■フェイズ01:「傾向と対策1」

●地形についての概観

 今回は、日本列島の面積を十倍にするわけだが、日本の国土には多数の島々が含まれる上に非常に広範囲に広がってしまう。
 他の地域との比較で言えば、面積ではなく東西南北の広がりが、日本列島を構成する4つの島だけでロシアを除くヨーロッパに匹敵し、ちょうど斜めに横断する形になる。
 フィンランドが北海道で、スペインが九州ぐらいの感覚だ。面積的にも、ロシアを除くヨーロッパの半分ぐらいになるだろうか。
 単純な直線距離をアジアを例にして見てみると、北海道が満州(中国東北部)あたりだとすると、鹿児島はインド南部に位置する事になる。
 直線距離は、ざっと7000キロメートルだ。

 そのうえ十倍日本の周辺部には、沢山の島々が存在する。このため面積を十倍にすると、太平洋に張り出させたとしてもすぐに他の陸地とぶつかってしまう。
 加えて、最低限の合理性を作り上げるため、地形を作り上げる大きな要素となる地球自体のプレート(地殻)の面からも、最低限は考えておかなくてはならないだろう。
 海流についても、最低でも北太平洋海流(黒潮)については考えておきたいところだ。
 また、可能な限り列島全体を「日本」とする為に、文明地域に隣接する場所は我々の世界同様に中華大陸近傍か朝鮮半島だけに限定する方が好ましい。(次点として台湾辺りだろうか。)
 そして今回用意した地図を見ても分かる通り、朝鮮半島南部の隣に九州北西部を持ってくると、北海道は北極に近いベーリング海のまっただ中に位置してしまう。
 しかし、日本周辺の島々を十倍日本に含めると、太平洋のど真ん中にでも持ってこない限り収まらなくなる。
 世界第七位の領海の広さは伊達ではない。

 そこで今回は、ケマラ諸島より南の南西諸島(奄美大島など)と琉球諸島と北方領土、八丈島より南の小笠原群島、さらに対馬を巨大化の対象から外すこととした。
 対馬は含めることも可能だったが、配置の関係から対馬が日本列島より朝鮮半島に近づくので今回は除いた。
(これらの地域の人が見ていたらご免なさい。)
 ただし奄美大島から西表島と対馬は、そのままの位置に留め置くこととした。小笠原諸島についても、ほぼ同様の位置のままとなる。
 一方で、一部資源問題の解決の為、周辺で二カ所隆起を大きくして島(諸島)を二つ形成した。
 しかしこれは、日本が十倍になり位置も大きく違う事から、隆起(リフト)が起きる可能性を考慮したからでもある。
 海の中までいじり回すのは避けたが、日本海に当たる海は大きく違っている筈だ。
 その名残として、樺太から隠岐そして山陰に連なる大陸棚のような浅い海を置いてみた。
 人類の一部は、氷河期に大地となったそこを通ってくる事になる。

 次に、多少いい加減ながらも地形に合理性を与えるためのプレート(地殻)変更を行う。
 日本列島周辺部の地形も出来る限り同じにする為には、プレート構成が我々の世界と同じだと成立しなくなる。そこでフィリピン海プレートを大きく変化させ、ユーラシアプレートを東に大きく突出させる。
 これらが巨大な西日本を形成する。さらに東日本、北海道を形成する為に、北米プレートの一部ともされるオホーツクプレートを末端部で削り取る。
 これで我々の世界の東日本は形成されない。
 逆に、北米プーレートを太平洋側に大きく張り出させて、完全に一つのプレートではないもの東日本プレートを作る。こうしないと、カムチャッカ半島や千島海溝などの地形を形成させられないからだ。
 見た目の概観については、図の方をご確認して頂きたい。

 これでもこの世界の地質学者が首を大いに傾げるだろうが、神様のイタズラだとまでは考えないだろう・・・と思いたい。

 そして、もう一つ問題がある。
 十倍の規模となった日本列島の「材料」だ。
 基本的に地殻はマントルの上に浮いている。だからプレートが動くわけで、重いプレートが沈んで海底に、軽いプレートが浮き上がった形で陸になる。
 だから、地球内部のプレート運動やホットプルーム、マントルだけでは、我々の世界と同じ条件での十倍日本の形成をどうやっても説明できない筈だ。
 そこで地球創生期の頃に、地球を構成する素材そのものが若干変化している事にしないといけない。
 しかも最終的に日本列島の形に隆起した地面となるようにしておかなくてはならないだろう。
 恐らくは、小惑星帯やカイパーベルトを回る小惑星の幾つかが、この世界では存在したりしなかったりするのだろう。
 また一方では、水の量を変化させずに、海水面を同じ高さとしないといけないので、こちらの方がハードルが高い。
 日本列島が浮いている分だけ、地球の海底の深さが若干違っている事にまで変化が及んでないといけないのではないだろうか。

 これ以外の地質学、天文学的な点も触れ始めたらキリがないので、最終的に巨大な日本列島が出現したという結論が存在する、という以上の事は想定しない方がいいだろう。
 やればやっただけボロが出ることは間違いないからだ。
 おかしな点については、この世界の住人達にせいぜい悩んでもらうこととしよう。

