■日本「降伏」と欧州派兵
■日本「降伏」 「ノルマンディー上陸作戦」の失敗と、日本での首相暗殺とその後の政変のコラボレーションの結果、日本の「降伏」が早期に実現する。 ここでは、「降伏」した日本の降伏条件は何かを見ていこう。
何よりまず、史実の「ポツダム宣言受諾」による「無条件降伏」ではない。 「降伏」とだけ触れられているので、何らかの宣言を受諾したのではないだろう。 日本の政変が44年7月なので、「降伏」の10月までのごく短期間のうちに秘密外交、交渉の結果、話しがまとまったと見るべきだ。 そして恐らくだが、互いに日本の「降伏」に利益を見いだした結果の結末と見るべきだろう。
日本側の戦争終了の幕引きとしては、44年半ばくらいだと「降伏」ではなく「講和」を求めるだろう。 ルーズベルト大統領がカイロ会談で言い始めた「無条件降伏」は、国家として受け入れられるわけがない。 一方で、貧富の差、格差社会の中で不満を溜めた末に戦争を煽り、そして煽られた日本国民は、この段階で「降伏」など論外と考えるだろう。 政府が「降伏」を受け入れただけで、暴動や最悪国民に煽られた軍部によるクーデターも十分あり得る程だ。 日本政府、軍としては、自縄自縛、自業自得なのだが、ここをクリアしないと降伏したくても出来ない。
この世界では、史実同様に難攻不落と宣伝されたマリアナ諸島陥落という政治的に大きな衝撃と、史実より早い「B-29」による帝都空襲の心理的衝撃もあって、首相暗殺による混乱と政変、そして「ご聖断」により降伏する。 (※史実でのマリアナ諸島からの帝都空襲は、44年11月24日から。)
この時点での降伏で日本政府が求める最低条件は、「国体護持」つまり「自主独立の存続」だ。 次いで、戦争の遠因と言える、満州国を含めた大陸利権の承認。しかしこれは、アメリカの受け入れるところではない。 あと、戦争原因である、日本が国家として存続するために必要な諸々の保障が欲しいところだ。何しろ日本は、石油など資源を手に入れるために戦争を始めているのだ。 一方の連合軍は、早々にドイツ軍に全軍向けるだけでなく、日本軍も欧州に持っていきたいと考えている。 降軍を動員するのは勝者の権利の一つだが、欧州戦線が芳しくないからだ。
それともう一つ、連合軍ではなくアメリカにとって大きな政治的要素がこの時期に横たわっている。 1944年11月に行われるアメリカ大統領選挙だ。
この大統領選挙で、フランクリン・デラノ・ルーズベルトは前人未踏の4選を狙っている。 (※普通は2期以上やらない。今は制度化されている。) そしてその為なら何でもする気満々だ。 にも関わらず、選挙戦が本格化する6月に本命中の本命のノルマンディー上陸作戦が失敗してしまう。 日本に勝ったところで、相殺どころか失点の方が大きすぎる。
そしてこのままでは、ルーズベルトは大統領選挙に勝てない。 (※しかも史実の1944年の選挙結果は、得票数で見るとかなりの僅差だ。) その為の起死回生の一手として、日本を「降伏」させることは小さくない手段となりうるだろう。 日本との戦いに勝ったところで、ヨーロッパでの黒星のインパクトが大きすぎるが、無いよりマシだ。 しかも、欧州で短期間に戦況が好転する見込みはない。 「何でもいいから話しを早急に纏めろ」と、ルーズベルトがハル国務長官に言ってもおかしくないだろう。
降伏の調印場所は、連合軍が勝ったことを示す為に日本本土の帝都東京のどこかになるだろう。 しかし、史実での戦艦の甲板上のように、日本側に恥をかかせては話しにならないので、帝都内のどこかの施設内での調印という事になる筈だ。
