●その8 帝国主義全盛時代

 明治維新により封建体制から近代国家への衣替えがなされた。そして体制刷新終了と共に、世界へと打って出るようになる。

※1880年代〜90年代
 明治維新によって封建体制を打破した新政府の政府方針は、列強と互して競うことの出来る力の確保、つまり「富国強兵」であった。しかし既に江戸時代後期に「富国強兵」の準備は終わっており、国力及び工業の近代化程度は西欧列強の標準に達していた。軍事力も国力相応の規模を有するに至っており、諸外国が治外法権や関税自主権で必要以上に干渉してくる事はなかった。
 そこで日本新政府が成すべき事は、今までの「富国強兵」に加速を付け、さらに自らも欧米列強と同様に帝国主義的行動に移ることであった。そう、時代はまさに「帝国主義時代」であり、力こそが正義の時代であったのだ。

 1879年(明治12年)
6月、
・「大日本帝国憲法」発布。天皇主権の欽定憲法とされるが、天皇の実質的権限は小さく、実質的には立憲君主制度をとるための憲法だった。
・憲法発布に合わせて、国号は「大日本帝国」と制定。ただし英語名では「the Empire of Japan」とされていた。(※日本帝國、大日本國、日本、日本國など、言い方も様々。)
8月、初の衆議院選挙実施。当初は投票基準が厳しかった。また日本列島外の領土からの議員選出は認められず各地に大きな不満。自立性の強い加州では、自治権の拡大と独自の議会開設の動きが活発化。
9月、初の内閣総理大臣に、旧幕臣の小栗忠順(おぐり・ただまさ)。薩長などから強い反発があったが、旧幕府勢力と民権運動家の多くが支持。

 1880年
・「第一回大日本帝国議会」開催。衆議院と貴族院を設置。
・ハワイ、カラカウア王来日。随員にハワイに帰化していた土方歳三の姿あり。ハワイが段階的に日本と連合することに秘密合意。
・英、「第一次アングロ=ボーア戦争」。その後も英国の南アフリカ侵略続く。
・北米大陸、加州と米南間の2本目の大陸横断鉄道開通。日本と米南との関係がさらに親密化。日本と米南を結ぶ中継点として加州、ハワイの経済発展と人口増加も加速。日本の太平洋への関心も増大。
・合わせて、メキシコの首都メキシコシティーと加州を結ぶ鉄道も開通。日本資本のためメキシコ側の反発もあったが、メキシコ側の伝統的なアメリカ敵視政策もあり両者の関係は一層親密化。
・アラスカで大量の金が発見され、ゴールドラッシュ発生。
・アラスカを領有する日本の政府は、混乱を嫌って採掘者のアラスカ入りを国家統制。結局は日本人が殺到して膨大な金が産出され、日本の大きな収入源となり金本位制も進展。同時にアラスカの開発も進展。

 1881年
・日本、アラスカの黄金により金本位制度を実施。かつての加州の黄金もあって、日本の黄金保有量は列強の中ではかなり豊富なものであった。
・パナマ運河起工。しかし疫病(マラリア、黄熱病)などのため工事は失敗。工事失敗後は、利権を巡って各国の駆け引きが激しくなる。特に北米大陸の覇権を巡って、米北、米南、イギリス、そして加州を持つ日本が対立や連合を繰り返す。
・日本とハワイ、カイウラニ王女と山階宮が結婚。日本とハワイの関係が親密化。
・ロシア、ユダヤ人に対する差別が始まる。北米大陸へのユダヤ移民が増加。主に米北に向かい、一部は加州に流れる。

