著 者:高貫布士
発行日:2000年11月9日〜2001年6月5日
発行所:学研
「双頭鷲の紋章」、「双頭鷲の紋章2」、「双頭鷲の紋章3」
◆異聞・あらすじ
さて、第二回目ですが、今回は一転して比較的最近のものを見てみたいと思います。 皆様は、この小説をご存じでしょうか? 少しマイナーではないかと思うので、架空戦記マニアを自称する方でも多分知らない方の方が多いのではないでしょうか? 同シリーズは合計3冊から構成されており、一巻では、ロマノフ王朝の残党が、ロシアの手に残っていたアラスカに「東方露西亜帝国」と言う国を作り上げるまでと、反対にロシア全土を支配するに至ったソヴィエト・ヴォルシェビキとの対立の始まりを扱い、第二巻では「東露帝国」とソ連の対立を航空機育成を中心につづり、第三巻ではノモノンハン事変と東露帝国実験戦車部隊の戦いを描くものです・・・そして話はこれから! と言う所でストーリーは完結しています。多分、日本軍もドイツ軍も派手に活躍しないし、戦争面でやや地味だったから打ち切りになったのでしょう。社会面、経済面、歴史的背景、兵器開発史などでは実によく作り込まれていたんですけどねぇ・・・。 もちろん、20世紀半ば以降の中華大陸での抗争のロシア版(+ファンタジー)である事は、重々承知していますよ。 まあ、とりあえず知らない方もいると思うので、もう少し掘り下げて、当時の世相などを見つつ話を追ってみましょう。
あ、そうそう今回は趣味全開なんでメチャ長いです。
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ロシア帝国は、クリミア戦争により莫大な借金が発生し、これを何とかしなければならず、史実では1867年にアメリカの特使スワードが、$720万ドル(1エーカーにつき2セントという安価)で、ロシアからアラスカを買い受け、ロシアはこれで借金返済をしています。そして正式に1867年10月18日、アラスカはアメリカの領土となりますが、この時ですら、アメリカ市民は凍った何の役にも立たない大地を買ったことに対して「スワードの莫迦」と口々にののしり、その後、石油や金鉱が見つかるまでの間、アラスカは『スワードの巨大な冷蔵庫』と呼ばれたと言われています。 ですがこの小説では、ここで英国外交の登場です。 英国はカナダの端っこにあるアラスカ地方がアメリカ領土となっては、当時まだアメリカと対立バリバリだった事もあり国防上好ましくないので、一寸したコネを使い、ロシア人達があの凍った大地を苦し紛れに売り払う前に多額の借款を申し入れてしまうことで、歴史の流れが変えてしまうのです。 ここでロシアは瑞西の銀行とされているが、実際は「世界最強の金融王朝」とすら言われるロスチャイルド家から£740万ポンドの借款を受ける事で、アラスカを売却せずに済み、以後せっかく残った領土なので、時の皇帝(アレクサンドルIII世)がアラスカの大地を「皇帝直轄領」として直接統治し、以後「ロシア的」ではなく「西欧的」な実利に基づいた経営を押し進めて行く事になります。 当地は、帝政ロシアに付き物の官僚腐敗と正教教会の権威を皇帝直轄領とする事で締め出し、犯罪や革命の温床ともなる流刑地も一つも作らず、警備は皇帝に深い忠誠を誓うコサックに委ね、ロシア近代化の文明国へのショーウィンドーとして発展を続けます。 何ともスケールの大きな話です。これだけの手間暇かけた時間犯罪を目にするのは、いったい何年ぶりの事でしょうか。
さて、時代は進み、第一次世界大戦のさなかロシア革命が勃発し、呆気なくロマノフ王朝率いる帝政ロシアは倒れ、ソヴィエト・ヴォルシェビキがロシアの政権を握ってしまいます。 嗚呼、アラスカの命運や如何に! と、ここで、せっかく発展しつつあるアラスカの大地が共産主義という美名を掲げたゴロツキどもに荒らされたくない、つまり見せかけの共産主義に毛ほどの興味もないアラスカの真面目なロシア人達が行動を起こし、暗殺直前のロマノフ王家の人々と逢い、ここで四女のアタスタシア王女を救出に成功し、彼女を旗印にしてここに「東方露西亜帝国」が成立します。 そして、ここでもう一度、世界一のお金持ちロスチャイルド家の出番、「赤い楯」という彼らの家名からすると、何かしらの皮肉を感じる状況の到来です。 クリミア戦争後の借款の後、ロマノフ王室からの好意を受けた彼ら(もともと帝政ロシアはフランス系銀行を使っているが、スイス系の銀行に乗り換えているのがここで効いてくる。理由は言うまでもないでしょう)は、その後半世紀近くの間に世界一豊かな王家とされるロマノフ王室の資産、大国ロシア帝国の対外資産の全てを運用する程の信用を得ており、ロシア革命の結果を受けてもその正当な相続権は、ロマノフ王家最後の生き残りである、アタスタシア王女と彼女を軸とした東方露西亜帝国にあるとなり、ここに世界一のお金持ちのお墨付きもあって、またその背後にある大英帝国と自らの国防上の理由と英国のつながりを利用した大日本帝国が物理的な面での協力関係になります。さらに、ここで日系移民の活躍とその後の日本とのつながりにより、何とか独立を保っていたハワイ王国が顔を突っ込み、このカルテットにより北太平洋の新たな安全保障体制が作り上げられます。
さて、基礎が作られているとは言え、一から国を作らねばならない東露帝国ですが、どうしたもんでしょうか? その資金は、国民は、経済力は、軍事力は? もちろん抜かりありません。 資金面は、当面国民から税金を取る必要すらないお金がスイスを中心としたロスチャイルド家の財布の中にあります。しかも、彼らとしては世界が共産主義に覆われては商売上困るし、今更預かった膨大な金を、その後儲けにならないのが分かり切っている共産主義者などに渡したくもありません。 しかも、このロシア王家の資産はトンでもない額になります。 小説の中では、この時海外に逃亡もしくは預けられていたロシア資産は、ロスチャイルド家のおおよそ二倍ぐらいとされています。なぁんだ、たかだか一財閥の二倍かと思うかも知れませんが、かの一族の資産は1925年で3000億ドルに達し、世界の半分の資産は彼らの手にあるとすら言われています。さすが世界一のお金持ちです。成り上がりの某ソフト開発者など鼻で笑いたくなる額です。 そして、その二倍ですから6000億ドル。もちろん全てが純金や有価証券などではないでしょうが、こちらも目玉が飛び出るぐらい驚いてもよいお値段です。 ちなみに、この頃の史実日本の国家予算が20億円(8〜10億ドル)とか言っていた時代の事で、ロシアが日露戦争で使った額が20億ルーブル(=ドル)、第一次世界大戦で世界中が使った戦費の合計額が2000〜2500億ドルですから、この巨大さが分かると思います。 まあ、多分小説なのでかなりのドンブリ勘定なんだと思いますし、基準にしたものも違うでしょうし、推定も多く含まれていると思いますが、この世界ではこう定義されている以上、文句を言っても仕方ありませんが、まあ現実レベルとして60億ドル程度でしょうね。もちろん私はこの細かい数字は知りませんし、簡単に調べられるものでもなさそうです(笑) とにかく、莫大な預金とその資金運用の過程で生まれる利潤、アラスカの大地の開発により得られた資源により、人口から比べると実に巨大な国家予算が編成できるわけです。 次に人口ですが、東露帝国全体で100万人程度(現在のアラスカは60万人程度)とされ、これは今のハワイや沖縄県ぐらいとなり、これでは到底ソ連には太刀打ちできないので、ソ連からの白軍の亡命はもちろん、諸外国からの移民や帰化を奨励し、それでも足りない分は近隣諸国、つまり日本と英連邦のカナダからの出稼ぎ労働者でカバーします。また、欧州や満州などには亡命ロシア人が多数居住しており、これも準国民になります。このあたりは、台湾の事情に近いですね。 