■インスパイア・ファイル03「大和1945 星屑作戦」
 ●原典:「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」

 『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』(きどうせんしガンダムダブルオーエイティースリー スターダストメモリー、MOBILE SUIT GUNDAM0083 STARDUST MEMORY)は、ガンダムシリーズのOVA(オリジナルビデオアニメ)で、1991年に全13話が制作された。
 また、後に本作を元に編集・カットの追加が施されたアニメ映画『機動戦士ガンダム0083 ジオンの残光』も制作されている。

 物語
 一年戦争が終結して3年、地球連邦軍再建計画に基づきガンダム開発計画が提唱され、その試作機「ガンダム試作1号機」と「ガンダム試作2号機」が性能テストのためにオーストラリア・トリントン基地に搬送される。しかし、ジオンの残党がこの情報をつかんでおり、核兵器を搭載したガンダム試作2号機を強奪せんと基地を襲撃する。かつて「ソロモンの悪夢」と呼ばれたジオンのエースパイロット、アナベル・ガトーがガンダム試作2号機に乗り込み強奪。だが、脱出を図る2号機の前に、新米テストパイロットのコウ・ウラキが乗り込んだガンダム試作1号機が立ちはだかる。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

●インスパイアへ

 背景世界のプロットは、ファイル01プロットとの関係なし。
 可能な限り史実に近い状況にあわせて、「デラーズ争乱」の戦術面と鎮魂歌という心理面にだけ焦点を当ててインスパイアを目指してみる。
 なお、一年戦争のオマージュは、なるべく太平洋戦線での出来事からインスパイアしていく。

●プロット

 日支事変を契機として、勃発した大東亞戦争。
 ヒトラーの野望のまま欧州を席巻したドイツ。
 どちらも持たざる列強の身勝手が引き起こした戦乱だったが、二つが組み合わさった結果全世界規模の大戦争へと発展した。
 だが戦争は、枢軸側にとって幸運のまま進む。
 ドイツによるポーランド強襲。北欧・西欧、そしてロシアへの奇襲。日本による東南アジア侵攻。米太平洋艦隊の完膚無きまでの殲滅。全ては絵に描いたような勝利の連続だった。
 1942年夏までに、日本はハワイをドイツはモスクワを落とすことに成功。ソ連は実質的に崩壊。さらに日独は共にインドへと歩みを進め、ついには中東・シベリアでの握手にすら成功する。
 しかしそこで、ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーが東洋の同盟国に我が儘を言った。
 「親愛なるエンペラー・ヒロヒトへ いよいよ我々は共通の敵大英帝国を打倒する時がやってきた。そこで、英国を倒すべく聯合艦隊の半分を欧州に派遣してくれはしまいか」

 代償はドイツの優れた技術と生産施設そのもの。
 ドイツの提案を、ハワイの勝利に気をよくしていた日本は承諾。
 なにしろ宿敵アメリカ海軍は、最低二年は足腰立たないほど撃滅した。今の奴らには、まともな空母はない。戦艦もどうしようもない旧式か、乗員の訓練もままならない新鋭艦が西海岸に逼塞するだけ。大和の敵ではない。その上ハワイすら落とした。英東洋艦隊も東方艦隊も殲滅した。これだけして、聯合艦隊はいまだ開戦頃と変わりない戦力を維持している。
 後は英本土さえ降伏させれば、アメリカもやる気をなくして戦争も終わるだろう。
 楽天的な日本人達はそう考えた。
 政府の命令を受けた日本海軍は、帝国海軍の至宝大和級戦艦2番艦「武蔵」を旗艦に、戦艦、空母複数の大艦隊を編成した。
 艦隊規模はかつての英地中海艦隊に匹敵し、空母と超超弩級戦艦を中心にした破壊力は、欧州海軍とは懸絶したものを有していた。
 しかも指揮官は、親ドイツ派の宿将寺津中将。
 寺津提督率いる艦隊、通称「寺津艦隊」は、はるか欧州へと遠征していく。
 それは1942年も秋の事だった。

