■再戦

「さて、諸君。諸君らは、余の次の言葉を待っていると思うが、ここで一度話を戻したいと思う」
激しい言葉から一転、数瞬を置いたヒトラー総統の言葉は、低く落ち着いたものとなった。そして、そのまましばらく言葉が紡がれていき、それはドルイドの呪文のようにホールの人々の心に染み渡っていった。
「我が帝国政府は、第二次世界大戦と呼ばれるようになった先ほどの戦乱の後、ただただ世界平和を希求してきた。これは、先の我が帝国の戦争目的が、単に我が帝国の生存圏の確立だけに留まらず、帝国引いては欧州の経済的安定の為には、強大な権力が一度地域全体を統合し、効率的な運営を必要とするからに他ならず、ただただそれを達成するためにあった。そしてそれは今現在順調に伸展しており、早晩その果実を我が帝国のみならず、全ての欧州諸国が手にする事になるだろう。これは各種の統計数字と財政状況を見れば分かる事であり、今更説明の必要はないと思う。だが、諸君の中にはこれに疑問を感じる事があると思う。そうだ、平和な世界が訪れた筈なのに、我が帝国と欧州各国が浪費する軍事費の額が、どう検分しても過大に映る、という事だ。さて、諸君、なぜ平和が訪れた欧州社会においてこれほど軍事費が浪費されねばならないのだろうか。そう、そうなのだ、我が帝国に責任はなく、その責を負うのは我々の外にいる無定見な国家の存在であり、ただ貪欲なだけの植民地人の末裔や東洋人により振り回されるだけの政府が、我がレーベンス・ラウムを羨み、そして妬んだ結果、ブリテン島に掬う帝国主義者や、ウラル山脈に居るヴォルシェヴィキの残党達を支援し続ける行動を取らせているのだ。そして、彼らを使う事により、彼らは自らの手を血で汚すことなく、資本主義的果実だけを求めようとしており、その行動は現在実を結びつつある。このままでは早晩、我が帝国は不要な軍事支出の悪化により財政的苦境を迎え、最終的には欧州全土が太平洋に面する二つの無定見な帝国の経済植民地となるであろう」
次第にテンションの上がっていく言葉を、一旦切ったのち核心へと切り込んだ
「諸君、私は諸君らに問おう! 我が帝国はこのまま座して失血死を迎えてよいのであろうか。しかも、我が帝国を失血死させようとしているのは、我々の責ではなく、太平洋にある二つの帝国にある。これで良いのか?! そうだ諸君、我が帝国はこれを黙って見過ごす事はできない。断じて出来ないのだ! 故に、諸君らに新たな任務を、私アドルフ・ヒトラーは、ドイツ第三帝国総統として命じなければならない。そうする事が欧州を預かる私の使命だからだ」
ここまで言い切ったヒトラー総統は、一拍子おいて最後に絶叫した。
「我が帝国は半年以内に、アメリカ、日本、そしてそれらが支援する国の中でも必要な国家に対して軍事的懲罰を加え、レーベンス・ラウムを確固たるものとするのだ!」

最後の言葉の余韻を残しつつ静寂がホールを支配し、ヒトラー総統の言葉に異論や意見を挟む気概を持つ人の姿はなく、絶叫のあとの精神的興奮が冷めた総統が全体を舐めるように見回すと、満足そうに頷き次の言葉を紡いだ。
「さて諸君、我が帝国の方針についてだが、我が帝国はまず、どの軍事的問題から解決すべきだろうか? 諸君らの忌憚ない意見を拝聴したい。なんだかんだ言っても、私は軍事に関してはアマチュアに過ぎない、さあ我が帝国の未来に光を指す意見を持つものはいないのか?」
 数瞬の後、ヒトラー総統の言葉に圧倒されていたホールの中にあって、一人の男が発言を求めた。当然、全員の視線がそちらに集中した。さて、彼はいかなる意見を持つ人物だろうか。そして彼の意見を独裁者は気に入るのだろうか・・・・

 1. 近隣問題から対処すべき 

 2. 対米戦争をしかけ、
   一気に世界覇権の帰趨を決する ▼