 1882年
・日本政府、加州の自治権拡大を承認。
・対外名称「カリフォルニア自治国」となり、外交、軍事以外の権利を獲得。日本各地の王国(首長国)以上の権利を持つ。二院制の議会を開設し憲法も制定。初代知事(総理)に加州財界重鎮の坂本龍馬が就任。
・同自治国では、日本本国での選挙権、兵役義務はなく現地軍は地方軍扱いの志願制のみ。海軍は沿岸警備以上は保有できず。言語は日本語を第一公用語とするも、イングリッシュ、スパニッシュが認められる。幕府時代から続く万民平等が国是で、歴代知事も尊守。これ以後、自由を求めた移民が拡大。海外からも北米大陸の黒人やインディアンさらにリベラルな白人移民、欧州の貧民層、中華地域などの移民が増加。後に世界中からの亡命者も集まる。日本でも第四次加州移民ブーム到来。
・(※第一次は移民初期からゴールドラッシュ頃、第二次は南北戦争頃、第三次は明治維新後)。
・成立時点での人口は約650万人(※奴隷を除く南部の8割程度)。高率関税をほとんど設けない事もあり経済的にも大きく発展。日本国内では、加州の事を北米大陸の「出島」と呼ぶようになる。

 1883年
・「ユエ条約」。フランスがヴェトナムを保護国化。越南と国交があった日本が、清国と共に抗議。しかし日清間の連携は、清国側の内政事情により短期間で瓦解。日本で清国への失望強まる。

 1884年
・「甲申事変」。朝鮮にて改革派が革命未遂。裏で日本が支援。清が軍隊を派遣して鎮圧。日本は軍艦を派遣して清を牽制。朝鮮の革命勢力も亡命させ、ヴェトナム問題で連携していた清国との関係が極端に悪化。
・「清仏戦争」(〜85年)
 インドシナを巡る清国とフランスの戦争。日本はフランスに抗議するが、諸外国から内政干渉を言われて後退。清国は大敗して、フランスのインドシナ利権が確固たるものになる。
・「ベルリン会議」。
・欧州列強によるアフリカ分割会議。日本もオブザーバー参加して、アフリカへの不干渉を約束する傍らで、アジア、太平洋地域の利権を確認させる。

 1885年
・「天津条約」。
・清国がユエ条約を承認。ヴェトナムがフランス領となる。日本も外交的に折れるが、亡命者や留学生を受け入れる。王族の一部も日本に亡命。フランスが抗議したが、日本は表面上無視。
・一方日清間でも交渉が持たれ朝鮮半島での条約が交わされるが、清国、朝鮮王国双方の政治的な後進性のため難航。
・福沢諭吉が「脱亜論」を主張。
・国民の多くも、アジア諸国の多くに絶望。独自での発展を目指す方向性が強まり、「太平洋国家論」が以後台頭するようになる。
・イギリス、ビルマをインド帝国に併合。

 1887年
・仏、フランス領インドシナ連邦成立。
・日本、加州=米北との大陸横断鉄道連結に合意。米北との関係改善進む。
・日本、加州で油田採掘開始。加州でも、人口増大と農業の発展の地盤を使って工業化も加速。一部では、旱魃など早くも環境破壊が問題視されるようにもなる。

 1888年
・日本、ブルネイ王国を事実上の保護国化。列強からの保護と利権確保が目的。
・ドイツ、日本領・田沼諸島新奄美大島(パプア島東部諸島地域)に無断で侵入。日本軍が出動して外交問題となる。
・独、ヴィルヘルム二世即位。

 1889年
・「パリ万博」開催。エッフェル塔完成。日本だけでなく加州も独自に参加。

 1890年
・「教育勅語」改訂。ほぼ現在の形となる。
・「治安警察法」。国内初の政治活動規制法。主に無政府主義、社会主義活動が対象となる。
・エルトゥールル号事件。
・日本政府、日本域内での船での先導を申し出るがトルコは謝絶。その後同船は日本近海で座礁沈没。現地住民が救助活動のおかげで、トルコと日本の友好関係が大きく進展。日土とも対露問題から関係が進展。以後しばらく経済、軍事など多方面での協力が進む。欧州諸国は、日本のヨーロッパ、中東進出を警戒するようになる。
・独、ビスマルク失脚。