 「寺津艦隊」が本土を離れてから、約三年の歳月が流れた。
 「寺津艦隊」の活躍もあって、1943年秋に英本国艦隊は壊滅。第二次バトルオブブリテンも、長距離空軍への一部改変を行ったドイツ空軍の勝利に終わった。
 1944年夏には、ついに英本土は陥落。
 ロンドンなどは、それまでの欧州での戦いの慣例に習い無血開城されたほどだ。
 英戦時政府と王室はカナダへと亡命したが、欧州での戦乱がひとまず小康状態へと移行したのは間違いなかった。
 欧州の誰もが戦争がドイツの勝利で終わったと感じたほどだった。
 しかし、太平洋戦線の戦火は燃え盛ったままだった。
 ハワイを落としソ連崩壊と共にシベリアをかすめ取った日本。
 シベリア進駐を国内的理由に、支那からの大幅な撤兵も実現。
 大東亜共栄圏もほぼ完全な形で形成する事に成功。
 アメリカ以外の連合国は足腰経たない状態。
 あとは、再建される米艦隊をもう一度決戦で破れば戦争は終わると、日本首脳や軍部は考えていた。
 だが、違っていた。

 ハワイを取られた事で怒り狂ったアメリカが、本気で海軍を増強。枢軸側の一方的勝利は許さないとばかりに、英本土陥落後で浮いてしまった欧州戦線向けの戦力を大幅に引き抜いて、日本を短期間で追い込んでいく。
 日本がせっかく占領したハワイ諸島は、徹底した通商破壊戦で飢餓化、43年末に奪回される。インドやシベリアまで進軍して息切れしていた日本に、大艦隊を前面に押し立てたハワイ沖での決戦など思いもよらなかった。
 44年6月に発生したマーシャル諸島沖での「決戦」は痛み分けに持ち込むも、その年暮れの二度目の「決戦」で、圧倒的海軍を揃えた米艦隊に大敗。アメリカ軍に与えた損害も大きなものだったが、あれ程精強を誇った聯合艦隊は1945年の新年を迎えることなく壊滅した。
 米軍が大挙押し寄せたマリアナ諸島には、ドイツから供与されたものと、ソ連から捕獲した大量の陸戦兵器で強固な要塞が構築されていたが、制空権・制海権なき戦場では3ヶ月の時を稼ぐのが精一杯だった。
 マリアナ諸島陥落後は、マリアナ諸島の三つの島を根城にした米戦略爆撃機群が日本本土爆撃を開始。45年6月には、二ヶ月間も奮闘した硫黄島までが陥落。7月からは都市無差別爆撃が本格化した。
 都市無差別爆撃に対する日本は、ドイツから幾ばくかの技術援助を受けていたが、もともと基礎的な技術力、工業力そのものが劣る日本に成層圏から飛来する米戦略爆撃機の大群を防ぐのは不可能だった。六大都市のそれぞれ半分が一夜にして灰燼に帰し、トドメとばかりに2つの中規模都市に新兵器原子力爆弾が投下。たった一ヶ月で、合わせて40万人もの一般市民が虐殺された。
 原爆の落ちた同じ8月には、本土決戦の前哨戦とも言える台湾戦も始まり、日本軍は「特攻」という名の自爆攻撃にすら手を染め、最後の決戦から一気に敗亡の淵に追いやられていた。
 このあまりに早い戦争展開に、「寺津艦隊」は欧州からの帰国半ばにして日本降伏の報を受ける。

 いっぽう寺津たちがやっかいになっていたドイツは、イギリス本土降伏後も戦線拡大を続けようとするヒトラーに、ついにドイツ国防軍が愛想を尽かす。あっさり軍事クーデターを引き起こして、ヒトラーとナチス幹部をまとめて爆殺。45年7月末、新たに成立したドイツ政府は、アメリカと英ソの残骸と停戦交渉に入る。
 条件は、イギリス、フランス、ベネルクス、北欧、東欧諸国の領土返還もしくは独立復帰。ソ連崩壊後のロシアでの民主政府の樹立。枢軸同盟の破棄。無政府状態のロシア以外からのドイツ軍の全占領地域からの撤退などとなっていた。
 ドイツの比較的穏健な講和条件に、アメリカ以外が息切れしていた連合国も停戦に応じ、欧州での戦乱は呆気なく決着する。日本政府の降伏も、停戦したドイツを仲介としたものだった。いかに徹底抗戦を唱えようとも、都市に原爆など落とされては戦争どころではない。
 孤立する「寺津艦隊」。
 彼らも日本政府同様、降伏するより他無いのか。

