著 者:横山信義
発行日:1992年2月15日〜1997年8月15日
発行所:徳間書店
八八艦隊物語 1 栄光 八八艦隊物語 2 暗雲 八八艦隊物語 3 奮迅 八八艦隊物語 4 激浪 八八艦隊物語 5 弔鐘 八八艦隊列伝 1 航跡 外伝1 鋼鉄のキメラ 外伝2 鋼鉄のメロス 外伝3 鋼鉄のガルーダ 列伝1 航跡 列伝2 瀑龍戦記 (鋼鉄のレヴァイアサン)
何だか触れてはいけない気もしたのですが、本作が知名度の高さ、発行部数の多さから架空戦記の代表作の一つとされている事、自身のコンテンツで同じ題材を取り上げている事などから逃げる(?)ワケにはいかないだろうと言うわけで、20回目の今回あえて取り上げてみました。 それにしても、「八八艦隊」やそれに類する素材を用いた架空戦記小説は数あれど、これ程有名な作品は他にはないでしょう。 この点異論を挟まれる方は少ないと思います。また、日本が最終的に勝たず、史実と同じように敗北していくという視点を新人特有の熱意ある筆力で書いている点も非常に高い評価をしたいと思います。 もちろん、主に設定面で目に付く点は「多々」ありますが、そうであったとしても本作はこのジャンルにおいての「名作」と言ってよいでしょう。 また、貧乏日本+(まともな)八八艦隊という図式で描かれた作品が、私の確認した限り本作と中里氏の「軍艦越後の生涯」だけで、後作がやや特殊な描写が多く読者を選ぶ点を考えると、唯一と言ってもよいと思います。(個人的には、全体の流れは「軍艦越後の生涯」の方が好みですけどね。)
ま、取りあえずはダウンロードサイトから解説を無断で転載してからぶった斬っていきましょうか(笑)
あ、そうそう今回もかなり酷評すると思いますので、ファンの方、これから作品を読もうという方はこのまま閉じてください。 また、ファンの方には最初に謝罪しておきます。 叩きます・・・ハルゼー提督並に(笑)
「キル・ノビー! キル・ノビー! キル・モア・ノビー!」が今回の合い言葉です(自爆)
あらすじ
1巻 中部太平洋に来襲する米海軍を艦隊決戦で邀撃、撃滅せよ――――呉軍港に勇姿を現した帝国海軍の悲願、八八艦隊。旗艦「長門」以下、世界最強の一八インチ砲を備えた「伊吹」級四艦を含む一六艦がついに完成したのだ。昭和一六年末、優勢な戦艦部隊を頼みに、日本は太平洋戦争に突入する。一二月九日、マーシャル群島沖。連合艦隊は洋上の覇権を賭け「サウスダコタ」率いる米艦隊群を迎え撃つ。巨砲相撃つ死闘の行方は……。 2巻 日本のウェーキ島奇襲で遂に太平洋戦争は火蓋を切った。米海軍はマーシャル沖において、条約破りの一八インチ砲搭載艦を擁する八八艦隊の前に、壊滅的大敗を喫する。新たにニミッツを司令長官とし、「キンメルに続け」を合い言葉に復仇に燃える米太平洋艦隊。一方、日本は大勝の勢いに乗じ、八八艦隊の「土佐」以下六隻の戦艦をサンゴ海に派遣、米豪分断作戦を展開する。幸先よくモレスビーを奪取するも、日本軍の行く手には地獄の罠が待ち構えていた……。 3巻 米国の罠に落ち、モレスビーで「土佐」をはじめとする八八艦隊艦四隻を失う大打撃を蒙った連合艦隊。意気上がる米海軍は「東京への道」を駆け上がるべく攻勢を開始する。戦線を縮小、マーシャルをも放棄した日本海軍は、改めて新造艦「ミズーリ」座乗のニミッツ率いる米太平洋艦隊邀撃を図る。世界最強「大和」を旗艦とし、トラック沖に集結する巨大戦艦群。蒼穹の下、再びZ旗が翻り、巨艦相撃つ激烈な乱戦が、陽光まばゆい真夏の南海を暗闇に叩き込む。 4巻 日米双方が手酷い打撃を蒙ったトラック沖の総力戦から三か月半。工作艦による最前線下の修理で早くも態勢を建て直した米海軍に比し、「大和」を始めとする連合艦隊主力は呉軍港にドック入りしたままだった。焦燥と苦悩を深める古賀司令長官ら首脳部を嘲笑うかのごとく、米艦隊は進行を開始した。絶対国防圏サイパンを死守せよ――――大本営の厳命に、主力を欠くGFの探りうる策は、航空機による戦艦撃沈のみ。命運を賭して出撃する戦爆連合の成否や如何。 5巻 圧倒的な国力と技術力にものをいわせ、米軍はついにレイテに上陸した。フィリピン失陥は資源供給ルートの途絶を意味する。直ちにレイテ奪還を目指す日本軍。これを懺滅せんと米海軍はサンベルナルディノ海峡で立ちはだかる。物量の差に苦戦必至といえど連合艦隊には史上類を見ない切り札があった。「武蔵」を加え、六艦となった一八インチ砲搭載艦、そして神風特別攻撃隊――――。敗色濃いなか帝国海軍の最後の光芒がフィリピン沖に、沖縄戦に煌めく。 (某所より転載)
論評・批評?
