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■ プラスの自己

(前略)

こうして浮浪者にまで堕落してしまったナスマッチはその収入もほとんどなくなり、毎日食うや食わずで肉体はやせるし、魂は骸骨のようになってしまった。彼は全世界から追放せられたような気がした。だんだん深い所へ落ちこんで行くような気がするのだった。しかしその時に第5の教訓が与えられたのである。

第5の教訓はとても文字をもって表すことができない、それは実際の出来事によって表すほかはないのである。それは寒い晩であった。彼はかってそこで雇われておったところの樽製造工場の裏庭の鉋屑(かんなくず)の中で寝ていたのであった。彼が目を覚ましてみると、彼の前に健康で生き生きした男が木の切り屑を燃やしながら顔を炎に赤々とほてらせてあたっているのであった。ナスマッチは目が覚めるとその火にあたりたいと思って近づいて行った。その男は椅子にかけていたが一脚の椅子をさしてかけろというような態度をした。しかし一語も言わなかった。ナスマッチは自分の体があたたまってきた時に何ともいえない恥かしさを覚えてきた。そして今度は本当に目が覚めたのである。しかしそれからというもの、いつでもあの夢の中で見た男が自分と一緒にいるのである。他の人には気がつかないらしい。しかしナスマッチにはそれが実在の人物であるとしか思えないのだ。

その人物はナスマッチによく似ていた。しかしまた非常に似ていなかった。その額はナスマッチのそれよりも高くはなかったが、丸みを帯びてふっくらと充実していた。彼の目は明るく無邪気で希望に満たされており、決心と熱情の輝きを示していた。その唇、頬すべての顔の表情は決意そのもののようであり断固とした支配力を示していた。その前にナスマッチは何か恐怖に似た暗いものにみたされて神経的に震えている自分であった。その人物の行くところへナスマッチはついて行かずにはおれなかった。その人物は今までナスマッチが行きたいと思っていたある建物の中へずんずん入って行った。しかしナスマッチはそのドアをくぐることができなかった。そしてドアの外でその人物が出てくるのをおずおずしながら待ってるより仕方がなかった。それは彼がかって取引していたある会社の事務所であった。今まで仕事を求めて幾度かそのドアの前をうろついた所であるが、入ることができなかったのである。その人物はその事務所から出てくるとやがてまたどこかの事務所へずんずん入って行く。ナスマッチは外で待っているのだ。そしてとうとう夕方になる。その人物はある有名なホテルの玄関の所で消えてしまった。夜が来た。ナスマッチは例のとおり樽製造工場の裏庭の古樽桶や鉋屑の中で寝る。それから目がさめるとまた例の人物が出てくる。そしてその人物に引きずり回されるようにそのあとをついて行くナスマッチであった。数日の後にナスマッチはその人物に話しかける勇気が出た。

「あなたはどなたですか。」

「私は私というものだ。ここに生きているものだ。」と彼は答えた。

「私はお前がかってあったところのものだ。何のためにお前は躊躇するのか。私はお前が昔お前であったところの彼なのだ。しかしお前は彼を見捨てて他の仲間に入って行ったのだ。私はお前が見捨てたところの彼である。神の姿に造られた人間そのものだ。そして私は一度お前の肉体を所有していた。私はお前の肉体の中にお前と一緒に住んでいたのだ。しかし調和した状態ではなかった。完全にひとつにはなりきれなかった。お前は小さいものであった。そしてだんだんいっそう利己主義になって行った。とうとう私はお前と一緒に生活するのに堪えられなくなったのだ。そして私はお前の体から飛び出した。人間の中には誰にでもプラスの人間とマイナスの人間とが一緒に同居しているのだ。そしてどちらを尊重するかということによって一方がその人間の支配権を得るのだ。私はお前のプラスの人間である。お前はお前のマイナスの人間である。私は全てのものを持っている。しかしお前は一切を持っていないのだ。我々二人が住んでいた肉体は私のものである。しかしそれはあまりにも見苦しい。私には住むに堪えない。それを清めなければならぬ。そうすれば私はお前の肉体に再び入るだろう。」

「あなたはなぜ私につきまとって来るんですか。」とナスマッチはその人物に尋ねた。

「つきまとうのは私ではない、お前が私についてくるのだ。お前はしばらく私なしに生きる事ができた。しかしお前の行く道はだんだん下へ降りる道だ。最後にどん底の死が来る。もうお前はその道のほとんどぎりぎりの所へ近づいている。いよいよぎりぎりが近づいてきたのでお前は是が非でも私が入るようにお前の家を清めねばならないのだ。お前のいるところを清めよ。頭の先から心の中まできれいにするのだ。するとわたしはいつもどおりにお前の中へ入るであろう。」

