■The Five Star Stories RPG リプレイ5「KALLAMITY3100」 シナリオ・NPCの事前設定とプレイの進行による変化 「なぜベストをつくさないのか?」
■フェイズ0:目的
危機せまる祖国 迫り来る圧倒的な敵国 忽然と現れる英雄 渦巻く陰謀 大決戦そして大団円
要するに、歴史小説、ライトファンタジー戦記ノベルにありがちな黄金パターンである。もちろん、ここで「忽然と現れる英雄」とは、プレイヤー・キャラクター(以後PC)に他ならない。 なおこの場合、後に述べるPC側の「人形使い」や「司令官」など個々のPCを指すものではない。 また、この煽り文句通り事が運ぶと仮定するのは、テーブルトークRPGという特性を考えると非常に疑問である。むしろ、開始状況がPC側が負けかけている状況を考えれば、史実での数多の例にあるように、敗戦を何とか避けようとかえって状況を悪化させてしまう可能性も十分にある。 よって、今回は可能な限り公平を帰するために、全般状況とノン・プレイヤー・キャラクター(以後NPC)の行動方針を完全に決めておく事で、マスターの行動を縛り、そしてマスターはそれを操るだけとしてみた。 つまり、これを計算式に例えるなら、NPCは数字であり、PCがその間に入る数字記号となるのである。もちろん=(イコール)の向こうに何が待っているのかは、状況想定のみではとうてい予測不可能だが、その結果はプレイングが示しているので、ここではその数字と計算式の仮定を中心に述べていきたいと思う。
■フェイズ1:全般状況 まずは、PC、NPC双方が縛れるシナリオの基本となるワールドデザインである。この場合、大前提は「The Five Star Stories」である事は間違いない。しかしここから述べていては、枚数がいくらあっても足りないので、直接関わりある事だけを簡単に述べよう。 では、分かりやすく最初にあげた煽り文句から引用して説明しよう。まず、「危機せまる祖国」だが、すでに公都(首都)は陥落、王様は行方が知れず、軍隊は現状では敵の半分程度。これだけならまるで良いところナシである。 ライトファンタジーなら、ここで戦争の天才などがこの状況を覆したりするのだが、PCにそれを期待するのは過大な期待なので、いくつかこの国に対するアドバンテージを用意した。要約すれば、「基本的に豊かな国である」、「後方に再編成中の部隊が多数存在する」、「超大国がコッソリ後ろ盾している」と言う事になる。 つまり、戦術的には追いつめられているが、戦略的にはそうでもないと言うことだ。極端な話、戦線が全面崩壊しない限り反撃は十分に可能という事になる。
次に「迫り来る圧倒的な敵国」だが、こちらはプレイヤーに緊迫感を与える目的の元「味方の二倍の戦力を持っている」としてある。しかも「首都を陥落させ軍事的、政治的優位にある」とされている。 つまり、彼らは戦争に勝ちかけている。いや、すでに開始時点で勝っているとすら言えるだろう。 もちろん、これではどうしようもないので、こちらにはいくつか足かせがつけられている。つまり、「軍事国家だが基本的に貧乏」、「上層部で対立がある」、「前線部隊は巨大だが補給が追いつかない」などである。 この情報をPCが掴む事で、時間を稼ぎ十分な勝算が見えてくる寸法だ。
最後に「渦巻く陰謀」だが、これは公平を帰するために敵味方双方においてみた。敵においては先ほどの「上層部で対立がある」であり、味方には、「敵とつながる傭兵部隊(大部隊)が存在する」である。 そして、この陰謀の最もキーとなるキャラクターを一人にまとめておく事で、PCに対して真に敵対すべき相手を見えやすくしておき、シナリオの方向性を分かりやすくしておこうと言うものである。 ただし、それだけでは面白くないので、今回登場させたNPC全員にそれぞれの思惑と目的を持たせておき、プレイヤーがどれに食い付いてくるかでシナリオに「揺らぎ」を持たせる事とした。 セッションの方向が「大決戦」でなく「謀略戦」となった場合、非常に効果を発揮するものと期待していた。(ただし、プレイ時間が長くなる事がこの時点で予想されたが。)
