■インスパイア・ファイル09 「風の谷のヤマト」 ●原典:「風の谷のナウシカ」
『風の谷のナウシカ』(かぜのたにのナウシカ)は、徳間書店のアニメ情報誌「アニメージュ」に連載された宮崎駿の漫画、および劇場アニメ化作品である。 自然と科学技術の対立、文明の破壊と再生を直接取り上げたものの一つである。
諸設定 (※とりあえず、人物設定は無視する。)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
●インスパイアへ
いうまでもないが、アニメ界の巨匠、宮崎駿の代表作。 見事な異世界、異文化が構築されている。その中に軍事的、地政学的な点も数多く紹介されているので取り組んでみたい。 だが、正直言って難物だ。架空戦記化するなど正気の沙汰ではないような気が強くする。なにしろ、映画版だと少女の奇蹟が世界を救わなくてはいけないのだ。 とにかく、順番に置き換えてみよう。
風の谷(+辺境諸国) 大国の辺境にある小国(辺境国家群)。かつて(原作では300年前)の大国だったため、その遺産ともいえる有力な戦術兵器を少数ずつだが保有する。おそらくは、航空機とするよりは有力な戦闘艦艇とする方が無難だろう。 つまり、辺境諸国を含む地域は、海洋国家群ということになる。 小規模ながらそれなりの海軍を保有するなら、最低でも沖縄やハワイ規模の地域を有する国家になるだろうか。 また、これらの小国群は、かつて強大な国家(原作ではエフタル)を形成していなくてはならないので、この設定も必要だ。
ペジテ 小国だが技術大国。この世界の大戦乱を呼び起こす兵器を発見(もしくは開発)してしまう。この国も辺境諸国に含まれる。 発展した経済、技術大国。今のシンガポールを少し大きくしたような存在と考えるのが妥当だろうか。
トルメキア 原作にならうならドイツ系国家となるだろうか。当然だが第二帝国だ。もしくは北欧的要素、ロシア的要素も持つので、それらの国々でもよいだろう。 やり口を思えば、英米でも問題ないほどだ。 それ以外は、その世界における白人によるスタンダードな大国以外の何者でもない。
土鬼諸侯連合 アジア系の宗教国家。原作では、インドや中東、さらには中華的要素も持つ。 これをどこかの国に置き換えるというのは難しい。架空戦記とするなら、軍事力を保持する列強にしなければならないので難物。 しかも、首都の深部には、古代の技術遺産が存在していなくてはならない。こればかりはインスパイアは難しいだろう。
各国の立地 原作の地図を鏡に映した形にすると、トルメキアがトルコ、エフタル辺境が中央アジア地域、土鬼がインド、土鬼首都がチベット方面となる。しかし、気候的立地条件を思うと南半球っぽい。(南の方が寒そうだから)
巨神兵 架空戦記的時代設定にするなら、開発中もしくは完成間近の核兵器がもっとも適当だろう。 20世紀半ばまでなら、これ以外の兵器は想定不可能だ。 かつての文明の遺産なら、多少時代をずらせば戦略原子力潜水艦や戦略爆撃機、核ミサイルなどでもよいかもしれない(なお、原作で最後の巨神兵は漢字表記の会社製だった)。
火の七日間 殲滅戦争。大災厄。20世紀内の人為的なものと考えると、核戦争しかあり得ないだろう。自然の大災厄なら、巨大隕石の落下が適当か。北米東岸から欧州を中心に、地球の半分が滅びるぐらいの一撃があれば良いだろう。この場合、ツングースの1000倍ぐらいの規模の破壊が架空戦記的な時代にあれば良いだろうか。
腐海+蟲 惑星レベルでの大自然の脅威。もしくは、人類の生存を脅かす「何か」。それ以外に設定のしようがない。 自然との共生などのテーマも汲むなら、大災厄の影響による大規模な継続的気象変動などと設定するのが妥当か。 ただし、大海嘯と呼ばれる大災厄を演出しなければならない。 つまり巨大な破壊力(もしくはそれに類する軍事力)が必要で、局外中立の超大国という存在でも構わないかもしれない。 いっぽう、人為的な操作ができる兵器としても登場しているので、単純にBC兵器としてもよいだろう。 もしくは、スペイン風邪のように疫病を計数拡大して発生させれば、人類に対する自然の脅威としては迫力がある。
