■満州戦争と第二次国共内戦


「満州戦争」は史実の「朝鮮戦争」に当たると考えられる。開戦時期は、やはり1950年だろう。
 そしてこの世界においても、第二次世界大戦後の東西冷戦の舞台として最初にクローズアップされるのが、満州を含む中華地域になる。
 ただし時系列は史実と違っている。

 史実では、第二次国共内戦の後に朝鮮戦争が起きている。だがこの世界では、満州戦争の後に第二次国共内戦が起きている。
 満州戦争が史実の朝鮮戦争の代わりなら1950年勃発となるが、様々な要因が開戦時期に関わってくる。
 また、朝鮮では曲がりなりにも二つの国が作られた後での戦争だが、この世界で満州に作られた東側の国家は、とても国とは呼べないものだ。
 そして東側で主に戦うのは、中華人民共和国(共産中国)の人民解放軍ではなく、ソビエト連邦ロシアの赤軍だ。
 一方の西側は主に日本とアメリカが戦っている。
 キャスティングの半分が史実と違っており、朝鮮半島は一言も触れられていない。
 果たして、どういう条件で一連の争乱は起きるのだろうか。
 幾つかのファクターが情勢を左右する。

:アメリカ軍が極東での大軍駐留を止める時期
・ソ連の兵士数(男子数)がある程度回復する時期
・ソ連の原爆開発時期
・中華地域での国民党の統治破綻の時期
・中国共産党の武装強化の時期

 以上が関わるのだが、「第二次国共内戦」が激化したのは、満州戦争の終盤と考えるのが妥当かもしれない。
 しかし史実とは違う点、もしくは違うであろう点が幾つかある。

 何より日本は、「降伏」したが主権は維持している。
 日本人は海外領土や占領地から計画的な引き揚げをするが、国民党、共産党が付け入る事が難しい。
 しかも中華地域の日本軍は、戦争中に欧州に派遣されるか本国(または満州)に移動する。この時当然ながら、史実と違って自分達の装備を全て持ち去る。
 そして満州の日本軍は、満州の帰属が決まらないまま駐留だろう。台湾、朝鮮についても、当面は同じになるだろう。
 そうして満州、台湾が、恐らくアメリカ主導で日本も残った形での占領統治が敷かれる。日本が帰順問題でアメリカに噛みついている以上、丸腰という事はない筈だ。
 作中でも、突然満州に押し入ってきたソ連の義勇軍と戦うのは、日本軍と触れられている。

 以上の事から、中国共産党の人民解放軍は日本軍の装備を得ることは出来ず、日本軍将校から軍事技術(戦術)を学ぶ事も出来ない。
 史実では、ソ連が占領した満州を解放軍の訓練場所としていたが、これも無理筋だ。
 この点は、訓練場所はモンゴルか東トルキスタン(ウイグル)、装備はソ連赤軍のお古となるだろう。軍事教練もロシア人に施してもらうしかない。
 また、内戦で国民党軍を地の利を得た満州の都市に引き入れ、兵糧攻めで破る事も出来ない。
 一方で、東アジアでの第二次世界大戦が一年近く早く終わっているので、それだけ中国共産党がゲリラ戦で華北地域に勢力拡大する時間が短くなっている。

 とは言え史実通りなら、第二次国共内戦自体の推移は、国民党が腐敗、圧政、悪性のインフレと豪快すぎるオウンゴールを決めまくるので、共産党の勝利に問題は少ない。
 国民党を見ていると、当時の共産党が輝いて見えるのだから始末が悪い。
 この世界でも変わらないだろう。
 そして国民党があっと言う間に負けていくので、日米が介入することも無理だろう。
 国民党の逃げ込む先は、台湾、香港、海南島、そして満州になる。史実と違って満州に逃げ込める分、逃げる人の数は大きく増える筈だ。

