■第二次世界大戦直後から満州戦争にかけて


 ■概況

 第二次世界大戦後から満州戦争の期間、1945年から1953年にかけてが、日本が「戦前から戦後」になる時間だ。
 もしくは、55年体制と言う言葉もあるので、完成が55年でも良いだろう。他にも56年の経済白書に「もはや戦後ではない」と書かれたので、ここが節目でも良いかもしれない。
 しかし東京タワー完成が1958年なので、あまり遅すぎてもいけないだろう。

 とにかくこの間に、陸海軍が解散して兵部省(=防衛省)と自衛隊になり、内務省が解体されて内閣府になる。(※総務省は?)
 そして史実通りの大蔵省の天下が訪れる。
(※天地万物の創造者たる大蔵省主計局が出現するわけだが、作品内で実質的に滅びてしまう。)

 また、連合軍(=アメリカ)の大幅な介入を受け、連合軍から見て一番危険と考えられた国家神道が解体され、連動して日本国内の多くの体制、制度が変更されていくと考えられる。
 陸海軍の解体と所謂「文民統制」な自衛隊の存在も、裏ではアメリカが深く関わっていると見て間違いないだろう。
 そうしてアメリカ(とその他連合軍)の求めに従った上での改革が一段落した後の姿は、戦後日本にかなり近いのではないだろうか。

 当然だが、日本全体の「民主化」が連合軍の指導で強力に推進されている事だろう。
 でないと、アメリカは日本に対する戦争目的の表向きのお題目の一つ(軍国主義の打破)が達成出来なくなってしまう。

 一方経済だが、普通に考えると史実とはかなり違っている可能性が高くなってしまう。
 実質的に日本にとっての戦争が1年早く終わると、日本経済の破綻が少しマシになるからだ。
 これを史実に近くするには、史実と同規模のハイパーインフレで「円」の価値を落とすのが一番手っ取り早い。
 何より、史実と同じ「1ドル=360円」の金本位制固定相場が成立しないと、作中での経済のお話がヘタをすると桁の面で食い違ってきてしまう。
 何しろ支那事変前(1937年)の為替レートは1ドル=3円台だ。

 だが、戦争での天文学的な散財があり、戦後から満州戦争の間は混乱が続き、円の価値が急降下を続けるのは間違いないだろう。
 支那事変から戦後すぐの比較ですら、円の実質的な価値は4分の1くらいに落ちている。しかも奈落の底はまだまだ先だった。
 しかし、この世界は少し違う。
 戦争での天文学的な散財、海外領土の喪失、戦後の国内経済の混乱だけではやはり足りない。

 史実と違い、1年近く早く日本全体にとっての破滅的な戦争が実質終わり、国内の資産は空襲で破壊されず、国内の農業生産などは1年早く再始動し、海外資産も一部持って帰れるからだ。
 また、無罪放免される左翼勢力、在日朝鮮人、占領軍兵士が、史実のように日本国内で暴れ回る事も出来ない。
 特に日本が連合軍として戦争を終えて自主独立を維持し、さらに日本に占領軍がきていないので、在日朝鮮人は奪うどころか暴れる事すら出来ない(※当然、彼らの治外法権もない)。

 まあそれはともかく、史実と違いアメリカの財政支援が貧弱だったという要素を加えることで、「1ドル=360円」に持ち込めるのではないだろうか。
 また一方で、円の価値を一度どん底まで落としておかないと、戦争でうずたかく積み上げられた戦費の返済が出来ない。
 安い円を武器とした貿易立国としての高度経済成長も、前提条件が崩れてしまう。

 加えて言えば、出来る限り「日本人全員が貧乏」にならないと、「一億総中流社会」にするのが大変になる。
 史実日本が「一億総中流社会」になったのは、一度みんなが貧乏になった上で高度経済成長を成し遂げたからだ。他の道はあり得ない。
 そして「一億総中流社会」を体感的に一度実現しておかないと、戦後日本の完成にはならない。
 その点からも、円の価値は史実と同じにする方が良い。

 しかし、円の価値を落とすには史実と比べると時間的猶予があり、日本本土が空襲で焼き払われていないので、戦前から「持てる人」の資産は史実と比べると、どうしても相対的に保持される事になる。
 この点が、史実と違って「華族」「財閥」の存続を経済面で保障する要素にもなるだろう。
 中産階級、一部都市住民も同様だが、残された固定資産や金品以外の財産を保持するだけの経済力を、凄まじいインフレの中で維持するのは難しいだろう。
 ただこれでは、「財閥」集中の形がより強まりそうだ。
 だが、戦後の社会主義的な税制と独占禁止法を用意すれば、史実に近い状況に持ち込むことは十分に可能だろう。
 そしてこの世界にも、独占禁止法は存在している。

