■長編小説「煉獄のサイパン」

●第八章 1-1

1945年3月1日 サイパン島

 その日もB29の根城であるイセリー基地を中心とするサイパン島は平穏だった。特に基地郊外にある日本人収容所は、米軍の爆撃とは全くの無縁のため、ただ変化のない日常を維持するしかなかった。
 硫黄島からひっきりなしにやってくる病院船が吐き出す、負傷した海兵隊員で満員御礼な軍病院に駆り出されている婦女子は忙しいのだが、それも日本人捕虜全体から見ればごく一部だ。
 収容所の日本人達の懸案と言えば、3日に控えた雛祭りをどう祝うかという事ぐらいだ。ただでさえ単調で陰鬱な収容所生活なので変化を付けたいところだが、何事もまずは米軍に許可を得て物資の要求を出さなければならない。だが米軍は、宗教的行事に対しては敏感で、日本人にとって欠かすことの出来ない正月の祝いですら、米軍の許容範囲のものとならざるを得なかった。
 そこで、米軍との通訳をしている山科法子が一計を案じてみた。米兵の土産用の人形をいつもより多めに作るからその分だけ材料をもらう。また、いつもより多い分を渡すことの報償として、女の子の成長を祝うという形のみで行事を認めてもらうというものだ。もちろん、自分たち用の雛人形の材料と少しばかりの追加食料も要求する。
 その交渉を行ったのが先週の事で、材料の受け渡しや人形作りも順調に運んでいた。今日は、できあがった分だけの人形をアメリカ側に引き渡すため、法子も収容所ゲート近くの事務所にまで来ている。
 教え子で今は同じ通訳の仕事をしている星埜奈央子もいっしょだ。
 そうして、二人して忙しく通訳をしている時、黒い影を差すほどの低空を、大型機がフライパスする。ちょうど法子が見上げた時、その機体の搭乗員が地上を覗いているのが見えた。
(B29の編隊。きれいな機体ばかりだから、アメリカ本国からやってきたんだわ)
 機体は、銀色の地色を見せつける巨人爆撃機B29。全長40メートルを超える巨体ながら、何十機も悠然と空を飛ぶ様を毎度毎度見せつけられていると、何でもない事にすら思えてくる。
「テニアン島の北に降りるみたいですね」
 ちょうど隣に並んでいた奈央子も、少しばかり緊張した声でささやくように呟く。
 そうね。気のない返事を返した法子だが、習慣化している米軍機の数を数え、時間を計る作業に思考の一部を割いているせいだ。隣の奈央子も同様で、胸元の時計を出して時間を確かめている。
 もっとも、何も知る立場にない彼女にとって、全ては文字通り雲の上の出来事だった。行動も、以前の習慣が残っているからというに過ぎない。
 その日もそれ以上気にすることなく、日当としてアメリカの国父の描かれたドル紙幣(収容所の日本人には珍しいものだ)やセント硬貨を米軍から受け取ると(知的職業ということで、通訳は他よりも格段に報酬が多かった)、収容所内の市場へと向かう。
 そこでパンや肉もしくは魚、缶詰、脱脂粉乳、その他調味料などを買うか支給される。最近は、島内農場の野菜の収穫サイクルに位置しているので、米軍のおこぼれの野菜が店先を賑わせており、トマトやキュウリなども手に入った。少し高価だが、サイパン島内の牧場から取れる生の牛乳も購入することもできる。
 他にも、米兵の支給品と同じだが、ほとんどの物が手に入る。煮炊きの為に、日本人が使い慣れた練炭ではなく固形燃料のコンロすら支給されているほどだ。肉類など、缶詰に入れられた分厚いベーコンやコンビーフ、たまに回ってくるレーションの中には、ハンバーグ・ステーキなど既に加工されたものまで入っている。お米がなく、主食がパンや豆、ピーナッツなのは受け入れがたいものがあったが、間違いなく日本本土より高カロリーな食生活だ。収容所内ですら、お菓子やコーヒーすら手軽に手に入るほどだ。おかげで、法子も奈央子も女性にとって不要と感じるほどに身体の丸みも戻っていた。米軍は配給を渋っているという噂もあったのだが、それでもなお当時の日本人にとり、配給の食料は高カロリーだった。
