◆空間騎兵隊(Space Cavalry Forces)

 空間騎兵隊(Space Cavalry Forces)は、地球防衛軍に所属する宇宙空間での陸上戦専用の戦闘部隊である。主な任務は、陸上戦全般、対歩兵戦闘全般と各地上施設の防衛になる。旧軍的な役割を割り振れば「陸軍」もしくは「海兵隊」となる。当然ながら敵地侵攻などの部隊や装備も多数用意されているが、その勇ましい名称とは裏腹に地球防衛軍の中では防衛という点に特化しがちである。しかも宇宙時代に対応して与えられた機能は限定され、さらに一部を除いて限定的な能力しか与えられていないのが現状である。
 しかし、空間騎兵隊が限定的機能しか持たないのには、大きな理由があった。地球防衛軍健軍の際の組織構造が、強く影響しているためだ。
 そこでまずは、少し時代を遡って空間騎兵隊の前史から現状までを見ていこう。

 もともと空間騎兵隊の親組織である「地球防衛軍」自体が、国際連合(UN=国連)を母胎としていた。より正確には、国連の外郭団体である「宇宙保安機構」を組織の中核としている。
 そして宇宙保安機構は、21世紀半ばに設立された宇宙空間に限定された重武装の治安維持機構・組織であった。つまり“軍隊”ではなく“警察”に当たる組織といえる。少なくとも、設立当初は治安維持組織の延長にあった事は疑う余地がない。
 任務の多くも、宇宙航路の警備、テロや海賊、重犯罪への対応であった。大型デブリ(宇宙屑)や彗星の排除などの任務が含まれることもあったが、概ね宇宙空間での治安維持を一手に引き受けていたと言えるだろう。これを地上に置き換えれば、海上警察(コーストガード)が最も近い組織になるだろう。
 ただ国連並びに宇宙保安機構だけでは、肥大化する管轄に対して人材をまかないきることが出来なかった。時が経つと共に各国が拠出及び出向させた警官だけでなく軍人達が多く属するようになり、当初の警察、警備組織から軍隊としての側面を強めていた。しかも海賊など宇宙犯罪者の重武装化の流れを受け、宇宙保安機構自体の組織と装備も順次強化されていった。
 そして組織が多数保有する巡視船(パトロール・ヴェッサー)は、“警備”よりも“戦闘”を主眼とする艦艇が主軸となり、フェザー砲や宇宙機雷、軌道爆雷を搭載するに至っていた。しかもオプション装備で、大型電磁投射砲やレーザー水爆など大威力兵器の運用も行われていた。そして重武装化に伴い、“海軍”としての色を強めていく。
 そうした中で、いわゆる“艦隊”と“警備”の二つの流れが、宇宙保安機構の中で派生してくる。そしてその“警備”を担当する部門、宇宙保安機構の伝統を背負う組織としての一派が、次第に発言権を大きくしていく。これこそが、空間騎兵隊の本当の意味での胎動と言えるだろう。
 そしてガミラスの突然の侵略により、地球人類全体の軍事機構の中核が地球防衛軍として再編成されるのだが、その中で純粋な宇宙専門の陸戦部隊としての『空間騎兵隊(Space Cavalry Forces)』が設立される。
 設立当初の主な役割は、地球以外での基地防衛と対歩兵戦闘にあった。必ず敵手が各地の攻略に、陸戦部隊を出してくるだろうと考えられたからだ。軍隊としては当然の措置だろう。
 しかし敵手ガミラスは、ほとんどの場合艦隊や艦載機でのみ要地の攻撃を行った。しかも遊星爆弾を投下して各地を汚染するだけの場合も多く、ついに地上侵攻してくる事はなかった。当然ながら、陸地や要塞、基地などで両軍相まみえる形での攻略戦も発生しなかった。つまり基地防衛はともかく、陸戦や対歩兵戦闘が発生する事はほぼ100%あり得なかった。希に空間騎兵隊本来の出番が回ってくるとしても、それはガミラスが破棄した艦艇の調査や、孤立した友軍の救援の末端部に限られていた。また防衛戦での主眼は防空任務となったが、装備の違いや戦闘形式から近距離防空以外の面では空間騎兵隊の管轄ではなかった。
 しかしそれでも空間騎兵隊の管轄が必要な組織であると、地球防衛軍内部では強く認識されていた。いずれ敵手は地上侵攻してくる筈だからだ。加えて、地球防衛軍に合流した各国の軍隊組織の一部が、空間騎兵隊の存続並びに規模拡大に大きな影響力を発揮した。
 主な理由は、戦闘空間が宇宙であり戦闘形式は艦艇や航空機を用いるため、いわゆる陸軍や海兵隊の必要性が著しく低下した事にある。この頃の陸軍の主な役割が戦災復旧や二次災害復旧、市民の保護並びに救援にあったのだから、『軍隊』とした場合の陸軍関係者の心は決して穏やかではなかっただろう。そうした心理から、宇宙空間での唯一の陸戦組織である空間騎兵隊へと期待が向けられても無理はないだろう。
 かくしてガミラスとの戦いの中で、空間騎兵隊は各国から豊富な人材と装備を与えられ、主に基地防衛(防空)で相応の存在感を示した。また、ごく限られたガミラスへの攻撃や、孤立した地域からの救援任務などをソースとして市民への宣伝も務めた。
 こうした一種の泥臭さい演出に、主に地球防衛軍に身を投じた海軍、空軍関係者を主軸とした地球防衛艦隊側は不快感を示したと言われるが、戦況がそれどころでないため大きな問題とされる事はなかった。
 そして月日は流れ、2200年9月「ヤマト」によって地球は救われる。

