■インスパイア・ファイル08
 「帝国の紋章」、「帝国の戦旗」
 ●原典:「星界の紋章」

 『星界の紋章』(せいかいのもんしょう)は、森岡浩之によって執筆されたSF小説(スペースオペラ)、及びそれを原作としたアニメ作品。続編として『星界の戦旗』が刊行中、同様にアニメ化されている。

 概要
 人類が、太陽から0.3光年離れたところに発見した「ユアノン」なる素粒子を利用した恒星間宇宙船を開発し、惑星改造により太陽系外に居住惑星を拡大し始めて何世紀も後のこと…。

 ハイド星系・惑星マーティンの政府主席の息子ジント・リンは、幼少の頃故郷が「アーヴによる人類帝国」なる星間帝国の大艦隊によって侵略を受けた。彼の父ロック・リンは降伏と引きかえに貴族の称号を得、そのためジント自身も帝国貴族の一員となる。それから7年後、ハイド伯爵公子となったジントは、皇帝の孫娘ラフィールと運命的な出会いをする。 その時からジントは帝国貴族として生きていく事を決意する。
 
 物語では、アーヴとよばれる遺伝子改造によって生まれた架空の種族によって宇宙の人類世界の大半が支配されている。アーヴはホモ・サピエンスと異なる遺伝的特徴をもつにとどまらず、宇宙空間で暮す事を常とすることでも人類一般と異なる。なおこれは真空という意味ではなく宇宙空間を旅する船舶、あるいは宇宙に浮かぶ都市や施設で暮らすという意味。
 このアーヴという種族の設定のみならず、超光速航行を可能にするために別の宇宙である「平面宇宙」を移動する、平面宇宙航法と呼ばれる恒星間航行の設定や、アーヴ語と呼ばれるアーヴ独特の言語体系などの設定も星界シリーズの大きな特徴となっている。

 日本神話を世界設定の背景にしていることも特徴的。
 例えば八頸竜「ガフトノーシュ」は「八俣大蛇(ヤマタノオロチ)」、金色鴉「ガサルス」は「八咫烏(ヤタガラス)」、皇族「アブリアル」は「天照(アマテラス)」、帝都「ラクファカール」は「高天原(タカマガハラ)」であり、また「帝国(フリューバル)」は星々の集合ということで「御統(ミスマル)」の語形変化とされる。

 国家概要
・アーヴによる人類帝国=
 アジア系民族を祖とする人造生命体を支配階層とする、強大な星間帝国(アジア系民族=日本がモチーフ)。
 人類世界(銀河系)の約半分(45%)を支配。
・人類統合体=
 全体主義的傾向の強い民主国家。4ヵ国連合最大規模の国力を誇る。
・拡大アルコント共和国=
 首都星系に全ての機能が集中している傾向がある。戦場からは遠い。
・人民主権星系連合体=
 首都から離れた場所に随一の産業地帯が存在。これがアーブに蹂躙されうる立地条件。
・ハニア連邦=
 アラブ系の穏健な国っぽい。宇宙に興味が薄く、全てに対して中立的。他の三国全てと隣接している。

4ヵ国連合(ノヴァシチリア条約機構)=
 対アーヴ同盟
 アーヴの原罪=
 創造主を滅ぼしたこと。それを忘れないため、通常人ではあり得ない青い色素を含んだ体毛を持つ。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 ※ストーリーは割愛。

●インスパイアへ

 アーブ=日系民族を祖とする人々なので、日本中心の架空戦記にインスパイアし易い。しかも原典におけるアーブの政治形態は、過去の歴史上に存在した様々な国から選択していったものがモチーフとなっている。私の見るところ、主にモンゴル帝国とオスマン朝の王朝形態からアレンジしたものだ。
 ただし、この作品のオリジナリティを高めている独特の言語は、欧州系(特にラテン系)の雰囲気を強く感じる。
 いずれにせよ、千年も続く強大な帝国に相応しい高い文化と誇りを持つアーブという存在の無国籍化を印象づけている。
 いっぽう、アーブ以外の主権国家の内情は断片的にしか描かれていない。しかし、原典の一部に登場する軍人や政治家を見る限り、基本的に英語圏の国をモチーフとして描かれている雰囲気が強い。これがかえってインスパイアをし易くしている。

