●終末の日

 「現状を聞かせてもらおうか?」
 池田勇人首相は、この穴蔵で軍事の担当者に重い口調で問いかけていた。陽性な性格で知られる総理からは考えられないぐらい重い口調だった。
 これに対して統合参謀本部からの派遣参謀は応えた。
 まとめてしまえば、日本はまだ戦えるという事だった。

 そう、戦えるだけだ。すでに国の半分は焼け野原なのだ。
 もっとも、他国はもっと酷いことになっているらしい。日本がまだ「半分」で済んでいるのは、相手から遠い事と我が国が熱心に整備してきた弾道弾迎撃システムが最大限に効果を発揮し、軍人達が決死の覚悟で弾道弾の迎撃をおこなってくれたからだ。実際、通信からはこれから弾道弾に向けて突撃するという決別電を送ってきた空軍部隊もあった。それに、ニュークによるEMPパルスの放射で通信が妨害されているせいで、こちらが掴んでいる情報が半分というだけで、もっと沢山日本本土は無事なのかもしれない。
 まあ、少なくとも大陸間弾道弾が2発、中距離弾道弾が5、6発は炸裂したまで把握できたのは収穫だろう。思ったよりも遙に少ない数字だ。それに炸裂したのが軍事基地がほとんどというのはさらに朗報だ。国民の過半は生きているという事だ。少なくとも家族の疎開した山間部の県が全く被害がないというのは最高だった。

 なお、とぎれとぎれにやって来る生き残りの衛星などからの通信情報では、アメリカは主要大都市の半数が蒸発、とばっちりの英国やフランス、イタリア、ロシアも色んな所が焼け野原。特にどの国も軍事基地は目も当てられない状態らしい。そして世界の敵ドイツにおいても主要工業地帯と千年帝国の都はこの世から消えてなくなったらしい。アメリカと我が国のニューク・ヘッドが徒党を組んで落下したのだから当然と言えば当然の結果だった。
 え、我が国の帝都はどうなったかって?
 技術的未熟から出来損ないでしかない弾道弾迎撃システムによる、比較的近距離でフォン・ブラウン博士設計のロケット近くで迎撃弾が炸裂してくれ、それが放出した爆圧とEMPパルスのおかげで何とか終末弾道が狂い、帝都を目指していた大威力の弾道弾(おそらく20メガトン級)は太平洋に落っこち房総半島の半分を吹き飛ばしただけで済んでいる。少なくとも帝都中心部は何とか生きていた。落下した場所に住んでいた人には申し訳ないが、いわゆる一つの奇蹟というヤツだ。だからこうして、私は首相官邸地下深くの指揮所で息をしていられるというワケだ。ついでに、日本軍の迎撃で何発かの敵弾道弾もどこか明後日の場所に落ちたらしい。たいして破壊する価値もない韓国方面に迷走したあげくあの半島に落ちたものもあるようだ。中華大陸も互いにパイ投げ合戦が忙しく、こちらには見向きもしていない。しかし、技術的な問題があるからと言ってどの国も我が国やドイツのような「盾」を持ち合わせていないらしく、ボクシングのノーガードでの殴り合いよう様相を呈していた。
 人間も国家も先行投資はしておくものだという良い例だろう。
 そして、その先行投資のおかげによる生き残りについて参謀が語っていた。
 どうやら、弾道弾サイロはドイツ海軍のUBが発射した弾道弾に破壊されダメらしいが、第二撃用に空中待避していた「飛鳥」の何割かと戦略潜水艦の過半が生きているらしい。水上艦隊も日本海で蒸発してしまった空母機動部隊の一つ以外の大半が無傷で、今も極東のロシア人の拠点を吹き飛ばして回っている。しかも空母に随伴していた戦艦に至ってはわずかな護衛だけを伴って単独で殴り込みをかけ、ニューク・ブリッツでナホトカ軍港を消滅させたと言う。さすが勇敢で知られる帝国海軍だ。呆れてものも言えないといのはこのことだろう。

 参謀が語り終えるのを待って首相が再び重い口を開いた。
「要するに、我が軍は戦闘能力を十分残しており、相手、少なくともドイツはそれだけの余力はほとんどない。第二撃は可能、と言うことだな」
 オイオイ、まだやる気かよ。と思ったが、すかさず参謀が答えを返していた
「物理的にはその通りです。それにドイツはまだアメリカに対する攻撃を継続しています」
 これに首相が答えを返そうとしていた。そしてそれは、今後の方針をここにいる全員に伝えるものらしい。彼の態度からはそう受け取れた。
 まあ、ここまで来たのだ。後は何がこようとも驚く事も恐れるものもなかろう。第二撃でも和平でも口にしてくれ。

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 Bad End
 

 

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