蟲使い+森の人 文明を捨て、人外の世界の苛酷な環境で生きる人々。 しかし、放射能高濃度地帯で生物が住む事そのものは不可能。 となると、海の上で生きる人々になるだろうか。 そうなれば、腐海は海そのものとなり、海上気象の脅威が人類の生存を脅かす事になってそれなりにまとまるだろう。
少女の奇蹟が世界を救う 映画版(アニメ版)のテーマだが、これが一番の難問だ。ハッキリ言ってスルーした方が賢明だ。
※架空戦記のお約束上の問題点 実は大きな問題点がもう一つ横たわっている。日本の架空戦記である以上、日本に重要な役割、できれば主人公各の役割を与えなくてはならないのだ。 しかも、作品の流れをインスパイアするのなら、日本そのものは滅びているのがベター。これでは本末転倒になりかねない。 しかしヒロインは、自然と人の架け橋となる巫女としての役割を持つ。その国は自然崇拝の強い国と設定すると、日本もしくは日系国家はそれなりに相応しい国と言えるだろう。 つまり、時代のどこかで少しばかり日本人のテリトリーを拡大させてしまえば、日本列島の国家が滅びても日本人が物語の中心に立てる。 しかもこれは、似たような傾向の作品のインスパイア全てに対して応用できる設定ともなりうる。 今回はこの線で進んでみよう。 日本以外の日系国家というのは、ある意味新鮮にも思えるし、何よりアニメ的だ(笑)
なお、先ほどから言っているように、原作にはマンガ版とアニメ版があるが、設定や状況がほとんど食い違っている。アニメでは土鬼は出てこないし、風の谷とトルメキアは同盟関係にもない。立地条件も違う。アニメではトルメキアは西方の雄国だが、マンガ版の地図では風の谷の東南東に位置している。 しかも土鬼は、ストーリー内で国そのものがほとんど滅びてしまったり、中枢部に千年前の遺産が残されていたりと、架空戦記化するには多分に問題がある。完全にSFの設定を盛り込まないと無理だろう。 またアニメ版の方が圧倒的に認知度が高い。 それに私もアニメ版が好みだ。
だが今回は、マンガ版をあえて追いかけていこう。なぜなら、マンガ版こそ「戦争」をしているからだ。 私は本作を日本最高の末期戦マンガの一つだとも思っている。 末期戦を描く(書く)以上、格好いい軍人たちだけでなく、戦場で翻弄される普通の人々も公平に描くべきだ。それこそが本当の末期戦というものだろう。
さて、ごたくが多くなったが、そろそろ始めよう。 時間犯罪は、徳川幕府の鎖国制度の改変を前提として置いて、一気にハルマゲドンにまで雪崩れ込む。
●プロット
時代はまず17世紀にまで遡る。 日本の江戸時代初期。徳川幕府は、将軍の気まぐれで国外に放った間者から、オランダの陰謀を突き止める。南蛮人どもは、彼らの商売の都合だけで日の本を鎖国に追いやろうとしている、と。 激怒する将軍。撤回される鎖国。にわかに増強される軍備。 その後は、反動もあって開国路線を維持。 もっとも、欧州列強のような植民地獲得に奔走しなくても、アジア交易なら中継貿易で十分利益を得られる事、侵略戦争は朝鮮出兵で一度懲りている事から、江戸幕府は比較的平穏な数百年を過ごすことになる。 しかし、飢饉のたびに国外に移民を強引に送り出す政策だけは継続的に続ける。幕府にとっての危機とは、飢饉による内政不安の増大ぐらいだったという何よりの証拠だ。 この移民を人々は棄民と呼び、飢餓で死すべき定めの人々は、太平洋各地に分散。それぞれの地域で原住民と交わり、争いながら、各地に苦労してコミュニティーを形成していった。 しかし江戸幕府は、アジアの豊かな富を利用した交易にしか感心はなかった。棄民と呼ばれた一方的な移民に対しては、金目のものがある地域、税金を巻き上げられそうなところ以外はおおむね無視した。 この結果豪州大陸とその周辺部は、日本人および日系国家群(合藩連合)の支配に残るも、アメリカ棄民はアメリカ合衆国に飲み込まれる。東南アジア各地の日本人テリトリーも、一部の都市国家が生き残った以外、他のアジア地域ともども欧州の植民地となっていった。
