論評・批評?・・・続き
さてお立ち会い。
まずは、驚天動地の「南アフリカ制圧作戦」です。 確かに驚きました。 オレ様吃驚です。目に鱗がはまった心境です(藁 インド洋の端から端までどのぐらいの距離があるのか、その間に日本軍の兵站拠点が存在するのかちゃんと考えてからこのサプライズ作戦したんでしょうかね。 いや、確かあとがきのどこかで進出可能みたいなこと書いていたと思います。 確かに正距方位図法による世界地図で見て日本列島からの進出は、史実での進出範囲から比較すれば一見可能なように思えますが、この作品の場合はシンガポールから向こうに日本軍(枢軸軍)の兵站拠点は全く存在せず、そのまま侵攻艦隊だけが南アフリカにまで足を伸ばしてしまっています。 しかも、そこに数万の陸兵を含めた大軍を送り込み、何だか楽勝で兵站を維持しているようです。如何に南アフリカの反英勢力の政権を早期に樹立して、食料などを現地調達するにしても驚天動地な作戦です。 確かに当時の戦略的状況で南アフリカを奪えば、イギリスの戦争計画を根底から揺がす事になるでしょうが、とても地に足が着いているとは思えません。後からでいいから、中間の補給拠点としてセイロンかアッズを攻略するとかしてほしかったように思います。 いかに当時のインド洋の連合軍戦力が希薄だったとは言え、無茶にすぎるんじゃないでしょうか。 もちろん、着眼点は面白いと思いますけどね。
でまあ、その後数ヶ月もしたクリスマスあたりにイギリスが沽券にかけて奪回に乗り出してくるワケですが、その大艦隊をこれまた奇想天外な手段で撃滅してしまいます。こいつもサプライズです。幽体離脱並に地に足がついていませんね(藁 もちろん、3巻で見られたような、対英向け援助船団を丸ごと拿捕してしまうなど、私の理解を超えています。と言うか、この世界の連合軍海軍は簡単に逃げ切れなくなった末にいとも簡単に逃亡を諦め、やたらと「降伏」してしまいます。しかも洋上で自沈もせずに。 プライドのかけらも見られない行動です。 これも私の常識の戸棚にはないサプライズです。もちろん意図してやってるんでしょうけどね。 しかし、この時期に枢軸側が南アフリカを押さえる効果の高さは、作品内でも何度も触れられているように非常に大きなものがあります。 英国にとって、希望補ルートの交通線が遮断され、南アフリカの様々な資源、兵站がなくなるのですから、戦争遂行能力とその後の戦略的状況そのものに影響を与えることは間違いありません。 連合国による「アーシアン・リング」を一時的でも遮断してしまうことは、兵力の移動のみならず、兵站コスト面で非常に大きなメリットとなるでしょう。
でこの次の段階ですが、日本は開戦10ヶ月で、英仏蘭に宣戦布告して彼らの東南アジア植民地を全て蹂躙し、さらに南アフリカへ奇襲攻撃してしまいまました。 特に南アフリカ制圧(解放?)により、大英帝国の生命線とされる「3C」、カイロ、ケープタウン、カルカッタを結ぶ巨大な三角形で現される事の多いシーレーンを突き崩してしまった事は、英国(連合国)にとって番狂わせもいいところで、しばらくは血相を変えた英国と南アを巡る攻防戦が続きますが、この間日本軍は南アフリカを起点として遠くスーダンにまで手を伸ばすなど、地図の上から見ると悪夢としか言えないような戦略機動(何とアフリカ大陸南北横断! もうウルトラクイズでもするしかないねっ!)を平然と行っています。もちろんケニアなど英国の重要な植民地を蹂躙した上で、です。その効果は否定しませんが、とても現地に日本がそれだけの兵站を提供できるとは思えないのですが、小説内にこれに関する詳細な説明を見つけることができませんでした。まさにサプライズです。 まあそう言うわけで、これを少し強くなった日本が可能なのか、反対に少し弱った英国が奪回することが物理的に可能なのか、この間の日英の戦いの技術的妥当性などは一切合切スルーしたいと思います。 資料・ソースが少ないという私どもの勝手な理由もありますが、もう資料探しをする気力がないというのが真相です(苦笑)
