中西學展
「原始のスープ -共時性-」


NAKANISHI Manabu






中西學氏の展覧会『原始のスープ -共時性-』を開催いたします。
中西學さんは1980年代に「関西ニューウェーブ」の中でデビューし、生命へのエネルギーを感じさせる
巨大な立体作品で注目を浴びました。近年は生命の根源である神話の世界へ潜り、さらに激しくも美しい
立体作品を制作しています。今回の展覧会は、美術館クラスの大型スペースを使った、中西學の90年代〜
2000年代の集大成となる展覧会です。

 > 展覧会趣旨
 > 中西學 略歴
 > 『中西 學 ― 狂熱の80年代から2006年「水の神話」まで』  中塚 宏行

・会期  2006年10月3日(火)〜10月29日(日) 会期中無休

・時間  11:00〜19:00 (最終日〜17:00)※入場無料

・会場 海岸通ギャラリーCASO(A室)

・主催    「原始のスープ 」実行委員会
        海岸通ギャラリーCASO
・協賛     (株)住友倉庫
        (株)間口
        アサヒビバレッジサービス(株)
      
・展覧会テキスト  中塚 宏行(大阪府立現代美術センター主任研究員)

・ギャラリートーク 10月14日(土)3:00PM〜5:00PM
         池垣タダヒコ(現代美術作家)
         中塚 宏行 (大阪府立現代美術センター主任研究員) 
         中西 學  (現代美術作家)
         吉原 美恵子 (徳島県立近代美術館学芸員)
 
・ギャラリートーク後レセプション(パーティ) 5:30PM〜

・同時開催   中西 學 展 nebula works
          2006年10月2日(月)〜 10月21日(土) 信濃橋画廊5、 / 大阪


Title of work : 情報テ-プの注入
Size in centimeters :
H 135 X W  180 X D 90
Material : 木にポリエステル樹脂、ウレタン塗料、ウレタンチュ-ブ、
      陶、アモルファスクォ-ツ、透明アクリル台
Title of work :  大地母神
Size in centimeters : H 152 X W 210 cm
Material : ガッシュ、メディウム


  海岸通ギャラリーCASO/スペースAにて、私たちと世界を根原的に結んでいる
   「神話」をテーマに立体(FRP、 陶、金属など)と平面作品で展覧会を構成する。


 今日まで人類は絶えざる進歩を続けてきた。特に先進諸国においては、繁栄を我がものとしたかのように
見えるが、その反面、未だに地球上のあらゆる場所でおきている残虐な争い、自然環境破壊、そして異常な
犯罪等、予想をはるかに超える破局に直面しているのも事実である。
 このような時代において私は「神話」を題材にした作品を発表する。
 人類の原体験・原風景を表現したプリミティブな神話は、現代への啓発のメッセージと思える。私は神話から、
ものごとの類似性と共通性を認識し、人間本来が抱いている「祈り」や「想念」を共通言語としてとらえている。
また諸民族の素朴な魂が凝縮されている神話には、現在・過去・未来に縛られない永遠の世界(人間観)があると
考えている。
 今、現在の芸術の命題として神話的感動への導きは、混迷からスタートした21世紀の人類の道標をしるして
いく上でも大きな意味を持つように思われる。
 この展覧会で「神話=物語」を検証し、時代や世代を超えた対話をおこないたい。
 美術の本質とは何か?「原美術」とは何か?原初的感動とは何か?などの命題を、今日的なテーマとして現出
したいと考えている。
   アーティスト/ 中西 學




 
中西 學 略歴 
 
 1959  大阪市に生まれる
 1982  大阪芸術大学美術学科絵画専攻卒業

● 主な個展
 '83/'89/'95/'97/'99/2003   番画廊、大阪
 1992 「今日の作家 シリーズ25 - 中西 學 展」  大阪府立現代美術センター
 1994   ゲーテ・インストゥート・デュッセルドルフ、ドイツ
 1997   サクラアートミュージアム、大阪
 '98/2000   ギャラリークラヌキ、大阪
 2002  「アートはうごく・はしる!/ネブラ・サーキット 中西 學展」   京都芸術センター
 2000/2002/2004/2005/2006   信濃橋画廊、大阪