「私の頭はもう力を失ってしまったのです。」とナスマッチはよろめくように言った。

「心もすでに弱り果てているのです。あなたに修繕はできませんか。」

「きけ」とその人物はナスマッチの上にのしかかるようにして言った。ナスマッチはその人物の前に倒れて死んだようになった。その人物の声は厳かに続くのだ。

「プラスの人間にとってはすべてのことは可能である。全世界は彼に属しているのである。彼は何ものをも恐れない、何ものの前にも停止しない。なんら特権を求めない。彼は命ずるものである。彼は支配者なんだ。彼の言葉は命令そのものである。彼が近づくと反対は逃げてしまう。彼は山を移して谷をうずめる力をもっている。彼の行くところ、至るところその道はたいらかになる。」

厳かに聞こえてくる彼の声をナスマッチははっきりと目が覚めて聞いていた。たしかにそれは夢ではない、そう思いながらナスマッチはまたうとうとと鉋屑の中で眠ったのである。

そして今度目が覚めてみると彼の見る世界は完全に別世界のように見えるのであった。太陽が生き生きと輝いていた。小鳥が囀(さえず)っていることがいつになくはっきりと意識に上るのだった。昨日までふるえていた不確かな弱々しい肉体に今朝は活気に満ちた健康さが感じられるのである。彼は自分の眠っているところのうず高い鉋屑を見つめた。そして夢の中で起こった出来事を心に思い浮かべたのである。彼は起き上がった。そしていつもの習慣のように毎朝朝飯を食べる居酒屋のほうにへ歩き出した。するとどうしたものか今までこちらが挨拶しても応答もしなかった居酒屋の人たちが愉快そうにうなずくのだ。数ヶ月間ナスマッチを軽蔑してきた人たちが丁寧にお辞儀をして彼を迎えた。彼は洗面所に行って口をすすぐと朝飯のところへ出かけていった。それが終わると酒保へ行った。そしてその主人に「前に私が借りていた同じ部屋を借りたいんですが、もしふさがっておりましたらその部屋があくまで他の部屋でもいいんです。」

こう言っておいて彼は大急ぎで樽の製造工場へ入っていった。工場の広場には大きな荷揚げ馬車があって、そこの人たちは樽を荷馬車に積んで港に運ぶところだった。ナスマッチは何も言わなかった。そこに積んである酒樽を手にとると、荷馬車の上にいて取り次いでいる人夫の手元へ酒樽を次から次へと投げてやった。それが終わると彼は勝手知った樽製造工場へ入って行った。そこには一脚のベンチがあった。長い間使わないと見えて藁ぼこりが一杯たまっていた。それは、かってナスマッチがこの工場で働いていた時に使ったところの仕事の足場になるもので、そこにかけるとバイスのレバーに足をかけて桶板をけずり始めた。

それから1時間ほどすると工場主任が工場へ入ってきた。ナスマッチが働いている姿を見て驚いた様子であった。そこにはすでに新しくけずった鉋屑が相当積まれてあった。工場主任はじっと彼を見つめていた。ナスマッチは何も口では言わなかったが仕事の態度で、「僕はまた仕事に帰ってきたんです」というように見えた。工場主任はだまって自分の頭をうなずかせて過ぎ去って行った。

これでナスマッチの第5のそして最後の教えは終わるのである。ともかくそれ以来ナスマッチはすることなすこと都合がよく行くようになり、まもなく他に木造船の造船所を設立してその所有主となって成功したというのである。そして彼は最後に次のことを書き加えている。

「何にてもあれ善について汝が欲すれば必ずそれは汝のものとなる。汝はただ手をのばしてとるだけでいいのである。汝の中にあるところのすべてのものを支配するところの力を自覚せよ。すべてのものが汝の所有である。」

「いかなる種類のいかなる形の恐怖をも持ってはならない。恐怖心はマイナスの人間と兄弟分である。」

「諸君が何か熟練した能力があるならばそれをもって世界に奉仕せよ。世界はそれによって利益を得る。したがって汝もまた利益を得る。」

「日夜努めて汝のプラスの人間と交流せよ。プラスの人間の忠言にしたがえば失敗するということはない。」

「哲学はただの屁理屈である。世界は屁理屈ではないのである。事実の集積であることを記憶せよ。」

「汝の手の中にあるすべてをのことをなせ。横合いから誘惑する手招きに従うな。何人も許可はいらない。自らなせ。」

「マイナスの人間は人から赦しを求めるのだ。プラスの人間は人に赦しを与えるのだ。幸運というものは自ら歩むところの一歩一歩の中にある。それをつかめ。それをわがものとせよ。それは諸君のものであり、諸君に属する。」

「いま直ちに始めよ。上記の教えを忘れるな。手を伸ばしてプラスをとれ。人生は今が最も厳粛なプラスの時である。」

「諸君のプラスの人間は今あなたのそばにいるのである。あなたの頭を清めよ。あなたの心をつよめよ。それは入ってくるであろう。プラスの人間は今あなたを待っている。」

「今晩始めよ。今人生の新しき旅を始めよ。」

「プラスの人間かマイナスの人間かどちらの人間が汝を支配しているか注意せよ。
1分間たりともマイナスの人間を汝の中に入らしむることなかれ。」

(後略)

『青年の書』 谷口雅春 1964年 日本教文社

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 2003 Yoshiaki Sugimoto