なお、帰化者の中には、「杉野はいずこ」で有名な軍神広瀬武雄の姿が隻腕となりながらも有り(例の作戦後、生死不明の間に軍神に祭り上げられ、祖国に帰れなくなった)、これまた半ば偶然アラスカに来て革命の難を逃れたアリアズナ=コヴァレスカヤ伯爵令嬢と結ばれたりしています。 そして経済力は、当面は膨大なロマノフ資産でなんとでもなるので、少ないながらも優秀な人材と日英のコネを使っての国土開発、重工業化が進められ、特に油田開発に力を注ぎ、建国10年程で資源国・産油国としてのし上がり、安定した財源も手に入れているようです。 最後にアカどもに対抗するための軍事力は、ヒロセ侍従長となった彼の親友天才秋山(弟)のプランに従い、軍縮で破棄される事になった日英の中古艦艇をごっそり買い込み当面はこれでしのぎ(と言っても弩級戦艦8、弩級巡洋戦艦8を基幹とする大艦隊)、さらにそれらが減価償却する10年程後に、日米との交渉の結果「八八艦隊計画」で破棄予定だった12隻の戦艦、巡洋戦艦以下、日英から日本海軍の半分以上に匹敵するぐらいの膨大な艦艇を新規建造で買い取ります。 なんともお金持ちとはうらやましいものです。 しかも、操る乗員の多くも、日本軍から傭兵契約で大量に雇用しているというオマケ付きです。もちろん、整備・補修もほとんど日本で行うという、日本にとっては至れり尽くせりな状態(笑) 艦艇の大量買い付けをあわせると、連合艦隊の半分を揃え、維持するお金が転がり込んでくるんですから、単純計算で年間数億円、貿易収入と考えるとその経済効果は計り知れないでしょう。 そして、アラスカという特殊な環境に適した、「砕氷戦艦」(2万トンクラス・当然低速・14インチ砲8門装備)という特殊な海防戦艦をさらに何隻が建造し、巻末でこの砕氷戦艦がアナスタシア女王陛下を乗せて、氷の海を艱難辛苦の末渡ってきたプジョンヌイ将軍貴下のソ連軍を相手の大暴れにより、幕となります。
二巻では、一巻とは打って変わって東露帝国の航空政策が多く語られます。と言うより、殆ど航空機の事だけで紙面が費やされています。 それ以外の面は、戦前の航空冒険活劇のようです。 そして、当然と言うべきか必然なのか、セバスキー、シコルスキーなどアメリカに移民または亡命し、社会的成功をおさめたロシア人技師が東露帝国でも腕を振るっており、日本の中島飛行機とアメリカでもそれなりの成功を収めていたシコルスキーが提携し、東露帝国に航空機を供給することになり、日本がでっち上げた人工国家「満州国」での大規模な航空機開発を始めます。 満州国は、史実と全く同じ経緯で日本の手により建国されるが、この世界では同じくソ連と国境を接する東露帝国と「潜在的同盟国」となり、資金的、技術的、人材的交流が活発に行われ、その象徴的なものとして、満州に建設される巨大航空機工場(現代のトヨタ自動車工場やアメリカのボーイング・シアトル工場並!)が建設されます。資金源はもちろん日本など足下にも及ばない、お金持ち国家東露帝国です。 なお、東露帝国は国民の数が極端に少ないので、その方面での投資が極端に低く済み、人件費こそ多数の雇用者(傭兵)により大きくなりますが、それを差し引いてもそこで浮いたリソースを、社会資本、各種工業プラントの建設、列強並の軍備の維持などに投資しています。 一方そのころソ連は、1930年代初頭までに制海権の有無から陸上侵攻で東露帝国を叩けなかったため、今度は航空撃滅戦を仕掛ける事とし、広大な領土を活用した縦深陣地をもって航空戦を有利に進めますが、東露帝国はそれに対してナント六発戦略爆撃機をもって対抗し、満州なども活用して、スターリンの野望をうち破り2巻は幕となります。また、ここでは前巻で登場した多数の装甲飛行船(ヘリウム型)が、今度は航空機を搭載した空中空母として再登場し、活躍しています。 何せよ金持ち国家恐るべし、と言うよりも、何だか英国とロスチャイルド家の陰が濃厚に見える気もします。
そして本シリーズ最後となった三巻では、東方露西亜帝国の陸上兵力、その中でも主力といえる戦車が主役となり、舞台は日本の傀儡国家満州国で、ここでの陸戦、つまりノモンハン事変が主になります。 今度の主役は、兵器マニアの心をくすぐる多砲塔戦車(しかもソ連のT-35を上回る某宮崎氏の悪役一号並の破壊力な上に随伴戦車もソ連戦車(BT-7)を上回る高性能!)です。しかも、この戦車を中心とした東露帝国実験戦車部隊(近衛重騎兵連隊)の名誉連隊長として、アナスタシア女王の娘のアレクサンドラ皇女殿下、つまり妙齢のお姫様(当然見目麗しい!)が座乗し、なぜか史実通り弱体な日本陸軍を後目に少ない兵力ながら奮闘し、その活躍を描く事でこの巻も幕となります。 何だか、兵器のラインナップを見ていると本当に戦前の冒険活劇を見るようですね。
当然、次の展開も大いに期待させるところですが、ここでシリーズそのものも幕となってしまうのでした・・・「完」
◆考証?
と言うわけで、以上が事の顛末になります。 それにしても、何だか宮崎アニメにしても、そのままフィルムになりそうな展開ですね。流浪の王女率いる亡国の縁に立たされた王国(かつての大帝国)、それを助ける世界中の優秀な男達、共通の敵と戦うため王国とスクラムを組む日英、悪の赤い帝国、裏で暗躍する巨大財閥、様々な架空の燃える兵器たち、そして最後に見目麗しい金髪碧眼のお姫様ときたもんですからね。もう、ルパン三世が出てきても、飛行兵が飛んでいても我が目を疑いませんよ(笑) 生半可な架空戦記などよりも、よほど豪華なキャスティングだと私などは思ってしまいます。 作者の意図も、このあたりにあったんでしょうね。 とここで結んでしまっても良いのですが、これだけの作品がここで終わるのは実にもったいない! と言う独断と偏見で、この作品の解体と考察、そして今後を考えてみたいと思います。
と言っても戦略的環境は、史実での中華人民共和国と中華民国(台湾)の関係でその多くが要約できてしまいますが、さて、この物語のキーワードは何でしょうか? アラスカ、ロマノフ王家、ソヴィエト連邦、共産主義、ロスチャイルド家、極東・北半球太平洋の安全保障(大英帝国、大日本帝国、アメリカ合衆国、ハワイ王国)、満州。大きくはこんなところでしょうか。 まあ、萌え萌えの王女様こそが最重要だとおっしゃる方もいるでしょうが、それはとりあえず横に置いておいて、まずはこの辺りの小説として以外の点を見ていきましょう。
まず第一に問題なのは、ロマノフ王家とロシア帝国の海外資産です。 いかに世界屈指のお金持ち王室と言っても、世界の半分の富を持つと言われるロスチャイルド家の二倍、6000億ドルというのは表記ミスもしくは資料ミスでしょう。なぜなら、日露戦争当時、つまりロシア最後の栄光残滓を浴びていた時期の国家予算が20億ルーブル(ドル)、第一次世界大戦頃でも.30億ルーブルに達していませんから、ロシアのGDPは多く見ても200億ドル程度(と考えると帝政ロシアの国家全体の総資産額が6000億ドルか? これなら少しは納得できそう)となるので、ここから考えると1915年頃の帝政ロシアの「海外」総資産を集めても6000億ドルには到底届かない筈で、頑張ってこの数分の1程度、純粋なロマノフ王家とロシア帝国の海外資産となると、最大でも一桁落ちの数100億ドルが限界、小説内にも年間国家予算数年分というくだりもありますから、作者もこの程度を考え、そのような資料を参考にしていたのではないでしょうか。 そこで、二桁落ちの60億ドル(120〜150億円)程度を私は仮定しました。このあたり、ロマノフの資産およびロシア帝国のあの頃の資産は、資料が少ないのでチョット正確なところは分かりません。スイマセン。 まあ、何にせよ王家の資産や国家財産など、この金融一族の前に持ってくれば、塵みたいなもんと言うことですね。 