■フェイズ03:「傾向と対策3」■

●自然災害

 無印日本列島は、地震大国、火山大国だ。加えて夏には台風と呼ばれる季節性の熱帯低気圧がいくつも通過し、冬の日本海側は世界屈指の豪雪地帯となる。
 地形も険しく、大雨による洪水も多い。温暖で自然は豊かだが、自然災害には事欠かない。
 十倍日本の場合、地震と火山は大きくなった分だけ密度が低下すると想定しておく。同じ密度、頻度を十倍の規模にしてしまうと、地球自体が大変なことになりそうだからだ。何しろ地震の頻度を十倍にしてしまうと、地震の最低半分は十倍日本で発生する事になってしまう。

 だが、各火山の規模は面積で十倍、高さで五割り増しと巨大化しているので、一度駄々をこねると周辺部にとって大きな災害になる可能性は高くなってしまう。
 時代的に近いところだと浅間山の大噴火が有名だが、これ一つで小規模ながら地球の気象変動すら誘発しかねない噴煙の規模となるだろう。
 富士山の噴火もかなり強烈だろうし、巨大な外輪山を形成した阿蘇山やトカラ列島の大噴火の時などは、地球全土の気象を大きく悪化させるスーパーボルケーノ級の噴火になるのではないだろうか。
 地震については、よほどの規模でない限り日本全体から見ると地域的な地震に落ち着いてしまう。仮に東日本大震災クラスの超大地震が起きても、地震だけなら東北もしくは関東だけの規模になる。でないと、こちらも地球規模で大変なことになりかねないからだ。

 また夏の台風は、強い影響があるのは近畿地方ぐらいまでになる。基本的に九州と中国、四国の西部にしか大きな影響はない。
 近畿、東海になると逸れたもの以外はこなくなり、関東、東北に来ることはなく、来ても勢力が大幅に低下している場合がほとんどなる。北海道は、台風から論外の場所にある。
 北海道の場合は、冬の寒さは強烈だが降雪はむしろ減る事になる。少し温かいアラスカや北米大陸西岸の北部(シアトル、バンクーバー)または北欧ぐらいを思い浮かべるとよいだろう。
 全体としての総括は、無印日本よりも災害や天変地異は密度として少なくなると結論できるだろう。

●生物

 広大な広さとなる日本列島に生息する生物、特に大型動物はどうなるだろうか。亜大陸と言えるほど巨大化するのだから、ロマンの一つも欲しいところだ。
 常識的に考えれば、地域、気象が変化した分だけ数と種類が増えているだろう。だが残念な事に、マンモスやサーベルタイガーといった少し前に滅んだ生物が、現代まで生き延びている可能性はかなり低い。
 マンモスは氷河期後の温暖化時代の絶滅が生物学的に確定だし、サーベルタイガーが他の猫科動物のように俊敏な方向に進化する可能性が低い(※前足が長いので足が遅く、獲物が捕まえられない)。ワニなど亜熱帯系のは虫類が、九州南端で生き延びている可能性は多少あるだろうか。

 一方では広大な土地になっているので、縄文時代頃に生息していた虎が、そのまま中部山岳地帯や北部の方で生き残れる可能性は存在しそうだ。
 狼についても、現代に至っても人口密度の低い地域なら何とか残っているだろう。それだけ土地が広くなっているからだ。北方の大型犬を用いて、「山犬(狼)使い」みたいな使い方をされたら面白いかもしれない。
 また、広くなるので様々な動物の矮小化も緩和され、北部のツキノワグマがヒグマぐらいの大きさかもしれない。人間が畜獣として使役する馬(日本馬)は、我々の世界よりも少しだけ大柄になるだろう。また馬は、日本が広く平らになった分だけ繁殖するし、人間の手によって広く使われる筈だ。
 他にも、地域全体が南北に広がったおかげで、アラスカの動物たちが時折姿を見せるかも知れない。根室海峡では、夏には壮大なホエールウォッチングが見られる筈だ。北海道から本州にかけて往来する渡り鳥などもいることだろう。
 北海道の沖合には、ラッコの姿なども普通に見られるだろう。

 そして十倍日本の世界では、ロマンと日本の特に古代における発展の為に、幾つかの架空の生物を加えたい。
 まずは、ロマン枠の「剣歯猫」。「きまぐれ☆プレートテクトニクス」で紹介している「きまぐれプレートテクトニクス」に登場するサーベルタイガー(スミロドン)の末裔だ。
 十倍日本の世界でも、新大陸からやって来て何とか進化して生き残りに成功したと想定する。縄文時代から中世にかけて、狩猟、放牧、そして戦争に重宝するだろう。
 次に、家畜としての「馴鹿(トナカイ)」。
 特にゆるやかな適応変化を経て「温帯トナカイ」に進化したと想定して、日本に馬がやって来るまでの馬の代わりとなってもらう。
 1000年単位での品種改良も行い、ヘラジカかそれ以上に大柄で小型の馬ぐらいの大きさになり騎乗も可能。そして大型の家畜を持つことで、特に初期の頃、古代の頃の文明発展に大きく寄与するはずだ。
 南部には、オーロックス(牛または水牛)が居れば良いだろうか。家畜として重宝する筈だ。(我々の世界でもいた。)
 というか十倍日本は十分に広いので、運搬用の家畜が早くから欲しいところだ。

