■解説もしくは補修授業「其の拾六」

 さあ、ついに日本軍の秘密兵器が登場です。
 え、違うって。いえいえコンクリート船をあなどってはいけませんよ。史実でも「第一武智丸」と呼ばれるコンクリート船は実際建造されています。都合数隻建造されたこれらのコンクリート船は、磁気機雷をものともせず磁気機雷が犇めく関門海峡で運用され、しかも丈夫な鉄筋コンクリートで出来ていたので、建造されたうちの二隻は仲良く護岸として余生を送っているそうです。
 もっとも、ここでのように四〇〇隻も同種の船が建造される余地があったのか大きな疑問はあります。もちろん、もしこれだけの規模で実現されていれば船舶用鋼材が数十万トンレベルで節約できるので、これを他の船の建造に回すなど様々な効果があるかと思います。・・・が、戦後を思うとコンクリート船建造に血道をあげた造船所は大変な事になるでしょう。それとも戦後は土建屋に転職しているんでしょうか。
 それにしても、史実の時間軸の流れで考え得る架空戦記の中で、磁気機雷への対応と鋼材節約の一挙両得の極貧計画が日本の切り札の一つになるというのは、当然と言えば当然の帰結ですが、何とももの悲しいものがありますね。

 とまあミニマムな事はさておき(そうでもないかな)、全体としての連合国の攻勢と日本軍の抵抗の流れにもどりましょう。日本軍が連合国のストロング・ポイントの最重要の二つに圧迫をかけ続けたため、連合国の通商破壊計画が史実より遅延するという回りくどい道をとって、さらに日本軍には史実より少しだけマシな護衛態勢を構築してもらって日本の輸血量を増やしていくというのが全体の流れになります。ハワイに圧迫をかけるためにミッドウェーにしがみついたのも、「い号」作戦でブリズベーンを破壊したのもこのためですからね。勝つためじゃありませんよ(苦笑)
 また、米海軍主導のマリアナ侵攻の失敗が、アメリカ軍内部の陸海軍の縄張り争いにさらに大きな溝を作り上げ、連合国による勇み足によるフィリピンへの道のりが作られていく事になります。
 いっぽう欧州では、史実よりもダメージが大きい連合国側に、史実とほぼ同じスケジュールで戦争を行ってもらっているので、その分ベルリンへ至る通行税は高騰を続けているという状態になってます。絶対数での損害量は、連合国軍は史実の一割り増しといったところでしょう。
 このため、四三年後半から日本に流れてくる欧州からの戦力はその分だけ小さくなり、連合国軍側が太平洋でも史実と同じぐらいの歩みを見せようとすると、日本側に手痛く噛みつかれるという構図になっています。
 正直、これぐらいのレベルが、史実と同じ状況から出てくる枢軸軍有利の回答としての限界ですね。米英ソ連合が相手では、物量に差がありますぎます。

■フェイズ十七「アイ・シャル・リターン」