◆地球歴2207年時点の一般的技術

 星を翔るために最も必要な技術は、「波動物理論」により生み出された「タキオン粒子型波動機関」関連の技術である。これなくして、旧世代の物理法則を越えることは極めて難しく、また経済効率の非常に悪いものとなる。
 なお、光の速さを越える方法には、反物質利用(反物質炉もしくは対消滅炉)利用による亜光速航行もしくは超光速量子遷移や、超重力利用による超光速航行技術などが存在する。

 宇宙には一般的に「宇宙エネルギー」と呼ばれる因子が、ほぼまんべんなく分布している。人々の暮らす惑星表面にすらごく普通に存在しているものだ。ビックバンの時に誕生したと言われるもので、今も物理空間の膨張と共に増え続けているとされる、事実上の無限エネルギーだ。
 「宇宙エネルギー」とは別名で言うところの「根元粒子」の総称であり、様々な粒子をまとめて「宇宙エネルギー」と呼ぶ。この中には、地球物理学上でも古くから知られている「クォーク」を始め、「グラビトン素粒子」など物理空間に様々な作用をもたらす粒子が存在している。無論、人の目で見ることのできる大きさの粒子ではないし、複雑な理論方程式を経ることによってしか確認の手段はない。
 そうした中の一つに、超光速「タキオン粒子」がある。「タキオン粒子」を収集圧縮し時空間に作用をもたらすことで、宇宙創造にも匹敵する巨大なエネルギーを得ることができる。これらの理論を総称して地球人類は「波動物理論」と呼び、星間文明を持つ知的生命体にとっては一般的な物理論であり亜空間理論ともなる。
 そして、常に超光速で動き単体での目視が絶対不可能なタキオン粒子を集束利用して物理空間を震動歪曲させることで、莫大なエネルギーを得ることができる。これが「タキオン粒子型波動機関」の基本原理となる。そして現象を可能とする波動機関と直結した噴射装置を付ける事で、簡単に亜光速航行が可能な推進機関とする事ができた。
 この技術は、星間国家を建設する国々では一般的な基礎技術であり、船に燃料を積載する必要がない事、機関の構造が比較的簡単な事、区画パフォーマンスに極めて優れている事などから広く使われている。この波動機関技術のために、他の動力装置の技術進歩が大きく後れているほどの利便性だった。
 しかも波動機関を利用して、四次元もしくは五次元空間を航行して光の早さを越える技術、いわゆる「ワープ・ドライブ(超光速航行)」が広く利用されている。当然ながら「ワープ・ドライブ」なくして星間国家の建設はほぼ不可能であり、必須技術と言える。
 なお、「ワープ」の基本原理を極めて単純に説明すると、出発点と到着点の間の空間を折りたたみ、通常の時空間から飛び出して目的地まで近道をするというものである。
 また波動機関は、希少な放射線触媒を用い、収集圧縮に時間のかかるタキオンの圧縮濃度を低い状態で動力機関としての能力を大幅に引き上げることが可能であり、大規模な国ほど利用している率が高い。ガミラシウム、イスカンダリウム、ボラーチウム100などが有名である。ただし、放射線触媒は非常に希少な存在のため、この放射線触媒の奪い合いが戦争へと発展することが多々存在する。
 この放射線触媒利用の場合、タキオンの低い圧縮率でも推進力が大幅に向上しコストパフォーマンスに優れることになるが、逆に波動現象と呼ばれるタキオンの圧縮がもたらす独特の現象は小さくなる。
 また、極めて大規模の波動機関を用いれば、一定範囲の空間そのものを常に亜空間化して通常航行に近い形で超光速航行が可能となる。現時点では、ガトランティス帝国の「白色彗星」のみが確認されている。ただし、銀河系宇宙では未知の放射線触媒(仮称:アンドロメディウム)を利用し、大量の中性子ガスを散布し、さらには通常空間に対して超重力を常に発生させてしまう独特のシステムのため、周辺への危険度が極めて高い事が確認されている。
 なお、波動機関に放射線触媒を用いた場合、タキオンが噴出した時、タキオンが放射線触媒に反射して様々なスペクトルで見えるようになる。しかし通常は、白もしくは薄い緑色、高い威力のものは蒼く見える。これはタキオン粒子に反応した他の粒子が発する熱量に関わっており、タキオン粒子が高濃度に圧縮された方が高熱を発する傾向にある。ガトランティス帝国の場合、かなり特殊というわけだ。