そして20世紀。 19世紀半ば、日本本土には新政府が成立。 太平洋各地の日系国家は、それを政治的に受け入れることなく、そのまま自治独立の道を歩んだ。 もちろん欧米列強の植民地化を避けるため、時折旧宗主国を利用したが、彼らは日本列島から半ば独立した存在となっていた。 世界はこれらを含めて、日本連合帝国と呼んだ。 しかし、日本と日本人のそうした発展を皮肉るかのように歴史の歯車は回る。 世界は帝国主義時代から二度の世界大戦を挟んで、世界は様々なイデオロギー国家群により多極化。世界規模での対立の結果、1963年に三度目の世界大戦に突入する。 そしてその戦いは、最初で最後の核戦争となった。 アメリカ合衆国、ソヴィエト連邦、ナチスドイツ(欧州帝国)、大日本帝国(亜細亜帝国)。それらの国々が、自らの勝利をなぜか確信して先制核攻撃を実施。 見事なまでの相互確証破壊を行った。 後に七日戦争と呼ばれる大災厄だ。 この災厄により、当時30億に迫っていた総人口の三分の一が一ヶ月以内に死亡。その後2年を越える事が出来なかった人の数は、さらに5億人以上に達した。 大量消費文明社会の崩壊の瞬間だった。
大災厄から40年の歳月が流れる。 21世紀初頭。世界はいまだ混沌の縁にあった。 地球レベルでの世界機関は全て崩壊。大国と呼ばれるものも、地域大国の域は出ていない。そればかりか人類のテリトリーが大幅に減少。世界は飢えと貧困、そして争いに満ちていた。 災厄から10年の間を生き残った人々の数は、残った僅かな土地と富を奪い合いさらに半数になったと言われた。 当然ながら、文明は1世紀もの後退を余儀なくされた。 その後の文明・文化の発展速度も停滞。一部の革新的技術発明以外、停滞どころか後退するばかりだった。 21世紀に入ったにも関わらず、文明レベルは先端技術ですら20世紀前半に過ぎなかった。生活レベルも、列強ですら産業革命以前のレベルだ。未開地については言うまでもない。 それもこれも、当時の文明地域の過半が消滅したからだ。 アメリカとソ連は、各地の巨大クレーターを記念碑として滅亡。放射能の海に沈んでいた。土壇場の外交で失敗した日本列島など、ガラス状の表層が覆うだけの廃墟と化している。 中国大陸も惨禍を免れることが出来ずに多くが壊滅。毛沢東の言葉が妄言でしかなかったことを証明。生き残った後進地域を中心に小国が乱立するも世界から忘れ去られた。他の植民地地域はもっとひどく、生き残ったわずかな地域も白人が訪れる数百年前に逆行していた。 だが、アフリカや中国より悲惨だったがの資源地帯だ。それぞれの陣営の格好の攻撃目標となり、中東などの油田地帯の多くと南アフリカなど希少資源地帯が壊滅していた。 アジアでそれなりの国家を維持しているのは、かつてのマハラジャたちが各地を再支配して一種の連合国家(藩王国)となったインドぐらいだ。 唯一残った文明国は、本当の意味での先制攻撃にある程度成功し、当時、奇天烈と言われた防空網がある程度機能した中部ヨーロッパ地域だけだった。だが、これらの地域にしても、首都など重要都市の半分は消滅。しかも気象変動による気温低下と放射性物質の惨禍から、自らの祖国より逃れる他ない被害を受けていた。
いっぽう南半球の被害は、比較的小さなものだった。 必然と偶然の産物ながら放射性物質の被害も少ない事から、文明の最後のゆりかごとしての機能を維持していた。 そして南米には、欧州と北米の惨禍を生き残った人々と残された軍事力が殺到。首都など重要都市に数発の核を受けて混乱する現地政府を力で押しつぶして、新たな欧米共同体とでも呼ぶべきものを形成。いつしか、帝国と揶揄して呼ばれるようになる。 いっぽう豪州大陸は、南西部沿岸の主要都市が核攻撃で壊滅するも、それ以外は生き残っていた。欧米列強から遠かった事もあって、南米のような事もなく独立を維持。 そこにあるのは、多くは日本列島を祖とする人々の形成する小都市群。世界の破滅後に同盟と呼ばれる大陸全体によるゆるやかな連合体を形成。日本列島で生き残った人々と軍事力、その他様々なものを取り込む。そして、他と隔離された大陸という立地条件を利用して、破滅した世界で最も平穏な時を送ることになる。
