■「悪役令嬢の十五年戦争」

■  149 「側近団編成式(2)」 

「友達ですか? 使用人なのに?」

「そうよ。私達はある意味運命共同体でしょ。私は物理的に世話をされ、守ってもらう側。あなた達は、私が社会的、金銭的に守るとは言わないけど、保障する側。相関的でしょ」

 まだ書類上でしか名前を知らない女子の一人の質問に、私は私なりの答えの一端を提示してみせる。
 けど、まだ納得か理解が及んでいない表情だ。

「私もあなたも、他に行く場所もないでしょ? まっ、私の場合は逃げ場がないんだけどね」

 そう軽く言うと、その子は大きく目を見開く。意外な視点だったらしい。雇う側雇われる側、仕えさせる側仕える側で見ていればそうだと思う。確かにその通りだが、金や権力を持つ側は単にそれに群がる者だけでは駄目だ。
 少なくとも私はそう思っている。それは私の前世がモブな凡人で、凡人、普通の人達なしに社会や組織が成立しないと思っているか、思いたいだけなのかもしれない。
 けど、それくらい思ってもいいだろうと同時に思う。だからそれを言葉にしたまでだ。

「逃げ場がないから、私達が必要なんですね」

(アレ? 斜め上の回答になってる?)

 その子の回答を聞いて思わず首を傾けてしまう。
 こうまで考え方が違うとは思いもしなかったが、21世紀の記憶の考え持つ私が甘いんだろう。見れば、時田の表情が微妙に動いている。あれは苦笑だ。
 だから小さくため息をつくだけで妥協する事にした。

「ハァ。まあ、その考えでも良いわ。繰り返すけど、私にはあなた達が必要なの。その為には信頼関係があった方が良いと思うの。だからもう少しお互いを知る努力をしましょうってところね」

「友達は無理と思いますが、そう言う事でしたら努力します」

「まあ、無理しないでね。本末転倒だから」

「ハァ?」

「はい、そんな顔しない。それより新入りは順番に自己紹介。シズ」

「畏まりました。では、右から順に起立して名を名乗り、何か一言言うように。始め」

 いつも通りクールに号令をかけると、順番に始まった。
 まだ子供なので少しかわいそうな気もするが、今までと違い人数も増えたし、私の年齢と境遇、環境も変化しているので仕方ない。
 そうして増えた6人は、ゲーム『黄昏の一族』で出てくるモブの使用人達だ。モブなので背景絵のぼんやりとした絵でしか表現されなかったが、何となく見覚えのある雰囲気を持つ子供もいる。
 以下がその名前と配属だ。

 女(メイド兼補佐) 芳子の管轄。
銭司(でず)艶子
福稲(くましろ)英子
 女(メイド兼護衛) 光子の管轄。
山女(あけび)咲
富士桜(ふじざくら)照
 男(雑用兼護衛) 輝男の管轄。
国姓爺(こくせんや)弘
八国主(やかぶ)茂

 見事なまでに、『創作苗字』シリーズな子達だ。ファーストネームがこの時代で在り来たりなので、違和感半端ない。全員が鳳から最低でも苗字を与えられたと考えて間違いない。
 だから自己紹介も、名前は言うが出身地や家族の事は言わない。何が得意などのアピール中心だ。

 そして見た目だが、極端に特徴のある子はいない。特にお芳(よし)ちゃんのようなアルビノみたいな子はいない。まあ、居たらこっちが相当びっくりしただろう。
 それでも特徴を上げるなら、男女を問わず顔立ちが整っている。
 それと全員が最低でも他のクラスから私のクラスに割り振られるが、6人中4人は転入してくる子達だ。
 中には、輝男くんをスカウトした時のように、特別施設で徹底して教育を受けてきた子もいると書類には書かれていた。

「はい、みんなも一度には覚えられないだろうから、これからもお互いの交流や情報交換をしてね。それでシズ、全員鳳学園の寄宿舎住まいになるの?」

「はい、新規の6名はそうなります。ですが側近候補の3名は、当屋敷の屋根裏にそれぞれ部屋を与えられます」

「おーっ、一緒に住めるんだ」

 言葉と一緒に音が出ない程度に小さく拍手すると、シズのジト目が飛んできた。

「お嬢様、公私別なのをお忘れなく。それに、各人はお嬢様が当屋敷で勉学や習い事をされる午後は、別の専門教育を受ける事となります」

「そこは今までと同じね。屋敷に慣れさせる為?」

 前を向いて聞くのもあれなので、斜め後ろが見えるように首を軽く後ろに向ける。立っているシズの顔を少し見上げる形なので、なんかちょっと偉そうに見えていると思う。

「左様です。また、お嬢様にお仕えする大人の使用人を含む屋敷で働く使用人との関係構築も含まれます」

「通学は一緒?」

「別の自動車を1台出します。全員となると、車両数が多くなり大げさになるので断念致しました」

「なるほどね。あと、護衛と補佐役ばかりだけど、世話係の同世代はもう少し先?」

「はい。お嬢様が、身の回りの事は極力ご自分でなされたいとの事でしたので、専属は付けない事に致しました」

「了解。現状でも十分だしね。それじゃあ顔合わせはこれでおしまい?」

「はい。本日のところは終了となります。次は始業式の時に、学校にて少し行う予定です」

 シズとのやりとりなので首を斜め後ろが見えるように向けていたら、徐々に首が疲れてきたので結論を聞いて前に戻す。
 あとでマッサージしようと思うが、それは表情に出さず子供達に笑顔を向ける。

