■架空戦記にインスパイア・余録001
 「コードギアスについての一考」

 2006年10月より開始されたアニメ「コードギアス 反逆のルルーシュ」について少し書きます。
 なぜなら、本作品が極近未来を舞台にしつつも、明らかに架空戦記的背景世界を持っているからです。
 なお、ネット上一部のアニメファン(オタク)を中心にして、監督や作品の傾向について苦言を呈する方も多いようですが、ここでは基本的に取り上げるつもりはありません。
 なお個人的には、第三話までを見る限りは純粋にアニメとして面白いと思います。

 さて、まずは第三話まで放映された時点で分かってきた背景世界を羅列してみましょう。

 時代:西暦2010年〜2017年 舞台:日本(第3話まで)
 ブリタニア:
正式名称「神聖ブリタニア帝国」。この世界で唯一の超大国として紹介されている。
皇帝が支配しており、皇族(王族)を中心に貴族が大きな権限や利権を有している。
「租界」というものを東京に置き、大都市を中心にして軍事力を背景にして支配地域を強権支配している。
「租界」に住む自国民には、歴史の授業(第三話)でイギリスの歴史を講義している。
北米へ遷都という言葉も出てくる。
なお、ブリタニア本国は北米大陸全土が含まれる模様で、ロシア、中華地域以外の全てに軍隊を駐留できるだけの政治的影響力を持つと思われる。
 日本(エリア11):
2010年では中立国として独立。我々の世界と同じぐらい発展している。
ブリタニアとの間に地下資源を巡る問題から宣戦布告を受け、徹底抗戦の後に国土の多くを破壊され降伏。以後ブリタニアの統治を受ける。
日本の名も奪われ「エリア11」と呼ばれ、日本人も「イレブン」と呼ばれる。
東京は廃墟となり、特に新宿エリアは「ゲットー」という原住民隔離エリアとなっている。

 だいたいはこんなものだろうか。
 見ていただければ分かる通り、我々の住む世界とは全く違う平行世界だ。順に見ていこう。
 まずはブリタニアだ。
 ブリタニアは北米大陸全土をも領土としているが、イギリスを祖とする国と解釈ができるだろう。
 つまり、アメリカがイギリスから独立をしなかった世界という事になる。また、「神聖ブリタニア帝国」という言葉が使われているように、ローマ帝国の末裔であるとも国名が体現している。欧州でも広大な版図を持っているのか、そうでなくとも相当の影響力を保持していると見るより他ない。
 そして、「唯一の超大国」とされている以上、少なくとも2010年時点ではEUやソヴィエト連邦のような国も存在しない事にもなる。
 また、征服した国(もしくは地区)を番号で呼び隔離居住区を「ゲットー」と呼んだり「名誉ブリタニア人」という言葉にもある通り、人種偏見が強い政策を標榜としている。もちろん、植民地帝国主義国家だろう。世界レベルでもこうした侵略が肯定される政治的雰囲気が強いと思われる。
 技術レベルは、二足歩行兵器が量産されるなど高度技術はかなり高いと解釈もできる。
 まあ、ロボットやアニメ的なSF設定はともかく、このブリタニアは果たして成立しうるのだろうか。
 イギリスがアメリカ独立をさせなかった世界、ということは17〜18世紀にかけてフランスとの北米争奪戦に勝利した後、イギリスがアメリカで穏健な統治をしたと解釈すればよいだろうか。もしそうなら、イギリスは戦費回収をアメリカ13州植民地以外に求めねばならず、自然インド、中華への進出を強めなければいけない。これがイギリス(後のブリタニア)の北米での覇権確立と支配地域への強権支配へと繋がったと解釈できないだろうか。また、イギリスが北米を抱え込んだまま大国化すれば、欧州大陸の列強と史実以上に対立するのは明白だ。おそらく、強固な軍事国家として史実以上に軍隊を用いることを肯定する国となるだろう。しかも、イギリスと北米という18世紀から今日に至るまでの工業の中心を持ち、資源地帯の多くを手にしているので、イギリス(ブリタニア)の一極支配が成立する道を妨げる者は少ないと見るべきだろう。
 ただし、歴史が上記したような流れだったとしても、ブリタニアの戦争方法と統治方法はイギリスを祖とするにしては稚拙な部分が多分に見られるように思える。「(日本)本土決戦」「エリア11」、「名誉市民」、「ゲットー」という言葉が象徴的だろう。
 「(日本)本土決戦」などさせて相手国家を荒廃させては、戦争の基本である略奪と支配後の搾取がしづらくなる。戦費の回収のためにも相手国家の損害は最低限に止めるべきなのに、いったい何をしているのやらと失笑してしまう。
 「エリア11」という呼び方に象徴されるように、相手民族(国家)のアイデンティティーを完全否定するやりかたは、19世紀ならともかく情報化社会ではかえってマイナス効果と見るのが自然だろう。だが、植民地帝国主義国家が肯定される世界が行き着いてしまった世界なら、むしろ普通なのかもしれない。また「エリア11」の中の「11」は、日本以外に10箇所の同様の強権支配を行う支配地域が存在する事を物語っている。作品冒頭でのブリタニア軍の侵攻略図が、支配地域の一端を示していると見るのが自然だろう。
 「名誉市民」は、日本ではイギリス式の少数民族を利用する植民地統治ができないための苦肉の策とも理解できなくもない。自分たちに直接の憎悪を向けさせないため、多数派との間で憎悪を買う層を作り上げる支配方法は必須だ。イギリスはこの方法で、4億人が住むインドをたった25万人で支配していたのだ。
 ただし、「ゲットー」という存在はどうだろうか。もともと欧州全般でのユダヤ人居住区の名称が「ゲットー」だ(ナチス時代のものは別扱いすべきだろう)。しかし、これを世界全般に採用するのはあまりにも安直すぎるかもしれない。しかし、アメリカが独立していない世界である以上、ユダヤ人の扱いが低いままというのは大きな問題はないと思われる。そこで、ブリタニアに反抗的な存在、異なる宗教を信じる民族などに対しても名称を適用させるのは、むしろ自然なのかもしれない。
 なお、皇居と思われるエリアも大きく破壊されているようだが、帝国主義時代のイギリスのやり口を見ていると、むしろ敵国の王家を破滅させるのは当然なので特に違和感はないと判断してよいだろう。