 また波動機関は、その特性から様々な動力装置・エネルギー獲得手段にも応用されている。副産物である粒子(グラビトン粒子)を応用した物理空間上での完全な重力制御と慣性制御、余剰エネルギーを用いた常温超伝導での発電と電磁利用が最も一般的だ。どちらも非常に大きなエネルギーを生み出すことができ、また熱をあまり発生せず、さらに空間を取らないため、多くの場合は波動機関に装置が付属している。
 なお、波動機関以外の一般的なエネルギー獲得手段には、星系発電として利用されている太陽熱発電がある。だがこれは、波動機関に必要なタキオン粒子を得るには、機関そのものが宇宙空間を高速で移動している方が有利だという大きな理由が存在している。

 なおあらゆる動力装置にして推進装置である波動機関だが、巨大なエネルギーであるタキオンを噴射するという性質から、兵器への転用が比較的簡単であり、さらに一般的となっている。
 各国で採用されている各種波動兵器のうち「衝撃兵器」は、波動機関の亜空間振動(一般には「波動現象」または「次元振動」と呼ばれる)を直接的に利用している。さらに一部の国が使用している特殊な兵器も、波動機関の特性と能力を生かして大威力化されている。
 もっとも、一般的に用いられている光線兵器は、パルスレーザー方式の各種フェザー砲だ。一般的にフェザー砲とだけ呼ばれるが、粒子砲の一種である。
 ビームの重粒子集束率を電磁界により極限まで上げ、超真円シンクロトロンにより光速化したもので、惑星上などの気体のある場所でも威力を維持できる。 粒子の集束率が高いため広範囲への威力はないが、射程距離、威力、貫通力ともに他の粒子ビームより強力である。
 主に機関出力と硬炭素鏡(ダイヤモンド・レンズ)の大きさで威力が決まる。だが、スペースを取らないようにするため、直線上の砲身内で電磁加速するタイプも広く用いられている。艦艇搭載用の「機銃」と戦車砲がその代表だ。
 また、技術レベルが高い地域では、戦車砲サイズのものから惑星攻撃用の大型砲まで広く使われており、惑星上で用いた場合の安全性も高いことから最もポピュラーな兵器となっている。ただし、一般的な艦載型フェザー砲は、波動機関のエネルギーを利用しているため、極めて高い破壊力を持っている。
 他には、ガトランティス帝国が発電力の優位を生かした各種プラズマ兵器を広く実用化して、大きな威力を持っている事が知られる。
 単純なレーザー砲に関しては、光速弾道であるという利点で利用されているが、大型になるほど費用対効果が悪く、電磁防御などで防御も比較的容易いため大型兵器の場合は測定目的以外ではほとんど利用されていない。個人用携帯装備の光学兵器の多くも、周辺への影響が小さく瞬間的な熱量の大きいブラスター形式の熱戦砲(銃)が主流である。

 また波動機関は、防御への転用も一般的である。
 波動機関の波動現象(次元振動)を利用したシールド技術(振動防御システム)への転用が主で、フェザー砲や衝撃砲など各種兵器阻止のため広く一般化されている。防御力は、単なる装甲を用いた場合とでは、計数的な差が存在している。電磁シールドや粒子減速物質を用いるよりも効果は大きい。これに勝るのは、超重力で力場を歪曲して防御する場合だけだ。これらのシールドは、放射線触媒を用いた波動機関を利用した場合、主に虹色のスペクトルで目視できる。
 また一方で、波動機関の内壁で構成されるタキオンを封じ込める超重力技術を応用したシールド技術も存在している。主にデザリアム帝国では、異常なほど各種シールド技術が発達していた。しかし高い技術レベルが必要でコストも高くつくため、用いている国は少ない。
 なお、振動防御システムは、運動エネルギーによる物理的な兵器に対してはあまり効果を発揮せず、熱転換型コスモナイト装甲など強固な物理的装甲(超合金)やエネルギー分散防御システムと併用するのが一般的である。これに対して、超重力を用いたシールドは万能ではあるが大量のエネルギーを必要とする事もあり、一部でしか実用化されていない。
 一方で、対大型目標用の爆発物として一般的に用いらているのは、取り扱いの簡単な各種レーザー核融合兵器である。地球連邦のみ、波動カートリッジ弾という波動機関技術を応用した兵器を保有するが、これは特殊な例である。また、反物質兵器(機関)並びに反物質爆弾もごくまれに使用されるが、コストパフォーマンスが悪すぎるため、古い技術体系を持つ国でしか用いられていない。
 他にも多数の特殊な大威力兵器が各国独自の兵器体系の中に存在するが、特殊すぎるものばかりなので、そのほとんどが一般的な技術とは言えない。

