■欧州情勢と日米戦争経営状況
太平洋で日米が激しく殴り合いをしている頃、欧州などうなるでしょうか。ここで本題を離れますが、欧州での情勢如何では太平洋にも影響してきますおので、これを少し見てみましょう。 まずは、史実の年表を見ましょう。
◆1935年〜1940年頃の世界情勢
他でも触れていますが、大まかに見ればだいたいこれぐらいでしょうか。 さて、1934年から日米だけでの太平洋戦争継続中のこの世界では、実際世界はどう動くでしょうか。 史実を見ても分かる通り、最も元気に世界を引っ張り回すのは、全体主義と独逸第一主義(?)のもと躍進を続けているドイツ第三帝国です。ついで社会主義という全く違うルールを持つソビエト連邦&コミンテルンとなります。第一次大戦の勝者たるイギリス、フランスなどは、保守主義に囚われて、ドイツと共産勢力に引っ張り回され右往左往するばかりです。 もちろん、史実と違い一生懸命大戦争を継続してる日本と米国は、史実のような道のりに乗ることはまずありません。 また、欧州の情勢は日米にとってそれ程関係もないし、反対に欧州にとっても異分子たる日米が欧州に首を突っ込んでこないのはむしろ好都合と言えます。もちろん、欧州の産業国にとって日米の戦争は、戦争特需と言う点で大きなファクターですが、欧州にとっては第一次世界大戦で日米に取られた市場を取り返すだけであり、それ以外で政治的にどうこうと言うことはありません。まあ、戦争景気で国内産業が活性化し、英仏などの力が大きくなる点は無視できませんが、当面はあまり関係もありません。
さて、日米の戦争中に真っ先に発生するのは、ドイツでのヒトラーの総統就任と再軍備宣言、そしてラインラント進駐などの一連の流れです。 これは、ヒトラー、強いてはドイツ国民の悲願の一つでもあるので、ヒトラー率いるドイツ第三帝国が史実通りの展開をしている限り(ドイツにとって太平洋の情勢は特に関係のない事なので)、同じタイムスケジュールで進行されるでしょう。これは、ミュンヘン会談までのドイツによる近隣外交も同様です。 ですが、ここでドイツ第三帝国にとって問題となるのが、共産主義国ソ連との外交です。1936年の時点では、まだ日独伊三国防共同盟は成立していないどころか、日本とはあまり関係が深くなっていません。それどころか、反対側で反共の防波堤となるべき軍事強国日本は、世界最大の経済力を抱えるアメリカと大戦争の真っ最中です。 一方、世界帝国たる大英帝国は、1935年に英独海軍協定を結び、再軍備を宣言したドイツを反共の防波堤とする事で、当面の外交に満足しており、宿敵アメリカと熾烈な戦いを演じている日本には、1935年の停戦を自らの傲慢で反故した事を苦々しく思っていますが、しばらく日本の戦術的優位は動かない事から、取りあえず同盟国としてそれなりに援助だけする事で良しとされています。 大英帝国としては、日米の次なる決戦が発生する時こそが、持ち前の政治的出番です。 そして、日米の戦争を喜ぶのは、ソビエト連邦です。戦争により支那大陸での日本の影響力が軍事力という点で弱まっており、父祖が得た大地を奪回するまたとない好機が到来しつつあるからです。ソ連としては、日本がこのままジリジリと弱体化し、アメリカが支那大陸に乗り込んでくる前に、これをかすめ取りたい所です。 ですが、そうなっては困るのは、当の日本と同じかそれ以上に支那大陸中央部で大きな利権を有する大英帝国です。 そこで、より一層の対独融和外交を展開し、ドイツをソ連の脅威になるぐらいの戦力を保持させるべく、そしてそれをバックアップすべく奔走する事になります。幸い太平洋での戦争のおかげで経済も好調で、その為の資金と軍備増強の予算も捻出できそうです。 英国としては、全体主義も共産主義もどちらも気に入りませんが、世界帝国としての浮沈がかかっている以上、選り好みしている時ではありません。 そして日本のためでなく、自らのためにドイツとの連携を強めていく事になります。もちろん、秘密裏の交渉で、ヒトラーの求めるソ連征服すら容認します。 