●これから(2209年初頭)

 西暦(地球歴)2207年の新年明けてすぐ、地球人類(標準語訳:テラノイドもしくはテラリアン)は、ディンギル帝国による予期せぬ侵略とアクエリアスの危機を回避した。そして今も、諦めることを知らぬように、さらなる宇宙への飛躍を続けている。
 2年前のディンギルの通り魔的侵略の被害も、はねのけるように復興へと転じさせ、太陽系(ソル・システム)内のさらなる開発と平行して新たな大規模移民船団の出発が2207年内には再開された。
 つい先日の2208年クリスマスにも、第六陣の大規模移民船団「アヴァロン」までもが出発した。小規模移民船団や調査船団、探査船団、航路開拓船団、新たな航路へと向かう各種輸送船団などに至っては、文字通り数え切れないほどの数が宇宙の深淵へと向かいつつある。各種建造施設でも、今なお施設そのものの大幅拡張が続いている。太陽系からの出発拠点である土星圏の賑わいは、地球軌道すら上回るほどと言われるほどだ。
 また、2年9ヶ月前に最初に旅立った大規模移民船団の第一陣などは、その後地球を襲った戦乱に巻き込まれる事もなく、既にその航跡は太陽系から約3000光年先へと進んでいる。そしてさらに約3500光年先には、先発した惑星改造船団により10年程度の簡易テラフォーミングで居住可能となる惑星開発が進みつつある新天地となりうる良性の太陽系があった。新たな太陽系は「アルカディア太陽系」と命名され、新たな新天地の惑星名もアルカディア3という名が確定している。このため船団名も、出発時から「アルカディア船団」と呼称されていた。周辺部の宙域も、アルカディア宙域とされ地球からの自治領域となっている。これらの事象全ては、地球連邦が星間国家となりつつある何よりの証だった。
 また、第一陣とはまったく別方向へと進んだ第二陣(エリュシオン船団)、第三陣(桃源郷(シャングリ・ラ)船団)も、既に2000光年以上彼方で独自の活動を開始している。全てが1000万人もの人々を乗せた、地球人類の新たな揺りかごであり希望だっだ。まだ太陽系近傍を航行中の第四、第五、第六陣も同様だ。
 一方、地球人類が領有宣言をした太陽系の数も、既に100の数を超え依然計数的な勢いで拡大中だ。そのほとんどが不安定な恒星を中核としていたり、地球型岩石惑星やジャイアント・プラネットをほとんど持たない資源採掘用の星系ながら、人類の生存圏内はわずか数年で平均500光年に達しようとしている。一部改造可能な岩石惑星を持つ太陽系では、大規模なテラフォーミング作業も開始されており、数十年もしくは数百年単位で新天地を緑溢れた大地とするべく、気の長い開発が続けられている。
 そして、既に開発が進んでいる事で有名なアルファ・ケンタリウやバーナード星と、その他2つの簡易テラフォーミング完了の惑星を持つ太陽系を中心に、1億人以上の人類が太陽系の外で生活している。その数は2210年までには、地球人類総人口の10%を越えると言われる。
 こうした背景には、母星である地球が一度壊滅的打撃を受けたという物理的な理由もあるが、地球人類そのものが星間民族として覚醒し始めたなによりの証と言えるのではないだろうか。
 そして今後も爆発的な膨張は、突発的事件さえなければ確約されたようなものであり、地球圏での生産活動はもはや天井知らずどころか宇宙の底すら見えないと言われる有様となっている。
 こうした地球連邦政府並びに地球人類の性急すぎる行動の裏には、ガルマン・ガミラス帝国とボラー連邦が、交差した銀河系による大災害へ対処している間にできる限り国力の溝を狭めてしまおうという意図も見え隠れする。だがやはり、一度弾みのついてしまった事は、なかなか止められないという現実があった。
 地球人類は、いつの日か文明が衰退するその時まで、星間国家としてもはや歩みを止めることは許されないのだ。これはもはや文明の持つ宿命と言っても過言ではないだろう。