 そして、私が運営するサイト「太陽帝国」の設定(歴史的流れ)を、もう少し日系(アイヌ)優位に組み上げれば簡単にインスパイアが成立する。もともと、モンゴルを基本として作り上げたアイヌという架空国家の制度が、原典の似ると判断して開き直ってあえて似せた部分もあるのだが、自分で作った別世界の設定を元にインスパイアするというのは、なかなかに乙なものだ(笑)
 なお、当然ではあるが、原典に出てくる遺伝子改造、二次元宇宙などSF的要素は全て無視する。戦争そのものについても取り扱わないので、独特の戦闘形式や兵器、戦術単位も可能な限り無視する。
 なお、以下が「太陽帝国」からインスパイアする際の歴史改竄点だ。

 ・現在の「太陽帝国」からの変更点
 16世紀半ばの西征で遠征をもう二年ほど続け、ポーランド、モスクワ大公国などを一度滅ぼし、神聖ローマ帝国を蹂躙してしまえば簡単だ(そうでもないが)。しかしここでは、我々の世界の列強を可能な限り出現させるため、変更も最低限とする。変更はアイヌによるユーラシア撤退からだ。

17〜18c
・アイヌの計画的勢力縮小を西シベリアの玄関口(できればウラル山脈)あたりで完全に止める(ロシアにチャイナに手を出させず、インド洋、太平洋にも出さないため)
・日本の中華出兵を長期化。中華大陸の混乱と低迷を大きくして発展を遅れさせておく。日本を衰退させないために、混乱期の大陸からの略奪もじゃんじゃん行う。
・国力が付いたら、インドへも度々ちょっかいを出す。
・18世紀末の革命で、アイヌを王国でなく帝国化。(これが重要)
19c
・日系の軍制改革を、ナポレオン戦争を横目に見ながら行わせる。
・1824年からの日英戦争泥沼化。インド洋で日英が激しく激突。
・同時期に北米を日系勢力に統治させるべく戦乱を引き起こす。
・長期の戦争により、アイヌ、日本の軍備増強とシヴィラゼーション加速。
・アメリカを滅ぼし、日系により北米統一へ。
・日英戦争にかこつけて、カナダ全土も分捕る。
・上記により、新大陸での日系勢力の圧倒的優位を作り上げる。
・日英戦争で譲らずに戦い、オセアニア地域は堅持。そればかりかインド洋へも進出。
・日英戦争で豊臣幕府疲弊。幕末到来。
・アイヌ主導で日本の勢力圏を再編成。
・アラブや印度は、日系勢力の支援で自主独立維持。できればある程度近代化。これを防波堤として欧州勢力を疲弊させる。
・チャイナは、市場として以外はしばらく放ったらかし。中世的国家のまま遅れた状態で全然オーケー。近代に割り込んでくるチャイナなど、アジアにとってはた迷惑なだけ。日系勢力の繁栄の中で眠ったまま鎖国していてもよい。後で他の列強と仲良く細切れの肉片に分解する。
・あとは、勢いに乗ってアフリカや南米のいくらかを分捕れれば文句なしだろう。ケープ(南アフリカ)を欧州勢力から分捕れれば理想だ。

 なお、日本がこれほど拡大してしまうと、新たな植民地を求める欧州列強が南米の独立阻止、もしくは再植民地化に動く公算が大きい。いっぽう、欧州勢力によるアフリカの分割も早めに進むだろう。
 また、ロシアが東進を押さえ付けられたら、史実より強く黒海、東欧に対する南進を強化することは疑いない。ロシアと英仏の対立は史実より激しいだろう。もちろん、シベリアを獲得できずにロシアの国力が付かず欧州の田舎国家のままという可能性もある。
 どちらにせよ、日系勢力の付け入るスキができてくる。

・国家勢力
 アーヴによる人類帝国=日本による太平洋帝国
 国家規模は上記の説明通り。太平洋全域、インド洋、東シベリア、東アジア全域(チャイナ除く)、オセアニア全域、北米大陸全土に広がる大帝国。陸地占有度は、全世界の何と三割! インド洋とカリブ海の制海権も握れば、世界の海洋の過半をコントロールするに等しい。
 また、19世紀に前半に、独立してまだ半世紀のアメリカが日系勢力に飲み込まれても、直接損をする欧州諸国は少ないのでリアクションも小さいはず。