英国としては、世界中の植民地と世界を結ぶシーレーンさえあれば、ロシアなんてドイツにくれてやっても、番犬代と思えば致し方ないと許容できる所でしょう。 かくして、ドイツに対して、近隣での侵略的外交を反故させる事を条件に国連復帰も助け、さらにドイツが経済的困窮から侵略に走らないように、自勢力圏でのそれなりの恩恵待遇も与えてしまいます。もちろん、ポーランドはこの時点で英国から実質的に見放されます。 そして、じわじわとドイツがその力を付けているという状況こそ史実と変化ありませんが、独ソが睨み合いドイツを英国が後押しするという状況で欧州は表面的な平穏を維持します。 また、欧州での歴史の違いは、英国が底力を発揮して史実よりも多数の戦艦を保有しており、欧州での制海権については、一見「絶対的」と言ってよいものがあり、これがドイツの膨張外交をさらに抑制する効果が、それなりに期待できると言えるかも知れません。 そして、時間的流れからすると、39年夏ぐらいに日米の大決戦がハワイにて行われるので、もし史実通り欧州の状況が展開しても、その時点で戦争は発生していません。 むしろ、独ソ不可侵条約が結ばれていたら、日本がより積極的に戦争終結のための努力を行う事になるでしょう。
欧州での混乱と表面的な平静の中、一方の太平洋では1937年から1939年初頭までは、日米がハワイとアメリカ西海岸を主要拠点としてのシーレーン獲得競争が繰り広げられます。 ここまで戦争が進展すると、アメリカはその持ち前の膨大な物量を活かした戦いを展開し、技術的には平凡ながら日本軍を徐々に圧倒し始めます。しかも、パナマも早ければ1年後には完全復旧し38年末からは続々と新型の大型戦艦が次々に就役、来るべき決戦に備えての訓練に入ります。 日本側も自らの努力と英独などからの技術を用いて、懸命にシーレーンの維持と相手シーレーンの破壊が行われますが、物量の格差はいかんともしがたく、どれほど努力しても米国が圧倒的な物量をシステムとして揃える1940年には、それに物理的に対抗が不可能な日本のシーレーンの崩壊が始まるのは確実です。 また、39年にはようやく新造戦艦の就役が日米双方で始まり、失われた戦艦たちの穴を埋めていきます。特にアメリカは、ありったけの建造施設を使いハイペースで揃えます。 さらに、日本では新たな洋上戦力として認識されるようになった母艦航空戦力と基地航空隊も、ハワイを中心に日本から見れば膨大な数の部隊が整備され、来るべき決戦に向けての準備に入ります。
では、少しここで双方の国力についての比較を見てみたいと思います。 1934年の開戦時の日米双方の国力は、生産力で見ると世界を100として見た場合、日本=7、米国=40程度になります(戦時で無理な生産をしているので、絶対比率が各国より増大しているので数字も大きくなります)。また、国力全体を含めた戦争遂行能力(経済力、工業力、資源、人口などの総合評価したもの)は、日本=6、米国=32程度になります。 なお、史実日本の戦争遂行能力はどれだけ多く見ても「4」しかなく、対するアメリカは「40強」ありました。そして、アメリカは1943年頃までは自国の国力のわずか「15%」を対日戦に充てていただけだったそうです。 最終的な戦争遂行能力は、日本=6、米国=32となりますが、同盟国との関係などもあるので、これを若干修正しなければなりません。当然、修正されるのは大英帝国との同盟関係を維持し続けている日本です。これはシーレーンさえ確保しておけば、欧州各国からの資源の確保が容易と言う事です。また、英国からの様々な分野での技術輸入(軍事技術ばかりではない)も、これに加味する必要があります。 そして、英国からもたらされる情報、中立国として日本に物資を運ぶ船舶などもあります。これら二つは対戦国の米国にとって、非常に目障りです。特に間違えて攻撃したら、英国に参戦する口実を与えてしまうことになります。また、アメリカと国境を接するカナダも無視できない要素です。 いかに巨大な国力を誇るアメリカとしても、英国の本格参戦は二正面戦争という悪夢を避けるためにも、非常に気を付けるべき事柄です。 