 ガミラス戦役終了以後地球並びに地球防衛軍は、復興と復旧、さらには発展へと大きく飛躍していくのだが、その中で改め地球防衛軍内の組織についても目が向けられた。
 当初地球防衛軍では、軍備再建に当たり艦隊予算に強く偏重した予算配分を考えていた。とにかくガミラスの残存主力艦隊を撃破できるだけの戦力を得るのが第一の目的としなければいけなかったからだ。
 しかし、ガミラス戦役の中で基地防衛の多くを引き受けるようになっていた空間騎兵隊は、防衛兵器、防空兵器を中心に大きな予算を要求してきた。また要地の防衛、防空と機動戦力のバランスを取る事の有効性など彼らの言い分にも一理あり、当初装備予算の80パーセントも艦隊再建に向けられる予定だった予算配分は、10パーセントほど余分に基地防衛、つまり空間騎兵隊へと向けられることになる。
 そして予算を得た空間騎兵隊は、基地防空部隊が固定装備型波動砲・通称『グランドキャノン』を中心とした防空要塞、砲台群を建設すると同時に太陽系各地に基地を建設していく傍らで、各基地の対歩兵戦闘設備を整え、戦闘車両などを整備していった。そしてさらに余った、というより当初から予定した通り攻撃的任務に使える装備の開発並びに配備を開始する。
 開発計画の中には、従来型の改良型の戦車、装甲車に加えて、空間装甲降下艇(アーマード・ボード)、歩兵用倍力服(ライト・パワードスーツ)、装甲倍力服(ヘビー・パワードスーツ)、歩兵携行型マイクロプラズマ弾(超小型核兵器)など様々なものが含まれていた。
 ただし、ガトランティス帝国の侵略に間に合った装備は限られていた。またガミラスとの戦いでそれまでの多くを失っているため、整備が急がれた外惑星の基地防衛はともかく、攻撃的任務を行うには装備及び人材が大きく不足しているのが現状だった。
 しかし、空間騎兵隊にとって思わぬ幸運が舞い込んでくる。
 第11番惑星守備隊の生き残り数十名が、偶然「ヤマト」に乗り合わせ様々な地域へとその身を投じていったのだ。
 斉藤隊長を中心とする僅かな数でしかなかったが、彼らは第11番惑星防衛戦、テレザート星降下作戦、ガトランティス帝国軍ザバイバル戦車兵団との戦闘などで活躍した。その様は後に「ヤマト」が持ち帰った報告と資料で明らかとなり、後の空間騎兵隊の宣伝に大きな効果を発揮する。そしてとりわけ中でも大きな効果があったのが、ガトランティス帝国本星突入戦での活躍だろう。
 僅かな生き残りとなっていた空間騎兵隊・第11番惑星守備隊は、「ヤマト」乗組員と共に僅かな装備と人員でガトランティス帝国中枢に乗り込み、その中枢動力を破壊する大きぎる戦果を残したのがその結果だった。巨大な動力炉を爆破したのも、彼らが携行していた多数のマイクロプラズマ弾だ。
 そして一連の戦闘で第11番惑星守備隊は文字通り全滅するのだが、彼らはかつてのアメリカ海兵隊員が硫黄島で星条旗を掲げた以上の役割を果たしたと認識されている。少なくとも空間騎兵隊の中では、伝説に近い存在にまで格上げされてしまっている。