本作は、八八艦隊という魅力的な素材を用いた、史実の大東亞戦争に対するこれ以上ないぐらいのオマージュであり、軽い言い方ですればシチュエーション型架空戦記です。八八艦隊とダニエルプランの戦艦以外は、刺身の鍔みたいなもんです。 まだこの作品を知らない人がいたら、これをまず踏まえて読んでください。 この点が非常に重要です。気分で読むべき作品です。ハッキリ言って、「リアル系」じゃなく「スーパー系」です。 また、題名の示す通り「もし、八八艦隊が完成していたら」というイフを楽しむものですが、その歴史改編を楽しむものではありません。なぜなら、そう言った視点から見ると最初から設定が破綻してしまっているからです。 では、なぜ設定厨たる私が、本作をあえて取り上げたのか。 それは、私がこの作品は「好きだった」からです。いや、今でも感情面では好きだと言ってもいいでしょう。ですが、もし今何も知らず新人作家の新作小説として手に取ったら、私は第1巻の30数ページ目まで流し読みした時点で、この本を棚に戻してそのまま本屋を後にしていると思います。 つまり、戦争経済とか緻密な時間犯罪が極度に大好きな人、もしくは斜めからこういった作品を眺める私のような人間には、設定面で「はぁ〜?」という感想をまず抱いてしまうと言うことです。しかも真面目に作品世界を組み上げようとしているだけに、尚更興ざめしてしまいます。 正直私が編集者だったのなら、この冒頭の解説部分の考証をもう少し再勉強してもらってから再構築させるでしょう。 それ以外の内容も問題が「ゼロ」ではありませんが、これは新人作家の常としてスルーして問題ないとしても、どう考えてもこの世界の歴史が、戦艦全盛の海軍が洋上を跋扈しているという以外同じという事象が受け入れられません。 全てを強引につなぎ合わせても、史実の流れとは違うものしか見えてこないんですよね。いっそのことヘタな設定をこねくり回すよりも、史実と殆ど全部同じと開き直る方がスッキリします。 まあ、そう言うワケで、情報が氾濫するようになった今日(2005年)の視点からこの作品を順に解体、考察してみましょう。 (う〜ん、十年隔世の感ありだなぁ(苦笑)) ・ ・ ・ さて、お立ち会い。 まずは、開戦に至る歴史的フラグを箇条書きにしてみましょう。
・日本海海戦にて日本海軍は完全勝利(史実と同じ) ・第一次ポーツマス会議決裂 ・日本海海戦後の第二次奉天会戦にて日本陸軍惨敗 ・遼陽撤退戦にて惨敗 (恐らく関東州の端っこ以外からは叩き出される。) ・第二次ポーツマス会議締結 ・同会議にて、日本は朝鮮半島の利権を辛うじて保持 ・海軍偏中の軍備傾向強まる ・シベリア出兵とその後の手前勝手な主張によって、南満州と南樺太の利権を得る ・1921年 ワシントン海軍軍縮条約決裂 ・1926年 ローマ海軍軍縮条約締結 ・満州事変にて満州国建国 ・日本、上海、広東に利権持つもそれ以上中華中央への拡大には出ず ・日独伊防共協定締結 ・八八艦隊完成 ・遼河事変 ・米英の反日姿勢強まる ・日本北部仏印進駐 ・ABCD包囲網完成 ・日本南部仏印進駐 ・日米交渉決裂(ハルノート) ・開戦
さて皆さん。以上が、伝説のマーシャル沖で八八艦隊に出会うためのフラグになるそうですが、どこがダウトでしょうか? 分かりますか? 分かりますよね。あまりにも杜撰な設定ですから。誰ですが、別にそんなのどうでもいいじゃねえかなんて言っている人は? まあ、そんな人はこれ見る必要ないかと思いますので、このまま続けますね。