そうしていくばくかの安定を取り戻したかに見えた人類社会だったが、世界が再建に向かったわけでもないし、人類は半世紀前よりはるかに矮小な存在となっていた。 多くは自ら起こした災厄が原因していた。 大量の核兵器使用と放射性物質の拡散は、それまでの生物の住める場所を著しく狭くしていた。しかも、核爆発による地形の変化と大気中にまかれたチリにより、大規模な気象変動が到来。それらを原因とする異常気象は、わずかに生き残った人類の生存を脅かすのに十分なものだった。 主に脅威だったのは、両極に近い地域での氷河の拡大。そして、気象変動によって恒常化するようになった超巨大台風群だ。台風発生地域の多くは、核兵器による破滅を逃れたにも関わらず、この40年を生き残る事ができなかった。 特に台風地帯は北回帰線を中心に広がっており、それらの地域に国と呼べるものは、気象条件の変化で超巨大台風群が少なかったインド以外に存在しなくなっていた。 台風の到来しないアフリカ大陸奥地にはまだ何か残っているかもしれないが、連絡が途絶えていて不明だ。もちろん、わざわざ赴こうという物好きもいない。
そうした混沌とした世界の中で歴史が動く。 豪州のとある工業都市で、世界を滅ぼした兵器が発射装置ごと発見されたというのだ。 しかも同時期、南米に新たに成立していた白色帝国とでも呼ぶべき国家は、自らの経済の断末魔的状況を打破すべく、大規模な侵略戦争を画策。 盟約に従い同盟関係にあった豪州日系諸国群を巻き込んで、人類世界で最も人口密度の高い地域、インド半島への侵攻を決定。 豪州の日本人達も混乱から無縁ではいられなかった。
旧豪州。この時代は単に大陸と呼ばれる地域には、様々な日系都市国家が成り立っていた。 その中の一つに風谷市というのがある。 この町は、小さな港湾都市。その名の通り風が強いのが特徴だった。 深く切り立った海岸を利用して、かつて大型貨物船用の鉱石積出港の一つとして工事が進んでいたため、水深の深い岸壁と簡単な整備施設が最大の財産だった。 だが岸壁は未完成なまま世界は破滅。 それ以外、周辺部に広げた灌漑農業と沿岸漁業以外ロクな産業はなし。 亜熱帯の海に面しているため、破滅的な台風襲来の脅威に怯える小さな国を形成しているに過ぎなかった。 付近には、沿岸部、内陸部に似たような国々が点在。それが破滅した世界に残された唯一の日系人テリトリーだった。 これら日系の町々は、江戸時代に日本列島から捨てられた人々が移住してできたものだった。改易や転封になった大名家が、自らの存亡を賭けてまるごと町を作り上げたものもあった。 風谷市もそうした町の一つになる。市とは名乗っているが、七日戦争から10年ほどしてから、事実上の王制に移行(逆行)。王家となるのはかつての大名家。そこに住む人々は、民心の安定を望むべく、かつての政治形態を望んだ。そうしなければ社会を維持できないほど、文明が後退した証とも言えた。 しかもそれは、破滅した世界のスタンダードと言ってよかった。王がいない場所は宗教が支配するのがその違いぐらいだ。 (以後、同盟=日系国家群、帝国=白人帝国、藩王国=インドとする)
同盟の彼らは、世界の破滅後に日本の破滅を逃れた船舶や人々を取り込んで細々と暮らしているに過ぎない。同盟が独立を維持できているのは、核戦争の難を逃れた旧日本の戦闘艦艇の存在があったからだ。 七日戦争後、洋上にあって生き残った旧日本海軍の艦艇はかなりの数に上った。しかし列島殲滅によって帰るところを失い、戦後同じ日系国家だった小国群に身を寄せるしかなかった。中でも豪州各地に残されていた日系港湾都市は、かっこうの時化込み先だった。中には、自らの武力を乱用して、列島日本人が大陸人を一時的に征服した町もあったが、結局根無し草にできる事は少なかった。 祖国を失った軍艦達は、同盟に吸収されるしかなかったのだ。 なお、日本が世界に先駆けて多数就役させた原子力潜水艦や巨大な原子力空母は、都市復興の発電所として重宝された。空母などはその通信、指揮機能を活かして軍事施設として以上の価値を発揮して長らく使われたほどだ。