 服装も、米軍の中古支給品を仕立て直したものや米本国からの民間の緊急援助物資が収容所内では普及しており、見てくれの野暮ったいものが多いながら、生地の材質はかつての生活を上回るほどだ。
 しかも奈央子が私物として所有を許された雌鳥を2羽持っているので、日本人同士の知り合いなどとの物々交換にも事欠かない。
 そして、衣食住と暇を作らないほどの用事があると人は意外に安心してしまうもので、買い物時の話題も今日は何を作りましょうなどというものになってしまう。
 奈央子に答える法子も、トマトとベーコンでお汁でも作りましょうかと暢気なものだ。
 だが、それこそが45年3月に入ったサイパンの日本人捕虜の現状であり、同じ島で眠る数万の同胞の事を少しの間だけでも考えないようにするためにも、日常と平穏を維持するしかなかった。
 いっぽうで、それぞれの建物の奥にある仏壇を模したものや、収容所の片隅に慰霊のための粗末な碑があるのが、それが全てを忘れたワケではないという証だった。法子達も、上陸戦が始まる前に他界した昭一や戦闘の中で命を落とした校長など様々な友人知人の供養を行うことは忘れなかった。
 そしてその日も食事を済ませ、しばらく談笑をした後眠りに就いたのだが、深夜珍しく来客があった。
 収容所内の青年団に属し、法子達とも顔見知りで、何かと色目を使う事もあった徴兵間際だった少年だ。
 彼は緊張した面もちと小声で、二人に付いてきて欲しいと頼む。逢い引きを楽しみたいという雰囲気ではない。兵隊同様の緊張した雰囲気が感じられた。
 そして、何度も回り道して米兵の監視が届きにくい建物の一角に、共に付いてきた二人を案内する。
 入り際、建物の中から小さいが鋭い声が飛ぶ。
「必勝!」「信念!」
 案内の男はすかさず返し、人一人がようやく入れるだけ扉が開くと、中から素早く出てきた手が二人を招き入れた。
 中はほとんど明かりがなく、裏口近くの一角だけにロウソクが灯っていた。そこには他と変わらない身なりの男が座り込み、両手を使って盛んに髭もじゃの口の中に食べ物を放り込んでいる。そして食事をする男の影は、二人にとってなじみ深いものだった。
「犬神さん。どうしてここに!」
「生きていたんですね」
「勝手に殺すなよ。まあ、もうちっと待ってくれ、見ての通りだ」
 法子と奈央子の声に一度ニヤリとだけ笑うも、モゴモゴと食べながら鷹揚に返す。それはまさに一月半ほど前に分かれた、犬神広志海軍中尉に他ならなかった。二人にとっては募る話しもあるのだが、当の犬神はまずは腹ごしらえとばかりで、二人の言葉に適当に相づちを打ちながらも、5分ほどは会話にもならなかった。
 そうして、犬神が米兵用の大きなカップの中の黒い液体を呷ると、ようやくまともな会話となった。
「プハーって、何だよこの甘い変な飲物は。カフェかと思ったぜ。いや、それより呼んだのはこっちだ。取りあえず今日は、最低限の事だけ言わせてもらう。食ったらすぐ動かないといけないんでな。とりあえず、質問あるなら言ってみな」
 法子の性格を知っている犬神が切り出すが、他の男達の様子からも多くの時間がないことは読みとれる。
「なぜ貴方がここにいるのか、それは問わないわ。私も収容所に兵隊さんが紛れ込んでいたり、ここの日本人が外の兵隊さんに食料や情報を渡しているという噂ぐらい知っているもの。だから、私が聞きたいのは一つだけ。どうして、外に居るはずの犬神さんが私達を呼びつけたのか、という事よ」