しかし、条件が日本に有利すぎてはいけない。 また、ルーズベルト政権の得点とするのだから、「講和」や「停戦」ではなく、日本を形だけでも「降伏」させなければいけない。 「日本の連合軍参加」も、それなりに得点を上乗せできるだろう 何しろ今までの対戦相手をアゴでこき使えるのだ。
さてここで、連合軍が「無条件降伏」までに求めた対日要求を少し見てみよう。
●ハル・ノート(1941年11月) 1. アメリカと日本は、英中日蘭蘇泰米間の包括的な不可侵条約を提案する 2. 日本の仏印(フランス領インドシナ)からの即時撤兵 3. 日本の中国からの即時撤兵 - 中国(原文China) 4. 日米が(日本が支援していた汪兆銘政権を否認して)アメリカの支援する中国国民党政府以外のいかなる政府をも認めない 5. 日本の中国大陸における海外租界と関連権益全ての放棄 6. 通商条約再締結のための交渉の開始 7. アメリカによる日本の資産凍結を解除、日本によるアメリカ資産の凍結の解除 8. 円ドル為替レート安定に関する協定締結と通貨基金の設立 9. 第三国との太平洋地域における平和維持に反する協定の廃棄(※日独伊三国軍事同盟の廃棄を含意する、と日本側は捉えていたようである。) 10. 本協定内容の両国による推進
●カイロ宣言(1943年12月) ・米英中の対日戦争継続表明 ・日本の無条件降伏を目指す ・日本への将来的な軍事行動を協定 ・満洲、台湾、澎湖諸島を中華民国に返還 ・奴隷状態に置かれている朝鮮の独立 ・第一次世界大戦後に日本が獲得した海外領土の剥奪
以上二つの中から、日本にのませ易い条件が選ばれるだろう。 取りあえず無条件降伏は論外。一方で連合軍への参加と対独参戦が加わる。 そうなると、この程度の条件になるだろうか。
・三国軍事同盟の破棄 ・連合軍への参加 ・枢軸国への宣戦布告 ・欧州への即時派兵 ・全占領地域からの速やかな撤退 ・満洲、台湾、澎湖諸島を中華民国に返還 ・奴隷状態に置かれている朝鮮の独立 ・第一次世界大戦後に日本が獲得した海外領土の剥奪 ・中国国民党政府の承認。汪兆銘政権の否定 ・日本の中国大陸における海外租界と関連権益全ての放棄 ・日本国内からの軍国主義の追放 ・日本の民主化 ・日本政府と連合軍による、日本の国家体制と政治に関する協議
アメリカの求める事を満たし、さらに作品内の状況を再現するためにも、このくらいは必要になる。 だが、これではあまりに一方的過ぎる。 この条件を元に、猶予期間を設ける事、一部協議に応じる事くらいの一文か口約束も必要になるだろう。 それに、欧州派兵以前に日本は既に破産状態で、欧州派兵どころか戦争遂行能力自体を既に喪失している。何しろ日本海軍などは、燃料の供給を求めて南方に艦隊が直接向かわないといけないほどだった。 となると、連合軍と言うよりアメリカとしても「アメ」を見せないと駄目だろう。
・主権(独立)の保障 ・全ての連合国との国交回復(相互) ・全ての連合国との通商条約の復活(相互) ・全ての連合国との資産凍結解除(相互) ・アメリカ、イギリスによる最恵国待遇 ・アメリカ政府による、日本債務の一部請負 ・アメリカ政府による、好条件でのドル借款 ・円ドル為替レート安定に関する協定締結と通貨基金の設立
+派兵による恩恵 ・アメリカからの「レンド・リース」無償提供。 ・欧州派兵する日本軍兵士へのアメリカからの給与支払い。
つまり、「国が破産しない程度の最低限の金は出してやるから、全部差し出して血を流せ」という事になるだろうか。 日本の国家財政と経済状態は、もう火の車どころか盛大に燃え上がっているので、即時欧州派兵させるならこれくらいは必要だろう。 海外領土をはぎ取るのは、今後日本が変なことを考えないようにする為、アメリカが市場を手に入れる為、一応賠償としての体裁を整える為、くらいの理由になるだろう。 また一方では、海外領在住者への引き揚げ猶予、現地定住希望者の受け入れと企業資産、個人資産の保護、これくらいは最低必要だろう。 でないと現地で混乱が広がり、アメリカにとっての旨みが減って本末転倒になってしまう。 加えて、国が悪く国民は悪くないと言う体裁も必要だ。 その上で、その国は連合軍に参加するので、軍部は詰め腹を切る形で従わざるを得ない。 連合軍も日本陸海軍には容赦ないだろう。
