静かな森に飛び交う怒号。
剣戟の音。馬の嘶く声。
襲われた側と、襲った側の声が交錯する。
「きゃああっ!!」
「姫様――!!」
襲ってきた者達は明らかにその人を狙っていた。
先に逃げてもらおうとした先は、運悪く崖だった。
「……貴様ら、そこをどけ――!!」
姫を追い詰めていた盗賊たちを、剣で横薙ぎに一閃する。
盗賊たちは騎士の気迫に恐れをなしたのか、無理に迎え撃とうとはせず逃げ出す。
逃げていく盗賊たちには目もくれず、姫が落ちたと思(おぼ)しき崖から下を見る。
「くっ!!」
途中に出っ張りがあれば、そこにいることも考えられたがそんな場所すらない。
唯一の救いは、谷底が川になっていることだろう。
「手塚!!」
呼ばれて騎士は振り向く。
「大石。そちらはどうだ」
「何人か怪我をした以外に問題は無い。
捕らえた者達も、固めて転がしてある。
それで、姫様は……」
「……ここから下へ……」
手塚の顔が俯きがちになり、肩が震える。
「くそ!! ……手塚、どうする。
あちらからの迎えも来るはずだ」
「俺は下流から姫様を探す。
大石は盗賊の処理と、あちらからの迎えのほうを頼む」
「わかった」
その時、草を掻き分ける音が響き、目つきの悪い騎士が現れた。
「海堂、どうした」
盗賊の見張りを頼んでいた海堂が現れたことで、不思議そうに大石が聞く。
「乾が、やつらはおかしいと言っている」
「おかしい?」
「……一度戻って話を聞いたほうがよさそうだな」
「そう…だな。そうと決まったら、急ごう。
こうしている間にも、姫様は……」
大石の顔がゆがみ、崖の下を見下ろす。
「大石。考えるよりも、行動が先だ」
「すまん。そうだな」
3人の騎士はあわただしく動き出す。
崖の下では、一人の男が少女を川から引き上げていた。
「…………やっと、手に入れた」
少女の体に怪我が無いことを確かめる。
「とっさだから、間に合わないかと思ったけど、大丈夫だったみたいだね」
満足そうに笑って、少女の体を抱き上げその場を離れる。
少女の髪を彩っていた、宝石の花を一つ残して……。
「乾、おかしいとはどういうことだ」
眉間にしわを寄せた手塚が尋ねる。
「説明するより、見せたほうが早い良いだろう」
乾は手塚に向けていた視線を、一人の盗賊へとずらす。
「俺達を襲ったのはどうしてか、説明してもらおうか」
「それは……命令されて……俺は、俺は!!
あいつが言ったんだ! 奪って来いと!!
ぅぁあああああ!!」
途中から盗賊の様子がおかしくなる。
目は血走り、びくびくと体が跳ねる。
盗賊の叫び声が唐突に途切れる。
そこにいるのは、不思議そうな顔をした男。
「……ここは、どこだ?」
動こうとして、自らの体を見回し、動けないことに気付く。
「どうして俺は縛られているんだ?
すまない、その格好からするとどこかの騎士のようだが、俺は何かしたのか?」
「俺達は君らに襲われたんだ。
覚えていないのかな?」
「襲う!? どうしてそんなことをしなければならないんだ!!」
「それはこちらが聞きたい。
さっき君は命令されたと言っていたんだが、誰に命令されたんだい」
「命令? 命令なんて、された覚えは無いぞ」
「そうか……」
それまで盗賊……男と話していた乾は、手塚に向き直る。
「こういうことだ。
何人かに質問してみたんだが、全員同じような反応の後、自分がどこにいるのかわからない。
それまで何をしていたのか分からないという結果になった。
共通しているのは、『誰かに命令された』という点だな。
その『誰か』とは、かなりの力を持っていると考えたほうがいい。
手塚はこれから姫様を探しに行くんだろう。
心して行った方が良い。『誰か』がいる場所に、姫様は共にいる可能性が高い」
手塚の口から、低く唸るような声がこぼれる。
「捕らえられているという事か」
「98%の確率でそうなる」
騎士たちの間に重い沈黙が落ちる。
乾の確率計算。さまざまな事象、さまざまな可能性。親しい者であれば、その性格すら計算の中へと組み込まれる。
その計算により出してきた答えは、常に正しかった。
