■アメリカ、ソ連(ロシア)、その他の諸外国

 歴史が第二次世界大戦から少し違っている影響で、他の国々にも変化が見られる。
 軍事を中心に少しだけ見てみよう。


 ■アメリカ

 フィリピン帰還が叶わなかったマッカーサー将軍は、はたして元帥になれただろうか。
 史実ほど有名にならずに終わり、満州戦争でも違う将軍がアメリカ軍を指揮していたかもしれない。
 『征途』オマージュに従えば、パットン将軍が満州で暴れてそうだ。
 一方で、海兵隊が伝説になる写真(硫黄島)を撮る戦いを出来なかったのを始め活躍の場が減っているので、史実のような勢力を確保できているのだろうか。
 海軍については、沖縄の戦いをしていないので防空装備の開発への熱意が下がり、イージスシステムの開発に影響しているかもしれない。
(※特攻機への恐怖が、イージスシステム開発の心理的要因の一つと言われている。)

 さて戦後だが、日本(本国)を占領統治していないが、恐らく日本本土以外の日本の海外領土の多くを占領統治する事になるだろう。
 だが作中では、満州戦争勃発時点で満州には日本軍しか居なかった様子が描かれている。
 恐らく終戦当初に一度満州に軍を入れるが、史実での日本占領のように、満州戦争までに殆ど引き揚げているのではないだろうか。
 恐らくは台湾も似たような感じだろう。
 もしかしたら、アメリカ海兵隊の第三師団の拠点の一つが台湾かもしれない(※本命がグァム島。沖縄本島は、立地の良さはともかく政治的にあり得ない)。

 作中の在極東米軍は、大きくは満州、日本の佐世保が紹介されている。首都圏にはいないらしい。
 空母機動部隊も佐世保を拠点としているようなので、第七艦隊も存在していると考えられる。
 ただ佐世保だけでは、基地を拡張したとしても第七艦隊(海軍)と海兵隊の揚陸艦艇の二つの艦隊の(整備)拠点とするには少し狭い。
 即応部隊の待機場所も新設も必須だろうが、佐世保周辺ではまとまった土地の確保は非常に難しい。
 空母艦載機の基地も近くの大村では小さすぎる。
 恐らく別の場所にも、幾つか米軍基地が存在しているだろう。
 そして佐世保近辺が米軍でいっぱいになると、自衛隊は瀬戸内海(呉近辺)に即応部隊と即応部隊用の艦船を置いているのだろう。

 なお、この世界のアメリカ軍全体の軍事力だが、ベトナム戦争以後は史実より少し少ないかもしれない。
 と言うのも、日本の自衛隊の規模が史実の二倍あり、複数の空母機動部隊まで運用している。
 何より日本が、極東の地域覇権国家の役割を軍事力の面で果たしているからだ。
 少なくともアメリカ軍が日本を守る必要は、アメリカ側の政治的都合で提供する核の傘だけなので、極東での負担は少なくなる。その代わり満州防衛の負担があるが、これも日本と共に負担するので、史実での極東防衛より楽かもしれない。
 何より極東で中心になって動くのは日本であり、アメリカは満州防衛以外では日本の足りない部分を補うという形になるだろう。
 日本が地域覇権国家を求めるなら、過度のアメリカのプレゼンスは望まないだろうからだ。

 加えて、満州が経済発展して軍備も増強していれば、アメリカ軍はさらに楽になっている。
 さらに史実と違って北朝鮮がなく、その代わりでもあった北日本は南北統合で1994年に無くなっている。代わりに満州駐留があるが、日本の存在のおかげで史実よりもアメリカにとっての極東の安全保障の負担は小さいだろう。

 一方アメリカ国内だが、第二次世界大戦中に若干の混乱が見られる可能性がある。
 と言うのも、日本が「降伏」してすぐに連合軍に参加している。つまり、敵から味方に変わっている。
 そうなればアメリカ国内で強制収容した日系人は、国家の行動として解放しないといけない。日系人が取り上げられた資産も、分かる限りは返すのが道理となるだろう。
 何しろ日系人もアメリカ市民だから、アメリカという国家の理念に反するだけでなく恥になってしまう。
 そして戦後も、問題は尾を引くのではないだろうか。