なおこの間に、ドイツ以下の枢軸国はジブラルタルやスエズを攻略して地中海を完全に我がものとして、ここに枢軸三国の物理的なつながりがようやく完成し、しばらくは日本と欧州の間を様々な物資や兵器が行き交い、双方の継戦能力を高めたり軍事力を大きくしていきます。 もちろんこれに関してはノーコメントです。枢軸国側のアフリカでの兵站維持がどうしても説明できないからです。 また、日本軍と自由インド軍によるインド東部の開放が行われますが、これに関してもスルーします。ま、こっちはインド洋と英本国が完全に絶たれているという大前提が存在すれば大きな問題もないでしょうしね。 というわけで、いよいよ皆様にもお馴染みの、真珠湾奇襲から始まる日米のガチンコ勝負の開幕です。 この前後の事象で注目すべき点は、メキシコへの武器供与という政略的・戦略的行動と史実より規模の大きな真珠湾に対する攻撃でしょう。 このメキシコへの日本による挑発的武器供与において、アメリカはストラテジー・ボマーを繰り出して徹底的に日本の輸送艦隊を殲滅しています。 いやはや、これで開戦に至らないのですから、世の中複雑怪奇です。私が後世の歴史家だったなら、これを日米開戦と断じるでしょう。サプライズではなく単に無茶苦茶です。 そして普通ならアメリカの正義が成立しないまま、なし崩しに日米開戦となるんでしょうが、アメリカ・日本双方の都合によりこの時の開戦は成立せずに、次の日本軍による真珠湾奇襲攻撃へと流れます。 で、この真珠湾奇襲攻撃の凄い点は、史実とほぼ同じ空襲の後に旧式戦艦(山城)が真珠湾の入口までやってきて、艦砲射撃をしたうえに湾の入口を自らの巨体で閉塞してしまう事でしょう。 いかに混乱しているとは言え、目の前まで近づかれるまで気付かないとは、この世界の米軍の間抜けさはいったいどういう事なんでしょうか。やっぱり、この世界の米軍も息抜きの合間に人生やっていたんでしょうか。日本軍の攻撃のサプライズ性よりも、この点をもっとしっかりクローズアップして欲しいものです。 隠密とか極秘とかいう魔法の呪文を唱えただけで、突然日本艦隊を出現させないでください。これでは、サプライズじゃなくてトンデモですよ、いやまったく。 ですが、この程度のサプライズは序の口に過ぎず、アメリカ側の意趣返しとして真珠湾奇襲部隊が出発した単冠湾に米軍の少数精鋭部隊が上陸して荒らし回った末にとっとと撤退していきます。 どこにこの作戦を実行させる情報ソースがアメリカ側に存在したんでしょうか。実に不思議です。 そして当然この後に待っているのが、顔に泥を塗られた連合艦隊によるお約束の大作戦なわけですが、ハッキリ言ってこの当時のアメリカが北方領土を中心にした付近の日本軍の配置をどの程度掴んでいたのか、一度ちゃんと調べててからこのサプライズ作戦に対する裏付けを書いて欲しいと正直感じました。 オレ様もう辟易です。
でまあ、お約束の「MI・AL作戦」の変形版が始まるのですが、米軍なんて鎧袖一触とでも感じたのか、既に改装が完了し実戦段階に入っていると描写されていた金剛級装甲空母を「温存」して、史実より多少マシな程度の編成の南雲艦隊で敵の懐に突っ込んで、お約束とばかりに艦隊は半壊していまい、派手なだけの殴り合い展開されて、米軍とは痛み分けという状況で戦闘の幕が下ります。その後にある、これもややお約束な水雷戦隊指揮官としての南雲提督の活躍(戦死するけどね)も、もはやどうでもいいというレベルです。
