◆銀河大航海時代黎明期の“艦船”

 銀河大航海時代における“艦船”とは、波動機関を搭載してワープ・ドライブ機能を持った乗り物全般の事を指す。波動機関を搭載するがワープ・ドライブ機能のないものや小型の宇宙機などは含まれない。当然ながら、惑星上専用の乗り物は含まれない。
 わかりやすく言えば、ワープ・ドライブ機能があるものが“船(シップ又はヴェッサー)”、波動機関を搭載するがワープ・ドライブ機能のない船は“艇(舟/ボート又はヨット)”、波動機関を搭載しない小型機を過去の慣例から名称をとって“航空機(エアクラフト)”と分類する。ただし、惑星用の民間貨物船などでワープ・ドライブ機能がないものも多く存在するので、この分類は必ずしも正しくはない。大きさや用途で分ける場合もある。
 そして一般船舶や戦闘艦艇から見ると、時代の流れを追いかけることができる。特に遠洋航海用の民間船舶の2205年以後の計数的増加は、大航海時代と呼ぶにふさわしい規模と数となり、地球人類の活動圏の増加に伴いさらなる膨張はしばらく止まりそうにもない。そして前宇宙時代から始まった地球防衛軍の主戦力たる艦艇の歴史と流れも、地球人類の宇宙開発をなぞる形になっている。2200年以後の波動機関実用化以後は顕著で、さらに2205年以後の外洋艦艇の増加は、こちらも大航海時代に対応した動きを見ることができる。
 なお、西暦2192年のガミラス襲来以後、2204年新年のデザリアムとの戦いが終わる約12年間が“宇宙戦争時代”と呼ばれ、2205年に始まった“第二の地球探査(セカンド・エグゾダス)”開始以後は、一般的に“銀河大航海時代”と呼ばれるようになってきた。

 では、まず最初に“艦船”の中での“戦闘艦艇”の定義を示したいと思う。
 “艦艇”は、波動機関と搭載し、0気圧、0重力環境下の乾燥重量が2,000トン以上で、対物戦闘を想定した武装を施し基準をクリアしている必要があるとされる。最大規模は大型戦艦や戦闘空母で、最少サイズの艦艇は、小型のパトロール艦(艇、船)や雷撃艇や警備艇になる。そしてさらに特徴を挙げると、ある程度の航行能力を持っていることが求められる。また、波動機関を搭載しない小型艇については、高速タイプを“航空機”、低速タイプを“内火艇”と分類している。
 これが地球防衛軍になると、『護衛艦』以上に分類される戦闘艦艇を差す名称になる。もしくは、ショック・カノンを搭載した艦艇と定義される場合もある。こちらは大規模戦闘を前提としており、概ね大型艦が多くそして重武装だ。“艦艇”のうち、“艇”扱いとなる、雷撃艇、哨戒艇などは、近海(各太陽系内)防衛用で基準を満たしている場合がほとんどないため、“艦船”の中に含まれることは希である。ワープできない以上、“船”ではないという事になる。もちろん、戦闘機も“艦船”には含まれない。航空機の分類については、他と同様である。
 一方、地球防衛軍外注の様々な民間警備組織、通称“傭兵艦隊”では、重武装の戦闘艦艇よりも長距離航路警備や海賊対策用の『巡視船(PV=パトロール・ヴェッサー)』が多く、最初にあげた基準を辛うじてクリアする程度のローコストな軽戦闘艦艇が半数以上を占めている。
 そして全ての“艦艇”の最大の特徴は、他国(他星間国家)からの購入もしくは捕獲艦艇以外の99%以上のものが、西暦2200年以後に地球人類の手によって建造された事になるだろう。つまり旧式艦と分類されるものも、艦齢10年以内ということになる。
 なお、地球人類の保有する重武装の戦闘艦艇数は、西暦2208年度統計で約1,300隻を数えるに至っている。自衛用に数門のパルスレーザー砲を装備する程度の軽武装の民間船舶や、それよりも重武装の巡視船クラスの艦船、そのほか政府公認で登録されている武装が施された船舶を含めた総数は、“艦船”全体の約20パーセントに当たる約2,500隻になる。このうち地球防衛軍が保有する艦艇数は補給艦などを含めて約1,000隻で、残りのほとんど全てが民間企業、中でも地球防衛軍外注の“傭兵艦隊”の民間警備組織の所属となる。