 そして日本列島自体の位置だが、地球全体の気候を出来る限り矛盾そのままにする為にも北太平洋海流(黒潮)の流れを最低限確保したいので、九州はなるべく南には持っていきたくない。
 南に持って行き過ぎると、九州が黒潮を遮断する事になってしまう。
 また日本へ文明が伝搬し、なおかつ侵略の難しい位置に九州を位置させておきたい。そこで図のような配置となった。
 この世界の日本だと、博多湾ではなく唐津湾か佐世保の辺りが大陸の玄関口となるだろう。
 ただし距離が三倍以上あるので、元の日本列島の博多=東京の距離は、長崎=呉ぐらいになってしまう。佐賀県の平野が、関東平野ほどの広さにもなる。こうした単純な違いからも、いかに巨大化しているかが分かるだろう。
 この世界の新大陸から移住してきた弥生人のご先祖様達にとって、九州こそが距離的な意味での「日本」で、本州は巨大な新天地に近い感覚になるのかもしれない。
 新たな大陸と錯覚する可能性すら高いだろう。

 次に縦、立体面で最低限の事を見ておこう。
 全ての基本は日本列島主要部の面積十倍で、縦横比率は本来の316.2%になる。だが高さ(標高)も316.2%にすると、富士山は標高1万2000メートル近いダントツで世界一の超巨大火山になってしまう。
 日本アルプスも9000メートル級とヒマラヤ山脈を上回り、山頂は成層圏に達するほどだ。もはや、常時酸素ボンベを装備しないと登ることが不可能な神の領域だ。
 あまりに高いと、ヒマラヤ山脈のように風(空気)の流れまで変えてしまい、地球規模の気象にも影響を与えてしまう。
 しかし激しすぎる起伏の地形は、インド亜大陸とユーラシア大陸のように、片方の地塊がもう片方に乗り上げるような関係がないと地球で成立させるわけにはいかない。
 通常の隆起だけでは、いくらなんでも標高が高くなりすぎてしまう。
 地球の他の地形を参考にすれば、標高の上限は6000メートル程度だ。山脈全体としては4000〜5000メートル台に抑えたい。
 それに、斜面の傾斜がそのままで距離が三倍以上になってしまったら、近代以前で人間が越えることが不可能な地形も増えてしまう。
 これでは地域の分断や分裂どころか、最悪の場合は断絶になってしまう。

 一方、標高を無印日本列島と同じにしてしまうと、妙に間延びしてかなりなだらかな地形になってしまう。
 傾斜が三分の一になるのだから、平地とあまり変わらない場所も随分と増えてしまうだろう。人間様が闊歩し開発(開拓)するには便利な地形になるが、地学の上での地形の形成条件からも離れすぎてしまう。
 また、傾斜が緩やかすぎると、河川などによる土砂の堆積が進まず、日本各地の平野を作り出す事がほぼ全てで大きく停滞してしまう。傾斜が三分の一でも、平地自体は十倍からは大きく遠い数字になってしまうだろう。

 そこで妥協案として、標高は拡大比率の半分程度の150%とする。これなら日本アルプスは4000メートル級の山脈になり、富士山は5662メートルとなる(コーカサス山脈ぐらい)。
 日本で最も高い高地の上高地でも五割り増しだと2250メートルとなるので、人が住むことも十分可能だ。避暑地で有名な軽井沢で1500メートル、長野市で540メートルぐらいとなる。
 移動するにしても斜面の傾斜が半分になるので、五割り増しの標高になった峠道でも越える苦労は大きく軽減される。
 近代になって鉄道敷設の時代を迎えれば、傾斜緩和の恩恵は非常に大きくなるだろう。
 そこまで時代が進まなくても、馬が利用されるようになれば、馬車の利用が進む可能性も十分にある。

 

 そして面積に対して高度が下がるので、必然的に全ての斜面が緩やかになる。
 ただし、このままだと山の傾斜がなだからになるので、山の見た目はかなり間延びした感じになってしまう。富士山が美しいと言われる事もないかもしれない。
 それでは少し寂しいので、ベクトル曲線のように平地の比率を増やして山岳地域の傾斜についてはもう少し勾配を強めるという方向でもいいかもしれない。
 さらに別案としては、山脈や山の数そのもの数を2〜3倍程度に増やして、特に高山地域の山としての景観を保持すると共に、地学的な矛盾点を減らすようにすれば違和感も薄れるだろう。
 とにかく見た目の基準としては、我々の世界ほどではないが見栄えが損なわれない程度としておく。富士山のような山の場合は孤立した地形に成立するかも知れないが、もうその辺りはご愛敬と思っていただきたい。

 一方で、日本近海の海の深さについては、地球の構造上の問題から極端に深くするわけにはいかないので、基本的には無印日本と同じとする。
 ただし十倍日本と海溝の距離については、同じというわけにもいかないので十倍日本に合わせた距離に存在すると想定する。