そして、ここまでの高確率をいうことはめったに無い。
「大石、後は任せたぞ!!」
常に冷静な光をたたえる瞳を怒りで爛々と輝かせ、返事も待たず手塚は馬を走らせる。
残された者達は、手塚が間に合ってくれる事を祈るしかない……。
「……すまないが、何が起こったのか教えてもらえないだろうか」
おずおずと、しかしはっきりとした意思を込め、男は騎士たちに語りかけた。
「知って、どうするってんだ」
威嚇するように海堂が睨みつける。
「海堂、やめるんだ。彼も被害者だ」
男を庇うように立つ乾。
いまいましそうに舌打ちをする海堂。けれど、睨みつける事はやめない。
「……だが、俺も気になるな。
知ってどうするつもりだい」
「先程から聞いていると、俺のせいであなた方の大切な方が行方不明になってしまったようだ。
是非とも、その方を探す手伝いをさせて欲しい」
男の顔には、例え断られても手伝うという固い決意が見える。
「……どうする、大石」
「良いだろう」
大石は男にかけられた縄をほどきにかかる。
「そいつは姫様を奪いに来た奴だぞ。
信用できるのか!?」
海堂のとげとげしい声が、森に響く。
彼にとっては、例え操られていたにしろ襲ってきた者には違いない。
姫を守りきる事が出来ていれば、海堂の態度も違っていただろう。
守りきれなかった悔しさと、犯人への怒りが口数の少ない海堂を突き動かしている。
「信用できないのは当然だ。だが、信じて欲しい。
少しでも怪しいと感じたら、いつでも斬ってもらって構わない。
だから、手伝わせて欲しい」
男の目が、まっすぐ海堂の目を射抜く。
「……信用して欲しければ、名を名乗ったらどうだ」
海堂からの譲歩を受け、男の目が和む。
「俺は橘だ。橘キッペイ」
「橘さん!!」
襲ってきた者達は、皆仲間だと橘は語った。
「すみません、俺があいつを連れてこなければ……」
姫を狙い、彼らを操った者は、仲間の一人が連れて来たのだという。
「アキラがあそこで怪我をしなければ、こんな面倒な事にならなかったんじゃないか。
あ―、めんどくさい」
「シンジ」
長めの髪をさらりと揺らし、ぶつぶつと一人の男がつぶやくと、橘がそれを止めた。
「まあ、怪我したんだから仕方ないんじゃない」
怪我をしたときに助けてくれたという『誰か』。
その『誰か』を、アキラが皆の元へ連れて帰ったとき、『誰か』からの圧倒的な力で彼らの意思はねじ伏せられた。
「それから後のことは覚えていない」
「相手の顔は?」
「覚えていれば、特徴を話している」
「そうか……」
橘から聞けたのはそれだけだった。
大石は考え込むように、顔を俯けていたが、すっと上げる。
「こうしていても仕方が無い。
あちらの使者を迎えに行こう。
こうしている間にも、約束の時間になってしまう」
大石を中心に、騎士達は頷きあう。
「何、あんた達だけで分かり合って良いの?
こっちは手伝うって言ってるのにさ。
少しぐらい説明してくれたって良いんじゃないかな。
しかも、俺たちの名前を聞かないってどういうことだろうね?
俺たちみたいな存在は、名前を知らなくても良いとか考えてるんじゃないの。
あーあ、やだね騎士って」
先ほどシンジと呼ばれた男が、再びぼやきだす。
「シンジ……やめろ。この方たちに謝るんだ」
橘は頭を抱え込みたい気分になりながら、それを止める。
大石と乾は、そのぼやきをそれぞれ苦笑と無表情でさらりとかわす。
海堂はギロリと睨みつけている。
「すんまそん。
大切な人が大変な状況なら、そういうこともあるんじゃない」
シンジは橘を見る。
「橘さんも、そういう状況だけど」
「シンジ!!」
言うんじゃないという響きのこもった声だった。
「それは、どう言う事だ?」
この場をまとめる責任者として、大石が聞く。
「橘さんの妹の、アンちゃんがいないんだ」
「アキラ!!」
それ以上言うなと橘の声が語り、目が訴えている。
「橘さん、説明していただけますか?」
大石が聞くと、橘は頭を振る。
「いや、これは俺たちの問題だ」
「何言ってるんですか、橘さん!!
あいつが俺たちを操ろうとした時に、アンちゃんはいたんですよ?