まあ、大きくはこの程度となるが、これ以外に戦争物なので敵味方の配置を最初に決めておき、プレイヤーの最初の行動如何で、シナリオの方向性が決まるような状況に設定する。 そして、設定された場所は、味方にとっては「この拠点を失えば最終防衛線しか存在しない」場所であり、敵にとっては「戦争目的を一応達成できる」場所である。 そうして、経済の拠点にして二次防衛線の要の街が設定され、そこへの双方の布陣となった。
そして、この戦場でプレイヤー側がどう動くかでその後のルートを設定しておく。 ●「大決戦ルート」 ・プレイヤー側の国がこの戦場で敗退する(大敗も含む) ・プレイヤー側がさっさと最終防衛線に後退する ●「謀略戦ルート」 ・プレイヤー側の国がこの戦場で勝利する ・プレイヤー側の国がこの戦場を維持する
大きくは以上である。 詳細については後に説明したいと思うが、プレイヤーが勝てば、敵は今までの勝利をその敗北で無効化しないため、戦争を何とか停止させる方向で収めようと動き、結果として謀略を活発化させる。反対に敵が勝てば、敵国の国是上勝つことでPCサイドの国の完全占領を迫られ、戦術的選択肢をかえってせばめられ、補給物資を消耗し、実は戦略的に不利になり、PC側の大反撃が可能となるのである。 そして、敵はこの戦場で戦闘する(ないしは進撃する)ことで、現在持っている補給物資を消耗してしまい、これだけでもPCサイドに有利になる事になっていた。 この状況を知る事でPC側にゆとりが生まれ、最初の緊迫感から解放され十分な反撃作戦を練る余裕が生まれるだろうと予想していた。 また、この時点でシナリオを作成したものとしては、これ以外の最初の分岐はありえないと考えていた。 そしてそれが大きな誤算であることを、実際のプレイングで思い知らされる事になったのは皆様ご存じの通りである。 では、当面の前提条件はここで一旦終わり、次へと移行したいと思う。
■フェイズ2:プレイヤーズ(PC) プレイヤー・キャラクターは、今回は準プレロールド・キャラクターとした。 これは、プレイヤー側にある程度の条件を与えておかないと、いや与える事でシナリオの方向性と自らの役割を認識してもらう事を目的としていたからだ。 与えられた条件は、大まかなサブ・クラスとキャラクターの背景設定だ。では順を追って見てみよう。
●司令官 彼には、この国の指揮官は彼しかいないこと。そしてそれを達成できるコマンダーとしての優れた能力を与えることで簡単に解決された。彼の目的はファンタジーRPGで言う所の「戦士(騎士)にしてリーダー」である。 前線では第一線に立って戦い(指揮し)、後方にあってはPC同士の調整役になる事だ。 要するに司令塔。悪く言えば御輿とも言える。 ただし、それだけに簡単な仕事である筈た。まあ、クセのあるPCを制御する事が簡単とは言い切れないが。
●人形使い 彼は、強大な個体戦闘力、大国の威、高い情報収集能力を与えた。さらに、宗主国的立場があるので、司令官に対して唯一上位に立てる立場にもある。 一番動きやすく、PCの誰にも束縛を受けず、またそれ故に難しいポジションでもある。さらに、大国故に「国家の大儀」などが力の行使には必要で、このタイミングを個人的に図る必要にも迫られ、ある程度状況の見える事が要求される。 このPCに求められたのは、影から司令官をサポートする事。 さらに、お約束的な「ルーンの騎士様」を表だったところでしてもらえれば、それに越したことはない。 それによりセッション方向性が分かりやすくなるからだ。
●王子様 彼の特徴はまさに「流浪の王子様」である事。ただそれだけである。 もちろん、お約束と実益を兼ねて敵国の司令官(王女)との許嫁という設定を用意しておく。 これは、彼が個人的に政治的立場を利用して立ち回れるようにする事と、PCサイドの中で独自の立場を維持できる事にある。「ラブコメ」担当というシナリオ上でのお約束を満たすための方便かも知れないが。 なお、恐らく混乱を引き起こすのはこのキャラクターではないかと、当初では予想されていた。