では順番にいきますが、まず「第一次ポーツマス会議決裂」なんですが、まあこれは日本側が、国内世論に屈して賠償金請求を下げなかったとすればいいでしょう。これならロシアが怒る可能性は高くなります。架空戦記ではよくある事です。この程度で私も騒ぎ立てたりしません。ただ、何の説明もされいないのはダウトですけどね。 では何が最初のダウトなのか。それは「第二次奉天会戦」です。これは史実での最終停戦ラインあたありが戦場になるとするなら、ハルピンと奉天の中間あたりにある「開城」と呼ばれるあたりか、少し下がって防衛戦にも向いている「鉄嶺」です。実際鉄嶺にはロシア軍が強固な要塞陣地を作っていた記録があります。このため、日本軍が既に奉天まで下がっているというのは考えられませんし、ここに挙げた戦場で総崩れのあとでの第二次奉天会戦なら特に問題ないのですが、物理的な問題として恐らくそれはあり得ないでしょうし、さらにここでは遼陽撤退戦とやらまで行ってます。撤退戦なのにこんなところで戦うのは私は理解に苦しむのですが、まあ、ここから本格的に叩くのは武士の情けで止めておきましょう。 まあ、ここで日本軍を敗北させた点を叩いたのは、日露戦争マンセーな私の癪にさわったからに過ぎませんからね(笑)
で、本格的にダウトしなければならない場所ですが、第二次ポーツマス会議での「朝鮮半島の利権を辛うじて保持」ですね。陸戦で惨敗しているのに、なぜ満州と陸続き朝鮮半島を全て保持できたのでしょうか。確かに、日本海軍によりロシア海軍は文字通り殲滅されていますが、そうであるが故にロシアは事前の防衛戦略に従い、現在の北朝鮮と韓国の国境あたりまで攻め込まないといけないし、当然講和会議でもその利権を要求してくるでしょう。また、南朝鮮を確保できれば、日本もギリギリ妥協する余地はあります。史実の冷戦時代の状態と同じわけですから、日本側に制海権さえあれば南北朝鮮分割は妥協できる状態です。 しかし、日本が第二次奉天会戦までに樺太全島を占領し、関東州の端っこを何とか維持しているのなら、これと交換という形でなら話しもなんとか収まるかもしれません。 そこで、ここは好意的にそう解釈しておきましょう。ただし、作者の本意がどこにあったのか不明ですし、何より説明不足です。その点ではダウトです。 で、その後の「海軍偏中の軍備」ですが、史実でも概ねそうですし、史実の「八八艦隊計画」の頃などヘタしたら7割が海軍予算でしたから、これが4対1ぐらいの比率になっていると考えるのが妥当でしょうか。 まあ、軍備そのものについては、後でまとめて考えるので、次にいきましょう。
そして、ここから青天霹靂・奇想天外・驚天動地・国士無双の「横山外交」が開始されます。(ムッ、流石に言い過ぎか(苦笑)) 日本は、史実と同じシベリア出兵した時、樺太と満州を武力占領します。まあ、これだけなら史実と同じ流れなので問題も少ないのですが(もちろん皆無ではない)、その後の手前勝手な主張である「反共産ドミノ理論」とやらによって、米英に無理矢理南満州と南樺太の利権を認めさせているみたいです。 待ってください先生。まず第一に交渉相手を間違っています。交渉すべきはロシア政府(革命政府)です。この地の利権を持っているのは形式上であれ彼らなんですから、まずこの点を明記しておいてください。ただ我が儘に分捕っただけの不法占拠になっていますし、米英も納得するワケにはいきません。 そして、これに関するロシア人と交渉したという表記をどうしても見つけられないので、これが単に「書き忘れ」や「枚数の関係で削除」されたのでなければ、この時点で日本は世界中から総スカンを受けて、ヘタをすればそのままどこかと戦争というフラグが成立してしまいます。 また、史実においても日本軍が長々とシベリアに駐留したことは、その意義を理解しないアメリカによって手ひどく非難されています。 つまりこの時点で、満州事変並の総スカンを世界中から食らう事になります。 ですから私の常識の範疇では、このフラグは全く成立しません。誰か私に納得のいく説明をしてください・・・、と厨房みたいな反論をしても仕方ないので、ドイツ第二帝国のブレスト条約のような条約を日本が勝手に結んでしまったと理解(脳内妄想)しましょう。 それにここで日本を悪者にしておかないと、その後アメリカの反日感情醸成が納得いかないものになります。でもやっぱり説明不足ですからダウトです。