 あとは生物という点で、穀物になる植物が古くから自生していれば言うことがないだろう。
 だが我々の世界の日本列島では、小麦、大麦、米など全てユーラシア大陸から伝わってきてた植物だ。稗や粟ですら自生はしていなかったようだ。
 比較的早く伝わるのが稗のようだが、それでも5〜6000年前だそうだ。
 そうなると十倍日本原産の植物に期待したいところだが、ユーラシア大陸以外の事例を見る限り、とんでもない幸運か偶然でもない限り無理そうだ。
 しかも仮にあったとしても、人の手による品種改良が必須なので、人類の足跡を見る限り時間的猶予も少ない。
 十倍という大きさのおかげで海流や渡り鳥の到達が増え、自然に到達する植物もあるだろうが、果たしてどうだろうか。

●鉱産資源

 十倍の規模の日本列島に人が溢れるので、近代以降の事、特に近代以後の地球全体の事を考えると、できればある程度の資源を埋めておきたいところだ。
 しかし、必要量などを考え始めたらキリがない。
 仮に現代日本の十倍の規模の経済を支えると仮定したら、毎年20億トン以上の石油と石炭、1兆立方メートル以上の天然ガス、10億トン近い鉄鉱石などが必要となるからだ。
 この数字がいかに膨大かは、ネット上で軽く検索するだけでも分かると思う。(石油だと世界全体の半分くらい。)
 そこでまずは、面積が十倍で標高差が五割り増しなので、地下に埋蔵されている資源の量については、一律我々の世界の「十五倍」と仮定して見てみよう。(10倍の方が適当だが、多少は水増ししておきたい。)
 日本列島は、地形の変化、収縮、火山運動などのおかげで、鉱産資源の見本市と言われるほど種類が豊富だが、殆どの資源の埋蔵量は近代以降で考えると少量でしかない。
 だが15倍ともなれば、けっこうな量になる資源もそれなりにある筈だ。

・鉄鉱石:
 ・釜石鉱山(日本:東北)
  我々の世界:埋蔵量 約7000万トン
  十倍日本 :埋蔵量 約10億5000万トン

 ※明治時代の近代的採掘開始から約一世紀後の1970年代に、有望な鉱脈を掘り尽くして採算がとれなくなる。

 ※砂鉄による近代以前のたたら製鉄でも、十倍日本だと年間で100万トン程度が生産できる計算になる。まるでどこかの大陸の話しをしているようだ。

・石炭(年間最大採掘量):
  我々の世界:約5000万トン〜6000万トン
  十倍日本 :約7億5000万トン〜9億トン

 ※明治時代の近代的採掘開始から約一世紀後の1970年代に、採算が取れなくなって事実上終息。約1世紀の間採掘できたが、年産平均だと2000万トン〜3000万トン程度。
 ※採算を考えない場合での我々の世界の埋蔵量は約200億トン。これを15倍にすると3000億トンになり、世界有数の埋蔵量となる。規模が10倍に大きくなれば、我々の世界と違い採算の取れる場所も多くなるだろう。
 ※ただし露天掘りは殆ど無いので、効率が悪い点は変わらず。

・石油(1940年頃の年間採掘量):
  我々の世界:約40万キロリットル
  十倍日本 :約600万キロリットル

 ※戦後の最盛期だと、この約二倍の数字(80万キロリットル)になる。
 ※十倍日本の産油量は総量で埋蔵量約20億バーレルぐらいになるので、中規模油田程度となる。
 少なくはないが、中途半端過ぎる。

・天然ガス
  我々の世界:約25億立方メートル(国内消費量の2.3%)
  十倍日本 :約300億立方メートル

 ※採掘の採算が取れない天然ガス鉱山もあるので、それが15倍になればさらに少しだけ増える。

 

・金:
 ・佐渡金山
  我々の世界:総埋蔵量 約83トン
  十倍日本 :総埋蔵量 約1245トン
 ・菱刈金山
  我々の世界:総埋蔵量 約250トン
  十倍日本 :総埋蔵量 約3750トン

 ※日本全土での一年間の採掘量は、流通量と銀の採掘量、金銀交換比率(1対10〜15程度)から逆算すると、最大で4〜5トンほどになる。
  これが15倍だと年間70トン採掘できることになる。
(現代技術で採掘・精錬している菱刈は年産6トン程度。)

