●あとがきのようなもの

 さて、今回の世界はどうだったでしょうか。
 表題通り、とにかく「第二次世界大戦を起こさない世界」を目指してみました。そうした中で「支那事変」だけ起こしたのは、当時の日本が未熟な新興国だったという側面を浮き出させたかったからです。相変わらず(笑)日本に虐められている中華民国は哀れではありますが、あの世界は共産主義がなくてもあんまり変わらないのではと思います。中華が混乱しているのは、半ば自業自得だし。
 しかし、これ以後のこの世界はどうなるんでしょう。もう少し掘り下げてみたい気も十分あったのですが、我々の世界との乖離が大きくなりすぎるのと、不確定要素が大きいので幕としました。
 最後に、そうした予測を少し書いて終わりたいと思います。

 ・21世紀初頭までの今後の概要
 1918年に終結した世界大戦以後、欧米間での大規模な戦争もないため、列強の国力の極端な疲弊も起きず。結果、1980年代後半まで欧米各国の植民地支配が惰性で続く。世界には米ソのような超大国の出現もなく、自由貿易体制の成長もゆっくりとしか進まないため、世界経済は漸進すれども停滞に覆われることになる。
 そうした基本的な情勢のため、政治的には我々の世界に対して四半世紀の発展の遅れとなる。
 アメリカの巨大な工業施設は、遂にフル稼働する事なく徐々にサビ付き、アメリカ国内に蔓延る「白人とそれ以外」という人種差別の壁もなかなか取り払われず。アメリカ発祥の大量生産、大量消費も、1920年代の規模以上にはなかなか発展せず。食料生産を激変させる「緑の革命」も、アメリカなど食料生産国の進出が簡単な消費先がなかなか出現しないため、資本面はもちろん技術面でも大きく遅れる。穀物メジャーなどという言葉も、恐らくは出現しない。
 当然だが、地球全体での人口増加も鈍化する。
 ペルシャ湾岸を中心とするアラブの油田地帯は、主にイギリス資本(+フランスなど)が開発。石油開発ではアメリカも首を突っ込もうとするが、欧米諸国が反発。欧米の間に政治的溝を作る。アメリカ資本が世界の石油を握ることもなくなるため、世界経済の中心はかなりの間イギリスになる。しかし石油の極端な消費拡大も、なかなか訪れない。アラブ地域の地位向上も大きく遅れる。
 イギリスは緩やかな凋落が止まらず、最初に植民地を自ら手放す国となる。英連邦の白人国家が先駆けで、順次インドなどが自立していく。
 フランスは国際的にそれなりの地位を維持し続けるも、遂にそれなり以上にはなれず。ドイツは工業国としてある程度隆盛するも、周辺状況が比較的平穏なため低軍備が国家体質として定着。また、平和の中での一定の自由貿易体制がドイツにとっての国益となるため、むしろ世界の安定を求める方向に傾く。
 ロシアは相変わらず不安定なままで、世界規模での資源利用も高まらないため、広大な国土に眠る膨大な地下資源も宝の持ち腐れとなる。当然ながら、ロシアの国土開発も大きく遅れたままとなる。不安定な社会主義体制も、徐々に独裁色の強い資本主義(国家資本主義?)に取って代わられていく。
 イタリアのムッソリーニは、不景気を脱却できないことに対する民意により政党ごと失脚。その後イタリアは、不安定な立憲君主国家に舞い戻る。王政は倒れず。その後のイタリアは、リベリアの石油で一息つく程度。
 ただ一人の独裁者、スペインのフランコは賢明だったが、寿命と共に消え去ってスペインも王政復古となる。
 そしてドイツ人、ロシア人がずっと大人しいままなので、大国からの圧力の弱い東ヨーロッパでは、民族ごとの国家分裂が早くに出現する。ただし、我々の世界のようにソ連による強引な民族移動と国家ごとの民族棲み分けが成立しないので、殆どの地域が民族問題を抱えたままとなる。ドイツ、ロシアのプレゼンスが広がらない事も合わせると、小規模な局地戦争が起きやすい地域となるかも知れない。
 中華民国は、1960年代にようやく一定の安定を手に入れ、1980年代から高度経済成長を開始。短期間で日本を追い越す成長を実現して、植民地主義が崩壊した新たな世界構造の中で世界第二の経済大国として隆盛していく。そして世界規模での大量消費社会も、ようやく次の段階へと移行を始める。