「相変わらず理路整然だな。助かるぜ。けど、何から話すべきかなあ」
 犬神の一見暢気な声に「中尉殿」と焦る声が、会話の追い風となる。
「分かってるって。いいか、お二人さん。聯合艦隊がこの島の最新情報を欲しがっている。なるべく詳しく新しいやつだ。その話が島の外の潜水艦から舞い込んだのが、一昨日の事だ。で、本来なら俺が行くのが筋だ。あれからも飛行場の観察も続けていたからな。けど、少しばかり問題があって、アンタらに代役を頼みたい」
「何故ですか? 書類はまとめておいたから、あれを渡せば問題はないんじゃないですか?」
 もっともな疑問を、奈央子が不思議そうに口にする。ただ、法子の方はある程度察しがついていた。
「まあ、その筈なんだがな。けど、島に来た外からの連中を迎え入れて匿う時、米軍とちっとばっかし小競り合いになって、俺の命を救う代償になったという案配だ。見てくれ」
 犬神が、おどけた口調のまま上半身諸肌となると、右脇腹に包帯が巻かれていた。かなりの量だ。
「見ての通りさ。米軍の機関銃弾が思いっきりかすった。で、もらった書類は油紙に包んで肌身離さず持ち歩いていたんだが、見事俺様を守ってくれた千人針ともども粉みじんだ。……これ、この通り申し訳ない。まずは謝る。アンタらの苦労を水の泡にしちまった」
「いいわ。あの帳面が犬神さんの怪我を少しでも小さくしてくれたのなら、意味があったのよ」
「そう言ってもらえるとありがたい。だが、おかげで日本で一番正確なアスリートじゃない、イセリー飛行場の情報はお釈迦になっちまった。そこで、生きた記録である人間様を回収する事になったんだが、俺はこのザマだ。小さな船で環礁の外に出なきゃならねえんだが、今は歩くのがやっとで収容所内でみんなに担がれて逃避行状態だ。傷は治してはいるんだが、期日までに動けるかは分からねえ」
 後は分かるな。犬神の目はそう語っている。
 これが軽い話であれば、小さなため息一つで了承したいところだが、流石にそうは行かない。
「他の軍人の方や大人の方ではダメなの」
「ああ、ダメだ。俺も接触できる限りの軍人に当たったが、俺が一番物知りだった。記憶力から言えば、アンタらは俺以上だ。他の地方人については論外だ」
「では、私達が再び紙面に整理し直すのは?」
「時間があればそれが一番なんだが、迎えが来るのは次のB29の大空襲があった日の夜半と決まっているが、流石に日付が分からないし、調べる暇もない。これで少しは納得いってくれたか」
「理屈では納得がいくわ。多分、犬神さんがこの時点で私に話す気になった事も分かる気がする」
「なら頼む。山科法子さん、大日本帝国軍全軍を代表してお願い申し上げる」
 いつになく真面目な口調と共に、怪我でぎこちない仕草のまま頭を深く下げる。
 そうまでされては、この時代の日本人として断ることは難しい、というより出来るわけがなかった。
 法子は、半ば反射的に小さく頷いた。
「分かりました。ただし、私一人が向かいます。奈央子はまだ子どもです。ここに置いていく事を了承願います」
 法子先生。隣で短く叫ぶ声が聞こえるが、法子は無視して犬神の目を見続けた。犬神が奈央子の名を口にしていない事からも、自分一人で済む筈だという読みがあった。
 犬神も、あえて重々しく頷いてから口を開く。
「俺の一存ではなんとも言えない。勘弁してくれ。それと詳しい事は、今話すことはできない。友軍に収容されてからになるだろう。ただ、俺が接触した連中の雰囲気から推察するに、よほど大きな作戦だ。もしサイパン島に何かする気なら、前に俺がやったションベンみたいな爆撃どころじゃないだろう」
「日本軍がここを奪回に来るというの?」