・銀:
 ・佐渡金山(銀山)
  我々の世界:総埋蔵量 約2300トン
  十倍日本 :総埋蔵量 約3万5000トン

 ・16世紀後半の日本の銀の年間採掘量
  我々の世界:60〜70トン(うち石見銀山が38トン程度。当時の世界総量約200トン)
  十倍日本 :900〜1000トン(うち石見銀山500〜600トン)
  採掘が一世紀続くと仮定すると、10万トンにもなってしまう(総量的に無理だけど)。

 ※スペインが新大陸からヨーロッパに運び込んだ銀の総量は、約百年間で1万5000トン程度(1年で150トン)と推測されている。全ての時代を足しても近代以前だと4万5000トン程度らしい。

 以上見て分かるが、金銀の量が近代以前で考えると洒落にならない量になってしまう。
 これでは、まさに黄金の国ジパングだ。
 この膨大な金銀が、海外、中世だと大陸に、近世だと欧州に流れると、価格革命(貨幣価値の下落と流通量の大幅拡大)で、世界経済を大きく揺るがしてしまうのは確実だ。史実の石見銀山ですら、当時の欧州の銀相場を大きく押し下げていたのだ。
 このままでは金銀の増加量は下方修正しないといけないが、それだと15倍という原則から外れてしまい、逆に公平さに欠く事になる。10倍でも大差ない。
 かといって、各種資源量を「豊富な資源量」など曖昧な表現で単純なチート(=ずる)をしても面白み欠けてしまう。今さらリアリティを求めるつもりはないが、最低限の公平さは欲しい。
 一方、天地創造の時点で、地球に小惑星を余分に幾つかぶつけたりしているので、その分鉱産資源を割り増ししても構わないと言う意見もまたあるかもしれない。

 なお、380万平方キロメートルという面積は、地球規模で見れば南極を除く陸地の3%近くに当たる。
 そこで次に、十倍日本列島に眠る主要な地下天然資源の総量を、地球全体の3%として想定してみたい。どのような数字になるか、21世紀初頭の統計数字から見てみよう。

 石炭 :可採掘埋蔵量:約250億トン 生産量:約2億トン
 石油 :可採掘埋蔵量:約395億バーレル 生産量:約8.6億バーレル(約1億1000万トン)
 鉄鉱石:可採掘埋蔵量:約48億トン 生産量:約6850万トン
 金  :可採掘埋蔵量:約1,400トン 生産量:約68トン
 銀  :可採掘埋蔵量:約12,000トン 生産量:約640トン
 銅  :可採掘埋蔵量:約1,630万トン 生産量:約47万トン

 数字は現代の採掘技術によるものなので、この数字は前近代などに比べると非常に効率的にかつ大量に採掘している事になる。
 時代によっては技術力の違いで採掘出来なかったり、出来る量も大きく制限される。
 加えて、文明が始まってから既に採掘された分は数字に含まれていないので、数字はこれより大きくなる場合もある。特に金銀銅は確実に増えるだろう。

 また総量から見れば、金銀は15倍にした数値より大きく下がっている(※機械化された採掘である事を考えると激減している)。石炭についても、このままだと15倍の数字より少し減っている計算になる。
 その替わり鉄や石油が大きく増えているが、技術程度によってかなり変化するし、石油の場合は海底油田だったら20世紀後半に入らないと採掘は事実上不可能だ。
 それでも我々の世界の日本より多少優遇している事になるが、金銀とのトレードということでそれなりに納得できる数字ではないだろうか。
 ただし3%では、先進国に発展した国家になると自給は無理で、世界中の余剰資源をかき集めても史実日本並みに発展するための資源が存在しない事になる。
 かき集められたとしても、世界規模の価格高騰を大幅に押し上げることは間違いないので、資源争奪戦がより熾烈になるだろう。

 最後は、日本以外への影響を最小限とする事を目的として、史実の日本が輸入する分以外を自給できる状況を想定してみよう。
 単純に十倍だと、毎年20億トン以上の石油と石炭、1兆立方メートルの天然ガス、10億トン近い鉄鉱石が21世紀初頭では必要となる。
 世界の流通量を我々の世界と同じ程度と想定すると、この数字のうち90%が自給できなくてはいけない。
 全盛期のアメリカも21世紀のチャイナもビックリの量だ。
 だが石油だけ見ても、21世紀初頭の世界全体の年間生産量は290億バーレル(約46億トン)なのに、日本での産油量が世界の3%だと、約40%に当たる18億トンが別に日本で産出される事になってしまう。
 これがどれほど世界バランスを崩すかが分かるだろう。半分にしても9億トンで、全世界の20%というアメリカやサウジアラビア並みの数字になってしまう。
 しかし史実と似たような状態の十倍日本を見ていくという前提だと、この程度の数字にしないといけなくなってしまう。
 これを1941年で見ると、十倍だと年間4000万トンの石油が必要だが、このうち400万トンを輸入して残り3600万トンが国産油田で存在するという計算になり、石油が戦争理由では無くなってしまう。

 やはり、現在の十倍の人口という数字は法外過ぎるので、次の人口に関する考察を経てから資源埋蔵量についてもう一度考えてみた方が良さそうだ。