居がかった声をかけた。
「さあ、諸君。法の守護者として恥ずかしくない態度で望んでくれたまえ。全星団の民が注目しているぞ!」
それだけ告げると、それまでの態度を『ルーンの騎士』へと一変させ、力強い足取りで部屋を後にした。

 マヒェン一行が港に高級車で乗り付けると、そこはルーンの騎士を一目見ようと言う群衆の坩堝と化していた。
 もっとも、星団で最も高い人気を誇る騎士団員たる彼らにとっては日常の一部ですらあり、パートナーとして連れ添っているファティマたちですら、臆した風は全く見られなかった。もちろん、ルーン騎士の正装をしたマヒェンも実に堂に入ったもので、公式な式典においては一部の隙すらない完璧な法の騎士ぶりをしてみせた。
 そして、メディアが離れた最後の私的な別れの際に、この地に残る者と離れる彼らとの間にいくばくかの時間が与えられることになった。
 その場に同席しているのは、彼と同じく講和に尽力したクレスト王子と、ネライス帝国のグルナ姫だった。
「このような結末を迎えようとは、夢にも思わなかった」
グルナ姫は、いつもながらの男性的な口調で、戦争の感想を一言で言ってみせた。これに対して
「それはボクのセリフですよ」
と見るからにホッとした雰囲気をしたクレスト王子が答える。その二人の間の空気を感じ取りつつも、それを無視して彼らしく答える事とした。
「今回は誠に重畳・・・と、この場では美辞麗句は不要ですね。まあ、オリオール公国の支配層の方々には申し訳ありませんが、ここにいる私たち全てにとっては、十分に満足すべき結果だと思いますが?」この会議の間に二人とはそれなりに親しくなったマヒェンは、本来の口調で真実に皮肉のテイストを付けて口にしてみた。
 こういった言い回しを嫌うネライスの姫君は、露骨に顔をしかめいつも通り本音を口にした
「真実はそうであるが、法の騎士たるそなたから聞くと、些か不快に感じるな」
「これは、申し訳ありませんでした。どうにも公の目がないと口が悪くなるのは性分らしく、ご容赦願いたい」
と表面的に口と顔では誤ってみせたが、この地を離れる最後に姫の嫌がる姿を見たかったからこそしたというのは明白だった。それが露骨な言い回しだったので、クレスト王子の方はこれに気付いているらしいが、それを姫に伝えるつもりもないらしい。
 こんな調子で今後大丈夫かなと、マヒェンをして埒もない心配をさせてしまういつもの光景だったが、姫はそれに全く気付かないらしく、改まった口調でこたえた。
「いや、こちらこそ埒もない事を言った。許されよ」
「とんでもありません。これからは我がクバルカンとネライスは友誼をもってつき合う仲、そのようなお言葉はお下げください」マヒェンも多少改まりそう告げた。
「そうかも知れぬな。だが、いつか両国の民がこうして気軽に話す事ができればよいのだが」
マヒェンは、王女の言葉に対して無言と小さな一礼でもって応えた後、二人から視線を外すとプライベートにしてはいつになく真剣な眼差しの表情で、港のある一角に注がれていた。

 アスラ=ジン=ナハルの場合

 クバルカンの講和使節団がオリオール国際港を離れようとしている時、港の軍用区画の一角でも、一つの別れがされようとしていた。
 何隻もの大型戦艦が係留されており、誰の目にも巨大な軍事力が移動する事が判断できる光景だったが、その周りにいる人々は、世間一般の『軍人』よりもややくだけており、また戦闘的な雰囲気を発散している者が多かった。
 そう、ここはの傭兵達の別れの場だった。
 その中でもひときわ大きな存在感を示している二人の人物が、人々の輪のほぼ中央近くで別れを惜しんでいた。
「テーラー君は、今度はどこに行かれる?」
恰幅の良い初老の武人と言った風情の男が、短躯の男に問いかけた。
「さて、近くにクバルカンと小競り合いをしている国があると言うので、そちらにお世話になろうかと思います。」
短躯の男は丁寧な調子で答えた。
「相変わらず・・・と言う訳か。負けはしたが、あの一騎打ちで君の武名はむしろ上がったとのもっぱらの評判だからな、雇い主には困るまい」と初老の騎士は処置無しと言った表情で口にしたが、その言葉にやや羨む色が漂っていた。
それを感じ取ったのか短躯の男は、年長者に対する礼儀を踏まえつつ疑問を口にした。
「どうされましたアスラ卿? そう言えば、今度はどちらに。借りがありますので、あなた方の行かれる場所にボクたちも赴いても構いませんが」
「いや、ワシはもうこの通りなので、娘に後を譲って隠居でもしようかと考えておるのだよ。それで、次々と戦地を巡る君が少し羨ましくなってな、ハハハ」
短躯の男の問いに、今度は哀愁の色をのせたセリフを口にした。アスラの中でも「このような事をおいそれと口にするとは、本格的に老いたな」と言う感慨を抱かせ、その思いがよけい表に出ていた。
 短躯の男は、初老の武人の思いも寄らない言葉に、珍しく戸惑いの色を浮かべつつも
「そうですか、歴戦のあなたが引退とは残念です。では、借りの方はアスラ卿ご子息の方に対して返させていただくと言うことでご容赦願いたい。また、お国で何かありましたら、このマックスウェル=テーラー、不忠者なれどいの一番駆けつけますのでご期待ください。」
と最後にはいつもの奇妙な諧謔趣味を前面に出した受け答えをおこなった。
 この遠征中に彼独特のやり取りにもなれたアスラも、豪傑風の大笑いをしたあと
「大いに期待させていただきますぞ。しかし、『醜男マックス』に可愛い娘を誰一人としてやる訳にはいきませんので、その点はお覚悟ねがいたい。」
とやり返した。そして、彼らは共に周りの喧噪に負けないぐらい大笑いをした後、男性的な色気すら感じさせる敬礼をかわし、最後の別れとした。
 そう、彼らにとってのここでの戦争とは、これで終わらせるべきものなのだ。
 そして、戦が終わっていないもの達もまだまだいた。