装甲空母が複数あるんだからそれ使えよ! 何のために作ったんだよ! 拠点攻撃のため頑健さを持った戦力を使って、攻撃力だけが突出し脆弱な大型母艦こそ温存すべきだろうが! 頭悪いんじゃねえの?!(えー
で、ここで太平洋は少し一旦インターバルに入るので、次はまとめてロシア戦線を見てみましょう。 小説を流し読みした限り、1941年夏に日本陸軍は主力の過半を満州に駐留させるようになり、関東軍は史実の倍ぐらいの戦力を満州に待機させ、しかも虎頭要塞など主要な要塞は戦艦の主砲を流用した砲台を設置するなど、陣地の強化にも勤しんでいます。 まずこの時点での疑問は、戦艦用の砲塔は史実でも対馬海峡地帯などに設置されましたが、これを内陸奥地に設置する戦術的妥当性(用途とコスト)が私には「全く」見えず、これをネタとして以上に評価できない事でしょうか。 それはともかく、関東軍のこの動きに「猜疑心の強い」スターリンがいたく反応して、1941年冬の時点で精強な極東軍主力を動かさないままで過ごしたとれる行動をとっています。 また、日本の出方を見るためだけに中立条約を無視して日本軍と局地戦を引き起こし、これに安心したスターリンは、極東軍の精鋭をヨーロッパ正面に回しているらしいです。 そして1941年までに、南ア、インド洋、北アフリカが制圧された事で枢軸国側に多数の戦略物資がわたって、これによりドイツ軍も史実で大いに不足した生ゴムやタングステン、キニーネなどなどの資源を使って強くなっているそうです。ドイツ人の大好きなコーヒーも大量に持ち込まれている事でしょう。 また、もう一つ重要なのが対ソ援助ルートで、どこかでも書いたように思いますが史実での対ソ援助ルートは、ムルマンスクへと海路を取る「北ロシア・ルート」、イランからカスピ海を経由する「ペルシャ湾ルート」、アラスカから飛行機を送り込む「北極圏ルート」、シベリア鉄道を目指す「極東ルート」があり、この世界ではうち二つが事実上封鎖されていて、量的に大量の物資を輸送できるのは、北大西洋を押し渡る「北ロシア・ルート」しかなく、どう考えても1941年秋から始まる対ソ援助が史実と同程度になるとは思えません。 全ての負担をかけられた、極寒の北大西洋を押し渡る連合国船員の苦労たるやいかばかりか、といったところでしょう。
そして、これら表面的事象を総合して考えると、ドイツ軍は1941年12月に何とかモスクワを占領し、翌年夏のバクー、スターリングラード占領にも成功するだろうと言う結論がでてきそうです。 極東の精鋭軍がいなければ、1941年冬の冬期反抗どころかモスクワ防衛にも戦力が事欠く筈で(当時の欧州ソ連赤軍は、有象無象の民兵はいるが、厳しく訓練された兵士が枯渇している)、ペルシャ湾ルートの援助ルートが途絶していると、コーカサス方面のソ連軍の物資不足はかなりのものになり、これもソ連側の機動力を大きく減殺する事は間違いないでしょう。 ただし、この作品においては、史実と全く同じ状況で独ソ戦は推移しており、モスクワ攻防戦、スターリングラード攻防戦、クルスク戦車戦は全て同じ展開しかされていません。弱体化しているとしか考えられない欧州ソ連赤軍は何を頼りに戦ったのでしょうか、強化されている筈のドイツ軍はどうしてしまったんでしょうか? ああそうか、ドイツ軍は西からの脅威に備えて戦力を温存しているんだね・・・って、それドイツ人の感情面からおかしいよ。ロシア人に全力でぶつからなくちゃあ!(えー どうにもこの作者は、好意的に見てもロシア戦線に関しては表面的事象以外、全て無視しているようで、このすさまじさは最終巻にて発揮されます。