 なお、アイヌにとっての原罪は、明治革命時に日本本国の中央政府を潰してしまったことになるだろうか。
 天皇家が存続していても、天皇制による国家ではなくなるだろう。アイヌ王家中心の日系社会への改変と、大名全てのアイヌ風諸侯化となるだろうか。

 人類統合体=
 本来なら全体主義化の進んだアメリカ合衆国が相応しい。が、ここでは大英帝国を母体とするしかないだろう。もしくは、西欧諸勢力の集合体と考えても良いかもしれない。
 北米もオセアニアもないイングランドにとって、インドを失うことは国家存亡の危機。日系勢力との激突は必至。世界分割に遅れた独伊などがイギリスの尻馬に乗る可能性もある。(独伊の場合、逆もあり得るが)

 拡大アルコント共和国=
 勢力圏(植民地)が大きく、イギリスと呉越同舟になったとしても、どこか相容れないであろうフランス共和国が適当か。
 また大国主義が基本外交のフランスだから、国力の続く限り確実にどこかしこにちょっかいかけてくるだろう。

 人民主権星系連合体=
 勢力圏の大きさから帝政ロシア(名称のニュアンスからソ連でも可)。シベリア・中央アジアで日系勢力と対立は必然。しかし、地理的環境からなかなか日系勢力とは本格的にはぶつかれない。

 ハニア連邦=アラブ連邦orオスマン朝or南米?
 原典に出てくる大使を見る限りはアラブ系もしくは無国籍アジア系国家になるだろうか。
 アラブ連邦なら、日系勢力の支援を受け、エジプト、トルコ、イラクに至る地域に存在とすればいい。領土を保持したままのオスマン・トルコが、日系の支援で近代化に成功して立憲帝国となったものでも良いだろう。それなら親日国家間違いなしだ(笑)
 それにこの地域なら、原典の立地条件にも合致する。
 また、日系が北米大陸全土を押さえた事で、南米諸国の方が政治的位置に相応しいかもしれない。中東は戦争のホットゾーンになり過ぎるので、戦場になりにくい南米の方が適当か。

 ※ドイツ、イタリアなどは19世紀半ばまでは統一国家ではないので、世界分割ゲームに参加すらできない。内陸国家のオーストリアも同列。
 そして19世紀半ばぐらいには、世界の分割もおおよそ終了する世界なので、統一国家となったドイツやイタリアが、領土的に膨脹するのは難しい。

 世界大戦は、1910〜30年代の間。
 大規模な海での戦争を行わせるため、大量生産技術が存在し、航空機が大きく介在しない大艦巨砲時代に行う。
 規模はもちろん全世界規模。
 主戦場は、海はカリブから大西洋へ。後はインド洋。
 陸は一年のうち戦争期間の限られるシベリア。
 太平洋は、日系のバスタブ(デカッ!)。
 欧州諸勢力に、日系の牙城となった北米に侵攻する力はないだろう。
 原作の「幻炎作戦」は、地中海分断か南ア制圧。欧州と植民地(インドもしくはアフリカ)の切り離しと自らのアーシアンリング完成を目指す。後の「狩人作戦」を考えると、地中海分断の方がそれらしいだろう。

 なお原作に従うなら、基本的に白人対有色人種による人種間戦争を行うしかない。もちろん、有色人種、特に日本人(日系人)がアーヴの役割を担う。

 冒頭は、原典と同じ大艦隊によるとある辺境小国の併呑。
 原作へのインスパイアを強めるのなら、海に面して欧州文化(原作から推察するにイギリス系)のある中南米のどこかが良いだろうか。双方の戦争の引き金の遠因とするなら、双方の緩衝地帯近くが望ましい。

・最大の問題点
 開戦冒頭や戦争の決定的瞬間に、どうやって日本近海に欧州諸勢力の大艦隊(+大侵攻部隊)を持ってくるかだろう。
 あとは、原爆や航空機の時代に戦争をセッティングしなければ、どうとでもなる。