●傭兵隊長 彼の担当は、前線で戦う事。そしてトライブスマンなので前線での情報収集をする事にある。 要するに、司令官をサポートする事が大きな目的とされた。戦争が一人でできない以上これは非常に重要なポジションだ。また、内憂であるNPCの傭兵との関係を持たせる事で、キャラとしても独自の行動をある程度できるようにしておき、幅を持たせるようにしておいた。 要するにこのPCに求められたのは、「格好いいオヤジ」である。
そして、司令官が調整役、人形使いが全般情報の収集、王子様が敵王族とのパイプ役、傭兵隊長が前線の情報収集をすると言う役割を果たせば、特に問題なく情報も集まり、シナリオに大きな支障が発生しないようにしておいた。 つまり、このPC側のキャラクターたちは、「戦争もの」という以上、情報戦を征するものこそ勝利者となるという鉄則に従い用意されたキャラクターと言うことだ。 もっとも顛末は、プレイングの通りだっが・・・。
■フェイズ3:プレイヤーズ(NPC) 敵側には、明確な行動方針を定義しておいた。 この場合、全般的な行動方針と「大決戦ルート」と「謀略戦ルート」での行動パターンを用意した。 これにより、どのようなシナリオ分岐が発生しても、彼らは自分のレールを走り続ける筈だからだ。 ●グルナ=アルス=シュバリエ王女(86歳・♀) 国家の意思を背負った王女様。 一言で述べるならそれだけのキャラクターである。 正々堂々公明正大、王道(いや覇道か)を突き進む人。ただし、周りの状況から進めば進むほど基本的に不利な状況になる、このシナリオで最も不幸になる可能性の高いキャラクター。 彼女の目的はPC側の国を征服し尽くすこと。これにより、国家の大儀を果たし、自らの政治的立場を強化し、見え隠れする陰謀を力で抑え込む事にある。 彼女のスタンスは「パワー・プレイ」。 と言っても、ある種お約束な単純おバカなお姫様では興ざめなので、比較的まともで責任感のある常識人とした。 このため、彼女は何があろうとも、祖国の勝利のために邁進する事になる。 彼女の心を変心させうるのは、王子様だけだ(笑)
●マクスウェル=テーラー(185歳・♂) 失うもののない、ひねくれ者の復讐者。 彼の目的はクバルカンへの嫌がらせ的な復讐にある。このため、シナリオの前提条件でこれを完全に満たしており、何がどう転ぼうと彼にとって損はないのである。 彼のスタンスは「ケセラセラ」。 自らがPC側サイドに立って勝てばクバルカンの嫌われ者が名声を得る事になり、彼個人が敗北すればクバルカンが紹介した事による面子を潰す事になり、彼がどこかで寝返れば言うまでもなくクバルカンの面子は潰れ、もし彼がクバルカンに成敗されようとも、嫌われ者としての人生を全うできるので彼としてはグッド・エンドである。と言う誠にタチの悪い存在。 言ってしまえばジョーカーに近い存在と言える。 極端な話し、PC側がクバルカンと戦える公の戦場という舞台を用意すると確約すれば、あっさり他を裏切り一時的に協力する可能性すらあるのだ。 ただし、どちらにせよ『破烈の人形』が出現した時点で敵対するので、やはりやっかいな存在と言える。
●カイン=ストレーガ(156歳・♂) 陰謀の総元締め。 彼の目的は、謀略による敵国(ネライス)上での栄達の達成。 何とかして今回の戦争の勝利を自らの功績としたい。そのためならば、王女の排除すら画策する陰謀家。基本的に戦闘そのものは得意でなく、戦わない場所での活躍が得意。 彼のスタンスは「アート・オブ・ウォー」。 彼が本領を発揮するのは、「謀略戦ルート」になった時である。「大決戦ルート」になった場合でも動くが、この場合彼の目論見が成功する可能性は低く、何もせず退場する可能性も十分存在している。 基本的に日の当たらない存在。 なお、追いつめられれば追いつめられる程アクティブな行動に出る。 今回最もシナリオの方向性を握っている敵。つまり、事実上のラスボスである。
