■あとがきのようなもの

 この度も、おつき合いいただきありがとうございました。
 さて今回は如何だったでしょうか。たまには日本から眼を離すのも良いかと思い、ヴァイキングの皆様に登場いただきました。
 なお、「赤毛のエイリーク」という人物は、全く同じ時期に実在した人物です。レイブという名の一族もいました。祖国と言えるノルウェーでは、赤毛のエイリークは英雄だそうです。
 一人の人間から始まったと思えば、今回はかなり大規模な時間犯罪だったのではないかと思います。

 さて、今回の個人的な目的は、大きく二つ。
 一つ目は、地球上におとぎ話、ファンタジー世界のような名前と状況を作り出すことです。二つ目は、ヨーロピアンに新大陸を一切与えない事になります。特にブリテン人はハブりました。
 だからこそヴァイキングの皆様には、最初にキリスト教とラテン文字(アルファベット)、そしてヨーロッパ世界を棄てていただきました。これをしておかないと、全体としてのヨーロピアンが史実以上の勝ち組になるだけですから、時間犯罪としても醍醐味に欠けると考えたからです。
 そしてキリスト教を棄てたヴァイキングが復活させる宗教が、いわゆる「北欧神話」になります。この世界では宗教としての枠組みを作った上でラグナ教としましたが、大本は同じです。まあ新大陸に行っても北欧神話のままじゃ、おかしいですからね。
 そして北欧神話といえば、オタク様の大好物です。ファンタジーっぽい名前、お話、神々、種族、神器、幻獣、魔獣、地名など様々なもの、これでもかというぐらい登場してくれます。「指輪物語」から「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」まで、数多の作品が沢山のモチーフを得ています。北欧神話、ケルト神話、ギリシャ神話の三つを押さえれば、ヨーロッパ風ファンタジーはほぼ網羅できるんじゃないでしょうか。
 そしてこの世界の新大陸の名前のかなりも、北欧神話から直にいただきました。他の名詞は、アイスランド又はノルウェー語系の言葉が主体です。新大陸にある聞き覚えのある名詞は、私たちの世界同様に原住民の言語からきているか、白人の源流言語となるラテン語(ローマ語)が由来となります。
 また時折出てくる人物名も、基本的にキリスト教由来を出来るだけ排除したノルド系(ノルウェー系)からいただきました。だからこの世界の新大陸には、ヤン(=ジョン)さんはいません。ノルマン系も多少混じっているので、時期的には発音の間違いとかはあるかも知れませんが、アスガルド人の言い方も偶然同じだったのでしょう(笑)
 ここまで世界をいじるんだったら、地形も少し弄って氷河期にアメリカ大陸が孤立し続ける状態にした方がよかったかとも思いましたが、色々と目的がズレ過ぎるので避けました。とはいえ、人の住まない大地やサーベルタイガーを始めファンタジー的な小道具はちょっと惜しかったかも。氷河期に人が移り住まなければ、生き残っていた可能性のある生物って多いんですよね(※逆にトウモロコシやジャガイモが出現しませんが)。
 一方で、ルーン文字もファンタジーには欠かせません。とはいえ、この世界でのルーン文字は世界で最も普及する一般的な文字の一つとなるので、この世界でファンタジー世界作る人は少し大変かもしれませんね。ルーン文字が、一番俗な文字になってしまっていますから(笑)
 なお、この世界の北欧神話(ラグナ教)は、ゲルマン的な雰囲気は殆どありません。ドイツ語系の読み方とも違っています。分かりやすい発音で言えば、ワルキューレ出なくヴァルキューレになります。当然ですが、ワーグナーの世界とも随分違います。ついでに言えば、キリスト教的考えからも遠いところにあります。聖杯とかは、決して登場しません。恐らくは「聖」という言葉そのものが、あまり使われていない筈です。厨二病の方には、ちょっと残念な話しですね(笑)
 だから、日本で流布している北欧神話とは少しばかり違っているとお考えください。