●プロット

 1910年、日本=アイヌ連合帝国の大艦隊が、南米大陸の側にあるフォークランド諸島に進駐した。
 この寒々しい島々には、1828年のアメリカ合衆国消滅以後、北米東岸から再び海に乗りだした開拓者達のテリトリーがあった。
 新たな開拓者達は、アメリカに残されていた財でこの島々をイギリスより形式的に購入。欧州と日系諸勢力の狭間にあって何とか独立。ニュー・ヴァージニアと呼ばれる国を形成していた。
 だが、建国から半世紀も経つと、この小国は世界の列強から忘れ去られてしまう。列強にとってのメインステージが、インドとアフリカだったからだ。北米大陸が日系に牛耳られてからは、白人が蹂躙・支配すべき土地はそこしか残されていなかったのが、その原因だ。
 南米も一時期注目されたが、双方の狭間にあって白人とも有色人種とも言い切れない南米諸勢力は、外に対して一致団結。政治的には欧州寄りだが、一種の独立勢力と化していた。
 このため、南米辺境と言えるニュー・ヴァージニアは二大勢力の争奪戦から外れ、忘れ去られてしまったのだ。

 いっぽう侵攻側の日本=アイヌ連合帝国(以後連合帝国、別称は「アイヌによる日本帝国」か?(笑))は、20世紀初頭のこの時、繁栄の絶頂に進みつつあった。驀進といっても行きすぎた表現ではないほどだった。
 1824年春からあしかけ20年間も続いた日英戦争を痛み分けながら戦略的優位に終わらせ、戦争がもたらした国内混乱から大規模な政変が発生。そして無血革命で成立した新政府による近代化へと雪崩れ込んでから半世紀が経過していた。
 連合帝国は、全ての日系テリトリーをその勢力下におさめ、広大な領土を元手にした圧倒的国力と経済力で世界を覆い尽くしつつあった。
 「世界の半分は朕の手にあり」。時の連合帝国皇帝は、こううそぶいたと言われる程だ。そしてその自信の現れが、ニュー・ヴァージニアへの侵攻だった。
 なお、連合帝国は今回の侵攻を、対外的には「進駐」と発表した。
 理由はニュー・ヴァージニアがアメリカ合衆国の後継者を名乗っており、連合帝国と滅び去ったアメリカ合衆国が交わした条約文書では、全てのアメリカ領土は連合帝国の手に帰するからだ。
 そして、ニュー・ヴァージニアの人々が目にした連合帝国の大艦隊は、歴史の大いなる胎動の再開の訪れを告げるものでもあった。

 もっとも、歴史の激変を告げる鐘を聞いた者はごくわずかだったが……。

 連合帝国によるニュー・ヴァージニア進駐から約10年の歳月が流れた。
 アイヌの心の故郷の保存場所ニタインクル公国。豊かな自然を残す南半球の島国は、連合帝国の多数の宗教機関、教育機関が揃っており、連合帝国に新たに組みする人々の教育施設としての役割も果たしていた。
 そこに一隻の新鋭クルーザーが寄港する。
 重油専燃ボイラーと蒸気タービンによる高速。新兵器を多数搭載する事による圧倒的攻撃力。重油使用による居住性、航続距離の大幅改善。それらを実現した、排水量一万トンを優に越える巨大なクルーザーだった。なお連合帝国は、広大な勢力圏の警察活動のための艦艇の事を「巡察艦」と呼んだ。
 そして寄港した新鋭巡察艦を桟橋から眺める一人の少年がいた。
 彼は、かつてニュー・ヴァージニアでも連合帝国の軍艦を眺めた経験を持つ。そしてその国では大統領の子息であり、今では連合帝国の制度に従い、血統によってかつての祖国を世襲で領有する一族の伯爵公子だった。
 彼は、目の前の巡察艦に乗り、遠く東洋の深淵にあるという帝都へ赴くことになっていた。