●シデン=フィーデル(269歳・♂) 爺や。それ以上でもそれ以下でもない。 彼の目的は、王女の安寧を維持する事。 ただし、戦場にでれる体ではないので、後方での活動が主になる。 そして、シナリオ開始時点で帝国側が実質的な勝利と言って良い状況で、遠征軍のあまりよくない現状と副司令官(カイン)の陰謀を薄々知っている事から、最初から講和すべく動く事になる。 彼のスタンスは「ラブ・アンド・ピース」。 ただし、彼は陰謀にも政治にも無縁な武人であるため、PC側が気付かずそのまま埋もれてしまう可能性がある。 もっとも、王女が追いつめられれた時には、死に華を咲かせる可能性も否定できない。まあ、これは余興だろう。 彼のシナリオ上での役割は、シナリオの幅を広げる事にあり、メインルートからは外れていると言える。
■フェイズ3:カード では、ここではそれぞれがシナリオ前ないしはそれ以後で握る事になるカードとそのやり取りを紹介しよう。 これは、シナリオ分岐のためのNPCの行動に関わってくる要素として設定しておいたものである。 なお、これはマスター側が敵の行動のために設定したもので、このため敵が持つカードが必然的に多くなっている。ただし、NPCサイドでカードを握る事になるのは、王女様と副司令官となる。(爺やは王女の政治的付属品、テーラーはゲームに参加する意志なしのため。)
●プレイヤー ・PC側 ・グルナ=アルス=シュバリエ王女 ・カイン=ストレーガ
●カード ・ネライス帝国の増援 ・サリス市の確保 ・戦場での勝利 ・カインの陰謀情報 ・カインとテーラーの繋がり ・テーラー行動 ・カインの王女暗殺計画 ・クバルカンの介入 ・爺やの穏和な和平提案 ・停戦交渉(全員が持つ。ただし、敵味方側が同じカードを切らない限り無効。)
・2〜3カ月の反撃準備期間(PC側のみ) ・2〜3カ月の侵攻準備期間(敵側のみ) ・当面軍が戦える補給物資(シナリオ開始時敵側のみ・本来存在しないカード) ・カインの私兵部隊と部隊の半分を三ヶ月動かせるだけの物資(敵側のみ) ・王女様の直属部隊と部隊の半分を三ヶ月動かせるだけの物資(敵側のみ) ・帝国本土との政争(敵側のみ) ・全てのカード失った事での暴走(特殊・敵側のみ) ・王女の監督不行届(によるカード喪失) ●プレイ さて、セッション中のカードのやり取りは一体どうなったか? シナリオの経緯を少し踏まえつつ見てみよう。
リプレイを見れば一目瞭然だが、プレイヤー側は最初の意図が全く不明な最初の一方的な撤退とその後の後方での混乱により、王女様が本来最初に捨てるべき「当面軍が戦える補給物資」を残させ、と言うより本来存在しないカードを発生させ、「戦場での勝利」と「サリス市の確保」までも何もしないまま相手に渡してしまう事になる。 この時点での王女の一人勝ちだ。敵側であるカインの介在する余地すらない見事なまでの「棚ぼた」である。 このため、王女は何の不安もなく彼女の目的である完全勝利を目的として、「2〜3カ月の侵攻準備期間」を得る為に最初にゲーム開始時にイベントとして出した「停戦交渉」カードをそのまま場に残す。 さらにカインも、王女が有利になり自らの立場が何もできぬまま悪くなったので謀略戦で挽回しようと、同じく「停戦交渉」を切る事になる。そして、「カインとテーラーの繋がり」を掴んだ事で結果として内憂外患となってしまったPC側は、軍事的な圧倒的不利という状況もあり、起死回生のための「2〜3カ月の反撃準備期間」と「クバルカンの介入」を得るためにも「停戦交渉」をしぶしぶ出し、シナリオルートは王女の圧倒的有利というマスターの全く予想外の状況により、「謀略戦ルート」へと流れる事になる。
そして、停戦会談から条約調印式までに、王女はPCから「カインの陰謀情報」、「カインとテーラーの繋がり」、「爺やの穏和な和平提案」(自動入手)と全てのカードを手に入れる結果になる。 しかも、「王女様の直属部隊と部隊の半分を三ヶ月動かせるだけの物資」を用意できるだけでなく、「カインの私兵部隊と部隊の半分を三ヶ月動かせるだけの物資」のカードまで握ったようなものであり、本来なら徹底蹂躙を旨とする王女様に戦争を再開する理由こそあれ停戦する理由はどこにもなかったのだ。 この経緯を見るように、王女はPC、NPCを含めて最も有利な位置にいたからだ。リプレイ上でのGMの言葉は、あの時の真実を語っていたのである。 この時点で王女が不利となる、「帝国本土との政争」が発動する可能性はほとんど消える事となる。