 2,500隻という数は一見多いように思えるかもしれないが、地球人類の活動領域の広さと、運用されている船舶の数量から比較すれば不足しているのが実状である。これは未登録の武装船舶、特に“海賊”に属する船の数が、最低でも数百隻に達するため事態はかなり深刻である。
 このため移民船団の第一陣では、船団出発以来官民挙げて飴と鞭双方による“海賊”対策に大きな努力を割いている。これは同地域がボラー連邦の脅威が低く、広大な管轄地域を含めた経済発展の度合いが地球連邦で一番大きいので“海賊”多いため顕著だ。

 次に“艦艇”の規模について見てみよう。
 “船舶”に対して、“艦艇”大きさは概ね小さい。“船舶”が数百メートルからキロメートル単位なのが一般的なのに対して、“艦艇”は概ねその数分の一でしかない。地球防衛軍の場合、最大長100メートルから300メートル程度、3000トンから15万トン程度が一般的な大きさとなる。他の列強でも、最大クラスで最大長1000メートル、500万トン程度が最大規模である。無論この大きさが選択されるのには大きな理由がある。
 一番の理由は、波動機関の特性を最大限に活用するためだ。極端な話し、“船”を“航空機”のように高機動させるために、あえて大きさを絞っていると言える。特に地球防衛軍の場合は、主兵装に破壊力の大きい“ショック・カノン”と“波動カートリッジ弾頭”を装備しているため、対応防御を考えた場合到達前に完全に迎撃してしまうか“避ける”のが一番の防御方法となる。そして光速の単位で戦闘する場合、相手の攻撃が行われ到達するまで秒単位ながら時間差が生じ、この差を利用して機動性に任せて相手の攻撃を避けてしまうのだ。そしてこれを可能とする機動性を確保できる艦艇の規模が、地球防衛軍が採用している艦艇サイズになる。
 無論、“避ける”ことのできる艦艇の規模は、用いている波動機関の規模や出力、瞬発力によって変化するのだが、地球防衛軍の場合、満足いく能力を持った大型機関の開発に成功していないため、他国に比べて艦艇の大きさが限られている状態が続いている。また他国では、地球防衛軍ほど“避ける”事を重視していないため、艦艇が地球防衛軍に比べると大きくなりがちである。
 ガルマン帝国とボラー連邦の象徴的な主力艦艇が大きいのは、大規模な司令部設備を備える為と概ね火力と個艦性能を重視しているためだ。特に象徴的度合いが強い専用旗艦クラスで顕著になる。逆に両国の一般艦艇が地球艦艇と大差ないのは、量産性と社会資本まで含めた意味での価格、そしてなにより“数”を重視しているためだ。双方の国が運用する艦艇数が合わせて一万隻を優に越えると言っても、銀河全体で見れば太平洋にばらまいた胡麻粒以下の密度でしかないので、数を重視するのは当然の選択だろう。そうした中で、回避性能のために機動性という面を重視しているのは、旧ガミラス軍の艦艇のデストロイヤー艦になるだろう。そして全長70メートル、乾燥重量1000トンの規模であれだけの性能を与えているのは特筆に値する。逆にガルマン帝国の艦艇が大型化の傾向にあるのは、領域の拡大に伴い汎用性を求められているのが原因している。
 なお、戦闘艦艇が艦艇の規模を絞るのは、回避性能だけでなく他の要因も大きく影響する。
 波動機関は、装備された艦艇に対して等しく光の早さに達する能力(亜光速航行)とワープ・ドライブ性能を与えてくれる。しかし質量や規模が大きくなると、亜光速に達するまでには運動エネルギーの問題からどうしても時間がかかり、質量と規模の問題から一回あたりのワープ距離も限られてしまう。また、質量と規模が大きくなると長距離ワープ・ドライブの安定性が低下する傾向にあり、加えて連続ワープ能力を与えることも難しくなってしまう。