 また史実日本ともリンクする事なのだが、ルーズベルトの元配下の一派であり、用済みとなってアメリカから放り出される所謂「ニューディーラー」の行方だ。
 史実では、ある意味ルーズベルトの遺言を果たすかのように、戦後日本を好き勝手にいじくり回した。
 お陰で史実日本は、社会主義的側面が多くなった。
 だが彼らは日本に来ない。
 日本の軍隊が維持され、「憲法九条」がない時点で、連中が日本本土に強い影響力を行使した可能性はない。また、「財閥」「華族」が生きていて、「農地改革」もないのだから、この点でも彼らは日本本土に来ていない補強材料となる。
 日本の海外領に行っている可能性はあるが、満州、朝鮮からは追い出されるだろう。影響を残せる可能性のある場所は、せいぜい台湾くらいだろうか。
 では彼らはどこに行くのか?

 やはり、最後に降伏するドイツだろう。
 辛うじて国土を蹂躙されなくとも、ほぼ確実に連合軍の主要四カ国(米英仏ソ)に分割占領統治を受けるだろう。
 そうなれば、アメリカから「ニューディーラー」が押し掛けて、彼らの理想や夢想をドイツに押しつけようとする可能性は高い。
 だが、地続きの欧州で、憲法九条のようなお花畑の平和憲法が導入される可能性もないだろう。
 仮に新憲法として取り入れられても、速攻で改訂されてそうだ。
 

 ■ソ連(ロシア)

 第二次世界大戦では、ほぼ確実に史実より人的損害、特に戦死者数が多くなっているだろう。
 しかも戦争がドイツ本土を戦車で踏みつぶす前に終わっているので、ドイツと東欧で「ヒャッハー!」な感じの掠奪ができていない。
 ドイツ人の捕虜(と事実上の強制連行)も、史実より数が少ないだろう。
 さらに対日参戦もしていないので、満州などでの掠奪も出来ていない。シベリア抑留もない。
 戦後の復興は、史実より少し大変な筈だ。

 冷戦時代の極東ソ連軍も、史実よりかなり大変だ。
 まず何より、満州に西側陣営の中華民国が居座っていて、主に共産中国向けとは言え大軍を保有している。
 それだけならともかく、その満州に米軍の大部隊が駐留している。
 満州国境には、早くから大軍を駐留させなければならず、ソ連の国庫に地味にダメージを与え続けるだろう。
(※史実のソ連極東は、中国の文革頃に満州に大軍を並べて対立を激化させた。和解したのは天安門事件の時。)

 しかも戦略潜水艦の基地となるペトロパブロフスク・カムチャッカスキー(と本命のヴィリュチンスク)は、日本領のままであろう千島列島の占守島、幌莚島から数百キロしか離れていない。
 偵察機どころかレーダーで監視される場所だ。
 しかもウラジオストックから向かうには、日本の目の前を二度も通らないといけない。
 その上北日本崩壊後は、宗谷海峡が完全に日本のものとなっているので、コッソリ通るのが無理になっている。

 さらに問題なのが、オホーツク海。
 史実では戦略原潜の配備場所なのに、蓋となる千島列島が日本領だからだ。
 最低でもオホーツク海の南部と東部をソ連が使えなくなるので、史実より窮屈な戦略を強いられるだろう。
 しかも北日本が併合されると、殆どが日本の勢力圏になるので、ほぼ使えなくなってしまう。
 その上、日本軍(自衛隊)が史実の二倍の規模で元気に動き回るだろうから、さらに窮屈度合いは増している。

 それらを見越して樺太に北日本を作ったが、文字通り一から国を作るのでしばらくは役立たず。
 ソ連軍を駐留させているだろうが、北の果てなので日本に対して限定的な牽制能力しかない。
 北日本が国力と軍事力を持っても、日本と海で隔てられている事もあって、ある程度の牽制する力しかない。
 その上、冷戦崩壊後に北日本はあっさり崩壊して、貸していた北樺太までが実質日本領になった。
 これでロシアは、オホーツク海を使えなくなる。
 ソ連(ロシア)にとって、ろくな事がない。