 そうした中、ドイツの「心ある人々」の情報と、空母部隊総飛行隊長牙頭少佐の徹底抗戦を訴える強い言葉が、寺津提督の心を動かす。
 しかもドイツからの情報とは、豪州の秘密基地に対日戦用に準備されたプルトニウム爆弾が有ることだった。またドイツは、いくつかの新兵器を水面下で「寺津艦隊」に供与する。
 寺津は決意した。
 アメリカの戦争に正義なし、と。
 寺津と牙頭の発案に従い、寺津艦隊単独による「星屑作戦」が発動される。
 目的は、ウルシー海域の連合国軍艦隊を奪った核弾頭で破壊し、同時にマリアナ基地群も殲滅する事。
 そしてこの二つの攻撃を全世界に知らしめ、アメリカの戦争に正義なきことを世界に訴えると同時に、アメリカに一矢報い日本の意地を見せつけるのだ。

 しかし問題はあった。戦力と時間が限られている事だ。
 寺津艦隊の主要艦艇は、戦艦が「武蔵」と金剛級2隻、空母「瑞鶴」、「翔鶴」と軽空母2隻。これに、旧ヒトラー派の亡命者からなる独空母「リリエンタール」を中心とする支隊が合流していた。
 補給に関しては、中立となったドイツ船や日本降伏を受け入れられない現地軍の一部が極秘裏にしてくれることになったが、何より時間がなかった。
 日本が降伏したのが8月15日、停戦調印が9月2日。米英の大艦隊が調印のため日本本土に向かうのが8月27日。
 そして作戦決行を決意したのが、8月20日のシンガポールでの事だった。

 表面的に降伏を受け入れた筈の寺津艦隊は、帰国途上の洋上で臨検を受けるとして日本本土に進路を取りその後消息を絶つ。
 同じ頃、豪州の連合軍秘密基地が何者かに襲われ、重大兵器が搭載兵器ごと奪取されるという大失態が発生。
 戦勝により完全に油断していた連合軍は大混乱に陥った。
 そんな連合軍の混乱をあざ笑うかのごとく、1機の未確認大型機がウルシー環礁に飛来。
 未確認機は、豪州の基地で重大兵器、つまり核弾頭と共に奪取されたXB36核搭載型だった。ご丁寧に友軍ビーコンまで発信していた。だから「発見」も遅れたのだ。
 気付くと同時に、緊急迎撃と艦隊の環礁外への待避が開始されるが、レシプロ機では追跡不可能な時速700キロ以上の高速で成層圏から侵空すると、プルトニウム型原爆を投下。
 核弾頭は、エセックス級空母、インディペンデンス級空母がたむろする環礁中心部上空で炸裂。
 圧倒的な破壊を振りまくと共に、毒素の高まっていた放射性物質のプルトニウムを環礁全域にばらまいた。
 呆然とする連合軍。
 そこに「寺津艦隊」発見の報が入る。
 「寺津艦隊」は、日本本土とは正反対の方角からマリアナ諸島近海に出現。欧州でふりまいた艦載機による猛威を、まともな守備兵力のなかった同要塞群に振りまいたのだ。
 しかもサイパン・テニアン島には戦艦部隊までが姿を現して艦砲射撃で仕上げを行い、アメリカは米太平洋艦隊主力と日本を灰燼に帰しつつあった戦略爆撃機の過半を失う。
 すでに戦争が終わったとはいえ、数万の人的被害、損害額数十億ドルは笑って許せるものではなかった。
 焦りと怒りを露わにするアメリカ。
 それは自然、降伏した祖国への帰還を果たそうとしている「寺津艦隊」に向けられる。
 しかも今彼らを無傷で日本本土に返しては、戦後のミリタリーバランスすら覆りかねない。それどころか、「寺津艦隊」を自ら反逆艦隊と断じた日本政府が戦争を継続する恐れすらある。
 日本本土目指しての泥沼の戦いは、ドイツの実質的勝利という大西洋・欧州情勢を考えると到底受け入れがたい事だった。