 次に、情報、通信、探査技術だが、こちらもタキオン粒子を中心とした宇宙エネルギーの利用が主になっている。タキオン粒子を利用した量子コンピュータ、超量子レーダー(+妨害装置)、重力感知レーダー、亜空間ソナー、量子通信(超光速通信)などが一般的である。これらの技術の多くも、星間国家では必須技術である。
 これらの装置の最大の特徴は、設備さえ整っていれば、距離、時間の浪費をほぼゼロにする事ができる点にある。熱処理問題もほとんどの場合最小限だ。このため、物理空間以外のものが探知できたり(亜空間探知並びにワープトレサー)、人間では計算不可能な計算を負荷なく行えたり、数万光年彼方でも通信ができたり、リアルタイムでの超遠距離探知が可能となる。加えて、宇宙自然のもたらす障害に対しても強い。
 なお地球では、ほとんどが「タキオン〜」と呼称されている。

 なお、理論と製作方法さえ分かれば技術利用が簡単な波動理論の存在が広く伝わっている事もあり、採掘(採取)に大きな労力を必要とする「反物質(反水素)」の利用は世界全般で低調である。使用される例があった場合も、一部の閉鎖された文明が用いるにとどまっている。核融合動力の利用もされている場合はあるが、補助的もしくは遅れた技術と認識されている。
 現在、施設を含めて反物質(反水素)を持っている星間国家は、皮肉にも地球連邦だけである。
 また、一部超重力利用の技術が進んでいるが、これも波動理論の範疇内なので、類似機関と言える。