 1891年
・日本、近代的な国産戦艦完成(※フランス設計の三景艦級戦艦の3隻が相次いで就役。)。排水量は1万トンに達しなかったが、海上交通保護を主任務と考える日本海軍は特に問題視せず。抑止力としての戦艦整備が心がけられた。
・ロシアのニコライ皇太子来日。日本側は官民挙げて盛大に歓迎し、日露の親交を深く約束。日露互いに、アジアでの勢力圏維持と当面の後背の安全模索のためと言われる。また北東アジアでの密約があったと言われる。以後、日本がヨーロッパ外交の一環に加わったと言われる事になる。
・ロシア、シベリア鉄道建設開始。日本、イギリスに警戒感。
・「露仏同盟」締結。
 ロシアは、フランスの資本と技術で工業化を進展させる。

 1893年
・「オワフ事件」。ハワイでクーデター未遂。元新撰組の土方歳三率いる日系近衛隊を主体としたカウンタークーデターにより阻止。日本政府もただちに軍艦を派遣。日布統合に関する話し合いが進展する。以後ハワイでの反リベラル派白人勢力は著しく減退。
・ハワイ、米北との互恵条約を破棄。日布互恵条約締結。

 1894年
・朝鮮の内乱を発端として「日清戦争」勃発。
 近代化の圧倒的な差から、日本軍は各地で連戦連勝。年内に旅順、威海衛など主要拠点を制圧。その後首都北京伺うも、天津郊外に少数部隊を上陸させた段階で日本側は前進を意図的に停止。前後して日本の下関にて講和会議を開始。
・清国、共同管理地の台湾で軍事行動。その後日本軍が反撃して完全占領。前後して、圧倒的海軍力を用いた日本側の通商破壊が、清国沿岸で活発に行われる。

 1895年
・「下関条約」締結。
・日本、賠償金3億両、台湾の単独主権獲得、海南島を割譲。朝鮮の独立を清国が認め、朝鮮での日本の優越権も獲得。日本政府、多くの日本人が、明治以来初の海外戦争での勝利で自信をつける。
・英仏、海南島割譲に意見。日本、海南島に最低限の警察力、軍事力しか置かない事を約束。
・日本、朝鮮の親露派に激怒。上層部に対する支配権を強める。軍艦も常駐。
・日本、中華地域の革命勢力支援を本格化。
・この頃日本で、「亞細亞維新」の言葉がよく言われる。
・仏、仏領西アフリカ成立。

 1896年
・ロシア、ニコライ2世が皇帝に即位。
・ロシア、清国との間に東清鉄道敷設契約。日本国内で反ロシア、反中華感情が上昇。
・第一回近代オリンピック開催(アテネ)。日本も参加。

 1897年
・ロシア、ウラジオストク=ハバロフスク間に鉄道開通。
・朝鮮、大韓帝国成立。李氏王家を皇帝に据える。日本が強く影響。なお帝国とは言っても、欧米一般での主権を持つ王国という程度の意識でしかない。

 1898年
・「カリブ危機」。アメリカ南北政府の対立が激化。
・スペインが米南、イギリスの助力を得てキューバの反乱を鎮圧。スペインと米南の関係が進み、カリブ海の半分が米南の勢力圏となる事を米北が強く警戒。艦隊を派遣して牽制。一時キューバで睨み合いとなる。すぐにも各国が調停して終息。
・ロシア、大連、旅順を租借。日本で反ロシア感情爆発。日本政府も、それまでの約束を反故にしたロシアを強く警戒。大規模な軍備増強を開始。
・清、戊戌政変。近代化に失敗。多数の改革派が日本に亡命。前後して欧州列強に各地を租借されるようになる。