 小笠原近海に集結しつつある残余の米軍戦力は、「寺津艦隊」が攻撃終了後に示した降伏受け入れを、海賊艦隊、ゲリラと断定して無視。全力で追撃を開始する。
 だが、追撃半ばにして次々に脱落する米艦艇。
 ウルシー環礁内で爆発の難を逃れた筈の艦艇では原因不明の昏倒者が相次ぎ、ウルシーからの艦艇はそのほとんどが脱落してしまう。
 だがそれでも米軍は圧倒的だった。戦艦、空母数隻ずつしかなく、相次ぐ作戦で戦力を消耗していた「寺津艦隊」とはまるで違う戦力をぶつけてくる。
 米軍の攻撃は激しく、「寺津艦隊」の懸命の防戦虚しく、それこそ一艦残らずうち沈めらていく。
 しかも決定的瞬間に、亡命ドイツ艦隊が造反。「寺津艦隊」は窮地に追い込まれていく。
 そして滅び行く自らの艦隊を前に、燃え盛る旗艦「武蔵」艦橋に陣取る寺津中将は、全通信帯に向けて発信。
「我等の行いは、アメリカの行った計画的かつ非人道な都市爆撃、原爆の都市投下、そして無条件降伏という文明国にあるまじき破廉恥極まりない所行を痛烈に非難するべく行ったものだ。また、これを全世界と後世の歴史家、そして今生きているアメリカ市民に知らしめるためのものでもある」と。
 そして、心ある世界の人々に、このように冷酷非道な行いを平然と行うアメリカに、世界を一極支配をさせてはならないと訴える。

 演説を終えた寺津は、沈みゆく旗艦と運命を共にしていく。
 原爆奪取から投下、グァム島破壊を一人で担った牙頭少佐も、ドイツの至宝「Ta183A”フッケバイン(大烏)”」を駆り懸命の防戦に務めるも衆寡適さず。最後は米軍の投入した新型ジェット機との一騎打ちを経て、敵艦へ激突。南海の海で朽ち果てる。

 そんな太平洋の混乱をほくそ笑んでいる勢力がいた。
 西欧列強は凋落。ソ連は崩壊。日本も降伏。しかし、アメリカのみが世界を支配するなど決して許すことはできない。
 ほくそ笑んだのは、そう考える人々だった。
 そして正式には戦史に刻まれることのない「寺津争乱」事件は、大戦終了から数年を経ずして再度の激突、対立時代への呼び水として、後世の人々に正確に知られるようになるのは半世紀も後の話だ。
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 コロニー落としのインスパイアとなるマリアナ要塞破壊と、艦隊追撃そして壊滅の順序が逆になるが、戦力差を思うとこれがギリギリでしょう。(流石に米穀倉地帯の破壊は、その方法が思いつかない。代わりに、テキサスの油田地帯を徹底的に破壊する作戦でも良かったかもしれないが。)

 けど、「ソロモンよ、私は帰ってきた!」のセリフが違ったものになるなぁ。「アングロ支配の悪しき呪縛を、我が正義の剣によって!」ならオーケー?
 なお寺津艦隊は、長い欧州遠征ですっかりドイツかぶれのサムライ・フリートになっているとする。これでかなりジオンぽくなるはず。

 それにしても、登場人物お全部史実の人にすれば、普通に架空戦記で成立しそう。歴史の大本もいじってないし。まあ、本来オマージュとはこういうもんなんだろう。

閑話休題:
 「寺津争乱」後、ティターンズvsエウーゴならぬ、米vs独による白色対立時代を迎えるという新たなステージが用意されています(笑)
 しかも、満州・支那北部・半島・シベリアにいた日本のおめでたい軍人と国粋主義者どもが、ドイツの支援をあてにして降伏した日本列島に見切りをつけて勝手に独立。どこかの皇族や王族の末裔を担ぎ上げて、アクシズの役割を担えば図式は完成でしょう。もちろんロシア奥地(シベリア)の資源地帯では、シロッコの役割を担うアメリカ系ロシア移民の支援を受けた旧ロシア勢力が虎視眈々と牙を磨きます(笑)

 次なるステージは、原典と同じタイムスケジュールを採用すると7年後の1952〜53年。最後の総力戦を行うのに丁度よい頃合いに、四つどもえの第三次世界大戦が幕を開けます。
 ここまでしなければ、作品丸ごとのインスパイアとは言い切れないでしょう。

あと、さらに数年後には、アジアの真の独立賭けて、おめでたい王子様の戦乱も起きるでしょうね(笑)

 ……単なる思いつきだったけど、普通にプロットが作れそう(笑)