■概要

 まず、艦隊を建設するのに必要なものは、何をおいてもそれを可能とする国力です。お金がなければ何もできません。特に軍事予算を健全な予算で捻出する事が必要になってきます。それは、作るだけでもお金がかかるし、さらにそれを維持していくのにも莫大な予算が必要だからです。
 ですが、強大な経済力を誇る史実の合衆国においてさえ「八八艦隊」と同様の「ダニエルズ・プラン」は国家予算を圧迫したとされています。ですから、アメリカを上回る国を実現しない限りこれは不可能という事になります。ですから、史実よりもマシな予算編成を考えると言う程度にして、少し目をつぶることにしましょう。また、実際に必要な予算については後述するとして、次に進みたいと思います。

 次に必要なのは、船を建造する船渠(ドック)、船台と建造を可能とするだけの鉄鋼生産能力などの重工業力です。あと、できあがった艦艇を運用するための血液たる石油を確保するための、国内油田か安定した供給地があれば文句はないでしょう。
 もちろん、基礎的な造船能力など、科学技術が高いに越した事は言うまでもありません。

 まずはドックですが、史実では3万トン以上の戦艦を建造可能だった軍用船渠、船台は軍民併せてなんと4つしかありません。これでは、八八艦隊の戦艦だけの建造ならともかく、多くの補助艦艇そして八八艦隊に続く大型艦艇の建造を考えるととても心細いものがあります。また、4つだけではスケジュールに齟齬をきたせば、それだけで計画が大きな修正を余儀なくされてしまいます。
 ですが、取りあえず建造は可能なので、おいておきましょう。国力が大きくなれば、有名な幻の大神工廠や第二次大戦前中に作られた膨大な数の大型船渠が前倒しで作られていれば全然問題なくなります。(もっともそれだけの建造施設をつくりあげれば30億円もの予算が別に必要になりますが。)
 これは、鉄鋼生産能力についても同様で、国力さえあれば問題ありません。経済の拡大に伴い、製鉄所ぐらいいくらでも建設される事でしょう。ですが、史実では戦時に造船力の半分程度しか艦船用鋼材を日本の粗鋼生産能力では供給できなかった事を考えれば、造船よりも重視すべき事とも言えます。
 そして艦隊の血液たる重油(石油)。つまり国内油田についてはどうしようもありません。国内にある限り石油については輸入に頼る以外ないのです。ではどうしましょう? どこか近くに油田はないでしょうか?
 一番近いのは、当時も稼働していた北樺太のオハ油田でしょう。ここでの採掘量は年間300万トンとも言われていますので、ここを領土に出来ていれば、これが一番近く安全に国内に石油を供給できる事になります。
 また、300万トンと言う数字は、史実海軍の平時の消費量の一年分近くにすら匹敵します。あと、有望なのは満州の大慶油田、アラスカ油田、そしてインドネシア各地の油田です。しかし、このどれも1930年頃に採掘可能とするにはかなりの無理があります。特にアラスカは合衆国領土に編入されてしまってますので、これを日本の勢力圏にするのは難しいでしょう。かなり歴史改竄のアクロバットを要求されてしまいます。また、インドネシア各地の油田も同様です。かろうじて大慶だけが場所だけは勢力圏にする事ができますが、これを偶然発見できるかと言えば、当時の満州は見渡す限りの荒野でしたので、これもかなり難しいと言えます。それに、ここに大油田が発見されるとアメリカの対日石油戦略を根底からゆるがす存在となり、ここがアメリカでなく仮想敵国の日本の勢力圏になると、もやは日本海軍の行動を制約するものはなくなり大戦略上での大問題です。見つかれば、戦争の引き金を引く可能性が高いと言えるでしょう。
 そこで大慶油田は、戦争の引き金的役割を負わせせる一つの要因と言う事で、艦隊の血液にするのは当面断念します。
 
 さて、今までの概要を要約すると全ては日本の国力がいかに大きいかが、「八八艦隊」の建設を可能にするかの鍵を握っている事になります。
 では、次では「八八艦隊」建設に必要な予算を丼勘定で考えていきましょう。これを算出した後に逆算して必要な国力を考えていきます。
 なお、「八八艦隊」の完成は1928年の第一期完成を目標したいのですが、国力的に余程の無理をしないとどう考えても難しいので、ゆとりを持たせるために計画的に一期遅らせて、1931年(昭和6年)完成を目標としたいと思います。


File02 : 艦隊建造予算