 1899年
・清、「義和団の乱」発生。後に「北清戦争」に発展。
・8カ国が清国に共同出兵。日本軍、ロシア軍が主力となる。日本軍は略奪に参加せずに国際的評価を上げる。
・「南太平洋条約」
・イギリス、日本、オランダ、フランスによる四国協定。オセアニア、南太平洋の領有関係明確化。これで太平洋の植民地分割がほぼ確定。
・イギリス、「ブーア戦争」(〜1902年)。南アフリカに大軍を投入。
・ロシア、シベリア鉄道、ノヴォシビルスク=イルクーツク間鉄道開通。
・米北、ロシアとの通商姿勢強化。北米大陸での包囲網打破と中華地域進出、経済発展、そして日本への牽制が目的。ロシアは、米北資本による国土開発と技術導入が目的。米南と欧州諸国そして日本が警戒強化。
・「フィリピン動乱」。
 スペインの統治に原住民が反抗。大規模な戦闘状態が続く。数年後スペインが原住民へある程度の自治を認める形で決着。
・スペイン、たて続く植民地蜂起での支出による財政悪化を受けて一部植民地の売却を各国に打診。
・カリブ植民地売却でアメリカ南北が対立するが、スペイン政府は売却を実行。入札の形を取り最も高値を付けたドイツがキューバを購入。グァム島は、日本が法外な値段を払って獲得。西サハラ、プエルトリコ、フィリピンは結局売却されず。英国と日本が、スペインへの割安の融資を申し出たため売却を白紙撤回。イギリスとスペインの関係が好転。後に、英新鋭戦艦のスペインへの売却などに発展。米南とドイツの関係も強化。キューバで入札に負け、フィリピンも購入しようとした米北に大きな不満。

 1900年
・「北京議定書」。
・清国は各国に合計4億両を分割で賠償。また各国は、北京駐留権、天津租界が認められる。また英仏日は上海の共同租界の拡大を認めさ、他の列強も入り込んだより大規模な共同租界となる。これにより、清国はこれ以上賠償金を支払えないほど疲弊してしまい、以後歴代中華政権は長らく賠償金に苦しむ事になる。
・ロシア軍は、満州占領後も残留し国際非難の後に形だけの撤退開始。
・この年の前後、アフリカ分割がほぼ終了。最終的には、エチオピアとリベリアを除く全てが欧州列強の支配下となる。これにより列強の世界分割がほぼ終了。

 1901年
・「官営広畑製鉄所」開業。釜石、室蘭、八幡に次ぐ近代製鉄所。同時期八幡製鉄所も大幅拡張。ロサンゼルスにも一貫生産型の大規模近代製鉄所が開業。2年後には日本の粗鋼生産力が、欧州列強に並ぶ。(米北、独、英に次ぎ、米南、仏、露、伊を抜く。)
・英領オーストラリア連邦成立。

 1902年
・ロシア、シベリア鉄道部分開通(※バイカル湖が鉄道連絡船のみ)。北東アジアでの行動加速。日本のロシアへの警戒感が大幅に上昇。
・「日英同盟」締結。
 イギリスが、「栄光の孤立」を捨てる。
・日本、ロシア対立路線を激化。
・(※日露の極東対立は、日本側に英、米南、西、ロシア側に独、仏、米北(+清)が付く)

 1903年
・日本、「八八艦隊」(新鋭戦艦八隻、新鋭装甲巡洋艦八隻)体制完成。半数を国産艦で占め海防体制を強化。
・ロシア、満州一帯を事実上占領。満州を中心とした兵力増強と軍事拠点の強化を進める。
・ロシア、皇帝ニコライが日本の明治天皇に親書。争いの回避のための直接会談を提案。
・パナマ独立失敗。米北の工作が失敗して国際評価も失墜。イギリスなどは、米北の覇権主義を世界に宣伝。パナマ運河工事に関しては、英国主導で国際運河としての建設計画が開始される。
・独、バクダッド鉄道建設開始。(3B政策の推進で英と対立。)
・米北、無政府主義者の移民禁止。
・「日露皇帝会談」。
 欧州では、日本外交が欧州レベルに達したと言われ、親交は深まり会談そのものは友好的だったが、国益問題から外交的には実質的に物別れに終わる。日本政府は、ロシアの時間稼ぎと焦る。

※これより後、世界は帝国主義の限界からお互いが正面からぶつかり合う世界規模の戦乱の時代を迎える。
 そうした世界で、何とか欧米列強と互角に渡り合える力を持った日本の苦難の百年戦争が始まる。


●第一部 備考