「分からない。本当だ。知らされていないんだ。ただ、アンタが島の詳しい現状や地図を伝えることは重要だ。もし上陸なり、爆撃なり、艦砲射撃するなりした場合、何も知らない内地の連中は、このススッペも吹き飛ばすかもしれない。遠目には、米軍の駐屯地にも見えるからな」
 犬神の言葉と共に、法子と奈央子の顔が血の気が引くのが見えるような白さになった。加えて二人には、犬神が最初にこの事を伝えなかった事も理解できた。脅しているのと変わりないからだ。
 犬神の言葉の意味を思考の奥で吟味しながら、奈央子に顔ごと視線を向ける。案の定奈央子は揺れる瞳を向け、その顔を見つめながら一方では自身の未熟さと運命というものの皮肉を感じていた。
 なお、詳しい話しは、間際に話しそれは4、5日後になると伝えると互いにその場を離れ、旧交を温める間もなく互いに闇の中へと消えていくことを受け入れなくてはならなかった。

 その翌日、その日は何事もない平穏な日常だった。と言うより、昨夜の事件の方が非日常的なのであり、何もない怠惰な毎日こそが収容所のあるべき姿だ。管理する米軍ですら、合理的判断から何事もない事を望んでいる。よほど鉄条網に近づかなければ、警戒の機関銃や探照灯が見えないようにしてあるのは、収容所の日本人を無駄に刺激しないためだ。鉄条網の柵こそ二重に施されているが、地雷原などはなくただ家畜を囲うような備えでしかない。
 その事自身屈辱に感じなければならないのだろうが、この島の多くの日本人は激しい戦闘で一度精神的虚脱状態に追い込まれているので、米軍が最低限の事をしている限り反抗心は容易に芽生えない。その点米軍もよく考えていた。事前に反抗させない対策を取る事こそが、最良の統治方法なのだ。
 だが、サイパン島は小さくはない。島の中央部にはターポッチョ山を中心に小規模ながら山岳地帯もあり、人間を拒む密林に覆われている。こんな場所に逃げられては、数万人を投入した山狩りでも行わなければ、日本人全てを駆り出すことはできない。米軍もまた、定期的な小規模部隊による哨戒任務以上の必要性は認めていなかった。
 また米軍は、収容所の日本人が、外の日本人に食べ物やちょっとした情報など渡している事は薄々気付いていたが、釈迦の手の平の上と放免状態だった。少なくとも、食料倉庫を襲われでもして自軍に死傷者が出るよりはマシと考えている節がある。
 日本人の側もそれを利用しており、奇妙と言えば奇妙な状況が成立していた。
 米軍でも、収容所以外の日本人に執着心を見せるのは、暇で暇で発砲の一つでもしないと気が紛れない警備の海兵隊員ぐらいだ。
 当然と言うべきか、昨夜の事をアメリカ側が気付く事はなく、主に収容所の出入り口付近の事務所で行われる通訳の仕事もいつも通りだった。
 法子にとっての懸案も、日本兵との接触がバレるかもしれないという事よりも、すっかりしょげてしまった奈央子の様子の方だった。
 そしてその夜。寝床につき、法子が自身の考えからしっかりと伝えようと言葉を考えていると、奈央子の方から話しかけてきた。
「あの法子先生」
「何? 昨日の事」
「はい。私も一緒に行くことはできませんか」
「そうね、やっぱり危険すぎるわ。米兵の目をかいくぐって島を出て、後は船か飛行機か分からないけれど、米軍の目を盗んで逃げることになると思うの」
「そのぐらいの事なら私にも分かります。けど私、先生と一緒にいたいんです。……ダメですか」
 いつもとは違う奈央子の声。張りつめたような声に気圧されながらも、法子は押し返すように言葉を返す。
「いつもなら「仕方ないわね」て言えるけれど、やっぱりだめだわ。奈央子の事は、他の大人の人に頼むから……」