● 主なグループ展
 1985/86/90 「アート・ナウ」   (兵庫県立近代美術館)
 1987  「シガアニュアル’87/ 主張する人体」 (滋賀県立近代美術館)
 1989 「美術の国の人形たち」   (宮城県立美術館)
 1991 「素材はいろいろ展」   (徳島県立近代美術館) 
 1992 「水戸アニュアル、大きな日記/小さな物語」   (水戸芸術館現代美術ギャラリー)
 1994 「Import Export展」   (ノルトラインヴェストファーレン州経済省/ドイツ)     
 1995 「済州プレビエンナーレ-From Island To Island-」   ( 済州島、大韓民国)      
 1996 「’96 新鋭美術選抜展」   (京都市美術館)    
 1997 「眼差しと視線3 / 菅原一剛・ 中西 學展」   (ミヅマアートギャラリー、東京)     
 1998 「アジア・アヴァンギャルド」出品   (クリスティーズ・ロンドン、イギリス)
 2000 「Morphe2000/ 亜細亜遺伝子」   (青山、東京都)              
 2003 「日本現代メダルアート展」   (ラックエンドハムパーギャラリー、ニューヨーク、アメリカ)
 2005 「イメージから表面へ」   (茨木市立ギャラリー)
    「アートエキスポ 2005 」   (ソウルCoexコンベンションホール、大韓民国)

● コンクール展 / 受賞  
 1987「 第4回吉原治良賞美術コンクール展」にてコンクール賞受賞
 1990 平成元年度「咲くやこの花賞」美術部門受賞  (大阪市)
 「大阪国際彫刻トリエンナーレ’92」「大阪トリエンナーレ2001展」 その他。

● レジデンス
 1994 ART- EX :アーティスト・イン・レジデンス・プログラムにてドイツ・デュッセルドルフ滞在

● ワークショップ サクラアートミュージアム ・ 京都芸術センター その他。

● パブリックコレクション
 大阪府立現代美術センター    サクラアートミュージアム
 徳島県立近代美術館       ゲーテ・インストゥート・ミュンヘン
 和歌山県立近代美術館     郵政省(現日本郵政公社) その他。
                                         
● 参考文献等
 1986年 乾 由明「展評」『読売新聞』7月25日 1987年 田中三蔵『朝日新聞』2月25日 
 1992年 篠原 資明「メタリックな軟体構築」 大阪府立現代美術センター個展パンフレット
 1997年 浅井 俊裕 水戸芸術館現代美術センター編 現代美術事典90s
 2002年 安黒 正流「星雲の生命」 展評(てんぴょう)第12号
 2005年 高橋 亨「イメージから表面へ」茨木市立ギャラリー展覧会パンフレット その他。




『中西 學 ― 狂熱の80年代から2006年「水の神話」まで』

                               中塚 宏行


Title of work : Amertha / アムルタ 
Size in centimeters :
H  230 X W 200  X D 100
Material : FRP、アクリル絵具、ウレタン塗料 


1. 疾風怒濤ー狂熱の80年代の青春 「ロッキン・マイアート」


70年代ミニマル・アートの禁欲主義に染められていた関西の美術界も、80年代に入りニューペインティングの本土上陸とともに、若い世代を中心に次第に表現主義的でイメージを合わせ持った絵画傾向が目立つようになる。いわゆる「80年代関西ニューウェーブ」の台頭である。その狂熱の80年代を最も象徴しているのが中西學であろう。