中には列強からの干渉をはね除けるべく、雄々しく戦った軍艦もあった。 もっとも今は原子炉も停止して朽ち果て、電子機器の全ては機能停止し、かつての高度文明のモニュメントと化している。 そして風谷市に身を寄せたのが、一隻の大型艦だった。未完成とはいえ、大型の岸壁と簡易ドッグがあるのがその理由だ。 その一隻の大型艦は、砲撃戦を主体とした戦闘艦艇を有していた。その名は「大和」。誕生してから半世紀以上が経過していたが、就役十年ほどで予備役編入。その後七日戦争の直前に航空戦艦に改装され再就役した艦のため、武器弾薬を満載したまま豪州にたどり着き、状態も良好だった。電子機器がなくてもどうにか運用可能というのは、この時代の兵器としては最高の条件だった。 戦闘をしようものなら、乗員が最低でも1000人も必要な事は市にとって頭痛の種だったが、機関や主砲など整備や生産の極めて難しいものは安定性が高い機械が多く、いまだ現役を維持していた。残念なのは、改装の際設置された飛行甲板を使って空を飛べる飛行機が激減している事。この世界の標準として、辛うじて生産・整備ができる旧式のレシプロ機が数機搭載されているだけだった。 そして、「大和」を始めとする軍事力を保持する同盟諸国に、帝国からの召集令状が届いた。 藩王国への大遠征の始まりだ。
その遠征出発の数日前。嵐を乗り切った一隻の小型調査船が、迎えに出た飛行機に導かれ風谷市に寄港した。 ひとつの噂を持って。
世界でも希少となった製鉄所を持つ工業都市の有する大型サルベージ船が、沖合で沈船を引き揚げる。 サルベージ船は製鉄に使うための屑鉄回収が目的だったが、引き揚げられたのは無傷の大型潜水艦だった。しかも背中が大きく膨れあがり、船体にはご丁寧に今は無き川崎重工の刻印まであったという。 それが確かなら、かつて世界を滅ぼした核兵器を満載した戦略原子力潜水艦に他ならないだろう。同種の兵器は、ドイツともども日本が熱心に整備を進めていたものだ。役目を終えてなお生き残った骸が、豪州海岸の各地に朽ち果てて残ってもいる。 だが、電気的な通信技術の過半が失われたこの世界で何が起こったのか知るには、現地に行く他それを確かめる手段はなし。辛うじて使用可能な無電にも工業都市は応じず。自分たちの唯一の遠距離移動手段である「大和」は、盟約に従い従軍しなければならない。 しかしその翌日、沿岸に出ていた水上機(軽飛行艇)が、一隻の難破船を確認。 何かを避けるように台風地帯を無理矢理航行したと思われる船体はボロボロ。浅瀬だったから完全な沈没を免れたに過ぎないものだった。だがそれは、ファンネルマークなどからくだんの工業都市のものと分かった。 ただちに救助を開始するも、時既に遅し。 工業都市の最後の生き残りは、用途不明の鍵を風谷市の人に託して事切れてしまう。 その翌日、帝国の戦闘艦が手順を無視して強引に寄港。 すわ戦闘かというところまで緊迫するが、互いに疑念を持ったまま彼らは引き揚げていった。 それはまるで、これから起こる混乱を告げるような不吉さだったが、「大和」は遠征へと出発するしかなかった。 でなければ小国に生き残る術はなし。 そして小国であるが故に、もう一つ苛酷が現実があった。 艦の指揮は、いつの間にか市の王族が担うものとされていたのがそれだ。しかも今回の指揮官は女性。その上少女に過ぎない。それが習わしとなっていたとは言え、あまりにも残酷な現実だった。 そして少女と「大和」を待ち受ける戦場で、彼女たちは本当の地獄を見ることになる。 ・ ・ ・ やっぱり、かなり無理があるなあ。 破滅した世界のあとに、架空戦記的状況を成立させようという事がそもそもの間違いだったのかもしれない。 どれほど方向修整をかけようとしても、あまりにも奇天烈な状況になりすぎて、もはや架空戦記とは言えないだろう。SFだ。 前後の歴史的流れを無視して、状況設定だけを使えばよかったのかもしれない。 それとも素直に戦術面の再現だけを目指して、ナポレオンのロシア遠征を利用してインスパイアすれば良かったのかも。
……状況的には、「未来少年コナン」が近いかなあ。