 しかし、あくまで近い状況、状態であって、同じではない。
 順番に見ていこう。

 ■日本の民主化

 史実ではGHQ(占領軍=連合軍)の強力な指導によって、日本の「民主化」が行われた。
 しかしこの世界では、少なくとも日本本土にGHQはいない。「降伏」時の講和の履行として連合軍からの指導はあるだろうが、民主化を行うのは日本政府となる。
 そしてその結果として、「財閥」と「華族」が生き残り、「農地改革」が行われていない。
 他は不明か、曖昧な点が多い。

 「財閥解体」と「農地改革」は、「経済機構の民主化」という括りで史実での「五大改革」の一つであり、この点が史実と違っている。
 だが他の、「婦人参政権」、「労働組合の結成奨励」、「教育の自由主義改革」、「秘密警察の廃止」は、戦後すぐではなくても行われていと考えて良いだろう。
 作中でも、それとなく触れられている事が多い。
 そして「独占禁止法」があり「公正取引委員会」が存在している事に触れられているので、「財閥」もある程度分散化や解体、もしくは企業グループ化が行われているだろう。

 また、占領軍が来ず軍事裁判が行われないので、「戦犯」がいない。
 当然ながら、明確な形での公職追放もないだろう。
 史実で第一線を去らざるを得なかった人、長期離脱を余儀なくされた人の多くが、日本の第一線で活躍し続ける可能性は高いだろう。
 一方で、軍人達のかなりが「もと軍人」になる事もなく軍人を続けている場合が多いだろうから、一般社会に人材が流れる事がないだろう。
 この二つの点から見ると、人の動きはかなり違った流れを見ることが出来る筈だ。
 しかし最終的に、収斂進化のように「戦後日本」が形成され、人々もその流れに飲み込まれていくのだろう。

 あと、史実の日本に近づけるには、大幅な憲法改訂が最低条件になるだろう。
 GHQがいないので占領軍憲法でもある「日本国憲法」は存在しないだろうが、「大日本帝国憲法」の大幅な改訂を連合軍から求められるのは間違いない。
 何しろ「天皇主権」の「欽定憲法」なので、「民主化」と真逆の存在だからだ。

 作中では「統帥権」くらいしか触れられていないが、「天皇主権」から「在民主権」に変更されているのは確実だろう。
 史実日本に近づけるのならば、陛下の「人間宣言」も行われている可能性も高い。
 また「憲法九条」はないと紹介されているが、軍事に関する条文内容が大幅に変更されている筈だ。
 他の多くの国の憲法でも見られるように、平和に関する文言も追加されている可能性も高いだろう。
 それ以外にも、史実の戦後日本に近いと想定するならば、憲法の殆どに手を入れている事になる。
 でないと、史実の戦後日本にはならないからだ。
 特に触れられていないが、憲法名自体も「大日本帝国憲法」ではなくなっているだろう。
 国号についても「日本国」に変化して、憲法上でも改訂されているのではないだろうか。

 ■戦後の日本の領土と人口

 第二次世界大戦の「降伏」で、日本は海外領土の大半を放棄していると考えられる。
 逆に、史実のようにアメリカに占領(+統治)された場所はない。沖縄に米軍基地は存在しない。
 作中でも、佐世保にしか在日米軍はいないと紹介されている。横須賀や厚木も、日本の基地のままだろう。

 史実日本より増えている場所は、南樺太と恐らく千島列島(当然、北方領土含む)くらいだ。
 しかも南樺太は、満州戦争で北日本が成立して分離する。
 後の事はともかく、日本が海空軍を維持している上に、日本が連合軍として第二次世界大戦を終えているので、日本と中立条約を結んでいてドイツとの戦争が史実より不利なソ連が手を出せるわけがない。
 しかし、日本の人口から推測すると、満州、朝鮮半島、台湾島は領有していないと考えられる。
 戦争中に、アメリカにほぼ奪われた南洋諸島についても同様だろう。

 それでも日本が無条件降伏していないので、史実とのすり合わせも考えると、クリアするべき点が幾つも転がっている。
 まずは、各海外領土に居住する日本人と、彼らが持つ各地の資産だ。
 史実では「引き揚げ」などと表現されているが、手に持てる限りの物と現金1000円(※1946年だと今の500倍くらいの価値)しか日本に持ち帰れてない。
 しかし、日本が主権(=完全独立)を維持したまま「降伏」して、しかも連合軍にまで参加しているので、この無茶苦茶は通じない。

