■あとがきのようなもの

 絶頂期のモンゴル帝国にヨーロッパ世界を適度に破壊させてしまうと、実のところ、その後にやることが無くなってしまうんですよね。かといって当時のモンゴル軍に、ヨーロッパ諸国がかなう筈もありません。
 そこで今回は、発展が遅れに遅れたヨーロッパに成り代わり、東アジア世界に世界征服をしてもらいました。とはいえ、全てがあり得ないとは考えていません。
 我々の世界のように、15世紀末からのヨーロッパによる世界進出がなくても、東アジア世界には極端に「違う歴史」は訪れなかったでしょう。ヨーロッパ世界の断片的知識や鉄砲がなくても、日本は江戸幕府のような統治機構が成立している筈です。ただ、我々の世界と特に変化なしでは余りにも面白みに欠けるので、日本では織田信長を台頭させ、中華世界では火砲の有無を国家の興亡に関わらせてみました。
 またヨーロッパ由来の帆船がなくても、鎖国しない限り海外進出は徐々に進んでいきます。中華型ジャンク船には竜骨も据えられているし、航海性能もそこそこあります。羅針盤の大本は、中華世界でも技術が残され使われています(まあ、占いに使われていたりしたが)。そして欲望こそが人間の原動力ですから、強権を用いた無理解な統制をしない限り、欲しい物が出来たら自然と外に出ていくでしょう。
 文化面では多少の変化が発生しますが、日本の場合は、日本人が外に出かけていくようになるにつれて補正されます。ヨーロッパ世界で資本主義の芽を育てた砂糖は、既に中華世界を始めアジアで広く栽培されています。肉料理、揚げ物料理は、中華世界がブタ料理のメッカの一つです。インド洋にでかければ、イスラムの食文化にも出会うことが出来ます。そしてイスラム料理は、スペイン、ポルトガル料理の源流の一つです。

 まあ、料理の事はともかく、無論大きく変わる事も出てくるでしょう。
 特に「大接触」した以後の時代は、ヨーロッパの時代ではなく東アジアの時代となります。このためキリスト教を基にした「西暦」が、世界標準の年号として使われることはありません。日本では「紀元」が使われたり、中華世界ではまた別の年号を使うでしょう。中華の普遍的な価値観となると・・・やはり儒教関連で孔子の誕生年などになるでしょうか。日本だと、お釈迦様の誕生日でもありかもしれません。
 他にも、単位系は大きな変化が起きるでしょう。日本の「寸」とか「匁」を主に使っているかもしれませんし、メートルやグラムに相当する新しい単位が東アジア世界で作られているかもしれません。
 文明が進展した後の国際公用語も、大きく変化しているでしょう。新大陸全て(3つ)を日本人が牛耳ることになったので、日本語が我々の世界の英語すら越える国際公用語になっている可能性が高いでしょう。日本語、広東語、北京語、アラビア語あたりが世界的な公用語となるでしょうか。
 数字だけはアラビア数字が普及するでしょうが、平行して漢数字もけっこう使われているんじゃないでしょうか。かな文字が、世界を席巻しているかもしれません。やはり漢字は難しいですからね。
 ラテン語を祖とする言語と文字(アルファベット)は、ヨーロッパ以外では使われていない可能性が高いでしょう。少なくとも、イングリッシュが世界に広まることはあり得ません。この点は、逆転の歴史のお約束ですね。

 日本の社会で我々との違いを見ると、天皇が主権者として復活しない事でしょうか。この世界では、織田家が日本列島での君主(象徴君主)であり続けるでしょう。天皇は、うまくいけば日本人世界全体から一定の敬意を受ける存在になるかもしれませんが、名目であっても権力を握ることは難しいでしょう。もう一度大規模な革命戦争しないといけませんからね。かといって、ローマ法王のような存在にも決してなれないでしょう。
 この世界の日本列島は、このまま我々のイギリスのように織田家を君主とした立憲君主国の先駆けとなっていきます。まあ、諸外国の手前、「皇帝」になるかもしれませんけどね。

 なお、日本、後元、華南をヨーロッパ世界に当てはめれば、日本がアングロ+ノルマン、後元がスラブ+ゲルマン、華南がフランス+ラテンといったところでしょうか。この場合衰退後の清朝は、同じく衰退後の神聖ローマ帝国的な立ち位置になります。間にある朝鮮半島は、余程急進的で大規模な革新が行われるか外交巧者にならない限り、かわいそうな状況が続くでしょう。李氏朝鮮のままでは19世紀までの発展はどう考えても望めず、周りのゲームプレイヤーがヨーロッパに比べて凶悪過ぎます。
 亜熱帯・熱帯地域にある東南アジア世界も、相応に酷い目を見るでしょう。文明の発展に伴う医療技術、農業技術の発展がもたらされないと、気候の暑い地方は近代化・大国化する要素が少ないですからね。一方では、インド世界、イスラム世界は、もう少し頑張っている筈です。でも、最終的には一度華南に飲み込まれるかもしれません。アフリカは、この世界の22世紀末辺りに日本と華南、日本を発祥とする大東、さらには一部のヨーロッパの国によって分割、植民地化されるでしょう。
 ヨーロッパでは、イングランドはブリテンになれるかもしれませんが、栄光からはほど遠い場所にしか行けません。フランスとドイツも、真ん中にブルゴーニュを置いたので、大きな隆盛はないでしょう。そのブルゴーニュは、民族的、国家的な統一感に欠けるし地理的な問題もあるので、極端に強大な国家にはなれず、商業国家としてやっていく事になるでしょう。
 そしてこの世界の21世紀初頭から以後200年ですが、基本的にヨーロッパは努力が報われない状況が続くことになります。産業革命による決定的な格差が発生した段階で、東アジアの列強からの侵略も受けるでしょう。ロシア辺りは、一度滅ぼされているかもしれません。ついでにいえば、キリスト教が世界に広まることもほぼありません。イスラム教以外では、日本由来の大乗仏教、後元のラマ教が緩やかに世界的に広まっているでしょう。
 基本的に、200年遅れの東西逆転の世界ですからね。
 とはいえ、東アジア世界が我々の世界のヨーロピアンほど革新的な動きを続けるのかというと、かなり疑問はあります。我々の世界よりも、技術発展や世界の進展が遅れている可能性も十分にあるでしょうね。逆に、一部の技術は極端に進んでいたりするかもしれません。中央集権の強い規模の大きな国が多いですから。

 なお、お気づきの方もいると思いますが、事件発生年については、ヨーロッパ由来の事件は基本200年から300年遅れで、アジアでは史実と同じ年に似たような事件が起きています。
 そして23世紀初頭には、我々の世界の文明レベルに到達するとしています。
 では最後に、私たちの平行世界から見て未来にあたる、21世紀初頭から23世紀初頭にかけての概略を記して締めにしたいと思います。

 それではまた別の平行世界で会いましょう。


●近代から現代にかけての流れ