 連合帝国の帝都を中心とする帝国はあまりにも強大だった。
 アジア初の「日の沈む事のない帝国」と言われた。人によっては遂にローマや秦を越える帝国が現れたとも言ったほどだ。
 事実、ユーラシア大陸の三分の一。今ではマニトウ大陸と呼ばれるかつての北アメリカ大陸全土。彼らが大和大陸という南半球の大陸と周辺部。アフリカ大陸の一部。世界の海洋のおおよそ7割。全てが彼らのテリトリーだ。
 古代ミステリーに出てくるムーやアトランティス、レムリアが存在したとしても、間違いなく人類史上最も広大な領土を有する帝国だろう。
 テリトリー内の陸地面積だけで、4000万平方キロを優に越えているといえば、その強大さが少しは理解いただけるだろうか。
 もちろん全ての土地や地域が彼らの直轄領や領土とは言い切れなかったが、域内の日本人人口だけで2億人以上いる。全ての地域での第一公用語はラテン文字から完全に逸脱する、表音言語である日本語だ。しかも日本帝国人の七割は中流階層以上とされる豊かさで、教育程度も世界一高い。さらに域内には、海運、経済、金融、そして軍事を連合帝国抜きには考えられない国々しか存在しない。
 つまり、勢力圏の全てが連合帝国であり、領土だけでなく中身も十分以上に伴った帝国と言えた。そんな連合帝国と他の列強による勢力争いの争点は、チャイナ地域とインド地域だった。

 チャイナは幼い新皇帝が立ったばかりの清。清は、17世紀半ばに当時の日本政府の妨害を何とか排除して成立した中華帝国だ。18世紀には人口相応の国力を持っていたが、19世紀半ば以降は中華的な内政の失敗により腐敗堕落。年中行事と化した飢饉と内乱に喘ぎつつも、中世の揺りかごに身を委ねていた。総人口は3億人にも達すると言われたが、長い間鎖国し、農業と手工業しか産業がなく、鉱産資源も希少とされ、人口以外見るべき点のない後進国というのが一般的な評価だ。
 19世紀半ばより列強(主に日英露仏)の進出によって蚕食され、今では連合帝国が音頭をとる形で、民族自決を旗印に細切れの肉片に分解されつつある。連合帝国のやりようを見ていると、中華大陸を秦の始皇帝以前の時代に戻そうかとしているようだと歴史学者達が言ったほどの徹底さだ。
 人と国家にとって、恐れと恨みこそがもっとも残酷な行いをさせるという好例なのだろう。
 いっぽうのインドは、連合帝国と欧州列強にとって、百年来のホットゾーンだった。連合帝国の強い支援によって、いまだムガール帝国やマターラ同盟、ビルマ王国など現地政権が命脈を保っており、連合帝国の援助で軍隊や制度を近代化しつつ欧州勢力と泥沼の戦争を続けている。隣国ペルシャも同様だ。
 インド地域はどちらの勢力圏とも言い難いが、物理面では欧州が、精神面(民心面など)では連合帝国が優勢と判断されていた。
 また、欧州とアジアの境界線には、500年以上の伝統を誇るオスマン朝が欧州の前にいまだ立ちふさがっていた。この国も連合帝国の強い支援で改革を進めつつ、ロシアを中心とする欧州に対して何とか踏ん張っている。こちらは、オスマン朝そのものが欧州の喉元に突きつけたナイフのような立地条件と考えると、連合帝国の優位といえただろう。
 そのような国際状況にあって、インド洋が双方にとってのホットゾーンとなるのは当然だ。
 そして、インド洋のもう一つの沿岸部ともなるアフリカだが、暗黒大陸と呼ばれた大地はアジア以上に悲劇的だった。
 連合帝国は、現地国家に肩入れして欧州に対抗させるという対外政策を伝統としている。だが、アフリカ大陸で同じ事ができる国はエジプトとエチオピアぐらい。列強の植民地となる前でも、他に高い文明(産業)を持った国は存在せず、あるのは古代国家に近い国か部族社会ばかり。
 しかもエジプトは、欧州勢力によるスエズ運河開削に伴い、英仏の軍門に下ったといっても過言ではなかった。
 しかし、アフリカに近代的な独立国が少ないのには理由がある。もちろん、アフリカが文明的に遅れていたなどという理由ではない。
 南北アメリカ大陸というフロンティアを失い、アジア(インド)が旨味のある土地と言い切れなくなった欧州勢力がアフリカ大陸に殺到。日英が泥沼の戦争を行っている頃から、積極的な植民地化を推し進めていたからだ。事実熱心な植民地経営が推し進められ、欧州列強に莫大な富をもたらしている。
 そして、アフリカからの搾取なくして、欧州勢力が連合帝国に対抗する事は難しかったと言えば、欧州列強にとっての重要度もご理解いただけるだろう。いまだ双方の勢力が入り乱れているインドよりも欧州にとっては手放せない地なのだ。
 もっとも、大陸近在のマダガスカル島は連合帝国によって占有されており、その他交易拠点、補給拠点として沿岸部のいくつかも連合帝国が押し入っており、アフリカ大陸全てが白人の天下というわけではなかった。双方の勢力が入り込んで武器を渡し内乱状態な地域も、両手の指では足りないほどだ。
 先住民にとっては悲劇でしかないが、ここも双方の勢力がせめぎ合うホットゾーンという何よりの証拠だった。