1984年、大阪芸大を出てまもない若干24才の中西は、先輩たちに倣って、まずは西天満の老舗画廊、番と白で個展を開いた。大画面に塗られた強烈な色彩、画廊の空間一杯に展開されたその力強く激しい表現は、画廊回りをしていた関西の美術関係者の目に留まった。乾由明、兵庫近美の学芸員、京大を出て大阪芸大に講師として赴任していた現代美学者、篠原資明、国際美術館の建畠晢、朝日の美術記者吉村良夫ら。「これぞ日本のニューペインティングではないか」と。折からのブームも手伝って、いくつかの美術雑誌にとり上げられ、兵庫近美のアートナウ85に作家選定された。中西は「とにかくアメリカンサイズの、スケールの大きい、美術館の空間でしか発表できない、でっかい作品をつくってやれ」そんなきわめて単純な動機ではあったが、20代の若さと情熱、表現に対する欲望、エネルギーは一気に爆発した。そして、中西が小さい頃から慣れ親しんできた「肥後の守」と呼ばれる日本伝統の小刀をモチーフにプレスリーとローリングストーンズのロックのパワー(高揚感)とエレキのビートと音響を注入したような巨大なオブジェ作品「ロッキン・マイアート/キング・オブ・オブジェクト」が誕生、展示会場の中央を占拠したその作品は圧倒的な存在感を示した。

「気合いがなければいい作品は生まれない。指の先から髮の先まで気合いを込める。体に触れれば感電する。これぞ男の心意気。気合いを入れない作品は誰の目にも止まらない。そういうものだ。」(中西學/アートナウ85のコメント)プレスリーの称号“KING OF ROCK'N' ROLL”を意識したこの作品「ロッキン・マイアート」の下で、ジャケットを着て右手を腰にあて、サングラスをかけた中西學の姿は、まるで新しいロック・アーティストの誕生を思わせるいでたちであった。

翌86年、再び兵庫近美からアートナウに特別招待を受けた中西は、中村敬治の「大きさ競うだけでは・・・(読売新聞)」という警鐘もなんのその、87年吉原治良賞受賞、88年ABCギャラリーで杉山知子、田嶋悦子との三人展、90年咲くやこの花賞、91年キリンプラザでの個展 92年大阪府現代美術センター・今日の作家シリーズ、水戸芸術館でのアニュアル展「大きな日記・小さな物語」、そして94年大阪府ART−EXドイツ派遣、デュッセルドルフ滞在と快進撃が続く。

90年代に入り、日本を席巻したニューペインティングの嵐はほどなく終息を迎えようとしていた。美術ジャーナリズムは早くも次のトレンド(流行)と次世代の若き才能に目を向け始めていた。疾風怒濤の嵐のように訪れた中西のニューペインティングの青春もまた過ぎ去り、いつしか成熟の年代にかかろうとしていた。



2. 90年代以降 ビッグ・バン、ネブラ、アモルフォス、ボイド、2006年「原始のスープ」「水の神話」まで


中西のビッグ・バン(星)シリーズは87年頃からはじまっている。ハッブル宇宙望遠鏡から見た画像情報にインスピレーションを受けた中西は、天文学雑誌に掲載された写真やビデオ、DVDなどを収集、そこに展開されるさまざまな映像に触発され、その有機的なフォルムをベースに作品をつくる。そして、作品名や展覧会のコンセプトが天文学用語辞典から引用される。98年のトポロジーとアモルファス。「トポロジーとは不定形の空間(=時間)と多次元(=多様性)を意味する。それは神話のように人類の原体験・原風景をプリミティブに表現したものである。」(中西)「アモルフォス」(Amorphous)とは不定形=一定のかたちをもたない状態のことである。99年の「Hidden mass」もまたトポロジーと同様な意味で用いられている。02年、京都芸術センターでの個展タイトル、ネブラサーキットとは、星雲(Nebula)のこと。

「神秘性と造形美に溢れた宇宙の姿は私にビジュアルショックを与え、作品制作のモチベーションとなった。(中略)人間の細胞(記憶)には生命の源流である星の元素が組み込まれているように思える。私たちは同じ場所(ところ)から作られた存在であり、共通の原風景を眺めているのである。」(中西)03から05年の個展はVOID。ボイド(VOID)とは、物体に含まれる微小な空洞=気孔である。また宇宙において、銀河がほとんど存在しない超空洞の領域のことをいう。原子炉の炉心において発生する冷却材の蒸気の泡(気泡)もボイドという。中西は「遺伝子と大宇宙に存在するボイド(泡状の構造)というものを平面と立体で表現する。」(中西)

