■解説もしくは補修授業「其の十四」

 ここでの流れは、日本海軍の幸運と頑張りにより全体として半年から三ヶ月以上前線での戦争展開が遅れているのに、日本側が南方から立ち去ったのを利用して、アメリカが持ち前の物量で無理矢理史実のタイムスケジュールに戻した事による齟齬の発生という感じになります。
 また、モレスビーで日本がいっぱいいっぱいに頑張りすぎたため、豪州大陸からの連合国の反撃が遅れています。だから、史実でマリアナ諸島侵攻とほぼ同時に開始された、西部ニューギニアへの本格的侵攻ができません。そして日本が防衛方針を一本に絞れたため、マリアナへの兵力集中が崩れないという流れもあがあります。
 この世界では、「渾作戦」はありません。
 さらに、ソロモンからの夜逃げと東部ニューギニアでの早すぎる戦争展開による増援の遅延によって、ソロモン地域に展開していた数個師団の大兵力と東部ニューギニアに投入予定だったいくつかの師団、部隊がほぼ無傷で内南洋に展開もしくは再展開しています。このため、マリアナを初めとする各島嶼の防御力が格段に向上するだけでなく、同地域への兵力展開が史実より約三ヶ月程度前倒しになるという、日本にとって都合の良いなし崩し的流れが存在しています。
 そして日本がソロモン、ラバウル、マーシャルからロクに戦いもせず逃げ出したため、アメリカ軍は無血侵攻によって今までの遅れを距離という面ではほとんど取り返しています。
 このためマリアナでの戦闘が史実通りになったという流れがあり、ここに反撃密度を高めた日本軍の真っ正面から史実より弱いアメリカ軍が突っ込んでくるというお約束的状況が現出しています。

 あと忘れてならないのが、アメリカ軍の海上交通破壊です。
 ここでも史実同様、ハワイと豪州ブリズベーン、フリーマルトンを拠点として米潜水艦が跳梁します。しかしハワイは、四三年十一月まで日本がミッドウェーを押さえていた事により圧迫されます。同様に、ブリズベーンも日本がモレスビーを四三年十月まで押さえていた事に帰来する負担の増大、ソロモンからニューヘブリデスに向けられる圧迫による海上交通路の混乱によって、史実より低い機能しか持っていません。日本軍の前線での移動を妨げるのならある程度対処できそうですが、総合的なシステムを必要とする長期的な通商破壊は、特に後方での海上交通破壊が史実より機能が低下しているのは間違いないでしょう。また、敵拠点(ブリズベーンと一部ハワイ)で破壊されている潜水艦も十隻程度余分にあるので、米潜水艦の活動活発化も史実より三ヶ月以上遅れさせています。
 まあ、史実では魚雷の改良と火薬の威力増大によって、四三年秋から米潜水艦が猛威を振るうようになるのですが、ここでは兵器が揃っても全体のシステム構築に遅れたための日本軍優位の出現とお思いください。

 そしてここでは丼勘定で、四三年いっぱいまでの連合国の通商破壊の効果は、史実より一〇%減少としています。ニューギニアなどでの、空襲による損害も大きく減っています。さらに史実であったようなソロモン海域での消耗も少なく、加えてトラック、パラオ泊地での悲劇もかなり減殺されているので日本商船隊の状況も史実より半年程度後ろ倒しで規模が維持されています。トータルで考えれば二割程度損害の減少になるでしょうか。加えて、ニューギニアやニューブリテン方面に行く船も減っているので、効率が上昇しています。
 このため、日本本土に流れる資源も多くなり、前線に配備される日本軍も強化されていき、これによって聯合艦隊は内地で訓練ができ、サイパンの防御力も上昇している事になります。
 あと、聯合艦隊唯一のサーヴィス艦隊にも生き残ってもらったので、日本海軍が前線で機動的に運用できる期間もそれだけ長くなり、選択肢の幅も広がっているものとします。

■フェイズ十五「血戦! マリアナ」