 「満州戦争」で満州で発見された大油田(大慶油田)が、日米の参戦原因になっているほどだから、日本資産、日本の権利はかなり守られていると考えて良いだろう。
 何より現地の行政組織、軍が維持されている筈だから、現地の連中が何か文句を言う事も無理筋だ。
 かと言って、建造物や工場、鉄道、電信、社会資本など動かせない物を日本に持ち帰る事も出来ない。
 インドとイギリスの場合は、インドがプライドに掛けて社会資本を含めて全部イギリスに代金を支払ったが、「降伏」して領土を放棄させられた日本では、ここまで甘くはいかないだろう。
 どこかで落としどころが必要になる。

 一方で、現地に住んでいる日本人にしてみれば、日本に引き揚げろと言われても今更帰る場所などない者が多い。
 しかも日本本土には、300万人もの引き揚げ者に戻ってこられても抱える余裕がない。
 史実でも日本に引き揚げた人達は、それまで荒れ地だった場所や山奥など、過酷な場所に移り住んで一から開拓、開発をしている。
 成田空港の立ち退き問題にも、そうした背景がある。
 政府も戦後の食糧確保に苦労して、実質的な人口抑制政策にすら手を付けている。

 海外在住者は、出来ればそのまま定住したいと考える者が多いのは当たり前だ。
 作中でも、満州戦争でソ連は攻め込んだ先で日本人を多数捕虜として、樺太に送り込んでいる。
 つまり、そのまま定住を選択したか、引き揚げ期間が大きく延びているかのどちらかという事になるだろう。

 満州では、日本は満州の帰属を巡って連合国と交渉中だったと作中で描写されている。
 それに満州戦争時の満州には、軍事力は日本軍しかいなかった雰囲気が強い。そう考えると、少なくとも実戦部隊の米軍は入り込んでいなかった事になる。
 アメリカが日本の我が儘にブチ切れて、史実の韓国でのような事をしたのかもしれない。
 また、アメリカも中華民国もなるべく無傷で満州が欲しいので、事を荒立てなかった可能性は十分にある。

 しかし満州戦争で事態は一変する。
 しかも何とかソ連義勇軍を追い出したと思ったら、第二次国共内戦で国民党が敗北して流れ込んでくる。
 そして国民党(蒋介石)は、中華民国存続の為に、満州での支配体制を確立する必要が出てくる。
 アメリカの軍事力と資本力はともかく、日本に居てもらっては自分達の正当性が揺らいでしまう。
 個人として国民党に忠誠を誓う者以外は、一度追い出すより他無い。
 そしてそうする事で、満州から北日本に流れる日本人が数多く生まれるという形も整える事が出来るだろう。
 アメリカも、西側陣営としての中華民国を支持せざるを得ないし、日本への懲罰として受け入れさせるだろう。

 台湾も、講和条約で中華民国(国民党)に返還されているだろう。しかし満州に逃げ込んだ中華民国(国民党)が、維持できる道理がない。
 それに戦後の統治自体が、帰属の問題などで揉めつつも、満州同様に日本とアメリカ共同の可能性も高い。
 満州が揉めている以上、より日本化が進んでいる台湾が、先に話しが進んでいるとも思えない。

 恐らく戦後の台湾は、日本の統治が維持されている上から、アメリカ軍(+中華民国)による占領統治ではないだろうか。
 そして帰属でもめている間に、第二次国共内戦で国民党は敗退して台湾にも逃げ込む。そしてそのまま国民党の残党は満州へと移れば、国民党に台湾の統治能力と防衛能力はない。
 第二次国共内戦、満州戦争の後はアメリカ単独による占領統治を開始。満州戦争中に台湾各所に米軍基地が建設されるという流れにすれば、史実の沖縄のポジションに近くなるし、史実のオマージュとして相応しいだろう。
 そして日本からの独立という体裁を整え、1972年自主独立辺りが良いかも知れない。
 独立させても、中華民国は文句を言えないだろうし、共産中国には文句を言える海軍力がない。

 朝鮮半島は、アメリカ主導で独立するなら、李承晩が担ぎ出されるのは確実だ。何しろアメリカ視点で他にいない上に、いたとしても彼以下の人材だ。
 何しろ他は、今まで日本人だった者か、どうしようもないクズばかりだ。(※李承晩も、クリスチャンという以外、アメリカにとって評価するところはないらしいが。)
 そして李承晩が朝鮮半島でトップに立って朝鮮人による統治体制が作られていけば、早期に徹底した反日、排日政策を取るのは確実だ。
 金日成の出番はない。せいぜい、満州戦争の頃にソ連と地続きの朝鮮半島北東端で共産ゲリラをするのが精一杯だろう。
 当然だが、北朝鮮の成立する可能性もない。
 朝鮮半島は統一国家になるだろう。