さて、お次はロシア以外の欧州戦線なんですが、あれだけ枢軸側が連合国を翻弄している筈なのに、結果として地中海での戦いは史実とほとんど同じペースで進められ、アメリカ軍を主体とした圧倒的物量でもってイタリアに突き進んでしまいます。やっぱり史実の表面的事象しか追いかけていないようです。 ですが、それ以外にもスエズや南アフリカでも連合国(英国主体)による様々な大規模な動きが見られています。その上南アフリカではボロ負けぶっこいて、英軍はガタガタです。さらに英国はインドの半分を失って、インドから一兵も動かせなくなっています。そう言えば、ウィンゲート将軍は何をしているんでしょうか? もう、このあたりまで来るとコメントする事すらおっくうになりますね。自分で作り上げた歴史改竄を無理からに史実と合せつつ最終ステージを模索するのは、総力戦を語る架空戦記としてはどうかと思いますよ。ここまでした以上、もう少し時間をかけてでも考証を詰めて、もっとサプライズにいってほしいもんです、ハイ。 私はこういう中途半端さは大嫌いです。 あと、とりえずできて間もないようなジープ空母30隻を中心にした艦隊の運用が如何に行われたかしっかり書いて欲しいですね。 ハッキリ言って艦隊運用側からすれば悪夢でしかありませんし、編成されたばかりの二線級兵力の寄り集まりで、まともな航空管制・統制ができると思えませんからね。
さて、また愚痴が多くなりましたが、欧州でのゴタゴタが進行している間に、太平洋ではお約束なアッツ島のギョクサイがあって、ヤマモト・フィフティーシックスの戦死があって、「大東亜会議」にブチ切れたヤンキーがお冠になって、ついに戦機熟してフィリピンでの決戦へと流れていきます。 ああ、もちろんダッチハーバーでの戦闘における、大型軍用艦艇に対するスキップ・ボミングの作者の評価と私の見解の違いなど戦術的な意見の相違については、自動的にスルーしますからね(苦笑) ただ一つだけ納得いかないのが、全滅の可能性が極めて高い投機的な水雷戦隊(重雷装軽巡や捕獲艦艇の雑多な混成艦隊)による攻撃で、ロクな支援もせずに、旧式艦と捕獲艦艇だから費用対効果がいいとかで、米第七艦隊と引き替えに簡単に全滅させないで欲しいです。 これらの兵器を扱う熟練した兵士の補充がいかに難しいか、少しは考慮して欲しいものです。そしてこの作戦を承諾する現場も現場です。猛将率いる艦隊だからってこんな事するのは、ト空を除けばアニメとジェブナイル小説の中だけで十分です。勇戦敢闘の上に戦死というくだりも虚しく見えてきますね。 それに米軍が間抜けすぎ。好敵手のいない戦闘ほど興ざめなものはありません。確かにこれにはサプライズです。
そして、いよいよ1巻丸々使った日米総力を挙げてのガチンコ勝負が始まりますが、まあ双方の艦隊編成表に今更文句言い立てる気はありません。 これは、長編の戦記ものを作り上げた人の特権のようなもので、こういったものが好きな人が童心に返って作り上げて良いものだと思います。またエンターテイナーとしても必要な事でしょう。 もちろんこれをどう使うか、どのような結果を生み出すかについては、商業物である以上ある程度責任は伴われますけどね。 ただ、私がこの戦いでも看過できない点がいくつかあります。
最大の問題は、セレベス海を決戦場としている事です。この海域の広さ、周りが島や狭い海峡で仕切られた閉鎖海域である事など考えたら、何をどう考えてもここを空母機動部隊同士の決戦場とするなど双方にとって自殺行為だとしか思えません。ましてや、数百隻の攻略艦隊がオーストラリアからここを経由してレイテに押し掛けるなど、もはや失笑する気力すら失せてしまいます。 サプライズではなくアンビリーバボーです。 また、なぜ一度もマリアナを目指さずにいきなりレイテにおしかけたのか、それまでの経緯を見てもいまいち説得力に欠け、またいかにインドネシア方面の日本軍兵力が希薄だとは言え、パラオ、東部ニューギニア、フィリピンにかけて多数の日本軍部隊が展開している可能性を考えると、攻略に先立ち空母部隊による航空撃滅戦をしかけず敵勢力圏に突っ込むなど、自ら罠にはまりに行ったとしか思えないので、この点もアンビリーバボーです。