 そして、世界の原型を作り上げて困ったのは、まずは新大陸に国家が複数誕生する要素に乏しい事です。同じ民族、同じ言語、同じ宗教となると、対立要因がほとんど見あたりません。豊かな土地も有り余っているし、住んでる場所も北なら牧畜し放題、温暖な地域ならいくらでも作物が育ってしまいます。先住民(ネイティブ)も、疫病で一回は駆逐してしまえます。しかもミシシッピ川以東の北米だと、国境線となりうる地形障害もたいしてありません。
 仕方ないので、取りあえずピサロ、コルテスよろしく、中南米を侵略してもらいました。北米インディアンも駆逐してみました。鉄砲や大砲なんてなくても、策源地からある程度の兵力投射能力さえあれば、鉄の武具で武装しているかぎり負けるわけないんですよね。鋼鉄の剣や斧は、まさに北欧神話に登場する神々の武具に匹敵する威力を発揮してくれる事でしょう。ピサロ、コルテスも、補給の難しい鉄砲や大砲よりも鉄の武具と馬によって勝利しています。史実同様に足りない分は、ユーラシア原産の凶悪な疫病が全部カバーしてくれますし。
 そして複数の国家が作れるぐらいにヴァイキング達の人口が拡大する頃には、コロンブスがやって来てしまいます。ですが、ここで後発のヨーロピアンに蹂躙されてしまっては、新たな世界を作った意味が半減してしまいますので、散発的にやって来るヨーロピアンから先端技術のキャッチアップを行ってもらい、ファンタジーな武器が活躍する時代も呆気なく終了となります。

 で、ヨーロピアンと対立を始めるわけですが、ここで世界史が大きく変わります。
 ヨーロピアンは、新大陸の金銀(特に銀)を簡単に手に出来なくなってしまいます。まずここで躓きます。一説には、16世紀前半から約世紀半の間にヨーロッパに運び込まれた銀の総量は、1万5000トンにも上るそうです。18世紀に南米(ブラジルのミナスジェライス)で採掘された金の量も約1000トンだそうです。
 おかげでイスパニアは史実よりずっと貧乏で、ヨーロッパ世界はアスガルド人が北欧やイスラムに持ってくる銀のお陰で、史実より緩やかな価格革命に入ります。イスパニアの財宝船団自体がなくなるので、イングランドは海賊家業で稼ぎにくくなってしまい貧乏が続きます。だからこの世界では、無敵艦隊がイングランドに破れることもありません。そもそも無敵艦隊が存在しない可能性も高く、戦争すら起きないでしょう。
 混乱を避けるためヨーロッパ世界の雰囲気と見た目は同じにしましたが、この世界のヨーロッパは常に私たちの世界のヨーロッパよりも貧乏です。街並みなども、我々が見ている情景よりも貧相なのは間違いありません。16世紀であまり変わらないのは、北イタリアの一部とポルトガルぐらいかもしれません。
 で、次のステップですが、17世紀以後ヨーロピアンは新大陸(主にカリブ海地域)を砂糖の生産地にできません。必然的に、北大西洋上での三角貿易、つまり奴隷貿易が成立しません。奴隷の商品価値が低いままので、ヨーロピアンがアフリカ西海岸に行く理由も減ります。何しろ、カリブ海で砂糖栽培させる為の黒人奴隷の商品価値は、激減というかゼロです。アフリカの市場価値そのものが落ちるのですから、売れる商品も減り、行き交う船も減るでしょう。そして減った分を補うのが、アスガルドの人々という事になります。しかも新大陸では、先住民の人口崩壊とその後の回復が特に北で史実よりもタイムスケジュール的に早くなるので、アスガルド人は奴隷の入手先を新大陸内で確保できるようになります。
 このため史実で18世紀以後の奴隷貿易を牛耳ったイングランド(イギリス)は、いつまで経っても一定レベル以上に豊かになれない可能性が高くなります。ネーデルランドはあまり変化を与えていませんが、これはネーデルランドが当時ヨーロッパで最も先進的かつ豊かで、主な進出先もアジアだったからです。
 そして新大陸の富み、新多陸で生まれる富みの双方が得られないヨーロッパでは、イスパニアの没落が早まり、アスガルド人の恩恵を受けた北欧がやや隆盛します。ロシアも、スウェーデンに叩かれ続けます。ヨーロッパ全体の経済力が低いので、トルコも経済面でもう少し元気でしょう。
 そうした中で何より決定的な変化は、ヨーロッパにおいて資本主義の発展が遅れる事です。
 これは、カリブ海での砂糖生産と奴隷貿易のプロセスそのものが資本主義への準備運動であり、ヨーロッパに溢れる貨幣(金銀)の流通量が私たちの世界よりもかなり少ないためです。