これらを踏まえて考えると、日本の戦争遂行能力は、概算でもう20%程度上昇すると見られます。つまり、戦争遂行能力は、日本=7となるわけです。しかし、これでも日本はアメリカの2割強の力しかなく、クラウゼヴィッツの理論に従えば必敗確実です。 しかし、戦争が始まると、正面戦力で互角の戦力を持った日本が戦術的勝利を積み重ね、正面戦力で見た場合戦争一年で当面の大勢を決する程の勝利を得ます。 ただし、戦争は終了せず、双方とも大艦隊を建造しつつも、相手の通商航路破壊を狙った戦争にシフトしていきます。 その後戦争は、正面戦力において当面絶対的優位にある日本軍が、可能な限り攻勢を続けます。これにより、アメリカは太平洋の全ての拠点を失い、あろうことかパナマまで破壊されます。 特にパナマの破壊は、工業製品を産する東部と農業生産を主におく西部、東海岸と西海岸の海上交通負担を4500海里から11000海里にまで増大させ、非常な負担を長期にわたり強います。 また、シーレーン破壊も通商路の破壊と言う点で、全ての拠点を喪失したアメリカより地の利が日本側にあり、アメリカは本土近海を容易く攻撃され、これもアメリカの国力増大を阻害する事になります。
両国の工業生産と経済発展は、戦争経済という未曾有の消費を伴う国家事業により、戦争3年目まではお互いにいびつな形ではありますが、大きく発展します。 しかし、総力戦において、消費だけで再生産を生み出さないいびつな経済的状況が3年以上続けば、その後経済は政府がどれほど努力しようとも降下線を辿る事になります。 これは、史実の日華事変以後の日本の実状を見ることで、多少分かっていただけると思います。 つまり、戦争の四年目にあたる1938年夏に双方の戦争遂行能力はピークを迎える事になります。 ただし、1国だけで戦争をしているアメリカと同盟国との交流のある日本では、日本がその上昇カーブにおいて有利と言えます。いかなアメリカと言えど、経済の原則は変わらないでしょう。 かくして、この時点での双方の戦争遂行能力は、最終的に日本=10、米国=40程度になります。 どちらにせよ、アメリカの渡洋侵攻能力が復活した時点で日本の敗北は確実のように見えます。 しかし、アメリカの生産力を持ってしても、必要以上に国力に負担をかける必要のある戦艦の大量建造を中心とした大艦隊の再建は大きな負担であり、大きく国力を割り振らなければなりません。つまり、大艦隊建造を日本の数倍の規模で展開しなければならず、この分を差し引きする必要があります。また、戦いが海でばかり行われ、しかも拠点の周りにはそれ以外なにもない場所が多く、アメリカの生産力は造船分野以外で活かす事が難しく、この分野での日米の開きは少ないので、この点もある程度加味する必要があります。それに、大英帝国を同盟者とする日本としては、自国で足りない分は、後先考えずそこから購入すれば良いという点も忘れてはいけないでしょう。 もちろん、欧州から日本にもたらされる最新技術によるアドバンテージも見逃せない点です。 その他諸々を考慮すれば、3対1、戦術状況によれば2対1程度の差となり日本が戦争中盤から防衛戦に徹すれば、相手が全面攻勢に出ない限りどうにか戦線とシーレーンを維持できると言う事になります。そして、全面攻勢に対抗すべき戦力は、日本が10年以上かけて揃えた大艦隊があります。 ただし、アメリカによる二回の全面攻勢を受け、それを撃退出来なければ戦線崩壊は確実で、翌年にはアメリカ太平洋艦隊が東京湾で観艦式を行う事になってしまいます。 ですが、日本側がアメリカの最初の反撃を効果的に撃滅出来れば、その後の目算も成り立たないとは言い切れなくなります。 ただし、この場合出口のないさらなる延長戦へと突入し、アメリカが通商破壊を徹底しない限り、その途中でどちら国も財布の中身がカラになるので、餓死したくなければ互いに歩み寄って戦争を止めざるをえなくなります。 もちろん、この場合大英帝国が顔を出してくるでしょうから、アメリカにとってはさらに不利な状況となります。 かくして、次なる戦いが最後の決戦であり、それに向けて日米はそれぞれ努力をしていく事となります。