でまあ、お待ちかねの、「ワシントン海軍軍縮条約決裂」と「ローマ海軍軍縮条約締結」になるんですが、まあこれに関しては特に文句を言う気はありません。 ローマ会議など、架空戦記らしい英米の深謀遠慮が見え隠れしていて、それらしいと思います。 ただ、私が了解できる事ってこれ「ダケ」なんですよね。 1931年の満州事変とそれに続く満州国建国も、この前提となる日本の満州利権獲得がないと成立しませんから、この点を余程強引に納得しておかないとこれを認めることができないんですよね。ま、これに関しては先に書いた事で多少はダウトは薄れていると思うので、次に進みましょうか。
さて、いよいよサヨクセンセー方が聖書での悪魔の記述のように槍玉に上げる『十五年戦争』に突入なんですが、この世界の日本は陸軍が史実より小さな規模しかないらしく、予算も影響力も少ないからか、日支事変は起こしていないそうです。また、日本が持つ支那中央の利権は、港湾都市の上海と広東にあって、そこに軍隊を駐留する権利を持って支那住民と激しく対立しているそうです。 う〜ん、何からダウトしましょうか。 まずダウトは、日本が史実で利権を持っていた支那大陸の都市は「広東」ではなく「天津」です。 これは、「義和団の乱」、「北清事変」あたりから流れが出来ていますから、間違いなく先生の「勉強不足」です。この世界は「広東」にも進出しているんだよと言われても、それなら「天津」も併記すべきか、もしくは日露戦争でのゴタゴタでロシアに利権奪われたんだよ、という説明が必要になってきます。だから間違いなくダウトです。こんな事は教科書レベルの問題なので、さすがに看過できませんね。 で、日露戦争からシベリア出兵まで日本は支那での利権は極めて小さなものになり(上海の日本租界すら成立しない筈)、日本が支那住民から憎まれるという構図はほとんど成立しません。憎まれるのは、支那中央を牛耳るイギリスと、革命まで満州を手にしていたロシアです。これは間違いないでしょう。日本は英米との貿易を重視しながらも、英露のおこぼれでコソコソ地道に商売しているだけの筈です。それぐらいの力しかありませんからね。 また、第一次世界大戦中の1915年に「対華二十一箇条の要求」が出され、これが反日プロパガンダの最初の旗頭として利用されましたが、そもそも支那に日本利権は僅かしか存在しないので、この要求そのものが出される可能性は極めて小さくなります。出されても、「二十一」のところが「十一」ぐらいに減って、内容そのものもプロパガンダに利用しようにも迫力に欠けたものになってしまいます。何しろ、イギリスやロシアの方が存在感が強烈ですからね。 また、日露戦争の実質的ドローが成立した場合、たとえ日本が朝鮮半島全土の利権を保持できたとしても、この地域を「併合」出来る可能性は格段に下がります。 満州全土がロシアの勢力下である以上、「併合」して直に国境を接するよりも、緩衝地帯としてそのまま保護国のまま保持するのが最も妥当な選択です。 だいいち、日露戦争で陸軍が壊滅しているんですから、史実以上の貧乏さんになっている日本が、より貧乏な朝鮮半島を抱えることが、経済的にも軍事的にもできなくなっています。 これは伊藤博文が暗殺されようとも、物理的にできない以上、どうにもならないと考えられます。 もうこのあたりまでくると、連続ダウトばかりです。 困ったもんだ。 まあ、困ったついでに続けましょう。 史実の日華事変は、盧溝橋での銃撃事件や中国保安隊による通州の日本在留邦人虐殺など、この頃連続して発生した中国共産党の陰謀が主な原因の一つであり、義和団の事件以後の日本の利権によって北京郊外に日本軍がいて、天津やその一帯に日本の利権が転がっているなら、日本の都合に関係なく発生してしまいます。 だから、ここでは第二次ポーツマスで、日本は義和団の乱で手に入れた大陸利権の全てを失っているとしましょう。おお、そうすれば天津に日本の利権が無いことになり、話の辻褄もだいたい合ってしまう(笑) すばらしい。ここまでの設定がだいたい説明できた(爆) ・・・ていうか、ちゃんとこのぐらいの説明はしてくださいよ、センセー。