 故に戦闘艦艇は艦艇の規模が他の民間船舶に比べて規模が小さくなり、加速性能、機動性、ワープ・ドライブ性能をなるべく効率よく確保している。
 そして大出力の波動機関を搭載して艦艇の規模を絞ると、当然ながら波動機関に余裕が出てくる。そしてこれを他のエネルギーに回すことも戦闘艦艇にとっては重要な要素になる。
 地球防衛軍の艦艇の場合、ショック・カノン、波動カートリッジ弾頭、各種艦載機、ミサイルへの推進装置に対する波動エネルギーの供給、フェザー砲(パルスレーザー砲)など様々なエネルギーに対する電力供給などに用いられている(※波動砲は特殊なので例外とする。)。

 では、次は個々の戦闘艦艇の区分けについて見てみよう。
 区分けを大別すると、国家に関係なく“機動要塞”、“戦艦”
 “空母”、“戦闘空母”、“巡洋艦”、“駆逐艦”、“護衛艦”、“巡視船”になる。
 “機動要塞”は、地球連邦は保有しないが、大規模な軍事国家は概ね何らかの形で保有している。ただし規模も用途も国や使用目的によって違うことが多いので、単に大出力の波動機関を搭載しワープ機能を備えた“要塞”と定義されている。ただし、大抵は波動エネルギー兵器すら防御できるシステムを搭載しているため、高い戦力単位を持つものが多い。当然ながら高価で数も極めて少ない。
 “戦艦”は“主力艦”と呼ばれる事もある通り、大きな戦闘力を持った艦隊の中核艦である。また“汎用戦闘艦艇”を省略したと表現される場合もある。これは、単に砲撃戦の中心を担うだけでなく、艦艇の規模に応じた様々な装備で戦闘全般をこなすためだ。特に地球防衛軍の“戦艦”は決戦兵器(※波動砲)を装備するのが常な上にコスト上昇を甘んじて受け入れ汎用性が高く設定されている事が多いため、“戦艦”とは万能艦だと認識される事も多い。ただし価格、運用経費が高いのが常なので配備数は少なく、“戦艦”は旗艦任務に就き任務の多くは他の艦艇に肩代わりさせるのが常である。
 “空母”は“航空機母艦”の名が示すとおり、艦載機を主装備に用いる艦艇である。多種多様な艦載機を用いることで汎用性、多様性に長けており、戦略的な意味での戦力価値は“戦艦”以上とされる。ただし艦載機の運用には多数の人員と物資を必要とし、経費と人的資源を消費するのでどの国でも“戦艦”以上に配備数が少ない。
 “戦闘空母”は、“戦艦”と“空母”の特性を兼ね備えたより戦力価値の高い艦艇になる。当然ながら戦闘力は高い。また二つの特性を備えるため艦艇の規模が大きくなるのが常で、艦隊旗艦や象徴的な艦艇、もしくは決戦兵器として保有されるの事が多い。ただハイレベルでの汎用性の高さから、どの国も以外に整備に力を割いており、“空母”の数よりも多く配備されている状況が一般的となっている。
 “巡洋艦”は地球防衛軍では準主力として位置づけられているが、ガルマン帝国とボラー連邦では戦闘的な艦隊には含まれず、警備用艦艇として位置づけられている。これは国家規模及び各国が用いる艦艇そのものの規模の違いから来る運用目的の違いのためだ。その例として、ガルマン帝国とボラー連邦では一般的な戦艦が大小数種類有り、さらに“駆逐艦”の規模が大きくて“巡洋艦”の役割を果たしている。また地球連邦でも近年“駆逐艦”の大型化が顕著で、ゆくゆくは“巡洋艦”か“駆逐艦”のどちらかの艦種類が消えるのではと言われている。地球防衛艦隊でも、自動艦隊建設時に実験的に取り入れられている。
 “駆逐艦”は、高機動による接近戦で相手を文字通り駆逐する任務を請け負った艦艇の事を指す。何を駆逐するのかは国によって若干の違いはあるが、概ねステルス魚雷を主装備としている。ただし、攻撃力に特化しているため用途が限られ、大型化させて汎用性を高めるか似たような規模の艦艇を別に“護衛艦”や“フリゲート”として用意している場合がある。