このように、中西は大宇宙と遺伝子の微細世界、マクロとミクロのコスモスで生成、誕生、展開するフォルムの形成へと向かう前段階の渾沌の世界、根源的な状況に思いをはせる。形が生成する、いわば世界(かたち)が生まれる瞬間に立ち会いたい、もしくはその状況を表現したいという意志と欲求を持つ。不定形の形、未分化の形、形になる前の形、原初の形、原フォルム、根源的フォルム、原始の形態、有機的な形、あらゆる事柄の根源、起源である。そして原子細胞のような、アメーバー、溶岩流、あるいは解けたガラスのような、どろどろとしたフォルム、もしくは、漂いながら、もやもやとした、流動的なフォルムが生まれる。

00年、05年、そして06年は「原始のスープ」がテーマとなる。「原始のスープ」とは天地創造の時代にもさかのぼり、あらゆる生命的存在が生まれる根源的存在で、それ自体が固体、液体、気体にもなり、地球以外の惑星には存在が全く確認できないとされる奇跡の物質「水」のことである。そして中西は吉田敦彦の著書「水の神話」に出会い、そこで紹介された様々な神話物語に作家としてのインスピレーションをおおいにかきたてられた。「そこに語られた文章から次から次へと泉のごとくこんこんとイマジネーションが湧き出してきた」と中西は語る。今回の出品作の大半は、そこに紹介された神話にモチーフが採られている。
 そして中西は、平面(絵画的)の発想を立体(造形作品)に展開する方法論をとっており、その手法は初期作品から現在にいたるまで一貫している。  


[原始のスープー共時性ー]出品作品 解説
「アムルタ」は海水を撹拌し乳からバターの海に変え、そこから不死の飲料アムルタをつくるというインド神話。「大地創造/玄武」は亀の甲羅を仰向けにして陸地の土台が生まれるというブリヤート・モンゴル人の神話。「エモーショナルティア」は両目から溢れた涙が乳房にまで達するチェコで発見された先史時代のビーナスやルーマニアで発見された紀元前の水盤上の女神像などをモチーフにしている。「情報テープの注入」は、三人の神々が最初の人間の男女を造るというブリヤート・モンゴル人の神話。「テティスの足」はギリシャ神話で、銀の足を持った水の女神テティスが醜い嬰児ヘパイストスを救うために海に入る場面を表現。

「月に昇華した少年」はフジツボだらけの醜い少年が陵辱され精液を塗り付けられた後バナナの木がはえて、その後は月になるというニューギニアの神話。「岩屋」は男根と陰門を象徴している天の岩屋とアマテラスからなる日本の神話。「幸福な船」は、箱に乗った兄妹が洪水の難を逃れ結婚して人類の始祖となるというインド中西部ビール族の神話。      
                                (吉田敦彦「水の神話」青土社1999より)


[アモルフォス(Amorphous)]
(morphous)は一定の形という意味であり、この語の一番前に否定の意味を持つAが付くことによって、決まった形のない、不定形なという意味になる。よく似た言葉にビオモルフィック(Biomorphique)ということばがあるがこちらのほうは生命形態的という意味である。アンフォルメル(Informel)もよく似た言葉だが、こちらは既に美術用語にもなっており「非定形」と翻訳されている。

[中西學ー芸術家への憧れ]
「抽象絵画を描け」という課題をだされた高校生の中西はカードボードいっぱいに絵具を撒き散らしたり(ドリッピング)、押し付けて伸ばしたり(デカルコマニー)した作品を制作、普段から口が悪くて決して生徒を誉めた事のなかった担任の美術教師江口善之は「誰もこんな絵は描かへん。ほんまにおもろい」と激賞した。その当時、既に若くして国際的な版画家としてデビューして、小説でも「エーゲ海に捧ぐ」で芥川賞を受賞し、芸術家として世間で華々しく活躍していた池田満寿夫にあこがれて大阪芸大の版画ゼミに編入学、国立国際美術館に常設展示されていたラウシェンバーグの「至点」やミロ「無垢の笑い」カルダーのモビールなどを見て大いに影響を受けた。
  
                      なかつか ひろゆき(大阪府立現代美術センター主任研究員)