もっとも大帝国の海外資産ですから、その大半は純金、有価証券、各種債権、財宝など即現金に換金できるようなものが主となるでしょうし、これを扱うのが欧州を牛耳る銀行家なので、莫大な資金を元にした利益が得られる事でしょう。 さて、取りあえず間をとりもって(何の?)資産額は数100億ドルとして、ここから想像の翼を広げてみましょうか。 数100億ドルで何ができるか? 60億ドルと仮定すると、これは1920年代の日本の国家予算の5年分に匹敵します。単純に連合艦隊を乗員ごと養なったとしたら、20年もの間彼女たちの面倒が見れる事になります。 そして、銀行預金の金利が1%もしくは、資金運用委託による年間純利益が1%とすると0.6億ドル(1.2〜1.5億円)の国家予算が編成できます。これで人口100万人を養うのですから、単に小国を運営するダケなら税金を徴収しなくてもお金が余る事になります。 ただ、世界の敵ソヴィエト連邦の第一の敵として指名されるので、必然的に巨大な軍備の建設が必要で、その国是上自らロシア全土の奪回を掲げ行動するので、そう言った方面での活動資金もかなりの額になるでしょう。絶えず存亡の危機に立たされている小国を根城とする、コミンテルンに敢然と立ち向かう秘密のベールに包まれた国際諜報組織。何だか燃えますね。 これだけで、お話が一つ書けてしまいそうですよ。 と、脱線しかけましたが、もう少し妥当な線を考えると、まあ数十億ドルの資産を切り崩し、年間数億ドルがアラスカ油田採掘が本格化するまでの国家予算で、その後は大艦隊の維持などを考えると最低5億ドル(当時の日本の国家予算の約半分)で国家運営を行う必要があり、大きな採掘量を持つ産油国となればこの数字は容易に達成可能でしょう。 当然、巨大艦隊の建設や国力を越えた資源開発など建国初期に大きな買い物をいくつもしなければならず、また普通の銀行利息や資金運用による利益のようなものが定期的にしかも巨額に転がり込む事も難しいでしょうから、軌道に乗るまで元金もかなり減るでしょう。ですが、さっきも言ったように建国から10年もすれば、今度は巨大なアラスカ油田が稼働し(当然バックにはロイヤル・ダッチ・シェルなどがいるので技術も販路も万全)、日本・英国圏向け輸出を中心として巨大な利益を国庫にもたらし、中東の裕福な産油国のような財政状態になるでしょう。 それに、アラスカにはかなりの量の金鉱もあります。 もちろん、巨大な金融力を背景にした金融国家としての側面も強くなるでしょうし、これを欧州ユダヤ資本が全面的にサポートするのですから、太平洋で大戦争でも起こらない限りこの国の財政面での繁栄は約束されたようなものです。
次に国防ですが、ベーリング海峡を守る巨大な艦隊、アラスカ各地の沿岸要塞陣地、シベリア奥深く侵入する巨人爆撃機、少数精鋭を維持するための高度な装備と最新の機械化地上部隊。どれもお金と技術を必要とするものばかりですが、個人的には小説中の解説にそれ程文句はありません。唯一あるとすれば、巨大な艦隊の建設と維持でしょう。何しろ、初期において中古とは言え、日英の弩級戦艦、弩級巡洋戦艦を8隻ずつを揃え、それを中核に大規模な艦隊を編成し、建国から5〜10年後、つまり1930年代初頭に日本の八八艦隊計画の破棄予定の12隻の大型高速戦艦を中心とした連合艦隊の半分に匹敵する補助艦艇を抱えた大艦隊の建設です。しかも同盟関係にあるハワイ王国には、この艦隊が越冬するための巨大な根拠地も存在しているでしょうから、当然ここの建設を含めた経費の多くも東露帝国持ちでしょう。 まあ、乗員の過半が日英、特に日本からの傭兵で確保され、建造・整備は日本の施設を使うと言う事で平時のソフト面はクリアされていますし、資金面もまあ良しとしても、世界的な軍縮が実現している世界でこれだけの軍備を持つ事は難しいでしょう。 そう、これが一番の問題点です。 普通に考えれば初期の中古艦隊はともかく、新規編成の艦隊は現状の半分、多めに見ても小説の想定の7割程度、仏伊海軍程度の規模が限界ではないでしょうか。 史実での台湾に逃げた中華民国敵な扱いを東露帝国が受けたとして、「ロシア帝国」としての海軍枠を主張し、日英などが援護してもこの程度になるのではないでしょうか。それに、アメリカを刺激して本格的に敵対したいのならともかく、貧弱なソ連海軍相手では小説の数字ではいかにも過剰軍備です。 それでも1930年代後半頃にはイタリアやフランス程度と考えても、高速戦艦6〜8隻、巡洋艦20隻、空母数隻、駆逐艦40隻、潜水艦30隻、プラス規模に相応しい支援艦艇程度の大艦隊が北太平洋上に出現するのですから、これでも北太平洋のミリタリーバランス崩すのは、間違いありませんけどね。 けど、マニアとしては、かなり燃える展開ですね。連合艦隊の半分の戦力がひと揃え太平洋上に存在しているのですから。ヤンキー何するものぞ、咆吼したくなりますよ(笑)
さて、軍備の考証を出したので、ついでに極東・太平洋の安全保障状態も見ましょう。 この世界では、東露帝国以外にもハワイ王国が太平洋上に存続しており、しかも第一次世界大戦末期に東露帝国が建国され、彼らが自らの安全保障のため日英同盟を利用するようにして、この四カ国による安全保障体制を作り上げるので、史実通りにワシントン会議で日英同盟が破棄されても、日英にとっては影響は少なくなります。 しかも、東露帝国が近在にありソ連に脅威を感じる唯一の工業国として日本を大いにアテにするので、共産主義大嫌いな勢力でなくても、人種問題などで日本を外交的に虐めたり、のけ者にする事も出来ず、しかも東露帝国の一番の後援者である欧州ユダヤ資本がこの状態を維持するのですから、日本が欧州から睨まれる可能性は激減します。少なくともソ連が存在する限り、国際的に資本主義陣営での日本の将来は史実よりずっと安泰です。 しかも、日本もお金儲けのために積極的に東露帝国をバックアップするので、国際的信用度も史実より高いこと請け合いです。 状況は違いますが、冷戦時代の戦後日本のような位置に近いかもしれません。 まあ、何らかの形で満州事変を起こしても、実益の多くは欧州ユダヤ資本に持って行かれるでしょうが、日本の国家百年の安寧を思えば安いものです。全てを失っては何もなりません。 そして英国としても反共第一の国是ですし、依然仮想敵のアメリカを大いにけん制でき、様々な発注も日本の次に多くやってくるのですからそれほど文句はないでしょう。 全てに便乗した形のハワイ王国の利については言うまでもありません。 ですが、この状態を困っている国が二つ出てきます。 一つは言うまでもなくソヴィエト連邦で、もう一つはアメリカ合衆国です。 ソ連としては、旧帝国の残党が存在しているだけでも大問題なのに、辺境である東シベリア防衛、そして国家威信もありアラスカ攻撃を重要視しなければならず、この国庫負担はかなりのものになります。ドイツ、日本以外にもう一つ反共国家を抱える事になりますからね。 また、米国としては第一次世界大戦への参戦でせっかく欧州情勢、世界情勢に食い込み、英国との仲も修復しつつあったと言うのに、少なくとも太平洋方面では外交努力の多くがパーです。 アラスカというアメリカにとって厄介な位置に軍事強国が突然出現し、しかもその国はアメリカにとってアジア・支那進出の最大の障害となりうる日本と、アジア進出の目の上のたんこぶとなっているハワイ王国と連携、あまつさえ大艦隊を建設するだけでは飽きたらずアラスカ本国とハワイには巨大軍港まで作り上げている始末で、これを日本海軍までが利用しています。これは、北太平洋のみならず東太平洋、さらにはアメリカ西海岸の安全保障上の大問題です。 その上、欧州ユダヤ資本の力で早期に開発されるであろうアラスカ油田と満州油田(合わせると年間数千万トンの採掘量で、それぞれ単独でインドネシア全域の油田を凌駕する)のおかげで、1930年代半ばまでに日本(+アジア)に対する石油戦略も根底からひっくり返されてしまいます。 しかも、全ての元凶である東露帝国は、表面的には反共主義の急先鋒として存在し、アメリカを裏から支配すると言われるユダヤ資本の欧州方面の一族が総力を挙げて支援している有様ですから、外交的、軍事的に圧力をかけるなど思いもよりません。もしそんな事をする愛国心厚い大統領が現れたら、即座に暗殺される事でしょう。お金持ちを怒らせてはいけません。 だいいち、列強が犇めき将来はともかく当面の儲けが出にくい支那大陸進出のためだけに、反共傾向が強くこれと真っ正面から対立している日本を潰すなど、国際的視野に立った国家戦略からすればむしろ本末転倒です。英国が文句を言うのは当たり前です。 順当に考えれば、この世界で親共産、親中家とされる事の多いFDルーズベルトがアメリカ合衆国大統領となる事はないのではないでしょうか。国際ユダヤ資本にとっては、邪魔なダケですからね。とりあえずスチムソンは村八分決定です(笑) (もっとも、歴史の裏から見ると全く逆の状況も見えてきますけどね。)