 なおこの世界では、日本の軍事力が大きく軍事バランスが違うので、北樺太だけが日本にとっての領土係争地域になる。
 ただロシアから見れば、弱すぎる属国に貸した土地が分捕られた事になるのだから相当ご立腹だろう。

(※尖閣は、共産中国が文句言う前に軍隊を展開した上で海底油田を掘って、掘り尽くしている可能性もある。竹島は国力と軍事力の違いから、問題が未発だろう。)

 そしてその北日本は、1970年代くらいには武器輸出の工業国として頭角を現すと考えられるが、ソ連から見ると痛し痒しだろう。
 利点としては、北日本への援助を減らせる事。ここまでは、北日本はソ連の援助で活きているような状態だった筈だ。
 また、北日本(樺太)という史実にはない同盟国のおかげで、ソ連極東経済が史実より少しは発展する点も見逃せないだろう。
 しかし武器輸出は、ソ連とバッティングしてしまう。
 北日本への同盟国価格での資源、食糧などの輸出も欠かせないので、収支決算的にはソ連(ロシア)にとって赤字になりそうだ。

 ついでに言えば、第二次世界大戦で対日参戦していないので、満州での大掠奪が出来ないなど、史実と違う点もあるのでソ連の国力は史実より少し小さい可能性がある。
(※東独、東欧相手には、戦後の占領統治の時に掠奪しているだろうが、それでも史実の戦争中の掠奪のような無茶は出来ないだろう。)

 それと作中関連の話しでもう一つ。
 ソ連崩壊の前後に、ロシア人の富裕層が800万人以上も北日本に持てるだけの資産を抱えて逃げ出している。
 当時のソ連の総人口が2億7、8000万人ほどなので、総人口比だと精々3%だが、持ち出した資産は3%で済まない筈だ。何しろソ連から「逃げ出せる」人々だ。共産党及びその関係者、高級軍人も多い事だろう。
 全員が富裕層という事はないだろうが、それなりの人々が多いだろう。
 持ち出すのは金融資産だけとしても、ソ連、そしてその後のロシアにとって相当大きな経済ダメージになるのではないだろうか。
 ぶっちゃけ、ロマノフの隠し財産どころの話しではないだろう。

 ただ、殺到するのは資産を持った人だけだろうか。
 近場、極東に住む人々がかなり含まれるのではないだろうか。
 史実での冷戦崩壊時のバイカル湖以東の極東地域の人口は、約800万人。北日本に逃げ込んだのと同じ数だ。
 そして冷戦崩壊後の極東地域は、産業の停滞などから人口は減る一方だ。(※2020年頃だと600万人程度と激減している。)
 それが分かっている人々が、北日本に逃げ出す可能性はかなり高いのではないだろうか。

 加えてもう一つ。
 人口1100万人の北日本が、共産中国より優れた核兵器を持ち、さらに大陸間弾道弾まで保有していたのは、ソ連崩壊前後に北日本に逃げ込んできた人達の影響ではないだろうか。
 ソ連は末期、そしてロシアになってから科学技術に金を使わなくなった(※正確には使える金が無かった。)。あぶれた科学者、技術者は非常に多い。
 そこに依然として、見た目は東側国家な北日本があれば、逃げ込むことを考えてもおかしくはない。
 さらに、ソ連崩壊でハブられる、軍人、高級官僚、党幹部なども逃げ出した人々の中に居る事だろう。
 彼らが資産の代わりに知識や技術を持ち出している可能性は、非常に高いのではないだろうか。

 ■その他の諸外国

  ■欧州

 作品展開初期は、東欧などかなり違った情勢のように見えたが、その後の作品内で史実とほぼ同じ状態に変更されている
 初期はドイツは統一国家のままで、ベルリンだけが東西に分裂しているという表現もされていた。東欧も「ソ連の取り分が少ない」的な描写で東側陣営の勢力が少ない印象だった。
(※欧州以外の地理、歴史も若干違う様子だった。)
 しかしその後の表現では、我々の世界と大きく違わないように見える。恐らくは、日本を含む極東アジア以外の違いはないと考えてよいのだろう。

