シリーズごとに人間くさくなっていく天使のチンク


CHOBOKO
いつでもどこでもサファイアの良き相棒のチンクだけど…


リボンの騎士」の原作、「少女クラブ版」と「なかよし版」、そしてアニメ版の3つを比較してみてみると、シリーズ毎に色々とストーリーやキャラクターに変化があって面白いです。原作にしか出てこない登場人物がいたり、レギュラーだけどキャラクター設定が違ってたり(それが最も顕著なのがヘケート。3篇とも全然ちがうのです)します。主人公のサファイアですらアニメ版はかなりアニメ向けにアレンジされたキャラクターになってると思います。
ではチンクはどうでしょう?チンクの物語における立ち位置は、3篇ともに共通していて(そうでないと「リボンの騎士」が成立しないのですがι)、「誤ってサファイアに与えてしまった男の子の心を取り戻すために天国から降りて来た元天使」という設定も原作、アニメともに変化はありませんので、かなりキャラクター造形は固定されているように思いますが、それでもそれなりの変化はみてとれます。どの辺が変わっていっているのかといいますと、どんどん人間くさくなっているんですね。


実は「少女クラブ版」を読んだ時に非常に印象に残った場面があったのですが、それは次のような場面です。

※追手に追い詰められて逃げ場のなくなったサファイアは、その場を逃れるために悪魔のメフィストに、自分の女の心を与えることを約束し魔法の力で助けてもらいます。果たしてサファイアはピンチをくぐりぬけ、その後プラスチックの計らいで女王として王位につきます。しかしメフィストに女の心を与える約束の日が近づいてくることに心が乱れます。そこでサファイアは天使であるチンクになんとかしてもらおうとチンクのもとを訪れます。

サファイア:「チンクちゃーん」
チンク:「おっとっと近よったらいけないよう」
サファイア:「お願いチンク聞いてちょうだい」

チンク:「いやんお姫さまは悪魔ののろいにかかってるんだもん ぼくきらいだい」

ここでチンクは明らかにサファイヤのことを拒絶しているわけですが、困っているサファイアをこんなふうに拒否するチンクの姿はアニメ版や「なかよし版」にはない描写だったので非常に意外だったのです。でもこれは「少女クラブ版」のチンクが冷たいというわけではなく、彼が「天使」だからなんですね。チンクがサファイアを避ける理由は「サファイアが悪魔ののろいにかかっている」からで、つまり「天使」として相手がたとえサファイアであっても「悪魔」の気配を漂わせている彼女を受けつけることができない、いわゆる「生理的にダメ」ってやつです。ですから少女クラブ版においてチンクはサファイアの手助けをすることはするのですが、それはわりと「天使」としての使命というか義務的な部分で動いてる部分が多いのもという気がします(もちろんサファイアのためを思って行動もしてますが)。まだ問題が残ってるのに、サファイアに女の心を戻した時点でチンクは帰天してしまうというあたりからもそういう風に受け取れるのですが(連載をもう少し続けなければいけなくて、その後に物語を付け足したと言うようなことは聞いてますが)。
ところがこれが「なかよし版」となるとチンクはグッとフレンドリーになります。まずすべてに解決がつくラストまで天国へ帰りませんし、途中サファイアの心を入れ替えて天国に帰るチャンスがあるのにサファイアの為にそれをぼうにふったりと、もうサファイアにつくしちゃってます。これは先ほどの「少女クラブ版」の2人のやりとりからは考えられないです。これがさらにアニメ版となるともうチンクはサファイアのことしか考えてません(笑)「幻の馬」というエピソードでチンクはシルバーランドが本当に平和になったら自分は使命を果たして天国へ帰ると天馬に告げるのですが、自分の使命よりもサファイアの身を案じてるわけです(健気…)。そして番組後半ともなると「(サファイアの)アシスタントだい!」とまで言い放ってます。なんだか完全に使命のことは忘れ去ってるかのようにもみえます(笑)。使命感よりもチンク自身の(サファイアのためにという)感情で動いているあたりは、潜在的には天使なんだけどメンタルな部分ではどんどん人間くさくなっていってるわけです(そういえばフランツにやきもちをやくシーンもあったなあ)。
だからこそアニメの最終回でのチンクの帰天がああいう形になったのは結果として非常にしっくりくるものだと感じます。チンクが「天使」に戻るということは、仮の姿である人間としての自分との決別でもあるわけで、つまりは一度身につけてしまった人間的なものと「死」という形で別離することによって天へ回帰してる―と、受けとることもできるような気がするのです。(でもサファイアとフランツの結婚式には出席するとか言ってましたけどね(笑))。
シリーズごとに人間くさくなっていくチンクですが、それがまたキャラクターに親しみやすさを与え、特に低年齢向けに作成されたというアニメ版では、小さな子供が感情移入しやすいようなキャラクターになっていってると思います。

それにしても、BJのピノコといい、手塚治虫氏は主役をくってしまうほどのタイニーな脇キャラ造りがとても上手ですね。


2005.11.23再録