あと、問題点は中華大陸問題です。 小説中で満州事変が起こっている、と言うことは日本は史実と同じ道筋をたどって、近代(欧州)外交ルールを無視した大陸政策を続け、挙げ句に英国などから総すかんを食らっているという、目も当てられない状態になっているとも考えられ、これは東露帝国によりねじ曲がった反共、北太平洋情勢と矛盾してしまいます。 困ったもんだ。 まあ、この点は書くと長くなりそうなので、後でもう一度考えてみましょう。
あと触れるべきは、小説で語られなかった各国の財政面、経済面での変化でしょうか。 と言っても、東露帝国の成立のおかげで史実から大きな変化をしているのはソ連と日本だけで、ソ連の場合は深刻で、日本はバラ色です。 ソ連は本来ロシア革命による民衆の解放と平等化という美名をかぶった大規模な粛正と帝政ロシアも吃驚の搾取により、ロシアの貴族、教会などの特権階級と土地持ち、金持ちから根こそぎ奪い去り、一般民衆からもより多く搾り取り、それを回転資金にしてスターリン念願の重工業化に向けて国を発展させる筈が、国内の余剰資金と国家財産など多くの海外資産を根こそぎ東露帝国に持っていかれています。アラスカという最後の逃げ道があるのですから、単なる海外資産だけでなく、1922年頃まで頑張っていた各地の白軍と共にアラスカに渡った亡命資産もかなりある事でしょう。有益な人間の多く、知識階層の多くも逃げ出す事は確実でしょう。これも台湾などを例に考えると同様の道筋をたどる筈です。 この影響を丼勘定で考えると、ソ連の五カ年計画は重要な第二期計画以降はいかに使い捨ての言われなき政治犯を活用しようとも金銭面で実行不可能であり、科学技術面での後退も激しく、四半世紀は資源輸出・農業を中心とした二等国として過ごさなくてはならないとすら予測できます。何しろ東露帝国は、帝政ロシアが数百年かけて貯めた財と知識を根こそぎ持ち出しているのですから。 そして、その莫大な財産の恩恵を受けるのが日本です。小説でも軍艦の建造・メンテナンス、軍縮で失職する筈の膨大な陸海軍軍人の大量雇用、大恐慌に際しての優先的な大規模借款、満州開発に対する資本投下、石油の安定供給などが触れられています。 つまり、「八八艦隊」建設・維持に必要だった資金の半分ぐらいの規模の外貨が日本に転がり込み続け、大恐慌では早期に経済・財政状態を立て直せるわけです。 「八八艦隊」建設の半分の規模の艦隊に必要な資金は、丼勘定で10年計画として一年あたり約2億円、その人件費を含めた維持費用を含め、東露帝国からもたらされる様々な外貨を合計するとおおよそ年間4億円ぐらいになりますし、陸軍の分野でも兵器の共同開発・製造、傭兵派遣などでかなりの外貨が入り、さらには純粋な貿易による益もあります。しかも、軍備は史実と同じで世界的軍縮傾向にあるので、この分の余剰国力が国内開発に向かいます。それらが消費でなく、収入として入るのですから、日本経済に与える影響は極めて大きなものになるでしょう。この額は恐らく波及効果を加味するとGDPの一割(GDPは税収20億円と仮定すると150億円程度)ぐらいになるでしょうから、国庫も必然的に一割上昇し、経済成長率も定期的な外貨流入により上昇傾向で安定、ついでに失業問題も、大量の傭兵と一般雇用もある程度は東露帝国に向ける事で解消できます。さらに大規模借款で国庫も銀行も安定し、史実での経済的混乱も最小限で済みます。高橋是清氏の苦労もかなり軽減されている事でしょう。 これが1920年代からずっと続くわけですから、国庫を史実の1割アップ、経済成長率をプラス1%としても20年後の1940年頃には、史実の1.3〜1.4倍に膨れあがっている事になります。つまり、国家予算30億円の筈が40億円になっているワケです。しかも造船、鉄鋼を中心に生産力が拡大し、必然的に設備は良くなり・技術者の数も多く、石油供給も安定していると言う状況で、です。何やら東露帝国を支えるために、大戦争の準備をしているような向きにも見えますが、1920年代から30年代の日本の基礎工業力アップの速度は年率7〜15%増しは間違いなく、史実の大東亜戦争最盛時の能力は楽勝ありそうです。 ついでに触れると、日本からは大量の陸海軍軍人が長期雇用(傭兵つまり全員志願兵扱いか?)され、しかも東露帝国の海軍規模は連合艦隊の半分に匹敵するので、こと海軍の将校、士官、下士官の人材育成は八八艦隊計画頃のまま継続されていないと状態を維持できなくなり、海軍ほどでないにしても大量に雇用されている陸軍の状況もあまりかわらないでしょう。と言う事は、日本は少しいびつな職業軍人の国になっているんでしょうね。傭兵大国日本というのは、新しいイメージかも知れません(笑) なお、日本人傭兵の数は、東露帝国の海軍軍人の大半と陸軍軍人の半分以上とされているので、単純に兵力量から推測すると第一線兵力だけで、海4万人、陸5〜6万人前後にまで膨れあがる計算が成り立ち(実際は少ない)、しかも、傭兵の階級は一度日本軍での任期満了後の移籍となるので最低上等兵程度で下士官・士官の数が異常に多く、当然これを支援する日本本土の軍属組織も大きくなり、これに本来の帝国陸海軍の将兵が加わるのだから、1920年代から日華事変をしている頃と同じ、海軍に至っては大東亜戦争時のような軍人国家ができあがり、その分失業率も低下している事になります。 そして、経済は常に上向きで安定、失業率も低いという状況だと、日本が史実のように軍部の暴走に走る可能性が極端に低くなるのではと予測できます。 少なくとも農村の貧困を原因とした「5.15事件」は、起きてないんじゃないですかね。 ・ ・ ・ さて、ようやく以上で小説の本来あるべき、だいたいの考証はクリアできたと思います。 総括的なものを見てみると、東露帝国は圧倒的な金融力を背景にした史実の日本の半分の国力と海軍を持ち、日本は史実の1.3〜1.4倍の国力・潜在的軍事力を実現し、ソ連は史実よりも発展速度が遅く、北太平洋全域は日英東露布・四カ国同盟の支配下で安定し、アメリカは太平洋・アジア外交が低調になり、アラスカ、満州では名目上の主人はともかくロスチャイルド家以下のユダヤ資本により開発、運営される、と言ったところでしょうか。 問題点は、日本政府の対中外交と極東安全保障外交ぐらいでしょう。(まあ、これが一番の問題点なんですが・・・)
◆The Day After 01
さて、ある程度(私が)納得できるいつもながらの強引な考証と状況解説をしてきたのですが、ここでもう一度小説に戻りましょう。そして、小説のその後についても考えてみましょう。
