■解説もしくは補修授業「其の参拾」

 おつき合いいただいた皆様、本当にお疲れ様でした。
 ようやく終わりにこぎ着けました。
 節の数的には少し中途半端ですが、終わりです。
 なぜなら、最後の方は何を書いているのか自分でも分からないぐらい混乱しているからです。
 数多の架空戦記作家が、自ら組み上げた作品世界の戦後について細かく書きたがらないのが分かる気がしました(笑)
 だから、停戦以後についてはコンテンツ内で少し分けて表記しました。要するに私の中で、まだ消化しきれていないんです。
 当初目的だったとは言え、少しバタフライさせすぎたのかもと言う気持ちが強いですね。

 さて、グダグダ言っても仕方ないので、少し状況を整理してみましょう。
 で、最終的なこの世界と史実の違いは何でしょうか。箇条書きで書くと、だいたい以下のようになります。

・日本、ドイツの継続的な意味での存続
・日本、ドイツの民主化
・国連憲章改訂と常任理事国の入れ替え
・東西分割ラインの東進(もしくは北進)
・満州、内蒙古、朝鮮のアメリカ占領統治
・中華分裂
・ソ連・共産主義勢力の史実よりの弱体化
・西側世界でのアメリカの地位の相対的低下
・東西対立での緩やかな多極化