そして、王女サイドとしては、カインがここで何らかの妨害工作にでる事を予想しており、これを利用してこの停戦交渉を蹴り、自らの立場を維持したまま再戦へと持ち込もうとする。 もっとも、これは能力的な問題から、王女側が陰謀には一番不利だったためカードとしてまでは出せない。シナリオの都合では、PCサイドかカインがボロを出すことにより発生するイベント・カードとなる。 かくして「カインの王女暗殺計画」はPCの大活躍で見事阻止され、その仮定で王女は伏せカードの「王子様のと関係改善」カードを手にしている。さらに、これにより王女は、カインのカード全てを入手する口実を得て、自らの国内的優位があるのでこれを即座に実行。 王女が有利なカードばかり握っているため、カインとそれに連なる者は妨害に出ることすらできない。
そして最後に、カインが「全てのカード失った事での暴走」(最後のカードを握ったまま暴れる)と言う最後の手段に出る事により「テーラー行動」カードが自動的に発動され、PC側の「クバルカンの介入」が切られたが、これは戦略的環境からどうしても中途半端な介入とならざるをえず、王女にとっての不利なカードにならず。しかも、カインの「全てのカード失った事での暴走」、「カインの陰謀」により「王女の監督不行届」というカードが発動する筈が、PC側の命令の不一致により発生した予想外のジョーカー・カードの発動で相殺。
結果として、堅く攻め目的を達成したクバルカン、守りを固め最後に勝ち馬にのった王子様、場を引っかき回すだけ回した傭兵隊長、全てに踊らされたPC側司令官。そして、最後にほとんど全てのカードを握ってしまった王女様。誰が最終的な勝利者であるかもはや言うまでもないだろう。
確かにセッション中での情報量が多く、マスターからプレイヤーサイドに渡す事を忘れていた情報もあり、この点でのマスターへの攻めは甘んじて受けるが、この結末をもたらしたのが何であったのかは、多くを語る必要はないと確信している。 全くもって、マスターにとっては予想外の結果であった、と言うのが正直な感想だ。
■フェイズ4:イントリーグ(陰謀) このシナリオにおいての最も重要なキャラクターである敵国の副司令官(カイン=ストレーガ)は、いくつかの陰謀を用意していた。これは、シナリオの進行により実行され、セッションの方向性をプレイヤーとのやり取りで大きく左右するものである。 順に紹介しよう。
●ケース・ホワイト:サリス市北方での戦闘の場合 カインは、ここで王女を戦場で強引に引きずり降ろし、その後がまに軍法に従い自らが着き、その後戦争を指導する事で、最も簡単なルートで自らの栄達を狙う。 この目的の為に本来雇われたのが、1個旅団(3個大隊)と言う大兵力を抱えた「テーラー傭兵騎士団」である。 ここで、副司令は王女をあえて手薄にし、その情報を自らが敵側に付くようにして雇ったテーラーに伝え、王女を計画的に「討たせ」、それをカインが仇討ち「したこと」にして、立場を作るのが目的。 この場合、この戦場でのある程度の敗北は容認する。また、テーラー隊はこの時点で「敵司令を討ち取った」事で名声をあげるが、その後すぐに「撃破」されてしまったことになり、戦場から離脱。帝国側に有利な布石の一つとなる。 そして、「弔い合戦」として、後方に待機している全ての部隊を動員して一気に攻めかかれば、現時点での敵撃破は容易と判断されていた。
●ケース・イエロー:停戦交渉がされた場合 王女を敵側の陰謀と言う事で暗殺させ、戦争の正義と臨時司令官職を一気に手に入れ、その後戦争指導で勝利を収める事で自らの栄達を狙う。 この場合、陰謀はほとんどカイン本人だけで行われ、雇い入れたテーラー隊は戦場の傍観が期待されていただけだ。テーラーが洞ヶ峠を決め込むだけで、カイン本人が後方に待機させている全ての部隊を動員して一気に攻めかかれば、現時点での敵撃破は容易と判断されていた。 ただし、停戦交渉がされる状況は、基本的に味方が不利な状況で行われている可能性が極めて高いので、帝国の決定的勝利は難しく、彼としてもあまり使われることを願いたい陰謀ではない。