三巻では、ノモンハン事変が史実通り発生し、日本軍の敗北を以て幕を閉じています。さらに、この世界でもソ連赤軍の大粛正は行われているようです。また、小説ではあまり触れられていませんでしたが、ドイツではヒトラー率いるナチスが台頭し、史実と同じような道のりを歩んでいます。事実小説の最後では、ドイツがポーランドに侵攻したところで終わっています。 また、これも触れられていませんでしたが、満州事変による日本の国連脱退ですが、史実とは違った四カ国条約があり東露帝国が国家運営の都合と自らと同じ反共国家として満州国を必要としている以上、これを欧州諸国(国連)が認めない訳にはいきませんので、支那やアメリカがどれほど文句を言っても日本はそのまま国連に属している事でしょう。リットンさんも、わざわざ満州くんだりまで来ていないに違いありません。 小説でも英国は、史実と違い政治的沈黙という形で事態を肯定しています。そして当然これが欧州つまり国連の意志になります。恐らくは当面は、英国にとってのエジプトのような国際的位置で満州は固定される筈です。それにアメリカは、国連に属してすらいませんから、文句言うだけ無駄と言うものです(笑) なお、反共こそが国是である東露帝国と似たような状態、史実よりも強い反共国家になってしまった日本は、英国と同じ陣営に属していて、これこそがこの時点での結論で、しかも欧州の理論つまり欧州ユダヤ資本に逆らった時点で両国の亡国は確定なので、もうこの道を歩くしかない筈です。東露帝国に肩入れしたおかげで、日本は1930年代までに完全に欧州政治(+経済)に組み込まれているのです。 そして、1939年9月10日、史実と同じタイムスケジュールで欧州の戦乱の幕は上がるわけですが、この小説の世界では些か状況が異なっています。日英が依然として東露帝国とハワイ王国を巻き込んだ四カ国条約で反共同盟と太平洋での安全保障体勢を作り上げており、日独伊三国防共協定(後の軍事同盟)は締結されていません。それどころか、日英露三国防共協定が存在しているかもしれません。 これが、史実との最大の違いです。 時代を考えると、日米が対立していようが日本が支那で泥沼化しようとも、全ては刺身の鍔みたいなもんです。この当時欧州の意志こそが国際政治の主流で、反共こそが正義の御旗であり、アメリカは経済力だけある新興の傍流に過ぎません。
では、東露帝国についてはさんざん触れてきたので、彼の国の成立で最も影響を受けた大日本帝国について細かく見てみましょう。 当然ですが、日本帝国の流れは、第一次世界大戦、ロシア革命までは史実通りです。アラスカがロシア領だろうとアメリカ領だろうと関係ありません。むしろハワイ王国が存続している事の方が、対米外交上影響は大きいでしょう。ですから、日本にも変化が押し寄せるのは、東露帝国成立後です。 そして、四カ国条約締結と東露帝国による中古艦艇買い上げ、新規艦艇建造契約成立、軍縮で失職予定の日本軍人の大規模傭兵化、民間のアラスカ出稼ぎの大量出現などなど日本の外交、経済、軍事に多大な影響が出てきます。経済面に関しては、先ほど説明したのでここでの詳細は割愛します。 ただし海軍は軍縮条約が締結されているので、帝国海軍の規模は史実通りでしょう。ただし、大きく変化する点があります。兵器開発技術、潜在的生産能力です。1920年代に連合艦隊の半分を丸々ひと揃えするほどの海外向け新規建造を行い、日本と東露帝国の艦艇を既存施設で整備するための効率的なメンテナンス技術も必要になり、東露帝国と共同の航空機開発技術など主に海軍(+空軍)に流入、などが主な変化になります。 つまり、兵器の名称などが史実と同じでも、そこに使われている技術は必然的に高いものとなり、兵器の高性能化、後方支援技術、基礎工業力の進歩など、日本が欧米から遅れている分野での進歩は計り知れないでしょう。 それに、海軍休日が終われば、空軍重視へと傾倒している東露帝国から、日本がある程度艦艇を買い戻して短期的に戦力を向上している可能性もあります。 また、陸軍に関しては東露帝国陸軍の規模は知れていますが、東露帝国の関係で日本がより対ソ傾向が強くなり、また国家予算が増額するのでその分陸軍の大規模化もしくは重武装化、近代化が推し進められている筈です。この場合は東露帝国との関係を考えると、おそらくは重武装化、近代化でしょう。 東露帝国への長期傭兵雇用などを考えると、大正軍縮をしてなお史実の八八艦隊計画と同時期に計画された常設25個師団態勢が潜在的レベル(下士官・将校の数)で、実戦部隊は史実よりも重装備の状態で1930年代半ばには存在している可能性があります。それとも宇垣軍縮の折りに、兵力量は史実通りながら欧州陸軍並の武装レベルに達しているのかしれません。 架空戦記として考えると、かなり燃える状況です。 史実よりレベルの高い各種兵器、対ソ戦に備えた精強な陸軍、大量の現役状態の余剰熟練兵士。日支事変を経験せずとも、史実よりも精強な軍が成立しているのは疑う余地がありません。 特に陸海10万の現役兵を常にプール出来ているというメリットは、突然大戦争が発生した場合で大きくものを言って来ます。(史実の昭和までの軍は、多い時期でも27万人程度です。)
そして、一巻からのバタフライ効果を考えると、東露帝国のおかげで日英友好路線は継続なうえに反ソ傾向が強く、資源的に問題の少ない事も重なり、日本の外交と国防は史実の日本的対中政策重視ではなく、太平洋・北方重視プラス英国重視となり、さらにソ連は史実より国力が低く、国際的に反共ロビー活動する東露帝国もありますし、可能性として支那問題で日米の対立が大きくなり日支事変が発生する確率はかなり低くなる筈です。 支那問題は、むしろ英国以下の列強対アメリカになっている可能性が高いでしょう。 日本政府も東露帝国成立以後は、欧州列強利権保持の為、セッセと支那大陸での警察活動をしている筈です。何しろそうする方がお金が日本列島にやって来ますし、支那ではなく東露帝国に「恩を売る」と言う日本的外交を展開する方が自然です。 しかも、史実より遙かにソ連の財政状態が脆弱で、東露帝国が強力な反ソ活動をすると考えると、この時点で中国共産党がほぼ活動を停止している可能性も高く、支那大陸は英国をバックにした蒋介石率いる国民党軍の安定支配と言う可能性も高くなります。 そして、国際関係上国府軍を最もバックアップするのは、この場合アメリカではなく大英帝国になります。 なぜアメリカがアジアに目を向けられないかは、これまでにも多少触れているので割愛しますが、正面海軍力差から見ると分かりやすいでしょう。名称や数が史実と同じでも、そこに用いられている技術が高くなるのですから実際の日本海軍の戦力価値は何割か上昇しているからです。その上1941年夏頃には、史実よりパワーアップした対米決戦兵器「壱号艦」、「弐号艦」なども戦列参加します。しかも、東露帝国や布哇の事を考えないで、と言う状況でこれです。 これに、12隻もの日本製大型高速戦艦を抱えた東露帝国海軍が加わるのですから、合わせれば史実の大英帝国海軍以上の勢力になり、保有「戦略兵器」数の差から平時のアメリカ海軍では戦争など及びもつきません。つまり、アメリカ政府による強硬なアジア政策など、平時軍事力の差から不可能に近くなるからです。 ま、政治の世界はそれ程単純でもありませんけどね。