 一方、地球人類の番犬にして牧羊犬たる地球防衛艦隊の拡張も、地球人類の膨張に正比例する形で、順調といえる速度を越えて進んでいる。その規模は、2207年度内に駆逐艦以上の総数で1000隻を数えるまでに拡張される事が計画されている。急ぎ設立されつつある太陽系外に存在する民間の軍事組織・警備組織を含めれば、その艦艇数はさらに3割り増しになると言われている。
 無論民間戦力の多くは、地球防衛軍ほど強力ではない。重武装艦艇の多くは、ガミラス戦役直後からガトランティス戦役頃にかけて建造された艦艇の払い下げと、ディンギル戦役前に策定された新規計画艦によって占められ、他も量産を前提にした単純なラインの艦艇が目立つ。しかもほとんどの戦闘艦艇は、巡視船(パトロール・ヴェッサー。※地球防衛軍所属の重武装艦はパトロール・クルーザー)と呼ばれる警備用の軽武装艦船で占められている。
 また地球防衛軍内では、各種量産艦艇以外で防衛軍の象徴的な旗艦用として高性能な「アンドロメダ級」や調査用大型戦艦などもあるが、これらは特別である。この時点で地球防衛軍に在籍する100隻近い戦艦クラスの大型艦艇のうち、80隻以上が量産を前提とした主に二種類の戦艦で占められているからだ。特注艦である「アリゾナ級」や「ビスマルク級」、民間保有の一部艦艇、自動戦艦などの例外もあるが、コスト面から今後の量産はほぼ見送られている。今後数を大きく増やす予定の戦艦クラスも、量産を前提とした「標準戦艦」とその改良型となっている。
 一方では、量産艦ではない特殊任務用の大型戦艦の建造も新たに開始されている。これは沈没した「ヤマト」の代艦として特別会計で予算編成され、現在急ぎ建造中と言われるものも含まれれている。ただしドクター・サナダの多額の献金と全面的な技術参加、南部重工硫黄島地下ドックで建造中という要素があるため、地球防衛軍の艦艇という枠から外れていると言えるかもしれない。事実、南部重工探査部所有となることが、完成前から決定している。そして同艦の詳細については多くが判明していないが、「ヤマト」を越える「ヤマト」として内外からの注目が集まっている。
 また、南部重工に対抗する各企業も、続々と自身の警備組織用に新型戦闘艦を建造・就役させている。さらに中には、ガルマン帝国からの輸入艦艇の地球改装型、ガトランティス再生戦艦、デザリアム再生戦艦、さらには自動戦艦改設計の大型有人戦艦などすら含まれている。こうした艦艇は建造コスト面で有利な場合もあるが、逆に規格外のため正規籍の軍艦として防衛軍が運用しにくく、民間の“傭兵”組織が建造、運用している事が多い。