 クレスト=リーヘルトの場合

 講和会議から約半年、ネライス帝国東方領首都ネス市へと移動して、忙しい毎日を送っているクレスト王子にとっての久しぶりの休暇ももう終わろうとしていた。
 オリオール戦役の講和の功労者としての肩書きをもって、また有力な皇族であるグルナ姫の後ろ盾もあり、ネライスでの彼の立場はなかなかに強いものとなっていたが、だからと言って今すぐに祖国を返してくれる程この軍事国家は甘くはなく、今の彼の立場はネライス貴族であり、軍団を率いる将軍の一人となっていた。
 非戦を願う彼としては、あまり喜ばしい立場ではなかったが、全ては祖国の滅亡から苦しい生活を送っている元臣民の為と思い、また今までの精算を少しでも行おうと、自ら休暇すら返上して任務に当たっていた。
 そして、それを見とがめたグルナ姫により無理矢理三日間の休暇を与えられたのだが、その休暇ももう終わろうとしていた。それが今現在の彼の姿だった。
 琥珀色の液体を満たしたグラスをゆっくりと回しつつ、ぼんやりとしていたクレスト王子の耳に、聞き慣れた声が響いてきた。もちろんパートナーでも共に連れ添ってきた彼の部下達の声でもない、彼が最近最もよく耳にするようになった、『殿下』の声だった。
「クレスト卿、勝手に入るぞ。それにしても、不用心だな。衛兵達も私に慣れ慣れしすぎはないか? 我が帝国の現状を分かっているのか?」
相変わらずの男言葉で、自らの感じた事を率直にそして早口で口しているのは、彼の最大の後見人であるグルナ=アルス=シュバリエ王女だった。
 そして、一見口うるさいように見えて、実のところ彼を心配しているのは、人の心の機微を知る者にとっては、明白すぎるぐらいだった。
「分かりやす過ぎる性格の方が問題じゃないかな。」と思いつつも、いつまでも王女に一方的に話させておくわけにはいかないので、何らかのリアクションを起こす事にした。
そして、彼の目には丁度手にしていたグラスが入った
「そうだね、ボクも部下も気を付けるよ。それよりも、いいお酒が手に入ったんだ。ボクの祖国の逸品だよ。」
「クレスト卿、そなたのその柔らかい口調は、改めた方がよいと思うぞ。軟弱と取られるし、何より誠実さに欠けけるように思える。この私が思うのだから、相当だと思うぞ。」
「だけど、ボクが君みたいなしゃべり方しても似合わないよ。」ごもっともとは思いつつも、スタンスは代えるつもりはないと断言するように王女の問いに答えた。
「それもそうだな。だが、我が配下の将軍である事を忘れるな。そなたを見ていると、皆の前でもその軟弱なしゃべり方をしそうで不安に思えてくる。」
「う〜ん、そんなにボクは信用ないかなぁ・・」
王女にも冗談っぽく聞こえるようにおどけた口調で答えたが、あまり成功したと言えない事は、王女の顔にこれ以上はないぐらい明白に現れていた。ならば、とさらなる一手を彼は打つことにした。
「ね、お酒はどう? 美味しいよ。ボク的にはカラミティー一番だと思うんだけど、飲んで感想を聞かせてよ。」
私的な頼み事は断れない王女の性分につけ込んだ、見事な一撃だと彼は思いつつ、グラスを王女の眼前に差し出した。それを素直に受け取った王女は、近くのベッドに腰掛け香りを楽しんだ後、それを豪快に飲み干し
「確かに良い酒だな。そなたと違って実に素直な味わいだ。だが、私は騎士だぞ。このような手段で陥ちるわけなかろう。それなら、そなたの柔らかい口調から紡ぎ出す睦言の方が効果があるように思えるがな? 私的な面でも年齢相応の実戦経験がないと見える」と、彼女にしては気の利いたつもりの冗談を口にした。
 それを敏感に感じ取ったクレストは
「そんな冗談を言いに来たんじゃないだろ。」
と緊張を少しのせつつ王女を即した。彼女が冗談を口にする時は大抵ロクでもない事が起きた証拠だったからだ。
「そうだ。どうやら我らは帝都では嫌われ者らしいぞ。詳しくはシデンから聞けるが、心の準備をと思って訪ねた。」
予想通りのグルナ姫の言葉に内心嘆息しつつも
「どうして君と関わると、戦いばかりなんだろうね。」
と、肩をすくめつつ可能な限り軽い口調で応えて見せた。
これに対して姫は、立ち上がりクレストの前に来て手を差しのべ、雄々しくそして楽しげにすら現実を口にした。
「こ度は、我とそなたがもたらした戦だ。さ、共に参ろうぞ。」

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