■解説もしくは補修授業「其の拾九」

 ドイツ・マンセーな人向けのサービス・・・ではなく、連合国の大兵力を少しでも欧州に留め、日本に対する圧力を軽減するための経過を、少しドイツ軍に有利に戦争展開させて叶えるという以上のものではありません。
 また、クルスク戦で躓いているソ連は、史実の半年遅れで戦争をしており、しかもドイツ側の防御戦術が功を奏していまだドイツ野戦軍主力は撃滅できていないため、史実ほど豪快な進撃はできずにいます。ここで重要なのは、ロシア戦線の北方軍集団がドイツ本土から分断されていない点ですね。
 そして史実なら一九四五年春頃から大量の兵力が極東へと流れ始めるのですが、ここではそのような状況が訪れるのは、少なくともドイツ野戦軍を撃滅できるであろう時期、つまり史実より半年遅れた一九四五年晩秋という事になります。ドイツ・東欧への圧力を減らしてまで満州へ攻め込む理由はどう考えてもないので、ソ連の極東での大がかりな火遊びを阻止するための一手という事になります。
 一方、ルフトヴァッフェにも史実より奮闘してもらうための機材を早く、多く配備させる小細工をしたので、日本が本土爆撃に受ける負担を大きくこちらに吸収してもらいました。ジェットや高性能夜間戦闘機に対抗するため、B29の多くもこちらに流れ、その他の要因もあり日本本土爆撃は低調になる可能性が高くなります。

 なお、欧州戦線での細かな違いは、ドイツ本土に対する連合国の爆撃が史実より効果が低い事と、一九四四年冬の時点でドイツがルーマニア油田を保持しているため、ドイツの燃料事情がまだ良好な状態で維持されている事です。これにより油を分捕りながら進撃するというバルジ作戦(ラインの守り)のお約束的な様相は現出しなくなります。
 また、西部戦線にいる連合国部隊は、ノルマンディー上陸作戦初期に撃滅した精鋭空挺師団は損害から回復できていないので存在しません。だからバストーニュもあれ程抵抗せず陥落し、その他も最初の躓きから数個師団少な目で戦争が推移するので、その分戦力バランスがほんの少しだけドイツ有利に傾いています。これも、ブラッドレー将軍麾下の軍団がドイツ機甲軍を押し止められない要因としています。
 それともう一つ。連合国の主力空挺部隊がノルマンディーで大きな損害を受けているので、マーケット・ガーデン作戦は発生しておらず、両軍、特にドイツ側のこの戦いでの消耗はありません。その戦力もこの戦いで双方ぶつかり、攻撃側のイニシアチブを取るドイツ有利と判定しています。
 それ以外は、だいたい史実と同じと考えてもらえばオーケーかと思います。
 史実とは少し違う道を歩んでいたロンメル将軍も、ヒトラー暗殺未遂で自殺を強要されている事でしょう。こればかりは戦場の事はあまり関係ないのでどうにもなりませんでした。

 あ、そうそう、「ワルキューレ」で総統閣下が暗殺されるというフラグは、火葬戦記としては実に興味深いファクターなんですけど、そう言ったちゃぶ台返し的な戦略的環境の変化は、日本の大東亜戦争をもう少しなぞる上で邪魔なので、今しばらくしませんのであしからず。
 本作はあくまで、大東亞戦争を見ていくものですからね。

■フェイズ二〇「ストラテジー・ウォー」