 そして朝鮮半島から、日本は早々に出て行かざるを得ない。李承晩が、日本人の存在を認めるとは考えられないからだ。
 恐らく日本の海外領土から、一番最初に日本人が引き上げる場所になるだろう。(※支那本土と占領地からの引き揚げ除く。)
 逆に、日本からも朝鮮人(朝鮮半島人)を、可能な限り帰国させる筈だ。これは戦時中の一時労働者、徴用者が多数日本本土にいたので、やらないわけにはいかないからだ。
(※この世界は、日本にとっての戦争が一年近く早く終わっているので、大量の朝鮮人徴用、徴兵は起きていないかもしれない。)
 加えて、別の国になるのだから、帰化していない限り返すのが道理だ。
 一方で、主権を維持したままの日本は警察も軍も機能している筈だから、戦後の密入国は阻止できるだろう。

 なお、多少余談だが、在日朝鮮人達は史実とはかなり違う動きを取るだろう。
 何しろ日本は「降伏」するが、即座に連合軍に参加している。つまり「敗戦国」ではない。ついでに言えば、軍事裁判がないので「戦犯国」でもない。
 一方の朝鮮人は、「三国人」なって日本人ではなくなるので、「戦勝国」にすらなれない。
 仮に日本が負けたと言う理由で暴れたとしても、警察や軍隊に鎮圧されておしまいだ。
 それに、史実のように消極的味方になる占領軍(GHQ)もいないので、頼るべき者もなければ彼らが「事大」する対象もないので、暴れるフラグすら成立しないだろう。

 ただそうなると、戦後に在日朝鮮人の横暴がなくなり、史実での所謂「在日企業」は多くが成立しない可能性が非常に高くなる。少なくとも、駅前にパチンコ屋や焼き肉やがあるという情景は成立しなくなる。
 そして彼らが戦後の混乱期に、日本人から不当に得た財が存在しなければ、成り上がる者も激減するだろう。
 もちろん在日朝鮮人、在日企業にも地道に頑張った例も数多くあるが、やはり史実と同じという可能性は低いだろう。
 だがそうなると、日本国内でプロ野球のオーナー企業が一つ空いてしまう可能性が高いのが問題だ。

 一方で、朝鮮半島の国家が初っぱなから強い反日政策を取るなら、日本としても相応の対応をとらざるを得ない。
 史実と違い日本人が敗戦での凹み具合が小さいのは確実なので、十分な反発を示すだろう。
 日本国内に残ろうとする在日朝鮮人も、可能な限り帰国させる可能性すらあるだろう。
 そして日本が持ち出せる限りのものを朝鮮半島から実力で持ち出し、日本、朝鮮双方の人の移動を一度して、それで互いに国交断絶、と言う流れが可能性として高そうだ。
 朝鮮半島内の社会資本、固定資産の買い取りは、多分交渉すら成立しないだろう。
 そして戦後は、賠償と社会資本買い取りで揉め続けるのではないだろうか。

 ●戦後の日本の人口

 まずは、当時の日本とその周辺の人口を見てみよう。

 史実終戦時:
 日本本土の総人口 :約7200万人
 軍人の復員者   :約350万人
 民間人引き揚げ  :約300万人

 南樺太の人口 :約40万人
 台湾の人口  :約650万人
 朝鮮半島の人口:約2500万人
 満州国の人口 :約4400万人(※1942年)
 戦時中の在日朝鮮人:約190万人(一時労働者が過半)
 日本残った在日朝鮮人:約60万人
 戦後の不法入国者(ほぼ朝鮮系):約20〜40万人

 戦死者、戦没者合計:約310万人

 この世界では、戦死者の数は欧州での追加を加えても100万人を下回るだろう。
 民間人の戦没者数は、軍属を含めて5万人程度になる。
 加えて戦後の混乱、シベリア抑留もないので、死者の数はさらに数十万人減少する。
 ここでは丼勘定で約250万の追加とする。
 一方で、在日朝鮮人の戦後の再入国(密入国)を阻止すれば、20〜40万人ほどを相殺できる。
 兵士の移動、復員、さらに引き揚げは戦争中(1944年秋)から活発に行われる。そして欧州派兵が有っても尚、多くの兵士が日本へと引き揚げてくる筈だ。
 ベビーブームの発生、「団塊の世代」の登場は、半年から1年早くなるかもしれない。