アンちゃんの行方を、あいつが握ってるに決まってるじゃないですか!」
「アキラの言うとおりだよ、橘さん。
俺たちが操られる事になったのも、この人たちのお姫様の結婚話のせいなんだし。
手伝わせれば良いんだよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
3人の言い合いに、大石が割って入る。
「どうして君は、奴が姫様を狙う事になった理由を知っているんだ!?」
シンジの言葉の中に、それが含まれていた。
この場にいる、誰もが知らないはずのそれを……。
「どうしてって、覚えてるからだよ。
それとも、俺が覚えているのが意外って事?
これだから嫌なんだよね、騎士って……」
「シンジ!! ぼやくまえに、知っている事を話すんだ」
この場で唯一シンジに言う事を聞かせられる人物。
彼によって、ようやくぼやきが止まる。
「俺たちを操っていたのは、若い優しそうな顔立ちをした男。
目的は、お姫様がお嫁に行くのが気に入らない。
これ以上は無理だよ。
あいつの力に精一杯抵抗して、これだけの情報しか覚えていられなかった」
シンジの顔に、苦しげな表情が浮かぶ。
「姫がね……お嫁に行くらしいんだよ。
僕はそれを止めたいんだ。
君達、協力してもらうよ?」
その瞬間、目に見えるのではないかと思われるほどの力を、叩きつけられる。
仲間達が膝を折り、その力に屈していく中、シンジもあともう少しのところで同じになるところだった。
けれど、横から流れてくる暖かな力。
それがぎりぎりの所で、シンジの意思を保たせている。
暖かな力の発生源は、傍にいた橘の妹、アンだった。
≪負けちゃ駄目よ、シンジ君≫
力と共に流れてきた思いは、シンジの心を暖かくする。
「……君、邪魔しないでくれるかな?」
男がそれに気付いたらしく、アンを見る。
その瞬間、アンは何かに弾き飛ばされる。
悲鳴をあげ、はるか彼方へと飛ばされるアンを見たのが、シンジの最後の記憶だった。
「だから、こうやってあんた達が情報を得られるのもアンちゃんのおかげなんだよね。
その恩人が大変なのに、まさか探さないなんて言い出さないよね」
シンジの挑発するかのような言葉に、ついに海堂が切れる。
「……んだと、てめえ!!」
シンジに掴みかかろうとした海堂を、大石が止める。
「やめるんだ、海堂!」
大石は、シンジに向き直る。
「勿論、探さないとは言わない。
まずは、君の名前を教えてもらえるかな」
「……伊武シンジ」
柔らかな笑みを浮かべた大石を見て、シンジ……伊武はぼそっとつぶやいた。
「伊武さんだね。
そちらの君は?」
大石はアキラにも問い掛ける。
「俺は……神尾」
一瞬苦しそうな顔をして、ポツリとこぼした。
「下の名前を告げて貰えないとは、信用されていないと受け止めていいのかな?」
何時の間にか、筆記用具を取り出し書き留めていた乾が問う。
「違う!! そんなつもりは!!」
さらに言い募ろうとした神尾に、橘が肩を叩いて止めさせる。
「アキラ……。
少し、こちらにも事情があってな……説明は、落ち着いた時にさせてもらいたい。
今は、少しでも急いだほうがいいはずだ」
違うかな?と目で大石に問い掛ける。
「ああ、橘さんの言うとおりだ。
先方を待たせている。急ごう」
手塚は、姫が落下したと思われる場所までたどり着いた。
無茶な場所を通ってきたのだろう。
手塚の体には、細かな切り傷が無数に刻まれている。
そんな彼を突き動かすのは、激しい怒り。
「……姫様!!」
乾の計算から、既にこの場にいないであろう事はわかっている。
けれど、手塚は一縷の望みにかけ、呼び探す。
「姫様!! ……サクノ姫!!」
見た目は緩やかな、けれど決して遅くない流れの川にも入り、その姿を探す。
そんな中、目の端を光るものが掠めた。
(何だ……?)
嫌な予感に襲われながら、手塚が見つけたものは、宝石の花。
サクノ姫が好んでつけていた、髪飾り。
それを拾い上げ、そっと汚れを落とす。
「姫様……必ずお助けします」
その瞬間、動物達は、手塚の放った殺気に怯えた。
そして学んだ。今、この者に近づいてはいけないと。
目を開くと、そこは見知らぬ場所だった。
見た事の無い天井。
体を起こしてみれば、見た事の無い内装。
今まで自分が寝ていたベットも、知らないもの。
「ここは……?」
少女が首をかしげていると、この部屋のドアが開く。
そこから入ってきた男性は、少女が目を覚ましている事にほっとしたような笑顔を見せる。
「良かった、気が付いたんだね」
「はい。すみません、なんだかお世話になったみたいで……」
少女は慌てて立ち上がろうとする。
「あ、まだ立たなくていいよ」
「え、でも……」
「いいから、ね?」
男が見せた笑顔は、とても優しいもので、少女は好意に甘える事にする。
「ところで、君は『何があった』のか、覚えているのかな?