さて、史実よりほんの少し強く大きくなった日本と、いびつな国家東露帝国を抱えた世界はどういった方向に進むのでしょうか。 史実ではノモンハン事変がまだ完全には終わらないうちに、ドイツがポーランドに侵攻して第二次世界大戦が勃発します。そして、これまでの東露帝国に欧州大陸とドイツは全くと言って良いほど関わってませんので、史実の流れが変わる可能性はこの点から見るとかなり低いでしょう。 ただし、いくつか史実からの変更点があります。 日本とドイツが同盟関係になく、反対に日本は英国との関係を維持しており国連に属している事、英米の関係が史実より希薄な事、日英が史実より反ソ傾向を持っている事、そして史実よりはるかにソ連が弱体である事です。 しかも、ソ連の軍事力は東シベリア、アラスカに多くが向けられ、それまでの「内戦」により消耗しており、その内戦の間にせっかく鍛えられた兵士達も、大粛正で泡と消えて元の木阿弥です。 ただ、ドイツが反ソ政策を推し進め、その結果として四カ国条約に接近し、これをチェンバレン英国内閣が対独融和外交から了解すれば、史実の枢軸同盟よりも強大な反共国家連合ができあがり、ドイツがポーランド戦をせずに、そのままソ連戦を始めてしまう可能性も高くなるのではないでしょうか。 そして世界は以後、ドイツ以東からウクライナまでを征服した大ドイツ帝国と西欧による緩やかな冷戦に移行し、ロシアの大地はドイツの支配下になった(恐らくかつてのブレスト条約程度の割譲)地域以外の領土を復帰した東露帝国により分裂され、世界はアジア進出すら否定されたアメリカを蚊帳の外に置いた、史実の米ソ対立よりもゆるやかな、かつての時代の雰囲気を残しつつの新たな三極から四極の対立時代へと流れていく・・・となる可能性が高いように思います。 あ、そうそうアメリカの事を考えるのを忘れてました。
実はアメリカも、このアラスカには恨み辛みがある上に、土地に対してもかなりご執心のご様子です。 小説では、歴代の大統領が交代の際アラスカに関する書類を手渡すのが慣例だとすらされています。彼らは、何時の日かアラスカの全てを合衆国領土としてしまいたいのです。 ところが、英国の陰謀とハワイ王国の偶然の存続、そして極めつけに東露帝国の成立と、それとほぼ同時の東露帝国を含んだ日英の太平洋での連携です。 アメリカにとって良いこと無しです。 ハワイが日英に押さえられている事を考えれば、いくらハワイ周辺島嶼やグァム、フィリピンを植民地としていても、アラスカ=ハワイ=カナダの線でアジアへの道が閉ざされているのですから、目の上のたんこぶどころではありません。大圏航路は完全に閉ざされています。 しかも、第一次世界大戦後日本は世界第三位の海軍力と、自国よりはるかに弱体とは言えそれなりの工業力と経済力を付け、いびつながら強大な金融力と表面上の軍事力を保持する東露帝国と共に「反共」と言う美名のもと、ステイツのドグマである「西部開拓」、マニュフェスト・ディステニーを阻止すべく存在します。その上太平洋上にある仮想敵の総合戦力は、正面戦力と言う点において全合衆国海軍力すら凌駕しています。これを力で圧倒するには、ビンソン計画、スターク計画による軍備増強が完成しなければならない程です。 かといって、アメリカとしては英国とその背後にいる欧州ユダヤ資本が、少なくとも東露帝国は当面存続させるべきだと考えている以上、アジア・太平洋に手荒な手出しはできません。何しろアメリカ自身もその国際資本に属しているのですから。それに向こうは軍備は揃えているけど、向こうからアメリカと事を構える気は皆無です。 まあ、アメリカ側からヤルとするなら、ソ連が欧州方面の事情でアラスカに目が向けられなくなった時に、日本単独に難癖つけて全面戦争を吹っかけ、これを短期間で叩きつぶし、東露帝国支援国として日本の後がまに座り、アジア・太平洋を手に入れるというようなプランを入念に練らねばなりません。 そして、そのような都合の良い話は、そうそうできるワケありませんので、政府レベルでは暗い感情だけを高めつつ事態を傍観というのが当面の姿勢になります。
まあ、小説らしく東露帝国海軍中心で火葬戦記するなら、何らかの理由で1940年代前半のどこかで日米の間で戦端が開かれ、巨大な米軍に苦戦する日本艦隊を、東露帝国海軍が颯爽と登場して助け米海軍を撃滅し、それを以て戦争を短期的にはドロー状態に持ち込み、その後の欧州の混乱もあり結局もとの状態に戻る・・と言ったところなうえに、日本、アメリカ、そして主人公の東露帝国が活躍するので読者も「なるほど納得」(笑) さらに次の巻でドイツともどもソ連に対する戦争を吹っかけて復讐を遂げ、念願の祖国奪回も達成、ついでに世界に誇るエージェント達が、世界平和に邪魔なヒトラーを暗殺か何かで強制的に退場させ、全5〜6巻で華々しいカーテンコール間違いなし、世界は平和に包まれ「めでたし、めでたし」です。 東露帝国を主人公とした少しきな臭いおとぎ話は、これにて幕となります。
ご静聴ありがとうございました。
◆The Day After 02
さて、話を多少はマジメにに戻しますが、アラスカには東露帝国が存在するという状況が、日英連携、ソ連弱体、独伊欧州枢軸のみ、アメリカ孤立、ユダヤ資本は損得勘定の結果現状の日本現状維持を肯定という基本ラインを作り出し、そのラインに沿った状況で世界はどういう流れになるでしょうか? 日英、特に大英帝国としては、一番邪魔なソ連・共産主義政権をナチス・ドイツに叩きつぶしてもらい、その後東露帝国という錦の御旗で「鳶に油揚げ」モードが出来れば「めでたし、めでたし」です。 ソレが無理でも、ドイツと連携してソ連を叩きつぶし、ロシア領土をドイツ傀儡政権ロシアと東露帝国に分裂して対立構造に持ち込めば、取りあえず一番邪魔な共産主義も潰れるし、ドイツは生存権を手に入れおとなしくなり、東露帝国は念願の祖国奪回を許容範囲で達成し、日英にとっての潜在敵になる独露は大陸国家同士で対立状態に入り、潜在的にロシアの国際地位も低下で日英も満足してと、全員がそれなりに満足できるので、これもなかなか美味しいお話です。 まあ、その先にアメリカとの対立が待っていますが、史実ほど極端なアメリカ優位の状況にはならない事でしょう。
ただし、戦争のイニシアチブを握っているのは、困ったことに英国ではなく、反共と生存権の拡大という大目的のもとヤル気満々のドイツ第三帝国です。英国は外交、得意の二枚舌で世界を何とかする気は満々なのですが、大戦争までする気はありません。それが、二枚舌外交国家もとい、ダブルスタンダード王国じゃなくて、節度ある世界帝国と言うものです。 そしてさらに困った事に、小説では日本にとってのサタンにしてベルゼブブのFDルーズベルト大統領が、しなくてもいいのに夢の三期連続大統領目指して奮闘中で、自国の経済再建のため独ソを中心に他国が戦争になろうともお構いなしの自国本意なだけのなりふり構わない貿易を行い、アジア、支那への進出もヤル気満々です。その証拠にソ連や支那各勢力への資金援助や武器輸出をせっせとしています。ビンソン計画、スターク計画など自国海軍の増強にも余念なしでしょう。その上、やはりと言うべきか当然と言うべきか日本帝国は、日支事変を引き起こしています。 つまり多少異なりますが、状況は史実とあまり変わっておらず、少なくともアメリカは日本を叩きつぶしてアジア、支那を手に入れる気は満々という事です。 東露帝国なんてものがあっても、あまり気にしていないご様子です。さすが、手前勝手な正義大好きの世界一の経済国家と言ったところでしょうか。それとも合衆国政府は、史実以上にソ連のスパイの言いなりなのかも知れません。 困ったもんだ。 ・ ・ ・ 本作は高貫布士先生の作品らしく、歴史的な点をよく調べられ国際的流れを丁寧かつ順当に追われている点がよく見て取れるのですが、一巻以降の流れ、特に三巻の国際状況が史実とほぼ同じと言うのは、1920年代から30年代の流れが完全に変わっているのですから、やはりかなりの違和感があります。これだけの歴史的変革があってバタフライ効果が全くないという事はあり得ません。何しろ史実世界では、数発の銃弾が数千万人の死傷者を発生させた大戦争の呼び水となっていますからね(苦笑) もちろん娯楽小説なので、一巻はともかくその後は、可能な限り史実の流れを追う事で読者側の混乱を減らそう意図が見られます。だからこそ、本来変わってしかるべき歴史的流れがそのままなのでしょう。 では、ここからは、もう一度歴史的な流れの変化について軽く復習して、その後を考えてみましょう。