そして戦闘面もかなり疑問を感じる点がありました。 「甲標的」を切り札として大量投入するなど序の口です、この程度なら私もとやかく言う気はありません。まあ少し活躍させすぎという気はしますが。 それよりも、敵艦隊に突っ込む日本軍部隊が、どちらかと言えば軽量級(二線級)の改装された「伊勢級」戦艦とポケ戦というはどうでしょう。同じ突っ込むなら、エンターテイメントとして気持ちよく18インチ砲戦艦4隻を突っ込ませるべきだと思いますし、総力戦としての費用対効果を考えれば、合理的な軍隊な筈のこの世界の日本軍が取るべき選択のような気がするのですが、またこの二線級部隊の全滅と引き替えに米艦隊を文字通り殲滅してしまいます。 サプライズ小説のくせに二巻続けて同じ事しちゃ駄目でしょ。多くの事は言いたくないんですが、こればかりは二重の意味でいただけません。 あと、夜間空戦で単発機100機同士の戦いが、双方ほぼ全滅ってのはどうよ? オイオイそりゃ無茶苦茶だろ、とも思いましたけどね。これも興ざめどころではありません。 まあ、既に突っ込む気力もないんで、このまま続けましょう。
さて、太平洋では日本海軍大勝利、ヨーロッパでは連合軍がノルマンディー上陸作戦を何とか成功させる、という決定的なフラグを以て最終ステージに突入です。 で、この状況を日本とソ連が互いの思惑をもって利用しようとします。 日本軍は満州がガラ空きだと欺瞞情報を流して、ソ連の火事場泥棒(満州侵略)を誘発させ、ドイツ戦の目処がつき、対日戦が破綻した連合国に共産主義が如何に危険かを教えて、日本だけで連合国と停戦にもつれ込もうとして、これに踊らされたスターリンが独ソ戦を一旦置いて(!)、赤軍主力を短期間だけ(!!)満州にまわして日本から満州をぶんどろうとします。 さてはて、何から突っ込むべきか。もう驚く事も信じられない眼差しで見る事にも疲れました。 取りあえず簡単なソースを挙げるだけにして最後にいきましょう。
・ソ連赤軍はこの当時最大1500万人いるとされる。 ・赤軍精鋭はこのうち1〜2割程度で、あとは基本的に平押ししかできない民兵に毛が生えた程度の部隊。 ・史実の対日参戦では、都合約150万人程度の大部隊が約三ヶ月かけて移動・準備している。 ・ソ連軍の兵站は、特に消耗品、軽工業品の面でその多くをアメリカに依存している。 ・対日戦ではアメリカが太平洋側から用意した約80万トンの戦略物資で満州侵略を行っている。 ・ソ連がドイツ、東欧から奪った総額は、何と2000億ドルだ(1940年頃の日本の国家予算がせいぜい20億ドル台)。 ・史実で満州から奪われた総額は200億円(50〜80億ドル?)しかないぞ。 ・シベリア鉄道の横断には、単純に移動するだけで一週間以上かかるんだよ、100両編成の列車をいくつ用意すれば100万の軍隊とそれを動かす物資を移動できると思ってんだ! 欧州をガラ空きにする積もりか? 脳天気ロシア人でもこんな事出来るか、どアホ!!(ウクライナなまりで) ・ ・ ・ さて、日ソ戦も日本軍の計画的反攻作戦の前に短期間で目処がつき、ドイツが西部からの強い圧迫を受ける中、欧州での戦争の落としどころが連合国の間で示され、日本の講和への道のりが提示された所でこのお話は幕とされており、東条英機と西条英俊という人物にだけスポットを当てた形で物語は締められ、小説としてならそれなりのエンディングとなっていますが、総力戦の行く先が全部見せていないので、堂々と完結しないでくださいというのが正直な心境です。 第一巻から総力戦についてとうとうと語りながら、その総決算たる講和について語らない点は極めて不親切と言えるでしょう。 正直講和だけで1巻書けると思います。 まあ、とりあえず箇条書きでこの時点での軍事的状況を挙げてみましょう。
