●均衡崩壊
1980年代半ばに日米独の間での軍縮条約が締結された。 『ABM制限条約』だ。これにより日本はそれまで膨大な数を保有していた同種の兵器の著しい削減を強いられることなった。これについては、開発の遅れていたアメリカが同盟者たる日本に強く求めたものを日本政府が応えた形で実現したもので、同種の兵器を多数保有していたドイツにおいても日本同様この軍縮での脅威度低下は大きく、総合的な弾頭数数において二倍の戦力を持つとされる日米側が勝利をもぎ取ったと言われた。 確かに、条約締結時点での数字の上ならそう取れた。 だが、これには大きな落とし穴があった。 1980年代初頭の時点ですでに三大国の保有するニュークの総量が極めて増大しており、この制限条約のおかげで互いにロクな盾も持たない状態で槍を向けあっているような状態になり、これは一つ間違えれば最悪の事態を簡単に招くという事だ。 俗に言う「相互確証破壊理論」の実践状態だ。 そして、ドイツという国は基本的に防衛本能がきわめて強いという事を忘れてはいけなかったのだ。 そう、まず削減すべきは弾頭の数だったのかもしれない。盾を下ろす前に互いにゆっくりと剣を下ろすべきだったのだ。ついでに言えば、戦争に対してアングロ国家も、我が日本も極めて攻撃的なのだ。
そして、もう手遅れだった。 条約締結の翌年、ドイツは弾頭を12基も備えるMX(多弾頭)弾道弾の大量実戦配備を開始、ものすごい勢いでこれの増勢を行ったからだ。マスコミは、元々この弾道弾がドイツが火星有人飛行用のロケットとして製作したもののひな形を使用している事と、西側ではこれを「Hミサイル」もしくは「フリードリッヒ」と通称している事から「火星大王」などと無邪気に呼んでいたが、これすらどうにも現実逃避にしか見えなかった。 ドイツは、弾頭数制限交渉を持ちかけてきたのは、暗にギリギリ最後のチャンスを我々と世界に提示していたのかもしれない。少なくとも、ドイツ国内の良識派にとっては最後の賭けだったのだろう。 もちろん、これを知ったアメリカもこれを受けて立ち、さらなる膨大な数のニューク・システムの構築を行った。当然日本もそれに付きあわざるを得ない。アメリカだけではドイツを圧倒できないからだ。そして3年が経過した今、ドイツは今まで自由主義陣営に付きあって行った軍拡と、その最後の過剰な防衛本能から行った暴走により経済の破断界を迎えつつあった。しかも、第四代総統のラインハルト=ハイドリヒは死に瀕しているという。つまり、このままだと自滅という形でドイツ第三帝国は滅びてしまうという事だった。 本当にそれだけならどれだけよかった事か。
もうすぐ私は任期を終えて首相の椅子を離れなくてはいけないが、はたして次の首相はこの難局を上手く乗り切ってくれるだろうか? ドイツは自らの頭の上につるされている多数の剣のプレッシャーに耐えてくれるだろうか? なぜ私がこれほどの懸念を感じているか? それは、これを見る人がもしいたのなら、過去の歴史を少し思い出して欲しい。 なにしろ、たった今ニューヨークの国連本部でのドイツと日英米との間の交渉が決裂し、欧州とここ極東ではデフコンはすでに「3」に上昇、軍隊そのものは二週間も前から事実上今すぐにでも戦闘可能な状態だった。 今まさに「キューバ危機」の時よりも危険な段階を迎えたと言う事だ。
少なくとも私の在任中に世界の終末にはなってほしくないものだ。
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Bad End
「いいわけ5」を聞きますか?
1.聞く 2.聞かない