 なお、ごく単純な数字にすると、無印日本列島は面積約38万平方キロメートルに対して、現在でも約30%の約10万平方キロメートル程度の土地しか利用できていない(※平地、盆地は約9万平方キロメートル)。他はほぼ全てが山林だ。
 しかし、斜面の角度が平均で半分になって山との兼ね合いで平地の比率も増やすので、利用できる場所も必然的に増える。
 もちろん全ての山林が利用できるわけではないし、むしろ無印日本と同様に利用できない山林の方が依然として多いだろう。何しろ標高が、我々の世界の五割り増しだ。
 細かく計算する事は非常に難しい(面倒くさい)ので、単純に利用できる土地比率を全体の約30%から約40%へ増加すると想定する。
 しかも、増える10%のほとんどが緩やかになった斜面や斜面を平らにならした場所になるので、完全に有効に使えるわけではない。利用できても、全てが農地や市街地に出来るわけでもない。
 ただし、全体の10%と言うことは、平地だけで見ると33%の増加になる。逆に我々の世界で利用されている傾斜地は、傾斜が半分になればほとんど平地となって利用し易くなっているだろう。

 また、山の斜面の角度が半分になると河川の流量、流れの速さも大きく変化する。
 これは日本各地に存在する沖積平野の形成に大きく影響する可能性が高く、低地の平地は逆に減ってしまう事になってしまうかもしれない。
 ただし、日本列島の形を大きく変化させないという前提条件があるので、多少強引だが大きな変化は起きないと想定する。
 これは、地形自体が無印日本とは少し違うと想定した事と矛盾するが、10倍の面積という時点で全てが狂っているのでご容赦いただきたい。

 また地形との関係が深い河川だが、こちらも基本的には十倍の規模に拡大するだけと想定する。総延長が316.2%、流域面積が10倍となる。水深も基本は高低差同様に五割り増しだ。
 利根川などの大規模河川の規模は、ヨーロッパの大規模河川ぐらいに大きくなり傾斜も半分になるので、我々の世界よりも河川が利用しやすくなっている。規模の大きな利根川や石狩川あたりなら、中流域までかなりの規模の船舶が遡上する事も出来るだろう。
 ただし、どちらの河川も人の手によって大きく流れを変えられているので、十倍の規模となると工事が可能かの疑問が大きくなってしまう。よって、現代の我々の目にする流れとは異なっている可能性も高いだろう。
 また大きくなれば、琵琶湖から大阪湾にかけては、恐らく現代に至るも船舶が行き来する状態が維持されるかもしれない。ただしこちらも、人の手によって流れを変えたりした場所は我々の世界と大差ないかもしれない。

 逆に各島の間隔(距離)も三倍以上になっているので、現代になっても簡単に海底トンネルや吊り橋を架けられなくなる。
 単純に拡大すると、関門海峡大橋が明石海峡大橋クラスになってしまう。本四架橋や青函トンネルは、物理的に建設不可能だろう。本州と四国の間だと、青函トンネルクラスの超巨大トンネルを掘ることになるかもしれない。
 逆に、十倍にしたところで瀬戸内海の広さはヨーロッパのエーゲ海やアドリア海より狭いぐらいなので、海運としては沿岸海運程度でしかない。

 ・地形の補足

 北海道が北に大きく食い込んだ為、アリューシャン列島が犠牲になっていて、この世界には存在していない。
 北太平洋の海底にある天皇海山も途中から存在しなくなる。
 この二点が、日本列島巨大化の犠牲者となる。
 またアリューシャン列島に連動して、アリューシャン海溝は途中から日本列島につながる海溝になる。当然だがプレートの形も変化している。
 南では、奄美大島から琉球諸島、八重山諸島はそのままとしたが、奄美大島のすぐ東に熊本が位置してしまっている。
 このため一連の島々は、大陸棚の上に隆起したまま残った島々という事になる。九州に近すぎるので、琉球が自立した国や地域として成立する可能性は低いだろう。

 そして次に、日本海の地表に関して可能な限り変化は起こさないと想定したが、どう考えても海底の地形は変化せざるを得ない。カムチャッカ半島から千島列島のすぐ東の海溝は、太平洋プレートの圧力を直接受けなくなるので浅くなる可能性が高い。
 また日本海だが、本来ならプレート(地殻)の移動と地球内部のホットプルーム(地球内部マントルの上昇気流)の結果誕生して、連動して日本列島が出来たようなものだという。
 だがこの世界では、日本列島の多くがホットプルームの影響をあまり受けなくても巨大な陸塊のため、地表にあり続けている可能性が高い。しかし、我々の世界よりも大きなホットプルームの影響が、亜大陸規模の日本列島を押し上げたと考える方がまだ自然となる。
 もしくは日本海を形成したホットプルームとは違う地球内部の動きが、この世界の日本列島を形成したと考えるべきかもしれない。
 考え出したらやはりキリがないので、海底は同程度、地表面も地形の点では変化なしと想定したい。

 なお当然だが、日本列島が十倍になったからと言って、その分海水面が上昇している世界ではない。
 海水面の高さは、我々の世界と同じと想定しておく。小惑星が余分に衝突した時に、水分が宇宙に飛ばされたのだろう。多分。