で、ここまでのフラグを強引に立てた時点で、「遼河事変」が訪れるわけですが、この事件では中国国民党軍約30万人が突如満州に侵攻し、これを関東軍が全力で迎撃して包囲殲滅し、3分の2を戦死に追いやってしまったそうで、そこで日本軍は自分たちは捕虜となることを潔しとしないから国府軍にもそれを当てはめ、「白旗」を掲げた国府軍兵士に銃撃を浴びせて、これが米英の反日世論を著しく強めたそうです。 何こいつ、アカ? プロ市民? 総連? それともア○ヒの手先?? あ、分かった学会の中の人だね!(最後は私自身にダウト(笑)) ・・・このくだりを読んだ瞬間そう思ってしまいそうになります。いえいえ、横山先生はイタイぐらいのサヨ嫌いですから、お話を成立させるための単なるネタですよね。そう妄信させていただきますよ。 ただ、歴史的流れを見ていると、かなり納得いきません。この世界の日本陸軍は、日露戦争での惨敗を受けて、海洋国家としての防衛陸軍に成り下がり、日本国内でも日陰者に甘んじ、これが暴発したのが僕らのヒーロー石原完爾がやっちまった満州事変になるかと思うのですが、その流れがあったとしても日本陸軍のモラルがここまで低下しているとは少し思えません。 戦闘も、数十万の軍団が激突する歴とした「会戦」であり、これには関東軍、つまり日本軍の精鋭部隊が組織的戦闘にあたっている筈で、しかも日本軍にとっては「防衛戦争」ですから、「白旗」まで掲げた正規軍の兵士を一方的に虐殺するとはいくらなんでも考えられません。辻〜んや牟田口閣下でもならさないでしょう。するなら、大量に捕虜を取って、誇らかに見せつける方があり得そうです。 また、相手はアカでも便衣(ゲリラ・テロリスト)ではありませんし、兵士の質はともかく歴とした中華民国軍の兵士たちの筈です。そしてこの世界の日本陸軍の将兵は便衣の脅威にあまり接してなく、これに対する潜在的恐怖感なども少ない筈なので、恐怖心から蛮行に走る可能性もずっと低いと思うのですが、皆様如何思われますか。私は全く納得できません。ダウトで山積みのカードを全部横山センセーにさしあげたい心境です。
一方、「国府軍」が「30万人」も「満州」に「侵入」しているという事は非常に重要なファクターです。 なぜ蒋介石は、1939年9月2日というタイミングで、日本が激発するのが間違いない行動、大軍を以て日本が何としても保持する腹づもりの満州に攻め込まなくてはならないのか。 いや、それ以前にそれだけの大軍、しかも国府軍が日本軍と戦えると考える部隊を30万人も投入できるのは、いったいどういう理由があるのか。いかにご都合主義で全てをクリアさせるにしても、説明全くなしというのは問題山積みです。 順番に見ましょう。 まず、「国府軍」が「30万人」も「満州」に「侵入」できるという事象は、国府軍は中国共産党をそれほど考えなくても良いと考えているという仮定が成立します。何しろ蒋介石本人が、共産党こそ第一の敵と正しく認識していますからね。日本など後でどうにでもなるのに、先に攻め込む理由がありません。しかも日本は自らの勢力圏内のアカ退治に熱心です。つまり、1939年秋中国共産党は壊滅している可能性が極めて高いという事になります。 また、日支事変が勃発していないと言うことは、国府軍の勢力は支那沿岸部中央で大きく、蒋介石の権力基盤である沿岸地方の資本家達も無事です。だからこそ、大軍を満州に派遣できる余裕があったとするのに、大きな問題はないでしょう。ヤンキーの無償援助があったとしても、自力でお金があるとないでは大違いです。 ただ、攻め込んだ国府軍30万人は、たった10日で3分の2も殲滅されてしまいます。ティーチ・ミー・ホワイ? ドイツ軍事顧問団の教えを守って奮戦した、上海での精鋭部隊などは参加していなかったんでしょうか? 小説内には装備も貧弱とありますが、国府軍の精鋭部隊はドイツの中古兵器などで武装して、むしろ日本軍の方が装備では劣っており、日本側が支那各地で勝利したのも主に日本軍将兵の個々の頑張りと、負け出すと逃げ腰に歯止めがかからない国府軍全般の根本的な姿勢にこそ原因があると思いますし、日支事変当初は日本軍も、国府軍によってかなり苦戦を強いられた筈だと思うんですけどねぇ。大陸での膨大な戦死者数がそれを雄弁に物語っていると思います。 