 架空の世界であるアスガルドにおいて産業革命が先に始まるのも、中で書いているとおりヨーロピアンが手に出来ないものを受け取る立場にいるのが、バイキングの末裔になる可能性が高いからです。しかも人口は、19世紀にはヨーロッパに匹敵するほど数が増えて、地形障害がないため大きな国が少しあるだけです。中華地域のように、上から技術発展を抑止する保守的な動きさえなければ、産業革命がいち早く起きる可能性が十分存在すると判定しました。
 無論ここには、箱庭を作ったことに対する筆者の贔屓はある程度存在していますが、それほど深い肩入れはしていないつもりです。
 北アメリカ大陸に400年以上早く白人が到達して方々を開発しているので、物理的要素としての不足はあまりない筈です。
 西暦11世紀半ばからの開発では遅いという意見もあるかもしれませんが、比較対象としてロシアを出せば、それなりに説得力も出てくるのではと思います。ついでに言えば、ロシアにヨーロッパ文明の一歩を記したのもヴァイキング(キエフ、ノヴォゴルドなど)ですし、時期的にも似たようなもんです。ロシアの語源「ルーシ」もヴァイキング(の一部)の事を指しますしね。
 そう言う意味も込めて、最後にロシアの大地に向けて突進してもらいました。この世界のヴァイキングの末裔がアーシアン・リングを作るとするなら、やはり一族の辿った道へと回帰しようとするのが、人の「業苦」として相応しいかと思ったからです。
 なお後半をアスガルド帝国主軸にしたのは、地下資源と大人口の存在が主な理由です。また地続きで開発できる一等地が目の前に広がっているという要素も、産業革命を進展させる上で極めて大きな利点となる筈です。
 故にこの世界では、史実と同時期に始めさせた産業革命の進展速度は、少しばかり早くなります。すぐ隣にインドがあるブリテンのようなものです。
 また一方では、北米大陸の東部を覆っていた温帯原生林が200年ほど早く伐採されてしまうので、地球温暖化は少し早まるかもしれません。また、北米大陸の土壌流出などの自然災害も19世紀ぐらいから深刻になる地域が出てきます。もっとも、アスガルド帝国の農業は、我々の世界のアメリカほど商業主義にはならない筈で、もう少し土地の保全と再生産性に傾く筈なので、自然破壊は逆に小規模になっているかもしれません。