 では次に、日本について見てみよう。
 2010年時点では、中立国として独立を保っていたらしい。しかも首都東京は史実並に発展している。ただし、日本の状態とイギリスが北米を抱え込んだまま超大国を維持している世界の矛盾を解決しなければ、2010年時点の事を語ることができない。
 さて歴史転換点をアメリカ独立不発あたりに持ってくると、日本は江戸の天下太平の時代を経て、どこかで明治維新に相当する近代化を行いこの世界の21世紀に至っていると推測するしかない。
 しかし、ペリーを日本に派遣したのはアメリカ合衆国であるが、この世界ではそれが成立しない。なにしろ、アメリカは存在しないのだ。だが、アメリカの代役をロシアにしてもらえば、この時点での日本の開国に大きな問題は起きないだろう。そしてしばらくはイギリス(ブリタニア)の都合により、ロシア、チャイナなどと争いつつ国を発展させていくという史実の図式も大きな問題はない。20世紀初頭までなら、いかに北米大陸全土を支配するイギリス(ブリタニア)といえど、極東にまで大きく腕を伸ばすことは物理的に不可能だからだ。
 そしてロシアとの対立が片づいて以後は、日本はイギリス(ブリタニア)の背に付いて行って、のらりくらりと過ごせばいい。そうすれば中立国などというおめでたい錦の御旗を掲げつつ21世紀まで平穏に生き延びることもできるかもしれない。また、イギリス(ブリタニア)の政治的、文化的影響が強ければ、現代日本に近い社会が成立する可能性も高い。

 ただ、日本とブリタニアの戦争理由が腑に落ちない。
 戦争はブリタニアの宣戦布告によって始まっており、戦争理由も「日本の地下資源」にあるのだ。つまり、日本が中立で過ごせた理由が「日本の地下資源」にあり、ブリタニアは「日本の地下資源」がどうしても必要になったため、中立国の日本を攻撃する必要がでてきたと考えるのが一般的な回答になるだろう。
 でなければ、国力で圧倒するというレベルを超えた超大国が、中立国に対して自ら戦争を仕掛ける理由や動機が少ない。例を挙げるなら、ちょうどアメリカがイラクの石油欲しさに強引に戦争をしたような感じだ。おそらく、作品のモチーフにはアメリカによるイラク戦争があるのだろう。
 「日本の地下資源」がいったい何なのか、今後作品の行く末に関わってくるのかもしれないが、スルーされてしまうと設定重視派としては落胆を禁じ得ない。残酷なシーンの一つを入れる余裕があるのなら、背景世界を今少し紹介して納得が欲しいものである。

 なお、「打倒帝国!!」みたいな壁へ書かれたアジを見て「AKIRA」を思い浮かべ、また主人公とその近辺の登場人物の一部が学生という事から、1960〜70年頃の学生運動に対するオマージュがあるのではと思うのは考えすぎだろうか?

 了