それにこの世界の日本陸軍は、史実よりも規模が小さい筈で、史実ですらソ満国境を中心に5個師団ぐらいしか駐留していなかった関東軍が、万里の長城を越えてきた30万人もの大軍を「撃退」ではなく、「包囲殲滅」するのは物理的に不可能だと思うのですが、その辺りじっくりお話を聞いてみたいものです。 日本陸軍の台所事情から、奉天あたりに1個師団しか置けないでしょうし、日本が大軍を動員できるぐらい前から、国府軍の動きを正確に察知できるとも思えませんし、平時において日本陸軍の大部隊を動かすお金がありません。 そして結果として見える状況は、人民解放軍の人の海に飲み込まれる米軍のような情景しか見えてこないのですが、あまりにも安直ではありませんか、センセー。 ・・・まあ、この件については、日本陸軍の状態も関わってきますので、ここではこれぐらいにしておきましょう。 さ、次です。 まだまだ問題山積みです。
で、お次が大問題の「北部仏印進駐」です。 これだけで御飯3杯はいけそうですね。 え、次は「日独伊防共協定締結」じゃないかって? いえいえ、これは日本が満州事変以後国際的に孤立しているのなら、史実と似たような道のりを歩んでいても大きな問題はないと思いますよ。松岡さんがいらっしゃれば、それでオーケーです。 それよりも大問題なのは、「北部仏印進駐」です。しかも小説を少し読み直してみると、「東南アジア侵攻の足がかり」に北部仏印進駐をしているそうです。 ちょっと、待ってくださいセンセー。 お願いですから横山先生、歴史を勉強しなおしてください。 史実で日本が北部仏印進駐したのは、日華事変以後米英が国府軍を援助するルートにインドシナを使っていて、これを絶つためにヴィシー政府の了解を取って進駐したんですよ。 もちろん、この世界でこの史実の流れは全く成立しないからこそ、安易に「東南アジア侵攻の足がかり」という言葉を出したのでしょうが、が、何をどう考えても日本側がこのような行動に出る理由も必要もありません。支那からの泥沼から抜け出すという、日本側にしてみれば背に腹は代えられないという理由があったからこそ、史実では北部仏印進駐したのであり、そこで米英との関係悪化があって、その延長の南部仏印進駐が続いて・・・と坂道を転がり落ちたと思うのですが、この時点で日本側から米英に戦争を吹っかけるような行動を進んでしなければならないんですか? 私にはアンビリーバボーです。 米英と関係が悪化したら、日本の海外貿易は全部パーなんですよ。少なくとも当時の識者の多くはそれを知ってましたよ。GDPの事を語るのですから、センセーは知ってましたよね〜(は〜と)
・・・ただこれでは、どう考えても作者が強引かつ極めて安直に日米開戦に持ち込みたかったのだろう、という風にしか取れません。 如何に娯楽物、架空戦記小説と言えど、確信犯的なトンデモ作品でない限りこのような事はすべきではないでしょう。作者自身のモラルもしくは見識、知識を問われかねませんからね。 ただ、私自身が思うこの作者に対する感想は、「史実の表面的事象以外追う事ができないのだろう」です。 そして、名作と言われる本作品でも今まで挙げたように、この私の感想を遺憾なく発揮してくれています。つまりは、架空「戦術」戦記作家としては一流だが、架空「戦略」戦記作家としては三流というのが私の総評になってしまいます。少なくともストラテジーレベルの話を構築する能力は作家としては失格です。今の私では、手に取る気すら起きませんね。ウソを付くにしても開き直るか、それなりに筋の通ったものを組み上げるかのどちらかにして欲しいものです。 文章もしっかりしているし、作品もコンスタントに出すし、日本の組織的欠陥などきっちり描き出しているだけに残念でしかたありません。らいとすたっふ様どうか的確な助言ができるアドバイザーを付けてあげてください。それで随分変わってくる筈です。 これではオタク様は満足できませんよ(涙)
・・・とまあ、開戦に至るまで一応追いかけてみましたが、お次はこの世界の兵器や軍備について見てみましょう。こいつも「リアル系」として眺めるとツッコミどころは満載です。