「了解。それじゃあ新顔の6人は帰ってくれていいわ。ご苦労様。他は残って」

 そうして子供のうち3人を残して、あとは大人だけとなる。そしてさっきまで子供達が座っていた私の前のソファーに、時田の目による号令で腰掛けていく。

「さて、三人には悪いけど、あなた達も側近候補になるから、加わってもらうわね。時田」

「はい、玲子お嬢様。ですがこれからは、セバスチャンに私の役目をさせる方が宜しいかと」

「そっか。それもそうね、セバスチャン、進行よろしく」

「承りました。それでは、玲子お嬢様の最初の側近会を始めさせて頂きます」

 恭しい一礼のあと、日本語になっても低いバリトン気味の声で重々しく宣言する。

「今回の議題は、各所の配置確認です。非常に大雑把なところは子供達がいる時にも触れておりましたが、今一度確認します」

 そう言って説明を始める。
 私の一番の側はシズで動かない。身の回りの世話と護衛の両方を務められるのは、まだ彼女しかいない。その補佐に、みっちゃんこと七美(しずみ)光子が入るが、まだ見習い以下の扱いだ。
 輝男くんは護衛を兼ねるが、私付きというよりは時田やセバスチャンとの連絡役などになってるく筈なので、二人に付く事も多いだろう。
 お芳ちゃんは私のブレーンとして、勉強や情報収集をずっとしてもらう予定でいる。私の直轄に置けなければ、トリアの下になるだろう。二人とも、鳳ビルの総合研究所にも出入りもするようになる。
 トリアとリズはセバスチャンの部下になるけど、私を補佐し守る為にはるばるアメリカから寄越されているので、学校以外では私の近くにいる予定だ。

「概ね了解。けどさあ、仕事する時私の部屋だと狭くない?」

「既に隣の空き部屋を整え始めております」

「そこはセバスチャンの部屋?」

「はい、私の鳳本邸での執務室にしていただきます。屋敷内では護衛も不要ですので、お嬢様のお部屋にはシズ様と皇至道(すめらぎ)嬢が常駐する程度になると思われます」

「それなら問題ないか。護衛の子は?」

「午後は鍛錬や技術習得でおりませんし、夜と緊急時以外はお側にはお仕えする予定はありません」

「まあ、それもそうか。みっちゃんと輝男くんは別行動が殆どね。けど、夜の自由時間に呼ぶ予定はないわよ。私も寝たいし、子供は寝ないと成長しないからね」

「心得ております。夜は従来通り大人の使用人がお側にお使えしますので、ご懸念は無用かと」

「いやいや、ちゃんと休みなさい。労働法とか日本にまだないけど、大人もちゃんと自分の時間と休息、睡眠をとる事。でないと、100%の力を発揮できないでしょ。その為に人も増やしたわけでしょう。違う?」

「おっしゃる通りです。ご配慮痛み入ります」

「うん。とにかくセバスチャン達は、時田と似たスタイルね。住むところは?」

「本当なら・・・」

「ああ、別ね。オーケー。護衛のリズも当番の時以外は屋敷にいないでオーケー?」

 本邸に住みたいとか住むべきとか言い始めそうだったので先回りすると、少ししょげている。喋らせる方が、ご機嫌らしい。ロールプレイ好きなんだろう。

「左様です、お嬢様」

「トリアはセバスチャンと一緒だけど、メイドとしてはどうするの? 情報だけならうちの総合研究所から回ってくるから違う仕事?」

「はい、そうなります。私は他の者と同じく基本的にはセバスチャン様の補佐をしますので、お仕事の際にお嬢様を補佐する事になるかと」

「まあ、そんなものよね。さて、お三人」

 「はい」。一通り大人達とのやりとりを終えたので、同級生3人に向き合うと、それぞれのオクターブでの返事。みっちゃんが無駄に元気で、他2名のイマイチやる気のなさげなのが、この3人らしい。

「大人に囲まれて大変だろうけど、見習いだからお芳ちゃんはセバスチャンかトリアに、みっちゃんと輝男くんはシズかリズに付いて勉強してちょうだい。それともう一つ」

 言葉の最後で間を空ける。3人はなんだろうと考える表情をそれぞれ浮かべるが、今日がどういう日かを忘れていないだろうか。
 それならばと、お嬢様らしく命令するまでだ。

「このまま私のお誕生日会に参加する事。ここにいる全員ね。今日は曾お爺様も途中で顔を出して下さるから、まだ会ってない人は挨拶もしてね」

 

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