 要するに、日独が中途半端に生き残ってそのまま西側に加わったので、自由資本主義陣営(西側=アメリカ)にとって有利な要素ばかりで、逆に共産主義陣営(東側)に不利な要素ばかりとなります。ただし、有利になったはずの西側は、アメリカ中心という構図が完全ではありません。しかしこの世界のアメリカは、今現在(21世紀初頭)以上に、日独に気を遣わなくてはならないでしょう。
 ですが、もともと日本とドイツが反共産主義(+反ロシア)的国家の最先鋒です。この二国が存続したまま、その後がまにこの当時の工業力の六割を持つアメリカが覆い被さってくるのなら、西側圧倒的有利になるのが道理であり、当然の帰結だと思います。
 これが「もっと派手な架空戦記」なら、停戦前後の混乱を経てそのまま日独を新たな尖兵として加えた連合国による対共産主義戦争が勃発していても、私が読者ならまあエンターテイメントだからまあいいかと思うでしょう。
 ここまでしてしまうと、それだけ力の差がハッキリしていますし、当時のアメリカの国力は次なる戦争を可能とするほどパワフルかつポジティブです。
 いっぽうのソ連は、史実での東欧(ドイツ)、満州での大略奪ができてません。ドイツ・東欧の技術も人もほとんど得られてません。だから、資本力、工業力、先端技術の点で史実より大きく立ち後れています。恐らく本作品の末尾となった一九五〇年の時点でも、ジェット戦闘機や原爆は開発できていないでしょう。あるのは戦車とAK47ぐらいです。
 ただ、この世界ににおいて残念な事は、ドイツのロケット技術が一部が英米に渡される他は、恐らくドイツでは戦争のほとぼりが冷めるまで技術封印されるで点しょう。また、ソ連に技術が(スパイ行為以外で)渡らないので、ロケット開発競争、宇宙開発競争が史実よりも遅れるだろうと言うことです。何しろ当時のアメリカは、宇宙に対して興味が低い上に、大陸間弾道弾よりも戦略爆撃機重視ですからね。
 もちろん日本が突然宇宙に興味を示すこともないでしょうから、某作家の作品のような状態にはならない筈です。
 おそらく、史実より数年遅れで宇宙開発が進展している事と思います。この遅れを取り戻すことができるのは、好調な時のアメリカが無駄な戦争をせずに馬力を発揮した時だけです。
 また、圧倒的優位に立ったアメリカを中心とする西側陣営ですが、西洋と東洋で日独が生き残った事は政治勢力の地図にも大きな変化をもたらすでしょう。簡単に考えつく事は、アメリカの相対的地位の低下とフランス、中華地域の影響力減退です。この場合でも、イギリスはある程度例外でしょう。
 また、これらの国が日独から奪った膨大な資産もありませんから、経済面での影響も大きいでしょう。支那がいつ資本主義に目覚めるのかと考え、これを人材育成の面から思うと目眩すら感じてしまいます。何しろ、まともな資本主義を経験した満州地域は、彼らの手に戻りませんからね。
 このため、この世界で21世紀初頭において先に世界の工場となるのはインドなど他の地域で、中華地域(朝鮮半島含む)では、満州だけが先進国化しているだけでしょう。
 そして大戦終了時点で、世界経済の六割以上を占めるアメリカの地位は不動です。この後アメリカは、共産主義と矢面に立っているドイツと日本を何かとアテにするようになります。その中で米英独日を中心とした西側社会が作られ、フランスなどの大陸国家的傾向を持つ国が、史実以上に独自路線を歩むのではと予測できます。
 もちろん日独も、国力が付いた時点で独自の歩みを見せるようになるでしょう。ですが、自分一人のパワーでは他勢力(主にロシア、中華)に対抗が難しいことは体感的に思い知らされましたから、程度問題に終わる筈です。
 ただ、ここで気になる点の一つに、戦後アメリカ国内でのアカ狩りがどうなるかがあります。史実では、元ドイツの人間が戦後採用された事により、ルーズベルト時代にはびこっていたアカ狩りが促進されたと言われます。
 ですがドイツ健在なままのこの世界では、アメリカのアカ狩りが大規模には成立しません。つまり、史実よりも情報はダダ漏れな事は間違いなく、アメリカがヘタレぶりを見せつけてくれるかもしれません。恐らく、アメリカ製によく似たソ連の兵器やロケットが出現する事でしょう。
 まあ、その方が旧枢軸国の政治的地位はさらに向上するので、日本にとっては良いことかもしれませんが。
 また一方、マッカーサーの配下として国内から追放されたニューディーラー達は、反共姿勢がより強くならざるをえない満州に送り込まれます。
 このため、日本本国での実害は(有益な点も)ないうえに、アカで溢れた満州の状況にマッカーサーが強権を振るえば彼らの実害も小さくなり、反対に日本の側からアカ狩りが促進されるという情景の現出も見えてくるでしょう。
 また、日独の影響力が史実より強く、回復が早い理由は、国土がほぼ以前のまま、史実で失った膨大な資産を両国が抱えたまま再スタートしているからです。この事は、様々な方面に影響を与えるでしょう。
 一説には、ドイツがソ連から奪われた資産総額が約二〇〇〇億ドル、もしくは連合国すべてが奪ったドイツ資産が約五〇〇億ドル(約二〇〇〇億マルク)と言われます。日本がサンフランシスコ会議で放棄した海外資産の総額は、約一一〇〇億ドルとされています。
 また、日本の場合、大規模な戦略爆撃も受けていませんから、日本国内の資産の多くが無傷なままなので、これを合計すればさらに数百億ドル程度にはなるでしょう。
 この額は、私が流し読みした資料(戦後の統計)が正しければ、爆撃により国富約六五〇億円が失われています。この被害率は、国富の四分の一に相当します。
 そして、日独から主に分捕ったのが、ソ連と支那各勢力で、オマケに米英仏韓などが付いてきます。
 ところが、この世界では日独は自らの資産を保ったまま戦後に入ります。ですから、この結果が何をもたらすかは、もはや言うまでもありませんね。そう、アカと日独の近隣諸国が不利になるという事です。
 ただし、天秤は多少違った配分になっているでしょうが、結局のところガイドラインとしては、東西対立と言う点で史実のと大きな違いはないのが結局の結論です。
 共通の敵が消えれば新たな対立が始まるのは、偶然ではなく必然ですらあり、新たな対立構造はアメリカが望むものですからね。
 虚構の敵でよいのなら、相手が適度に弱ければこれに勝るものはないと思います。

 ・・・どうやら、蝶々が羽ばたいた程度では、嵐までは起きなかったようです。

 補足
 中華地域を分裂させたのは、第一に朝鮮動乱に当たる戦乱を東アジアで起こすためです。第二に、台湾を領有し続ける日本の防衛負担を減らす為です。第三に、日本の安全保障強化のために、満州をアメリカの思うままにコントロールさせるためです。それ以外の点で特に他意はない旨を補足させていただきます。

■あとがきもしくはいいわけ