 なお、これ以後の世界ですが、取りあえずイングリッシュが国際公用語になる事は決してありません。スパニッシュも同様です。言語的には、フランス語がヨーロピアンの主流公用語になるでしょう。
 この世界の現代が我々の世界のように国際化の時代を迎えれば、アスガルド語、フランス語、アラブ語、日本語辺りが国際公用語になるでしょう。全て文字が違うので、かなり苦労しそうですね。
(※ちなみに今回の文章そのものも、初期を除いて出来る限り英語、和製英語のカタカナは排除して書いていった積もりです。)
 一方人種、民族面ですが、大きな違いが発生しています。
 まず何より、スカンディナビア半島発祥の白人(ゲルマン系の一派)が、我々の世界とは比較にならないぐらい増えています。数で言えば、ヨーロッパ本土の白人よりも多くなります。
 逆にスパニッシュ系、アングロ系は少ないままで、ドイツ系はロシア方面に多少増えていますが、アメリカに移民したほどは増えません。アイルランド人の増加も、私たちの世界と比べると随分少なくなります。ロシア人は、どんどん元の場所に押し込まれていくので、我々の世界の半分から三分の二程度の数にしかなれません。ヨーロッパから世界各地への移民自体が小規模になるので、自然発生的な人口抑制が掛かるのも早いでしょう。それとも、この世界のヨーロッパは白人の貧民が町中に溢れかえっているかもしれません。
 いちおいうヨーロピアン全体は、ノルド系を除いて我々の世界の半分から三分の二程度にまで押さえ込まると想定しています。そして我々の世界との差だけ、ノルド系の白人がこの世界を歩き回っています。20世紀初頭で、ヨーロピアンとアスガルドはほぼ同数でしょうか。
 白人種以外だと、日本人は環太平洋圏にかなり広がっているので、人種拡大競争では勝者と言える位置になるでしょう。オセアニア地域は日本人のものです。東南アジアでもそれなりに増えているでしょう。
 チャイニーズは、万里の長城以北を丸ごとアスガルドに取られるので、近代以後の増え方はかなり下方修正されます。北米インディアンは、我々の世界よりもかなり数は多い筈です。そして何より、新大陸に黒人がやって来ることがありません。アフリカ大陸西海岸の人々は、故郷に止まったままです。カリブ海地域は、ノルド系を除けば南北新大陸の先住民の子孫が連れてこられるだけです。

 国家的には、何もかもが違う新大陸を除外して見ると、まず何より統一されたドイツがなくなります。ベルギー、ルクセンブルグもありません。イタリアは南北に分かれたままで、ローマ一帯には教皇領も残っています。イギリスがへたれているので、アイルランド島にはノースアイルランドもない筈です。中欧、東欧も、ドイツという名のオーストリア帝国が広がったままなので、かなり違っています。フランスも帝政のままな上に、領土が多少違っています。
 アフリカ大陸は、支配する国や民族こそ違えど、いつも通り全て植民地にされていきます。
 オセアニア地域では、アングロ系国家が日系国家になっています。さらにインドが統一されることなく混沌が続くので、インドという統一された国家が出現する可能性はかなり低くなっています。チャイナはアスガルドに徹底的に封じ込められるので、宋代または明代後期ぐらいの国土にしかなれないでしょう。そしてロシアの過半とチャイナ北部及び西部一帯には、最終的にヴァイキングの末裔による巨大な国家が、もう一つ出来ることになるでしょう。勢力のある国が、入植地として人口希薄地帯を支配するのは文明の発展の当然の帰結だからです。
 全体としてはありきたりな地図の塗り替えになってしまった気もしますが、それなりに不思議色に染まった世界地図になったんじゃないかと思います。

 そして世界をアスガルド人が覆い尽くすのは、新大陸を早めに牛耳っている以上動かない状況でしょう。最終的には、世界の半分ぐらいの地面を支配するんじゃないかと想定してみました。
 工業の発展により窒素の固定化(=火薬の量産)ができるようになったら、一回ぐらい「世界大戦」をするかもしれませんが、アスガルド域内で敵味方に分かれない限り、アスガルド人が事実上世界の覇者となるでしょう。日本も、アスガルド人に乗っかった形でのアンチ・キリスト教国家と言うことで多少大きくしてみましたが、このままだとヴァイキングの末裔達に飲み込まれているかもしれません。日本を優遇してみたのも、一応の理由は付けたけど「お約束」みたいなものです。おそらく一度は、アスガルド人に叩きつぶされるでしょう。元がヴァイキングなので、基本的に乱暴ですからね。
 お約束としては、ヨーロッパvsアスガルド+日本による一度目の世界大戦が起きて、次は日本がアスガルドの敵となって叩きつぶされるって感じでしょうか。
 でも、産業革命を進めてしまうと、ファンタジー的な世界は事実上終了です。ドラゴンクエストやファイナルファンタジーの一部情景のようなものは再現できるでしょうが、やはり蒸気機関が登場した時点でファンタジーな世界は終了と見るべきでしょう。
 このため、この世界のヴィクトリア女王(+世界史上の有名な女帝達)とでもいうべき人物の崩御に合わせて今回は幕とさせてきただきました。

 それでは、また違う平行世界で会いましょう。

文責:扶桑 かつみ