・アメリカ海軍機動戦力は一時的に消滅 ・日本海軍主力は半壊程度で健在 ・太平洋戦線は、西部太平洋で千日手状態 ・ソ連の満州侵略は完全な失敗 ・支那戦線は徐々に中共が有利になりつつある ・アジアの過半は独立宣言済み ・南アフリカもイギリスより独立 ・アフリカも南アフリカからスーダンにかけては依然として枢軸側の勢力圏 ・連合国はフランスと北イタリアを解放(奪回)しつつある ・ロシア戦線はいまだロシア領内で停滞中 (バグラチオン作戦以前の状況で、しかも史実よりドイツ軍に有利) ・英国軍はインド軍と南ア軍がなく、海軍主力も史実より大きく減退して気息奄々。 ・満州で失敗したソ連は、軍主力を欧州正面に戻しつつあるが、かなり損害を受けている。
まあ、大きくはこんなところでしょうか。 これに政治的状況として ・日本と英米が水面下で積極的に接触中 ・英国がソ連と単独交渉で東欧の分配を決定 ・英米がソ連のアジア進出を否定 ・ドイツの敗北は連合国内で既定事実とされている ・総統閣下はまだまだやる気満々
この程度が加わるでしょうか。もう少しあったように思いますが、思い出せる限りではこんなところかと思います。 そしてここから導き出される答えは、日本が共産主義の防波堤という役割と大東亜共栄圏を交渉材料にアングロ勢力と政治的に妥協して、以後東西冷戦構造の重要な一翼を担いつつ、同時に国際連合でも謳われたお題目を果たすべく苦難の道のりを歩んでいくというところでしょう。 大まかですが、これがお話上で示された一つのエンディングかと思います。
ただ、架空戦記好きとしては、この史実と同じような想定に東亜新秩序を掲げた日本を挟み込んだだけの戦後世界ってどうよ、と言う風にどうしても疑問が頭をもたげる事と思います。 何しろドイツ脅威のメカニズムが本格化するのは、1944年秋以降ですからね(笑) しかもこの世界では、イギリスの正面戦力はだいたい2割ほど低くなり(海軍主力が日本に潰され、南ア軍が枢軸側の戦力で、インドの半分が離反状態)、ソ連の欧州侵攻が最低3ヶ月遅れ(満州での火遊びの影響を最低限と考えてもこの程度の時間は失い、この結果1944年内の夏季攻勢が全くできなくなる)、連合軍によるノルマンディー作戦も史実より損害が大きく、ドイツ自身の戦略物資備蓄は史実よりも多いので、これらを加味すればドイツの降伏は最低でも半年程度遅れる事になるでしょう。 そしてドイツが半年という時間を得てしまうと、Me-262、Ta-152、E-75、U-XXI型、A-4などなどドイツ脅威のメカニズムが量産化されて戦場に姿を現し、ボク達のファンタジーな妄想を実現すべく奮闘してしまうかもしれません。
・・・ま、最後は物量と原爆が全てを決するでしょうが、ドイツを軍靴で踏みにじるまでに英米ソが受ける損害は史実よりはるかに大きくなる可能性は高いでしょう。ここから考えれば、日本の生き残る道はさらに大きくなるとも考えられますね。 ただ作品内では、ドイツやソ連のことについては史実と後は同じだよ〜、と示されていて事実上のおざなりであり、それらの結末をなるべく明確にして日本の講和会議までを描き出す事が総力戦を主題にする以上示すべきで、それを分かりやすく示しているのかと言えばこれには大きな疑問符が付き、総力戦という言葉を掲げてスタートしておきながら「竜頭蛇尾」な幕の引き方ではないかと言うのが、シリーズに対する総括と私は結論せざるをえません。 展開初期がけっこう面白かっただけに残念ですね。
では、次の作品で会いましょう。