 しかし問題点もある。
 共産党の勢力圏は華北、国民党の勢力圏は、華中、華南だ。そして国民党は華北を占領していく事になり、最初に負ける場所も、共産党が日中戦争中から拠点としていた華北奥地(黄河中流域)になる。
 そして国民党が最後に逃げる場所が、地理的に台湾と海南島になってしまう。日米軍のいる満州に逃げ込むのは、最初の時点では南に逃げられなかった一部だ。
 だからアメリカと日本は、台湾や海南島に逃げた連中の多くを、満州に持っていかないといけない。
 思わぬところで、日米の海軍と船舶の活躍が見られる事だろう。台湾海峡では、人民解放軍と戦う『雪風』の姿が見られるかもしれない。
 また一方で、満州という地続きの逃げ場があるので、華北沿岸部の富裕層は満州へと逃げていくだろう。

 なお、史実で台湾に逃げ込んだ国民党とその関係者や資本家、富裕層、士大夫(土豪、名主)は120〜150万人程度。 
 史実では最後に踏みつぶされた海南島の分を含めても200万人には達しない。
 一方でこの世界では、華北地域から地続きで数百万が落ち延びて行く事だろう。
 ただし、そうなるのは少し後だ。

 史実では、日本軍が復員で装備を残して消えたところから彼らのゲームスタートだ。
 だがこの世界では、日本軍は戦争中に装備ごと消えるし、即日連合軍となるのだから、中華民国(国民党、共産党)相手に降伏手続きなどもしない。
 何しろ昨日の敵は今日の友だ。
 そして共産党にとってソ連から色々と援助してもらいやすい満州には、日本が居座ったままだ。
 国民党と共産党の陣取り合戦が加熱するだろうが、満州で日本軍が睨んでいる状態に近い上に、満州などにはアメリカが監視などの為にやって来るだろうから、表だって動くのは難しいだろう。
 本格的に動きだすのは、「満州戦争」が勃発してからで問題はない。

 その「満州戦争」は、第二次世界大戦での取り分が少ないソ連が、満州に浸透した中国共産党勢力を利用し、自分達は義勇軍という名を借りて攻め込むと紹介されている。
 史実では、戦前に満州の共産党勢力はほぼ駆逐されているので、新たに入り込んだ上で「満州人民共和国」などと名乗り独立宣言でもしたのだろう。

 しかしソ連軍は、致命的な問題がある。
 第二次世界大戦で若い男が死にすぎている事だ。
 戦後5年経っているので、ある程度若年兵を集めることは出来るだろうが、その上の世代が文字通り全滅している。
 人口ピラミッドを見ると、悪い冗談ではないかと思うほどだ。第二次世界大戦の後半も、よくこれで戦えたと逆に感心してしまう。
 しかもこの世界では、史実より酷い人的損害を受けている可能性が高い。
 だから、組織として第二次世界大戦のような大軍を仕立てることは難しい可能性が十分にある。

 「満州戦争」初期に一気に満州を制圧し、そしてあっさり全土を奪い返され、その後の反撃が核兵器頼りになったのも、兵力不足ではないだろうか。
 もちろん現地日本軍が不甲斐ない状態で、恐らく数も少なかったという要素もあるだろうが、核兵器を使うまでに追いつめられたのは、ソ連軍の方も十分な体制では無かった可能性が高いのではないだろう。

 それとも史実のオマージュで、アメリカ軍が出てこないとたかをくくっていたのだろうか。
 そして最初の奇襲攻撃による満州全土制圧以外で、大規模な戦争の準備自体をしていなかったのかもしれない。

 また一方では、史実と違い開戦時点でソ連は原爆開発に成功していないようだ。だが、ドイツを戦争中に蹂躙できないので、開発が遅れるのは必然だろう。
(※史実通りなら1949年8月に原爆を開発。)
 故に、核を盾にした限定戦争ではなく、図式としては単なる代理戦争の形となる。
 そして原爆については、ソ連がアメリカとの満州、樺太の政治的取引に使って爆発させているので、開戦時点で開発されていない補強材料となる。