 日本は、1950年代半ばに「一人当たり所得」でイタリアを追い抜き、名実共に有色人種国家唯一の先進国入りを果たす(GDPも米、独、英に次ぐ4番目になる)。その後も1970年代までは他の列強よりも大きな経済成長を続け、アメリカに次ぐ経済力に到達する。しかし軍備にもある程度力を入れ続けるため、経済発展、国土の開発も一定程度以上には進展せず。しかも基本的に外交力に劣るため、地域覇権国家以上にはなれない。また、長らく続く世界規模での植民地主義の弊害で外需が大きく伸びないため、加工貿易立国という方針も打ち出せず、我々の世界のような革新的な隆盛には至らず。常態的な軍事費の高さも、常に経済発展を阻害し続ける。また、日本自身が有色人種を強く啓蒙や導いたりもしない。

 緩やかに進む世界の中で、有色人種の隆盛が四半世紀遅れでようやく訪れ始める。
 1960年、イギリスが統治コストに耐えかね、約90年の時を経てインドがようやく自治独立を達成。完全独立は、インド帝国成立から約百年が経過した1972年。その後少しずつ、植民地の独立が増えていく。日本でも、同時期に朝鮮(大韓民国?)が自治と独立を取り戻す。そして植民地の自立拡大に伴い、世界規模での自由貿易体制も拡大。アメリカの相応の規模拡大と、中華民国の経済的な隆盛の呼び水となる。
 世界的な植民地の独立は1980年代が中心。アジア地域、北アフリカ地域のかなりで独立が進み、1985年フランス、イギリスから多数のアフリカ諸国が独立。1988年「アジア=アフリカ会議」が開催され、ようやく欧米中心の社会からの脱却が本格化する。
 これが約一世紀続いた「帝国主義時代の崩壊」と呼ばれる。
 そして植民地帝国主義の崩壊に伴って自由貿易体制も進められ、ようやく世界規模での貿易体制の本格的構築が進むようになる。

 軍事面では、ジェット戦闘機、核兵器、宇宙ロケット、大陸間弾道弾の開発は、ほぼ全てが史実より大きく遅れる(※10年から最大25年程度)。
 超大国がないため、全ての軍事技術開発が大きく遅れる。核兵器の最初の開発国は英国。ついで日本、その後アメリカ、ドイツ、フランス、中華と続く。初めての核実験は1960年頃。1970年代に主要な核保有国が出揃い、同時に持てる国の中での制限体制が構築される。「冷戦」など激しい対立はどこにも成立しないので、全人類を滅ぼせるほどの核兵器は生産されず。どの国も、我々の世界の英仏程度の保有量で満足する。
 宇宙ロケットは、1960年代末にようやく人工衛星投入が実現するが、コストのかかる大陸間弾道弾の開発は、時期はロケットと同じでも整備(配備)が遅れる。超大国がないため宇宙開発競争は低調で、21世紀に入っても人類は月面に到達せず。宇宙ロケットの最初の打ち上げ国はドイツとなり、その後も欧州諸国がリード。国威発揚のため、20世紀末頃から中華地域が頑張るかもしれない。
 先端技術開発そのものの遅れも続くため、コンピュータネットワークによる高度な情報通新社会の到来も、21世紀に入ってからとなる。単純に四半世紀遅れとすると、2005年にパソコンが本格的に登場し、2015年にインターネット誕生。2020年にウィンドウズ95に匹敵するOSが登場する事になる。もちろんだが、2010年頃では携帯電話もほとんど登場していないだろうし、デジタル技術全般もほとんど登場していない事になる。
 逆に情報通信技術開発の遅れが、植民地帝国主義の延命に一定の効果を発揮する事になるだろう。だからこそ、1980年代に帝国主義の時代が終演する事になる。

(※まあ、要するに植民地帝国主義の終焉を「冷戦崩壊」と被せたわけですね(笑))