アラスカに東露帝国建国され、これが呼び水となり日英連携、ソ連弱体、独伊欧州枢軸、アメリカ孤立、ユダヤ資本は損得勘定の結果日本存続支持、太平洋の制海権は四カ国同盟によりアメリカの付け入るスキ無し、満州事変と満州国成立、その後満州には東露帝国の皮を被った欧州ユダヤ資本進出というのが小説の一巻〜二巻で敷かれた基本ラインです。 多少強引に解釈していますが、状況は全く違っています。 そして実利面で見ると、ここで一番重要で結局のところイニシアチブを握っているのが、主人公たる東露帝国ではなく、彼らのスポンサー的存在になるであろう国際ユダヤ資本とその中心にあるロスチャイルド家だと言う事です。 彼らなくして当時の国際政治は語れません(今も同じか・・・)。 一応ロスチャイルド家について軽く触れておきますと、ロスチャイルド家は18世紀のドイツ人系の宮廷ユダヤ人をその祖としているとされ、英国のスエズ運河買取、イスラエル建国において、一族の資金力を遺憾なく発揮したとされています。日露戦争で日本国債を大量に買ってくれたので、日本人にとっても彼らの行動は馴染み深いんですね。また、1925年の一族の資産は3,000億ドル、1945年には5,000億ドルに達していたといわれ、世界の富の半分を所有していると言われる所以がここにあります。しかも、現在でもその傘下にある企業は、世界で最も巨大な金融企業、エネルギー企業、報道機関、兵器企業を多数含んでいます。欧米の実質的なローマ皇帝は彼らなんです。これは、今現代においてもあまり変わっていない筈です。 まあ、MMR並に話半分としても、冗談のような巨大コングロマリットである事は間違いありません。もちろん、アメリカ五大財閥よりも巨大な筈です(と言うより、これも全部子分って気もするけど・・・)。 そして、この世界ではクリミア戦争後の対ロシア借款という形で国際政治を動かしてしまい、その後ロシアの対外資産の運用を任される事で史実以上に強大となり、さらにその後成立した東露帝国の最大の後援者になっています。その筈です。 そして彼らは東露帝国を使い、日本に彼らと抜き差しならぬ利害関係を作り上げたうえで、満州に手を出させて、これをかっさらっています。東露帝国が満州を生命線としており、そこに彼らの莫大な資本が投下されるのですから、これはどう取り繕おうと事実はそれです。しかも、日本と英国が東露帝国との利害関係で結びつけられているので、彼ら国際ユダヤ資本としてはアメリカ人の思惑はともかく、新興のアメリカ資本と合衆国を使って直接的にアジアを狙わなくても良いわけです。 彼らとすれば、あとは最大の敵のソヴィエト・ヴォルシェヴィキとコミンテルンを殲滅すれば支那・ロシア利権における野望達成です。何も知らずに頑張っている日本人にも、分け前を少しぐらい分けてやっても良いと考えるかもしれません。 そして、彼らにとってのもう一つの問題は、伝統打破を目的として台頭するナチス・ドイツです。 せっかく1930年代前半までに当面の極東問題を安定化させたのに、ここに来て自らの足下で妙な事になっています。 まあ、共産主義に対する自分で育て上げた番犬のようなものの筈でしたが、こいつも何とかしなくてはいけません。そう、ソ連を叩きつぶすには、強大な陸軍国家ドイツの復活が必要なのです。そのためには、同族の犠牲も目をつぶらねばなりません。 一番良いのは、ドイツを中心にしてソ連を殲滅して、その後にナチス政権をヒトラー暗殺かクーデターか何かで倒して、もう少し自分たちに都合の良い民主ドイツ国家を作り上げる事です。 でもまあ、ユダヤ差別云々はともかく共産主義よりマシな経済政策を標榜としていますから、後でどうとでもなるでしょう。
この辺りから第二次世界大戦の流れと数字的なものを順当に考えると、まず、ドイツが欧州を席巻しバルバロッサ作戦でソ連を殲滅し、何だかんだ言いながら日米はともに英国側に立って対ドイツ戦を戦い、ソ連を滅ぼしたナチス・ドイツを艱難辛苦の末倒し、アメリカは遂に欧州を手に入れ、ロシア帝国は廃墟となったロシアの大地に立憲国家として再生され、英国以下の欧州国家は戦争で気息奄々になり、ようやく邪魔者がいなくなったところで、戦後も泥沼の支那紛争を続ける日本を敵としたアメリカが、念願の対日戦争をしかける・・・と言ったところでしょう。 これなら、(欧米)世界のバックにいるユダヤ資本にとってはそれなりに満足できる結果になる筈です。東露帝国はロシアとして復活し、欧州は無茶苦茶ながら我が手に帰り、天敵のナチスも共産主義も撲滅され、根無し草の中国共産党も力をなくし支那大陸も我がモノ。ついでに、日本に一発かまして従えてしまえば、オレ様の天下完成です。 恐らく、これがこの世界で白人世界を裏から支配する国際資本のシナリオでしょう。 アメリカでルーズベルトが政権を担うのなら、このような流れが一番分かりやすく、そしてこれが小説の三巻から導きだされる結果だと思います。 (逆に、彼をアカとする全く逆の想定も成り立ちます) エンディング的には、立憲ロシア帝国(元東露帝国)皇帝の仲介と武力威圧で、強大な米軍の前に奮闘空しく廃滅寸前の日本がなんとかアメリカと条件付き講和し、ロシア人達が日本人に多少なりとも恩を返したあたりでカーテンコールというのが妥当な線ではないでしょうか。
とまあ、国際ユダヤ資本による「世界経済補完計画」達成を以て暗くエンディングに結んでも良いのですが、今までの経緯を見て分かると思いますが、結局の所一つの結果を想定するのは難しいと言うのが最終的な私の結論です。 だからこそ、作者はこの作品で作られた世界の先にある大戦争を採り上げずに、作品を完結としてしまったのでしょう。 これ以後の戦争を強い胆力をもって書けるのは、今現在の作家の中では数人でしょう。
なお、歴史的ターニングポイントと史実と食い違ってしまった国際関係などから、いくつか歴史的分岐があり、小説の三巻以降のエンディングは結局一つでなく、マルチエンディングになると思います。また、小説で触れられていない歴史的事件があるかどうかを考えるだけでも、この分岐は複雑化します。小説では「2・26事件」なども触れられていませんからね。
ルート的には、一番グッドエンドの「東露帝国ルート」があり、以下それぞれのルート、つまり「国際ユダヤ資本ルート」、「大日本帝国ルート」、「大英帝国ルート」、「ドイツ第三帝国ルート」そして東露帝国にとっても日本にとってもバッドエンドとなる「アメリカルート」と「ソ連(共産主義)ルート」があるわけです。 私にもう少し暇があるなら少し取り組んでみたい題材ですらありますが、他者の一つの作品にこれ以上言い立てても仕方ありませんので、最後に最も楽観的な想定での1942年頃の萌える、もとい燃える艦隊編成でも想定してみて、最後の言葉の代わりとしたいと思います。
人には、ファンタジーが必要ですからね(笑)
では、また次回に逢いましょう。
◆「太平洋1942」 双頭鷲の紋章:異録
前提条件 日本の国力は、1940年頃は史実の133% 東露帝国の平時財力(国力)は日本の半分程度 ソ連は史実の八〜九割程度の国力 それ以外の国家は史実とほぼ同じ
(1937〜8年)戦争遂行能力 本国人口 アメリカ 41.7 1.6億 ドイツ 14.4 8000万 ソ連邦 12.0 1.9億(史実は14程度) イギリス 10.2 4000万 日 本 4.5 7500万(史実は3.5程度) 東露帝国 2? 100万
備考1: 日本は、第三次海軍補充計画完成、第四次計画推進中。 アメリカは多少前倒しのビンソンプラン完成、スタークプラン推進中。東露帝国も各国の軍備を参考にしつつ、独自の海軍整備を推進(陸軍の規模拡大は、したくてもできない)。