 なお、作中の描写では、満州戦争の開戦時点で満州を防衛していたのは日本軍。しかし散々に負けて遼東半島に追いやられ、米軍と日本国内で新たに編成された自衛隊が押し返している。
 そして米軍は、史実の朝鮮戦争のように「国連軍」なおかは不明だ。
 史実朝鮮戦争のように、国連が開かれて国連軍が編成されたのかも作中では触れられていない。
 また、米軍(と日本)以外の国の軍隊が駆けつけたかどうかも分からない。
 だが、朝鮮戦争のオマージュとして存在していると考えられるので、恐らく史実の朝鮮戦争での流れで国連軍が編成されたと考えるべきだろう。

 ただそうなると、史実と違っているのが日本の存在だ。
 朝鮮戦争では、韓国が戦争当事者だった。
 だがこの世界での日本は、戦争当事者とは言い切れない。
 何しろ満州は帰属を巡って争っていたぐらいなので、中華民国への返還する場所の筈だ。
 現地駐留の日本軍が攻撃されたからだと言う意見もあるだろうが、満州自体の主権、帰属の問題がクリアできないと後々問題になりかねない。
 だからこそ、作中では新たに警察予備隊を編成したのかもしれない。
 ただそうなると、警察予備隊など日本が新たに繰り出した軍事力は、アメリカと同じく国連軍になるだろう。
 
 一方戦闘自体だが、ソ連軍の兵力が少なかったと仮定すれば問題はない。
 ソ連軍はアメリカ軍同様に正面から大規模戦闘を行う軍事組織で、それ以外は当時は考えていない。
 自由主義陣営側の反撃がうまくいったのは、戦争がゲリラ戦や陣地戦ではないので、ガチ切れした米軍の前にソ連軍(義勇軍)はあっと言う間に押し返せたからだろう。
 アメリカから見れば、自分の新しい財布にロシア人が手を突っ込んできた形になるので、日本以上にガチ切れする筈だ。
 また朝鮮戦争と違い、最初から実質ソ連軍相手なので米軍も油断しないだろうし、お互いに第二次世界大戦型の戦争をするだろう。
 史実での人民解放軍による、味方の人命無視の文字通りの人海戦術とゲリラ戦術がイレギュラー過ぎるのだ。

 しかし、事が満州だけに収まっていないので、この点は史実の朝鮮戦争と大きく違っている。
 また、国際的にも問題が多いと考えられる。

 満州戦争は、建前としては満州の国内勢力同士の争いであり、日米ソ軍はそれぞれ義勇軍か国連軍だ。
 つまり米ソの代理戦争という図式だ。
 だから米ソが直接戦っても、辛うじて戦争状態にならずに済む。
 だが南樺太は、日本領であって満州領ではない。
 そのまま攻めると、単なる日本とソ連の戦争になってしまう。

 ソ連側の仕掛けとしては、満州戦争と同じになるだろう。
 つまり、「真の道に目覚めた日本国民」が南樺太のどこか辺鄙な場所で独立を宣言し、それをソ連の義勇軍が支援するという形だ。
 最低でもこうしておかないと、日本との本物の戦争になってしまう。
 ソ連の企みに乗ってくれる日本人も、それなりの数を確保している筈だ。
 もしかしたら、この日本人首謀者が史実の戦時中に日本国外に居た野坂参三なのかもしれない。

 そして、日米とも満州以外に手が回らないのなら、互いに宣戦布告せず、なし崩しに認めるしかなかったという辺りに落ち着かせるより他無いだろう。
 また満州戦争では、恐らくどの国、勢力も宣戦布告はしていないと予測されるので、南樺太の戦闘も戦前の日本風に言えば「事変」、つまり「紛争」で片付けたのではないだろうか。
 加えて言えば、アメリカによる日本への復讐の一環であり、米ソの意図していなかったコラボで日本を虐めただけとも解釈できる。