「そう、それです。仮に法子先生が居ないことを米軍が知ったら、私疑われてしまうかもしれません」
(確かに)
 あまりに急な話だったので、考えてしかるべき事を見落としていた。
 島内部での事なら全てを話せと奈央子に言えるかもしれないが、日本軍が何かを成そうとしている以上、行われるまで僅かとは言えど情報を米軍に渡すわけにはいかない。
 ならいっそ連れて行く方がマシかも。法子がそこまで考えた時点で、奈央子と目があった。
 少なくとも、この時点では奈央子の方が正しい。勝ち負けで言うのはおかしいが、法子の負けだった。
 自然法子は苦笑に近いものを浮かべ、先ほど撤回した言葉を口にしなければならなかった。「仕方ないわね」と。
 そしてそれからは、犬神からの連絡が今日か、明日かという緊張を強いられる毎日を過ごしていたが、特に連絡もないまま数日が経過した。
 3日のお雛祭りも無事終わり、米軍兵士の中には珍しげに見物に来て、中には写真機や映写機すら持ち込んで覗きに来る者もいたぐらいだ。まったく緊迫感に欠けるのだが、爆撃に関わりのない米兵にとっては、日本軍がまるで攻めてこないサイパン島は、実のところ収容所の日本人に近い状況なのかもしれない。
 そして翌3月4日は、法子達にとって大きな緊張をもたらす一日となった。B29の大規模な出撃があったからだ。
「サイパンからは約150てところね。滑走路3本を目だけで追いかけるのは流石に骨だったわ。隣のテニアンの北にある飛行場はどお?」
「52機が離陸しました。時計で43秒から48秒の間隔で離陸していて、滑走路は前と同じように今使えるのは1本だけです。通訳のお仕事が、ちょうど米軍の駐屯地の近くで助かりましたね」
「まったく、ちょうど移動中で助かったわ。けど、今夜いよいよよ。夜までに準備を終えないとね」
「はい」
 奈央子と法子が、歩きながら誰にも分からないように小声で話し合う。奈央子は、相変わらず正確無比だ。そして奈央子自身、気負って正確な数字を言っているわけではなく、これが普通だということは法子自身が良く知っていた。
(血のなせる技ってやつなのかしら)
 そんな事をぼんやり思いながら、いつもの癖で奈央子のきめ細かい髪の毛を耳元あたりからゆっくりとなでる。
 奈央子の方も、取りあえず一仕事終えたので緊張感が少しばかり和らいでおり、そのまま二人して夕食の準備とそしてこれから必要と思われる物の準備のため、収容所の市場の方へと足を向けた。
 市場はまだ買い物時間から少し外れていたので人通りは少なかったが、広いとは言えない地域に数千人が収容されているし、娯楽や物資があるのがここだけなので、外出が禁止されている夜間以外人が途絶えるという事はない。
 法子達も緊張感から一時的に解放され、少しばかりのお金での買い物を楽しんでいた。
 このトマト虫食いだから、値引きしてちょうだい。ダメダメ、野菜はこういうのしか回されないの知ってるでしょ。あ、ホラ、この缶詰、初めて見ますよ。ホント、ソーセージが200グラムだって。
 そうして夕食の材料を手に入れて家路に向かおうとしたとき、どこからともなく現れほんの一瞬すれ違った男が、すれ違いざまの法子に「今夜12時、外れの南洋桜の並木で」と告げる。
 次の瞬間振り向くが、くたびれたGI帽を目深に被った男は、人混みに消えてまるで分からなかった。
 ただ、耳元で明確な言葉で言われた事に違いない。
 念のため周囲を見回すが、見張られている雰囲気はない。というより、そんなワケないと言い聞かせると、奈央子に目配せしてなるべく自然に家路を急いだ。



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