備考2: 日本の造船能力は、東露帝国分の建造・整備と自国予算の拡大もあり大幅上昇していると見るので、史実計画通り進んだ場合の1945年程度とする。また建造スピードは、民間造船所にも熟練工満載な上に必然的な設備・技術上昇もあるので15〜30%程度上昇とする。 例をあげると、「大和級」戦艦なら1600日→1400日、「大鳳級」空母970日→810日、「雲龍級」空母なら740日→570日という程度の計算が成り立つ。 ただし、これでも戦時のアメリカよりまだ遅い。
備考3: 日本の軍用大型艦建造施設 各工廠 呉 :8万トンクラス船渠(戦艦用) 横須賀 :8万トンクラス船渠(戦艦用) :3万トンクラス船台 大神 :8万トンクラス船渠(戦艦用) :2万トンクラス船渠(重巡用) :3万トンクラス船台(空母用) 佐世保 :2万トンクラス船台(重巡用) 大湊 :2万トンクラス船渠(重巡用) 台湾高雄軍港 :2万トンクラス船台(重巡用) 民間造船所 三菱長崎:5万トンクラス船台 川崎神戸:3万トンクラス船台 川崎泉州:8万トンクラス船渠 他 大阪鉄工所、玉造船所、浦賀船渠、播磨造船、鶴見製鉄造船 ※これら民間5ヶ所は軍用ではないが、技術レベル的に中型空母もしくは重巡程度までなら建造可能
同時建造数・最大合計 大型戦艦:5 大型空母:3 中型空母or重巡:9 (これが恐らく史実世界計画での最大数値でアメリカの3分の1程度) (史実は、大型戦艦:3 大型空母:2 中型空母or重巡:2〜3程度)
また、大型戦艦:2(呉、佐世保) 大型空母or戦艦:3(横須賀、舞鶴、高雄)の整備・修理用の軍港の船渠もあり、状況の変化によっては艤装程度は可能。
そして、これら施設の整備だけで最低30億円の経費が必要になり、この世界の日本は1920年代〜40年代初頭の約20年かけてこれらを整備しているとする(特に軍縮条約に抵触しない民間造船所)。 ※なお、連合艦隊丸々揃える為の費用が、約40〜50億円である事を頭の隅に留めるべし。
備考4: 日本の石油事情は、東露帝国のアラスカ油田と満州油田、英国・欧州ユダヤ資本との経済的つながりにより潤沢で、当然国内の精油所、備蓄重油も多く、技術も高くなり、日本海軍の行動の制約にはならない。
備考5: 東露帝国海軍は、強力な戦略空軍を有する事と、北の不安定な海面と気象を相手にするための沿岸防衛海軍的な戦艦戦力が主力となり、空母はどちらかと言えば補助戦力。 小規模防衛陸軍、大規模沿岸海軍、限定的戦略空軍が東露帝国の基本性格。
備考6: 日本海軍では、東露帝国に「加賀級」が売却され、関東大震災で「天城」が大破・破棄されるので空母「加賀」は存在せず、かわりに「蒼龍級」として「雲龍」が建造される。
備考7: 史実での、軍艦「大和」を含む第三次海軍補充計画の総建造量約27万トンの予算8億650万円。これは39年に次の第四次が始まるので、2年分の建艦予算となる。そして、これを単純に33%増しにすると、10億7,000万円で、2.7億円ほど増額できる。つまり、もう少し気張れば「大和級」を2隻か3.5万トンクラスの戦艦3隻、または「翔鶴級」を航空隊込みで3隻、もしくは重巡6隻または軽巡8隻がさらに建造できる計算が成り立つ。 そこでここでは、史実の第四次計画の前倒し的意味を込めて少し気張ってもらい、「阿賀野級」4隻(約1億)、「大淀級」2隻(約0.7億)に対米決戦兵器である戦艦「信濃」を「参号艦」(1.3〜1.5億)として建造するものとする。なお予算が超過しているのは、初期建造費で計算するとだいたい収まってしまうからだ。
●大日本帝国海軍(1942年) 「大和級」戦艦「大和」、「武蔵」、「信濃」 「長門級」戦艦「長門」、「陸奥」 「伊勢級」戦艦「伊勢」、「日向」 「扶桑級」戦艦「扶桑」、「山代」 「金剛級」戦艦「金剛」、「比叡」、「榛名」、「霧島」
大型空母 「赤城」、「翔鶴」、「瑞鶴」 中型空母 「蒼龍」、「飛龍」、「雲龍」 「飛鷹」、「隼鷹」 軽空母 「龍驤」、「瑞鳳」、「祥鳳」 「大鷹」、「雲鷹」、「鳳祥」
重巡洋艦 「利根級」:2隻 「最上級」:4隻 「高雄級」:4隻 「妙高級」:4隻 「青葉級」:4隻
軽巡洋艦 「阿賀野級」4隻 「大淀級」2隻 「5500t級」:14隻 3000t級:3隻
駆逐艦 乙型:2隻〜 甲型:44隻〜 特型:24隻 その他:42隻 二等駆逐艦:29隻
他多数
建造中(含む予定) 日本向け 「改大和級」戦艦:2隻 「紀伊級」戦艦:2隻 「大鳳級」空母:2隻 「天城級」空母:2隻 「伊吹級」重巡:2隻
東露帝国向け 「大和級」戦艦:1隻 「大鳳級」空母:1隻 「伊吹級」重巡:2隻 防空巡:2隻
●東露帝国海軍(1942年) 「アナスタシアI世級」(大和級)戦艦 「アナスタシアI世」、「ニコライII世(建造中)」
「スワロフ級」(紀伊級)戦艦 「ボロディノ」、「ペレスウェート」、「クニャージ・スワロフ」、「スラヴィア」
「アリヨール級」(加賀級)戦艦(予備役) 「アリヨール」、「オスラビア」
「レトヴィザン級」巡洋戦艦(13号艦級or改紀伊級?) 「ポルタワ」、「レトヴィザン」、「ツェザレウイッチ」、「ポビエタ」
「ノーウィック級」(天城級)巡洋戦艦(予備役) 「ノーウィック」、「バヤーン」
「ピョートルI世級」砕氷戦艦 「インペラトール・ピョートルI世」 「インペラトリッツァ・エカチョリナII世」 「インペラトール・イワンIV世」 「インペラトール・アレクサンドルIII世」
空母 「ウラジオ・ザパート級」(蒼龍級)中型空母 「ウラジオ・ザパート」 「ダッチ・ポールト」
「ノヴァ・サンクト・ペテルブルグ級」(改龍驤級)軽空母 「ノヴァ・サンクト・ペテルブルグ」
重巡洋艦 「利根級」:2隻 「高雄級」:4隻 「ケント級」:4隻(うち2隻予備役)
軽巡洋艦 「リアンダー級」:8隻 「5500t級」:6隻(うち2隻予備役)
駆逐艦 「乙型」:2隻〜(計8隻整備中) 「陽炎型」:6隻〜(計12隻整備中) 「Afridi / "Tribal" 型」:8隻 「Kempenfelt / "C" 型」:10隻 「特型」:24隻 「平甲板型」:36隻(全て予備艦)
潜水艦 大型:14隻 小型:36隻〜(大量整備中)
旧式戦艦(12〜13インチ砲装備、1.5〜2万頓クラス) (海防戦艦、練習艦・工作艦など、一部布哇に譲渡) 「ポビエダ」 「シソイヴェーリキー」、「ナヴァリン」、「ニコライ二世」 「ウシャーコフ」、「セニャーウイン」、「アプラクシン」
●アメリカ海軍(1942年) 戦艦 「サウスダコタ級」:4隻 「ノースカロライナ級」:2隻
「コロラド級」:3隻 「テネシー級」:2隻 「ニューメキシコ級」:3隻 「ペンシルヴァニア級」:2隻 「オクラホマ級」:2隻 「テキサス級」:2隻 「アーカンソー級」:1隻
空母 「サラトガ級」:2隻 「エンタープライズ級」:3隻 「ワスプ」:1隻 「レンジャー」:1隻 「ラングレー」:1隻
重巡洋艦:18隻 軽巡洋艦:19隻 防空巡洋艦:4隻〜
太平洋艦隊所属(全戦力の75%を太平洋に回航) 戦艦:16隻 空母:6隻 重巡:14隻 軽巡:15隻 防空巡:2隻
建造中 「アイオワ級」戦艦:6隻 「モンタナ級」戦艦:5隻 「エセックス級」空母:8隻 重巡洋艦:8隻 軽巡洋艦:34隻 防空巡洋艦:4隻
他多数 ・ ・ ・ ま、普通に考えれば、米軍による真珠湾攻撃で始まるわけですが、1943年前半で戦争が終わるなら日東露軍の戦術的勝利は動かないでしょうから、とりあえず米軍の戦力の揃う1942年冬に開戦、1943年晩秋にマーシャル沖あたりで決戦といったところでしょうか。もちろんファンタジーですので、最後は日・東露連合艦隊の勝利ですよ。 東露帝国海軍なんかは、萌え萌えのお姫様陣頭指揮でロシアと日本、英国の熱い男達が力戦奮闘している事でしょう(w