 しかし、戦争終結の経緯から考えて、違っていると見て問題ないだろう。
 欧州での一番の違いは、第二次世界大戦のドイツの戦災だ。
 先に少し書いているが、この作品でのドイツは原爆を3つ落とされヒトラーが暗殺された段階で降伏している。
 つまりドイツ本土での地上戦をしていないし、ほぼ全土が連合軍とソ連軍に戦闘によって占領されていない。
 だから爆撃以外で国内は破壊されていない。
 民間人の戦没者の数も、数百万人少なくなるだろう。
 ケーニヒスベルグも、例えソ連(ロシア)領土になっていたとしても、歴史のある街並みが残っているかもしれない。
 また、ドイツの連動して、東欧西部の地上戦での戦災を免れている筈なので、史実とは少し違う景観が残されているかもしれない。

 ギリシャなどは、日本軍が奪還しに押し掛けてすらいる。
 この世界の日本は、ドイツを始めとして欧州での評判が悪そうだ。
 そして日独以外の主要枢軸国のイタリアだが、この国だけが史実より酷い目にあっている可能性が高いだろう。
 ノルマンディー上陸作戦失敗の穴埋めによる地中海方面での攻勢強化で、日本の大軍すらやって来てしまう。
 恐らくは、北部一帯を含むイタリアの全土が戦場になっているのではないだろうか。

 それとイタリアでもう一つ。
 史実でのイタリアは、連合軍に早々に降伏したが、結局日本への宣戦布告をさせてもらっていない。
 つまり連合軍としては、イタリアはあくまで「敗戦国」の扱いだ。
 それを考えると、「降伏」即連合軍入りで欧州は兵をさせられた日本との違いはなんなのだろうかと、少しばかり考えさせられる。
 日本の場合は、例え立場がどうあれ連合軍の旗の下、国家を挙げて戦ったので、「敗戦国」でありながらも「戦勝国」とも強弁できる。また、ある意味完全に寝返ったとも解釈出来てしまう。
 もちろんそれは同胞の血であがなった上だが、イタリアの場合は降伏後にドイツによって国が割れさせられたので、日本に対してかなり複雑な心境なのではないだろうか。
 
 
 イタリアの事はともかく、戦後の東欧の国境線と領土が少し変化しているかもしれない。
 特に東ドイツとポーランドは、ドイツの東プロイセン地方、シュレジェン地方がどうなっているかで、国境線が大きく違っている筈だ。
 史実のような民族大移動レベルの疎開(避難)が行われる前に戦争が終わっているので、恐らく第一次世界大戦後の国境線に近い形になるだろう。
 史実通りにしてしまうと、ポーランド領内に多数のドイツ人(民族)が住むことになって、混乱の原因となってしまう。
 かといって戦争が終わってからの大量強制移住は、流石のソ連でも無理だろう。
 だがソ連が、ポーランドから領土を「奪還」するのは確実なので、ポーランドは一番割を食う事になるかも知れない。

(※作品初期は、ドイツは東ベルリンだけがソ連の勢力圏で、ドイツはほぼ史実の統一同一状態のような描写があったが、今回の考察では史実とほぼ同じ状態と仮定している。)

  ■東南アジア

 史実と違い日本が早々に手を上げたので、酷い戦災を被っていない地域が多くなる。
 かといって、何かが大きく違うという可能性は低いだろう。

 戦災で言えばフィリピンのマニラの市街地が破壊されないので、世界遺産に登録されているかもしれないと言う程度ではないだろうか。
 それよりも、日本軍が降伏後即座に連合軍に加わって欧州に向かうので、戦後の東南アジア各地で色々やった旧日本軍将兵の活動が存在しなくなってしまう。
 組織と命令系統が生きている以上、史実のように個人として現地に残る事は無いはずだ。
 そうなると、インドネシアの独立の経緯が変化している可能性がある。ビルマ(ミャンマー)も少し違うだろうし、米軍が戦争の後にやって来るのならフィリピンの様相も違うだろう。
 また、各地の日本軍装備も日本軍将兵と共に戦争中に消えて無くなるので、インドシナ戦争も少し違っているかも知れない。

 一方で、戦災が少ないので、日本が戦後に支払う賠償金にも変化が生じているだろう。