 なお、ディンギル帝国の突然の侵略から丸二年が経過し、一見久しぶりの平穏を取り戻したかに見える地球人類の安全保障状況だが、よく知られている通り問題が皆無なわけではない。
 一つは、いまだ解決の糸口のないボラー連邦との断続的な戦争状態の継続だ。
 無論、一時期のガルマン帝国による積極的攻勢と、現状でも進みつつある異次元銀河による災害のおかげで、大規模な戦闘は2006年以後発生していない。
 しかし小規模な戦闘や双方の偵察部隊の同士の衝突など、銀河系中心部から北部にかけては常に緊張状態が続いている。地球防衛艦隊の戦力充実と前線の遠距離化が、主に太陽系の地球人類の危機感を遠のかせているだけに過ぎないのだ。このため、地球防衛艦隊の主力部隊のかなりがボラー方面に拘束されているに等しい。
 確かに現状では、全体として戦局は優位にある。だが、ボラー連邦は恒星間プロトンミサイルを多数有するなど、軍事力を中心に侮りがたい以上の戦力を有し続けているので、まったく油断できない事に違いはない。
 そしてボラー連邦以外にも、大きな問題が二つ浮上していた。一つは、地球の復興と発展そして銀河大航海時代の幕開けに伴い、幾何級数的に増加した地球人類自身による遠隔地域を中心とする各種海賊行為を中心とする重度の犯罪行為。もう一つが、かつて地球人類と交戦した国々及び民族の残存勢力による散発的な抵抗だ。
 地球連邦政府並びに地球防衛軍が、太陽系外で民間企業の武装化を押し進めた背景にも、あまりにも雑多な海賊やゲリラの数に対処しきれないという側面があったためだ。
 なお海賊の多くは、銀河大航海時代に他太陽系に進出して短期間で失敗した一発屋、山師、運送業者、船乗りなどがほとんどだ。一部に大企業が絡んでいると言われるが、様々な強い法的規制により抑制されているとされる。またマフィアなどの比率はまだかなり低いが、地球人類の進出拡大に伴い急速に拡大しつつある。
 また海賊対策では、武力を用いるだけではなく犯罪者になる以前の段階での経済的救済策、服役後の社会復帰と再雇用対策が行われている。そしてガミラス戦役以後に人類生存の為だけに著しく強化されたままの厳しい刑法(※死刑、永久服役などが平然と設定され、殺人、強姦などの重犯罪に対して刑法が異常に厳しく設定されている。)が存在した。
 そして強力な武装を持たない地球人類による海賊行為は、地球防衛艦隊を出動させるほどの規模や戦力は希で、対処の多くは軽武装の民間警備組織に対応が委ねられている。また、あくまで地球人類存続を念頭とする地球連邦政府としては、海賊とは言え地球人類を自らの手で簡単に排除・殺害する事は難しく、犯罪行為として取り締まるには地球防衛軍は重武装化しすぎているという側面も見え隠れする。このため、地球防衛軍の空間護衛総隊と地球の既存の警察組織を複合させた、新時代のコーストガードとでも呼ぶべき組織の編成が近年急速に進んでいる。名称は、「銀河航路管理局」とされる予定だ。民間警備や傭兵が増えた背景も、地球連邦政府が軍の建設には熱心でも、それまで必要性のなかった航路警備を疎かにし過ぎた結果にすぎない。ゆくゆくは、傭兵組織の多くも新たな組織に統合されていくと言われている。
 そしてもう一方の、かつて地球人類と交戦した国々及び民族の残存勢力による散発的な抵抗(※以後「残存ゲリラ」とする。)だが、こちらの方も事情は簡単ではない。
 残存ゲリラは、個体武装が強力な事が多いのだが、数が少なくまた不利となるとすぐに逃げてしまうか、逆に自殺まがいの攻撃をしてくる場合が多いので、航路防衛のために必要十分な戦力が展開し辛くなっているからだ。
 主な残存ゲリラは旧デザリアム帝国残党で、ごく限られた一部にディンギル帝国の残党が確認されている。国家として維持されているガトランティス帝国は、希に銀河辺境などで明確に組織化された偵察部隊が確認される程度だ。
 また残存ゲリラを、ボラー連邦が支援しているとも考えられている。これは残存ゲリラが、継続的な補給を受けている事が確実視されているからだ。また残存ゲリラは、攻撃対象を地球連邦だけでなく、ガルマン帝国にも向けている。双方の残党が、かつてガルマン帝国もしくはガミラス軍と交戦し、大きな損害を出しているためだ。
 そして現状で一番の脅威は、数が比較的多く武装の強力なデザリアム帝国残党の方になる。彼らの中核拠点には、彼らが国家存続時から保有している大型の機動要塞や自動惑星が利用されていると見られている。事実、傭兵艦隊の一部が不完全ながら稼働状態を維持していた自動惑星との交戦・撃破を記録しており、辺境航路開拓の目的の一つもゲリラの拠点探査という副目的が与えられているほどだ。このため航路開拓には、重武装艦艇が多く用いられている。一方で、デザリアム帝国の装備を無傷で手に入れることは、オーバー・テクノロジー入手という点での恩恵も大きく、企業群が逆にデザリアム帝国残党を探し回っているとも言われている。企業群にしてみれば、技術という得難い“宝の山”というわけだ。
 おかげで民間警備会社や“傭兵艦隊”の重武装部隊や艦艇の数は増加の一途をたどっており、その戦力は最大クラスの企業それぞれが旧来の外周艦隊クラスのものを編成できるほどにまで成長している。ただ、本来任務のため多くの戦力は航路や拠点に分散配備されており、“宝探し”だけをしている艦艇は比率的には少ない。費用や人材の関係もあって、“宝探し”の多くは、精鋭化させた単艦の汎用大型艦によるものか、航空戦力を備えた複合編成の小規模艦隊によるものとなっている。
 なお、“宝探し”に汎用任務に耐える編成や艦艇が多いのは、かつての「ヤマト」の記録からこうした任務には有効と判断されているからだ。またそうであるが故に、単艦の汎用大型艦には「ヤマト」に似せたもしくは発展させたような能力のものが多いと言われている。
 またこうした“宝探し”に地球防衛軍並びに地球防衛艦隊は物心両面の制約から関心が薄くなりがちで、大規模なゲリラ戦発生の時に中規模程度の艦隊を派遣するのが常となっている。地球防衛軍の敵とは、常に地球人類に存亡の危機をもたらす敵であるからだ。

 そしてこうした現状を踏まえた上で、一つの結論のようなものが見えてくる。これは地球防衛軍ばかりか地球全体の軍備に言える事なのだが、結局のところ単機能化した艦艇を有機体的に複合編成する艦隊と、汎用性に優れた大型艦艇(※汎用戦艦・航空戦艦・戦闘空母・機動戦艦など呼称は様々)の二極化を進んでいるという事になるのではないだろうか。
 そしてこれは皮肉にも、戦没するまで就役頃の“万能戦艦”としての能力を色濃く保持し続けた「ヤマト」と、「アンドロメダ」を中心とした単機能艦の集合体である地球防衛艦隊の姿に他ならない。
 つまり地球防衛軍は、半ば偶然にも最初の段階ですでに目指すべき回答に到達していたと結論する事ができるのだ。


おまけ