 なお、連合帝国と主に英仏露が世界規模の勢力争いをしていた19世紀、欧州中原ではドイツ帝国という新たな帝国が誕生した。しかし、遅れて台頭してきた産業国家のため、すでに出ていく場所がなく、海外に乗り出す事ができずに近隣のロシアやフランスと対立を激化させていた。自らの帝国の安定と市場開拓のため、連合帝国にすら接近する始末だった。
 地中海でもサルジニア王国がイタリア統一に成功したが、こちらも地中海対岸への進出を強めるなど欧州勢力(主に英仏)の足を引っ張ること著しかった。
 つまり、欧州列強は一枚板にはほど遠く、広大なテリトリーを緩やかながらほぼ一つの政治的意志で固めてしまった連合帝国の優位は、もはや揺るぎないものと世界中が認識する程だった。
 しかも欧州で新たな動きがある中、連合帝国の躍進は続く。
 まずは、欧州諸国同士の対立すら利用してカリブ海を完全に内海化した事だろう。20世紀初頭には、南北アメリカの境界線ともなるパナマ地峡に巨大運河を建設して、大西洋への橋頭堡とマニトウ大陸の覇権を確固たるものとしていた。その一方で、シベリア・北海道、中央アジア地域では、ロシア帝国と度々条約を交わして可能な限り全面衝突を回避していた。海洋帝国たる連合帝国は、陸での争いを好まないのが理由だ。
 そしてトルコ、ペルシャなど中東地域への肩入れも強化して、エジプトのスエズ運河を包囲する態勢も形成。欧州列強の焦りをなお一層強めさせた。
 しかもアフリカ南部のケープでも積極的な活動を続けており、欧州勢力のいない土地に次々と探検しては、自国の旗を立てて包囲網を形成しつつあった。
 連合帝国によるアーシアンリング完成まであと一息と世界が見るほどの連合帝国の躍進ぶりだ。
 そうした地球分割の終末点が、連合帝国によるニュー・ヴァージニア進駐だったのだ。そしてそれを撃鉄として発生したのが、1917年から7年にもわたり続く世界大戦という事になるだろう。

 そんな現実と未来の事など何も知らず巡察艦からの迎えのランチを待つ少年は、その身で開戦の瞬間を体験する事になる。
 ・
 ・
 ・
 「フリューバル・ゴル・ヴァーリ」をインスパイアするなら、こんなもんだろう。日本マンセーな受けを狙うなら「太陽帝国」そのものも、このプロットでも良かった気がする(爆)
 それにしても、なんて日本マンセーな世界。さすがに苦笑を禁じ得ない。
 しかし、はやり大艦隊が帝国の首都直撃するというて戦法は再現できんなあ……。どうやって一万キロ以上の波濤を乗り越えてくるんだ??

 あ、そうそう、「土豚」「泥亀」を教えるのは、架空戦記界のヘタレ役、パスタ野郎の役目ね(笑)

閑話休題:
 原典は、『星界の戦旗4 軋む時空』(05年)で、ようやく初めての佳境に入ったように思ええます。
 次の巻では、帝都が三ヶ国軍により蹂躙されて数年を経たところからスタート。以後帝国は苦難の歴史を歩み主人公達が中興の祖と呼ばれる、みたいな流れになれば森岡浩之氏をなお一層評価できるんですけどね。スペオペならこれぐらいアグレッシブに展開してもいいだろうし、アーヴのあの傲慢さと鼻持ちなさは逆境にこそ光ると感じます。
 嗚呼、そうなってくれんかのう(笑)