●ケース・レッド:王女が最後まで健在な場合 王女の元で武功を立てるという事になる。彼としては最も考えたくないケースだ。 この場合、テーラー隊をサボタージュで動かさないことで敵を混乱させ、子飼いの部隊を拠出する事で補給の問題を解決し、と自らの手札をここで徹底的に出して、王女に媚びを売り、恩を売り、王女の元での自らの立場を大いにあげておくと言うことになる。 これは、主に王女が決定的に優勢で、王女暗殺の陰謀が全て事前に潰され、それでもまだごまかしがきく場合にのみ発動が想定されている。 そして、カインがこの行動に出た時、PCサイドの戦術的な勝利の可能性は消滅している可能性が高い。
●ケース・パープル:クバルカンが表だって介入しなかった場合 クバルカンが表だって介入しなかった場合 この想定は、停戦交渉が行われているなどのまま、ズルズルと泥縄式に戦争が継続されるないしは、PCサイドの国の失策でクバルカンが介入する理由を失ったとき。また、帝国、王女の軍勢が優位な状況で、クバルカンが兵を投入しても意味のない場合に発生する可能性が高い。 クバルカンを介入させない時、それはテーラー隊が投入できない事を意味している。ただし、テーラー隊をサボタージュで動かさないことで敵を混乱させる事が可能なので、完全な損とは言い切れない。 そして、クバルカンが介入しないと言う事は、事態が国際的に大規模化する状態でない事を示している。 彼としてはあまり喜ばしい事ではないが、事が自分ではどうにもできにくいと想定される事なので、この場合は次の機会を狙うために、王女への謀略を停止して、表面上忠節を尽くす事となる。
■フェイズ5:イフ(If)
●「決戦ルート」の可能行動
さて、セッションそのものは、大筋において「謀略戦ルート」の道をたどったが、「決戦ルート」の道を辿った場合どうなったか少し考えてみよう。なお、これはマスターが最も発生する確率が高いと踏んでいた想定でもある。
まず、PC側がサリス市を完全放棄して敵を妨害しつつ最終防衛線へと後退する。 これにより、敵は進撃を強要されるが、この進撃により補給物資と予備兵力を消耗する。 PCは、この場合3カ月後の反撃を当然計画するだろうが、この場合正面からの大戦力をぶつけての戦闘となる可能性が高いだろう。 ただし、この間にテーラーやカインの問題が当然浮上するだろうから、ここでの混乱が予測される。 そして、テーラーに対する押さえの兵力を監視に向けるなどの行動に出た場合、敵側にスキを見せることになり、この時点で早期に決戦が発生する可能性がある。だが、まあここは何とか知恵と勇気で乗り切ってくれるだろう。
また、PCの誰でもよいから敵の後方を突けないかなどの提案があったとき、マスターはこちらの腹案。味方が最も有利に戦争を展開できる一つの案を提示する予定があった。 それは、反撃用に用意していた戦力を全て、宇宙空間からのエア・ボーン(空挺攻撃)をかけて、敵後方を遮断し、敵主力を戦略的に包囲し戦争を実質的な勝利にする方策だ。 この場合、敵は当然起死回生を狙って反撃に出るが、補給線を絶たれた場合は現有戦力は2〜3割減としているので、この場合、最低でも5:4程度でPC側が有利になることが想定されていた。 「後手からの一撃」。マスターは、まさに戦争教本の見本のようなシナリオ展開を予想、否、夢想してたいのだ。
しかし、実際は王女の圧倒的有利な状況での停戦交渉と言う、マスター側が当初全く想定していなかった事態となったのは、全く持って皮肉としか言いようがない。 「戦争とは水のごとく流動的」作中NPCの一人がこんな事を言っていたが、まさにその通りだろう。
だが、何であれシーザーがルビコン河を渡っている以上、虚しい仮定をいくらしてもしかたないので、皆様には先を見ていただきたいたいと思う。 なお、今後の展望は、誌面の関係上ラストのSSから読者の皆さんのご想像にお任せしたいと思う。 また、本作が好評なら続編と言う形で、「この数年後」を舞台としたリプレイをもう一度したいと考えている。
では最後に、私の駄文にここまでつき合って下さった皆様への感謝の言葉を以て、この項を締めたいと思う。
以上
2002年7月某日 扶桑かつみ