 “護衛艦”は、艦隊護衛、航路警備を請け負う比較的小型の艦艇の総称で、重武装の戦闘艦艇と戦う事は二の次とされている。概ね“艦艇”としては一番小型になり、数とコスト面が重視されている。状況の逼迫した国家の戦時体制時に登場する事が多く、この種の艦艇が多さが一つの指標ともなる。
 “巡視船”は、文字通り警備のために存在する軽武装艦艇の総称になる。決戦兵器はもちろん高価な装備は有せず、また艦艇の構造も戦闘艦艇より低価格で押さえられている場合が多い。これは、航路警備、沿岸警備を主任務とするため数が重視されるからだ。
 武装を施した艦艇の中では最も数が多い。
 なお、“巡視船”を重装備化した艦艇を“コルベット”と呼ぶ場合もある。

 では最後に、戦闘艦艇を一通り見たので“艦船”のうち“船”についても見てみよう。
 大きく“船”とくくっても、宇宙という制約を受けにくい活動場所の特性から、規模一つとっても戦闘艦艇以上に多種多様となる。
 地球人類が有する船舶だけでも、全長百キロメートル以上もある超大型移民母船や数十キロメートル規模の惑星探査・改造船を最大規模のものとして、最小サイズは全長30メートルを超える程度しかない高速連絡艇となる。
 無論、超大型もしくは小型船は特殊な船が多く数は少なく、最も一般的な船は各種貨物船となる。
 各種貨物船を簡単に説明すれば、対デブリ用の船殻に波動機関と居住区を備え、それ以外の区画全てが貨物用区画とされた船舶になる。
 最も一般的なサイズの汎用貨物船は、規模は概ね全長1500メートル、積載重量1000万トン級で、たいていはワープ可能で経済的な波動機関を1基備えている。船の形状は、効率的な内容積を最も確保しやすい箱形となり、戦闘艦艇に防御効率を求めた結果の“葉巻型”が多いのと対象をなしている。
 一方で、より安価な星系内専用の非ワープ型汎用貨物船となると、50万トンクラスの中型船を鉄道のように多数連結(100隻から300隻程度)して運用するのが一般的となっている。この場合“貨物艇”とは呼ばれずに、船扱いされている。また逆に、自走力があるにも関わらず“はしけ”と呼ばれる場合もある。
 その他、貨物船以外の船舶で一般的となると、旅客船及び高速旅客船になる。
 旅客船は、居住性を重視した遠洋航海用が一般的で、長距離移動の主な目的となる短距離移民と観光の二つの用途で用いられている。規模は、200メートルから1000メートル、重量3万トンから500万トン程度と様々な大きさがある。なお、旅客船と移民船の違いは、居住空間が“船”であるか“街”であるかにある。
 高速旅客船は、高い巡航速度と長距離ワープ性能を求めたもので、近距離及び中距離間の星系間で惑星上での旅客機のように運用されている。規模は、最大長100メートルから200メートル、重量2000トン程度までが一般的だ。星系内専用の非ワープ型の旅客船も、大きさは様々だが概ねこのタイプになる。またこのタイプの船はそのまま惑星上の各地に発着し、航空機の形状を持つタイプも多く、非ワープ型に限り従来通り飛行機や旅客機と呼ばれている。

 なお、分類上では“艦船”に含まれる各種高速旅客船もしくは同タイプの高速貨物船だが、市民の間もしくは通称として“飛行機”、“航空機”と認識される事が多い。これは、それまで主に地球と月面に整備された従来型の飛行場に発着するタイプが存在するためでもある。しかし波動機関を備えたタイプの分類上は“船舶”又は“艇”である。今のところ従来通り航空機に含まれるものは、波動機関を備えないタイプの事を指す。これは民間、軍用を問わず適用されており、分類の難しさから小さな混乱をもたらしている。故に、“艦船”と“航空機”の分類については、さらなる明確な分類を設けるための試行錯誤が繰り返されている。