そして日本が、もうどうしようもないと分かっている人達が政権を握った事もあり、話しはトントン拍子で進み、日本の戦後のための改革に邪魔な軍人はどんどんヨーロッパに送り込むという形になったと考えられる。 派兵される日本軍は、多くは派兵先からそのままヨーロッパに連合軍の手で送り込まれる筈なので、日本の中枢に文句を言いに行く事もできないだろう。
一方、連合軍側も自分達の代わりに血を流してくれるのだから、レンドリースもジャンジャンくれるだろう。 そしてこの過程で、戦後日本軍をアメリカ軍装備で染めていく大きな足がかりになる。 また一方で、日本と米英の相互理解が多少は進む筈だ。 そして相互理解が、戦後日本を形成する大きな要因になれば、史実に近い状態の日本となるための大きな道標になるだろう。
■欧州派兵
1944年10月に大日本帝国は連合軍に「降伏」。 即日、連合軍に参加して、ヨーロッパに大軍を進める。 日本の国内問題としては、改革の邪魔になる連中を遠くに引き離す事が目的となる。 また同時に、連合軍に差し出す人身御供だ。 では、どの程度の戦力が残っているのだろうか。
海軍については別ページを見ていただきたい。
● 1944年10月時点の残存艦艇 ●
大海戦がないので大型艦は多く残っているが、駆逐艦の損害は目覆わんばかりの惨状だ。 さらに言えば、1944年に入ってから艦隊に随伴して補給する高速タンカーなどがほぼ全滅しているので、日本海軍自体がもう有機的な作戦運用が出来なくなっている。 支援艦艇も工作艦「明石」の喪失を始めとして壊滅状態で、本土か油田地帯でしか活動出来なくなっている。 人で言えば、既に半身不随に等しい。
海軍航空隊も、台湾沖航空戦、フィリピンでの戦いをしていなかったとしても、既に質の面でガタガタだ。 もはや自爆攻撃、つまり「特攻」しかないと考えるほどになっている。 そう言えば、この世界の日本は「カミカゼ」をしていない。それだけでも、少し救われる気がする。
そして次の相手はドイツ。 だがドイツ海軍の潜水艦は、連合軍の手によってほぼ封殺されている。 ドイツ空軍も、ドイツ本土と一部の激戦地以外にはほぼ姿を見せなくなっている。 そして日本軍が向かうのも、比較的安全な地中海。海軍の主な役目は、侵攻船団の護衛と上陸作戦の支援。 主戦場に至ってはギリシアとイタリアだ。 しかもアメリカが、燃料弾薬は勿論、主に中古兵器だろうが多くの兵器を供与してくれる。 食う物に困らないとか、いくら弾を撃っても良いとか、日本軍将兵から見れば夢のような状況、イージーモードでしかない。 少なくとも、ソロモン、ニューギニアの惨状を知っていれば、連合軍である事のありがたさが身に染みるだろう。
なお陸軍の現状は、ソロモン、ニューギニア、中部太平洋、マリアナ、インパールで壊滅(※文字通りの全滅が殆ど)したのは、ザックリ5〜6個軍(軍団)。 これに、南洋やフィリピンへの海上輸送中の損失が加わる(※泣かずにはいられない悲惨な大損害)。 他は支那戦線(中国戦線)だが、こちらは打通作戦(一号作戦)を遂行中。兵員数的にも、こちらに日本陸軍の主力がある。(※しかも太平洋戦争までに、かなりの戦死者を出している。) 満州にも、かなりの数の兵力がまだ置かれたままだ。 内地(日本本土)は、ほとんどまともな兵力は置かれていない。史実通りだと、本土決戦の準備を始めようかという辺りだ。
