■解説もしくは補修授業「其の弐拾八」

 さて、ここからは完全に戦闘に関連する事がなくなりますが、ご用とお急ぎでない方は、今しばらくおつき合いください。
 講和会議を行い、戦後に向かうレールを敷いておかないと、戦争は終わったとは言えませんからね。

 さて、日本がポツダム宣言に従った「日本軍の無条件降伏」、「国体の護持」という史実の状況ではなく、国家としての最低限の権利の過半が保障された上での条件付き敗北という停戦。そしてその前提上での講和会議がここでのテーマです。
 史実に近い状況を見るのなら、第一次世界大戦後のドイツと普仏戦争のフランスの中間ぐらいの状態でしょうか。
 また、多少砕けた言葉で言えば、勝者の側が勝者の権利をそれなりに分捕り、その後の事はともかく、取りあえず握手しようと言う欧州外交的な戦争の延長がここでは成立するということですね。
 また、さらに敗者である日本は、実質的な敗北という政治的衝撃を利用して、自らの抜本的な改革を断行して国家の再建を行おうとしたとなるでしょう。
 この状況をもたらしたのは、中でも書いた通り戦争に勝利した側の連合国、つまりアメリカ・イギリスとしては、自分たちの利権保持と確保のためと、反共政策のためにも独立国家としてそれなりのプレゼンスを発揮できる安定した衛星国が、この地域に早期に必要だからです。
 だからこそ、欧州外交的な状況が出現するんですね。利害一致こそが、国家間の優先すべき理論な筈です。
 国内世論のために右往左往している私達の世界の、現在の北東アジア諸国(日本も当然含む)こそが愚かな状態と言うべきでしょう。

 なお、もしこの時点でソ連や中共、共産主義の脅威がなければ話はかなり違ってくるでしょう。しかし、史実と全く同じ筋道で大東亞戦争に雪崩れ込んでしまった極東情勢を考えると、総本山たるソ連がドイツの一撃で崩壊するという事象でも存在しない限り、共産主義の台頭は避けられないと思われます。
 そして史実とは違い、日本が存在する状態で、日本が大陸に持っていた利権をアメリカが分捕り、負の遺産である共産主義対立も背負い込まねばならないのなら、アメリカとしては日本のプレゼンスを残すことを認めざるを得ません。その方が安上がりな上に負担も少なく、アメリカの極東での政治的安定も得られるのですから、一石二鳥というものでしょう。
 もちろんすべてはアングロ勢力側の言い分と理屈ですが、日本はこれに乗るしかありません。もう、何かをする力は残っていませんからね。
 そうした政治的環境の中始まる「極東講和会議」ですが、見ても分かる通りかなり曖昧な決着にしてみました。
 「降伏」ではなく「停戦」なのですから、実質的な勝者である連合国側としては、決定的な結果を出すわけにはいかない、という事ですね。
 特にアメリカは、これから後はすべての国と地域を実質的にガバメントしなければならないのですから、共産主義どうこう以前に、戦い終わって握手した相手からすべてをはぎ取るワケにもいかないでしょう。
 正義のガンマンはいつも大変です(笑)
 また、戦争の果実を得られないと焦ったソ連の田舎泥棒的な行動が、米英に強い不信を抱かせ、史実よりも急激に冷戦構造が出現しているのも、日本存続を後押ししています。しかしこの点は、今回のように都合良く話が流れるとは、書いている私自身ですらあまり思いませんけどね(苦笑)
 そう言う点では、架空戦記的すぎますね。

 なお、講和会議において日本側の主張としてここで出した事柄の多くは、日本が自らの戦争の正当性を訴えるため、今日一部勢力から右翼的、軍国主義的とされる言葉を強く前面に押し出させてみました。ですが、これはあくまで日本側の政治的手段であり、本音や正しい事ばかりではありませんから、間違いなきよう願います。
 要は、戦争には大義名分こそが大切だと言う事で展開しただけです。国家の存続と民族の存亡の為なら、正義なんてクソ喰らえ。もとい、自らの都合で利用すれば良いのです。

■フェイズ二九「戦後ニッポン」