僕が見つけた時、君は川で流されてる状態だったんだよね」
「え! 川で!?
何がって……」
少女は自分に何が起こったのかを思い出そうとする。
思い出すべき事……記憶と言う名のそれが、欠如している事に気付く。
「……なんで……どうして!?」
記憶が無いと言う不安に、少女の目から涙がこぼれる。
「……ちょ、大丈夫?」
男は少女の元へかけより、顔を覗き込む。
「思い…出せないんです……」
「思い出せない? ……まさか、記憶を??」
涙をこぼし、小さく頷く少女を、男はそっと抱きしめる。
「もしかすると、何かの衝撃で一時的にそうなったのかもしれないね。
大丈夫、きっと思い出せるよ」
安心させるように言い聞かせている男。
その男の口元は、なぜか小さな笑みを刻んでいる。
「……名前……名前は思い出せるかな?」
心配そうな表情で、男は少女を覗き込む。
「はい……竜崎サクノです」
「竜崎さんだね。
僕は、不二シュウスケだよ」
「不二さん……」
自分の口で名乗った名前。
名乗りあうと言う事は、小さな絆を結ぶ事。
名前には、無数の記号があてられている。
それはよっぽど大切な人でなければ、伝えてはならないもの。
近年、それを持たない者が現れ始めた。
人はそれを『ハグレ』と呼んでいる……。
「あ、もしかしてお腹すいてないかな?
何か食べるものを持ってくるよ」
サクノの返事を待たず、不二は部屋から出て行く。
扉を閉じ、それに背を預ける。
そして、あるものを取り出し、それを見つめる。
それは宝石の花、サクノ姫が好んでつけていた髪飾り。
2つで一対になるのだが、今は1つしかない。
(……ごめんね、サクノ姫。
記憶を奪ったのは僕なんだ……。
覚えていたら、貴女は帰ろうとしてしまうから)
持っていた髪飾りを、傍にある机の引出しの奥へと隠す。
ふわりと不二の髪がなびいたかと思うと、机は姿を消した。
(これで、サクノ姫の記憶は戻らない……)
不二は知らない、同じ物がもう1つあることを。
髪飾りは鍵。記憶を閉じ込めた部屋の鍵。
鍵がなくなってしまえば、それは永遠に開かない。
サクノは、記憶を封じられている事を知らない。
不二は、鍵が複数存在する事を知らない。
手塚は、髪飾りが鍵である事を知らない。
たった一人でも知ってしまえば、崩れてしまう均衡。
薄い氷のようなそれは、たった1つのきっかけで、壊れる日がくるかも知れない……。
篠崎「光樹祐也さんからの相互記念リクエスト『桜乃ちゃんで「お姫様」』と言うことで、お姫様ですv
しかし……書くのが遅くてすみません><;
そして、恐ろしい事に続きます(−−;」
手塚「篠崎は計画性が無いから、そういうことになるんだろう」
篠崎「ありゃ、手塚氏。いらっしゃいませ。
はい、まあ、計画性が無いのはいつもの事ですから……(;;)」
手塚「せめて、計画を立ててから書くようにする事だ。
それで、姫様はいつ俺たちのところへ戻ってくるんだ?」
篠崎「え? えーっと……戻さなきゃ駄目?」
手塚「戻さないつもりなのか?(シャランと音を立て、剣を抜く)」
篠崎「あ、あの!! そ、その剣は一体なんのおつもりでしょうか!?」
手塚「何だと思う?」
篠崎「や、やっぱり斬る為じゃないかな〜って……えへへ。
西洋の剣は、斬るって言うより叩き潰すだから、痛そうだな〜とも思ってます……」
手塚「今すぐ戻せば、それは無い」
篠崎「いや、それは私の意思じゃどうにもなりませんから……失礼しまーす!!(ダッシュで逃げていく)」
手塚「逃げられたか……(剣を戻す)
光樹さん、待たせてすまなかった。
篠崎に変わって詫びさせて貰う。
この駄文は、まだ続くらしい。しかし、篠崎の事だ。いつ書き上げられるか分からない状態だ。
この話に見切りをつけて、返品し違う話を書かせることも可能だ。
光樹さんの思うとおりに処理してくれ。
では、また会おう」
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