 また一方で、波動機関とその関連装備が搭載できるのは、どれだけ小さくても30メートル程度の機体サイズが必要となる。また機関の構造上どうしても重くなり、小さすぎる機関は瞬発力に欠ける事もあって、小型機動兵器や飛翔弾(ミサイル)への搭載は難しかった。希に搭載するのは、タグボートのような大きな力を必要とする小型船や、惑星爆撃を行うような重爆撃機などに限られている。
 代わりに各国で開発された技術が、機体には波動機関本体を搭載せず関連装置と噴射装置だけ取り付け、波動現象を濃密に封じ込めた「波動パック」を積み込んで推進する方法だ。原理を極めて単純に言ってしまえば、風船のような原理で推進するわけだ。これならば瞬間的な大きな推力に転換する事もできるし、装置が軽くなるので小型機動兵器に最適だった。母艦側も、核融合機体に対する推進剤のような艦載機用の燃料を搭載しなくてよい点も大きな利点だ。
 これを「波動パック推進」と呼び、簡易推進技術として広く広まっており、ミサイル、宇宙魚雷の推進も主にこれに頼っている。また、波動現象だけでも機体内の慣性制御、重力制御にも活用できるため、機体内の慣性制御(Gキャンセル)を行う事で艦載機の有人化をもたらしてもいる。
 また母艦及び基地側が、水素など燃料を長期的に用意する必要がないため、特に艦船でのコストパフォーマンスを優れたものとしている。「燃料」は波動機関から必要な分だけ抽出すれば良いからだ。空母や各種母艦の大きさを抑えるのに、最も貢献している技術と言えるだろう。
 ただし、欠点もある。この方法は当然ながら噴射の時間制限があり、母艦なり波動機関を持つ存在からの補給が必要不可欠だった。また、「燃料切れ」イコール完全停止を意味しているため、宇宙空間で使用した際の危険度は大きい。このため有人機には補助動力やバッテリーを併設するのが一般的だ。
 なお、この「疑似波動機関」とでも呼ぶ装置の場合、光の早さを越えることは無理で、亜光速が限界である。
 そしてこの方式の大きな欠点が、「波動パック」が破壊された時である。封じ込めた存在の破壊時に波動機関のエネルギーそのものが解放されるため、周辺への影響も大きいのだ。
 単に破壊をもたらすだけでなく、様々な物質に作用して誘爆に発展する可能性も高く、しかも理論上破壊できない物質が存在しないため、時には致命傷になる事がある。特に「波動パック」を多数運用する空母やミサイル艦は危険が大きく、七色星団の戦いでの戦例にあるように艦隊全てが誘爆で壊滅するという可能性まで存在する。分かりやすく言えば、濃度の薄い広範囲に拡散する波動砲で破壊されたような状況になるわけだ。
 ただし「波動パック」そのものを「爆弾」として使用しようとしても、すぐにエネルギーが拡散してしまう性質のため、十分防御された艦艇などに対しては利用価値が低い。さらに空間の安定も揺るがすため、惑星上に対しても使いにくい。発射母体が巻き込まれる可能性もあるので、短射程兵器に用いることも難しい。このため、限られた用途に用いられるにとどまっている。爆弾として用いる場合も、膨大な量を詰め込んだ中長距離対艦用か、中型以下の爆弾型の場合はシールドされていない目標を攻撃する場合に限られている。
 そしてこの派生型というか発展型の技術として、「波動カートリッジ」がある。波動カートリッジは、波動機関のエネルギーを波動砲レベルにまで高圧縮して封じ込めるもので、規模は小さいながら波動砲と同じ効果を得られるという、破格な能力を持っている。エネルギーが大きすぎるため簡易推進に利用する事はできず、もっぱら「爆弾」として用いられている。ただし、今のところ「波動カートリッジ」を実用化しているのは、大きな波動エネルギーを常に生み出す機関を保有する地球連邦のみである。また、機関の形式によっては、コストパフォーマンスも必ずしも優れているとは言えない。圧縮濃度の高い機関の存在が、「波動カートリッジ」製造のための必須装置となるためだ。

 一方、波動機関以外の技術で宇宙一般的なものでは、工業全般に言える事がある。それは自動機械(万能工作機械)による工業製品の生産が一般的であり、科学力が発展している国ほど顕著になる。熱量供給は植民星から得ていたガミラス帝国では、肉体労働が歴史上の存在にまでなり、国内には三次産業しかなく、肉体労働イコール軍務という状況にまでなっていた。
 ある意味、一時期のスパルタやローマ的と言えるだろうか。
 例外はボラー連邦で広く行われている強制労働だが、これは「刑罰」としての側面が強いため労働形態として一般的ではない。一方では、デザリアム帝国のように自らの身体すら機械化する例もある。
 地球人類も、22世紀に入るとこの機械化傾向が強まり、宇宙開発での自動機械の利用度は年々強くなっていた。しかし、自動機械群による生産活動があったからこそ、地球はガミラスと辛うじて戦い続けることができたとも言える。
 またガミラス戦役後の地球も宇宙一般の流れに乗り、自動機械による生産が急速に主流となりつつある。
 なお、自動機械(万能工作機械)とひとくくりにされる事が多いが、その大きさは様々だ。最小サイズは自動車一台を生産する程度の「町工場サイズ」だが、最大級のものは天体すら作り出してしまう「惑星改造船サイズ」まである。戦闘艦を建造する宇宙ドックも自動機械の集合体であり、技術者に求められる事も直に機械をいじる事よりもどれだけうまく機械を操作するかや設計技術が重要になっている。例外は軍用の場合だけで、軍の場合は有りとあらゆる事態に対応するため、人の手による修理や整備が常日頃から心がけられている。そう言う点では、軍人は極めて特殊な技術者集団と言えるだろう。


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