 一方で史実と違い、海外の民間人のかなりが短期間で日本本土に引き揚げてこない。早いのは中華本土、南方と朝鮮半島くらいだろう。
 引き揚げ者が日本本土に溢れるのは、史実の1946年より少し遅い1950年代前半だ。
 しかも満州方面では、かなりの数がそのまま「北日本」つまり南樺太に向かう。
 また、ソ連軍が攻めてきた南樺太も、逃げ損ねた人はかなりの数に上るようだ。
 そしてさらに、日本全土からかなりの数の日本人が、「北日本」入りを果たす。
 最終的にどのくらいの数が北日本に向かうかは、21世紀に入る頃の総人口から推測できる。

・日本 :約1億2000万人
・北日本:約2200万人(日本民族は約50%)

 北日本の総人口の約半数が、日本人または日系人とされている。
 冷戦崩壊前にロシア人が移住してないと仮定すると、1980年代半ばの総人口は約1000万人から1100万人。
 日系人が約半数と仮定すると、日本人だけの場合の人口が700〜800万人と仮定できる。
 そして史実の21世紀初頭の日本の総人口が1億2700万人程度なので、この世界の日本との差し引きで700万という数字が出てくる。
 この700万人にプラスアルファした数が、南樺太に向かった人達とその子孫なのは確実だ。

 そして1953年から94年にかけての人口増加を日本本土と同程度と仮定すると、建国時期に北日本に流れ込んだ日本人の総数は400〜500万人となる。
 一方で、21世紀初頭で史実日本より日本が700万人少ないので、この面からの人口増加前を逆算すると400万という数字が出てくる。
 つまり単純な数字の上だと、史実での引き揚げ総数+100〜200万人が、「北日本」に流れ込んだ事になる。

 ただしこれだと、史実のように死なずに済んだ200万人から250万人が足されていない。この世界の場合、21世紀初頭で史実より300〜400万人の日本人がさらに多くなる可能性が高い。
 だがこの人数は、満州の遼東半島で助かった人と台湾在住者として、そのまま現地に残ったと考えると、かなりの数がけるだろう。
 残りは、貧しい時期の北日本では人口増加が低調だったと想定すれば良いかも知れない。
 もしくは、80年代までの日本人以外の北日本への移民、移住が少なく日系人比率が低ければ、これらの人々の分の人口も北日本に吸収できるだろう。

 一方、建国頃に北日本に流れるのは、海外邦人や国内の小作農だけではない。
 共産主義者、社会主義者のかなりが流れる筈だ。
 史実の1945年までの日本全土で、治安維持法の逮捕者は約7万5000人。
 1947年には、共産党員だけで10万人を数える。これに家族を含めると、30万人以上が共産党や社会主義運動、無政府運動の関係者という事になる。
 この上に、共産党以外の社会主義者など左翼活動家、シンパなどが数多く加わる。

 ただし、全員を北に向かわせるわけにはいかない。
 北日本ではない方の日本を史実に近い政治状態にするには、全員でないにしても社会主義、共産主義勢力が一定程度は残ってもらわないといけない。
 そして北日本成立が1953年だ。
 連合軍は、1945年の段階から日本の「民主化」を進めるだろうから、治安維持法は廃止され無罪放免となった共産党員などが活発に活動するだろう。
 史実同様にメーデーも派手にするかも知れない。
 農地改革もないし工場労働者も低賃金のままという表現が作中でされているので、左翼勢力が戦後の日本で勢力を拡大するのは容易だろう。
 そして北日本成立までに、かなりの数が日本での「成功者」となる。

 だから北日本に向かう共産主義者、社会主義者は、1945年から53年の間に競争に負けた連中だ。
 そして野坂参三の死去が1993年なので、彼を中心とした連中が北日本の中枢を形成すると予測される。

(※作中では、北日本を主導するモデルとなる人物は公表されていない。勿論、野坂参三のライバルの徳田球一は52年に倒れて53年に死んでいるので、野坂が北日本に行く理由は低い。実際、徳田の死後に野坂が共産党の頂点に立つ。だが、「征途」の指導者の川宮のモデルが野坂参三だと考えられるので名前を出した。)

 為政者はともかく、半数が移住するとなると15万人になるが、北日本の初期の人口から見れば誤差の範囲だ。
 ただそうなると、南北に分かれた共産党、社会主義勢力は、お互いを助け合うどころか蛇蝎のごとく嫌い、激しく敵対するのではないだろうか。
 何しろ内ゲバの好きな連中だ。