一方、史実の終戦後に海外からの引き揚げた陸軍兵は、総数で360万人に達する。 この世界だと、戦闘が起きなかったフィリピンなど史実では戦死している人々を加えると、約450万人以上の兵士が海外に展開している事になる。 その中から欧州に派兵されるのは、損害のない装備や練度が一定程度以上の部隊となるだろう。 そして反抗的な連中となるので、満州、支那の部隊が多くなるだろう。フィリピンからも、装備が優秀だし司令官が皇道派の山下将軍だから、かなりの兵力が送られそうだ。 内地(本土)からも、司令部要員や連絡将校などの理由で、反抗的な将校が送り出されるだろう。 最初の派兵規模は、1個方面軍(3個軍=9個師団が基本)程度だろうか。
しかしギリシアはほぼ単独、さらにイタリアにも一定程度の派兵が求められる。となると、米英の船を借りてでもこの倍くらいは欧州に注ぎ込まないといけない。 連合軍も、日本軍の手抜きは認めないだろう。 しかも今までの戦地からの引き揚げ、復員を進めながら、欧州に駒を進めないといけない。 加えて様々な場所での支援部隊、支援要員が必要だ。 戦いよりも移動の方が大変な事になりそうだ。
それでも、輸送中に潜水艦が襲ってくる可能性はほぼないし、米英の船を借りれば日本軍の視点から見ればかなり楽に移動はできるだろう。 ただし現地の上級司令部は英米軍なので、言語の壁、人種の壁、そして昨日まで敵だったという動かし難い事実で、かなりの苦労をするのは間違いない。
派兵時期自体は、即時派兵だとしても最低限の準備が必要となる。しかも日本軍は、欧州派兵など考えた事もないので尚更だ。 そして日本軍で大規模な軍の移動となると、最低でも準備に3ヶ月程度は見ておかないといけない。 戦地も遠くヨーロッパなので、移動だけで1ヶ月近くかかる。 だから日本軍が地中海に出現するのは、早くても1945年の2月頃だろう。 史実ならば、「ヤルタ会談」が行われる頃だ。 もっとも、この世界はソ連の反撃が大きく遅れているので、まだヤルタでの会談は不可能だろう。 同じ時期に米英ソの首脳会談が開催されるとしても、どこか別の場所で行われている筈だ。 しかも議題は、今後の欧州での戦争と戦後の欧州の事ばかりで、アジア極東の話しは殆ど行われないのではないだろうか。 もちろんだが、連合軍入りしたとは言え敵だった日本が、重要な会議、会談に直接関わる事は出来ない。 最初から国際連合(連合軍)に加われるだけでも史実とは大きな違いだし、史実を知らなくても満足すべき結果だ。
一方で戦争自体はライン川くらいで終わるのだが、連合軍としては45年一杯くらいは派手に戦争する積もりで戦争展開をする筈なので、8月の終戦時点でも続々と兵力を送り続けている可能性が高い。 多くの日本軍将兵にとって、地中海についたら戦争が終わっていたという事も多いのではないだろうか。 (※連合軍的には、45年内に戦争終結(ベルリン進撃)を目指しているだろう。『クリスマスまでに戦争は終わる!』)
なお、主に派兵された陸軍は、欧州での戦いの洗礼に晒されて、大きなショックを受けるのではないだろうか。ドイツのデカイ戦車に散々に負けたりしたら、「重戦車教」に入信すること請け合いだ。 海軍も艦艇乗員の方は拍子抜けで終わるかもしれないが、航空隊の方はまともな敵部隊とぶつかる事があれば大きなショックを受けているだろう。 それ以前に、太平洋とは規模の違う欧州の戦争を見て、度肝を抜かれている事だろう。
加えて言えば、ドイツから見れば裏切り者なので、ひとたび日本軍と戦闘になると苛烈に攻撃されるのは疑いない。 イタリアは戦後もうまく付き合ったが、日本とドイツ(西ドイツ)の関係はあまりよろしくないかもしれない。