 かくしてガトランティス戦役でかくたる活躍を示した空間騎兵隊は、存続と組織拡大を約束され、その後の地球防衛軍の拡大と共に成長していく。
 装備もより豊富となり、今までの白兵戦、地上戦装備ばかりでなく、より強力な強化倍力服や対装甲戦闘車両の開発や、さらには空間装甲降下艇を積載する強襲揚陸艦の建造すら始まった。
 もっともデザリアム戦役初期では、重核子爆弾の前に成すところ無く太陽系各地の守備隊は人員面で大打撃を受けることになった。また奇襲攻撃となった地球各地での本土防衛戦でも、デザリアム帝国の誇る空挺部隊と戦車軍団による奇襲攻撃を前に敗退を重ね、成長過程に乗っていた戦力の過半が壊滅的という以上の打撃を受けてしまう。これは、デザリアム帝国軍が人類社会に対する攻撃ではなく、政府中枢の占拠と並んで各軍事施設に攻撃を集中したため発生した損害でもあった。逆を言えば、大損害を受けるだけ空間騎兵隊は善戦したと表現できるかもしれない。
 しかしその後、地球上を中心とするパルチザン活動では、地球上での人員並びに装備の損耗が激しすぎたため、一部の生き残り隊員の個々人の活躍以上で存在感を示すことができなかった。本来なら最も活躍できる可能性のある戦場と機会を与えられたにも関わらず、デザリアム戦役の多くの期間を不本意なまま過ごすことになる。ようやく活躍できたは戦争終盤で、重核子爆弾無力後に月面から東京メガロポリスなどデザリアムの重要拠点に大気圏強襲降下した部隊に限られている。ただし、月面で装備の生産と訓練に明け暮れていただけに行動は迅速で、陸戦部隊がどういうものかを防衛軍各部隊に見せつけることになった。そして戦争終盤での活躍で、本来の意味での面目をようやく施せた事になるだろう。

 デザリアム戦役後、改めて空間騎兵隊に対する見直しが図られた。ただし今回の背景には、空間騎兵の存在価値や活躍云々よりも地球連邦政府が新たに示した大規模移民政策の影響が強くあった。そして地球人類の居住圏拡大は、空間騎兵隊に有利に働いた。
 空間騎兵隊は組織の大幅改変がはかれると同時に、地球防衛軍全体の規模拡大に比例して組織並びに規模の拡大が行われたからだ。そしてここで空間騎兵隊は、対陸戦、対歩兵戦闘への特化がさらに図られ、組織としてはむしろ健全化したというのが一般的な評価となっている。
 ただし、地球人類の銀河大航海時代の幕開けは、組織改変した空間騎兵隊にとって大きな福音であったとする評価には賛否両論が投げかけられている。
 地球人類の活動領域並びに航路が広がるにつれて、地球人類自身による重犯罪行為、海賊行為、テロ行為も拡大し、空間騎兵隊の活躍の場が治安維持面で大いに広がったからだ。この場合、過去の交戦国の残存戦力によるテロ行為も見逃すことはできない。
 もっとも地球連邦政府は、これらの事態に対応するべく空間騎兵隊を拡大させたのであった。
 当然と言うべきか、銀河大航海時代での空間騎兵隊の活躍はテロやゲリラ、重犯罪行為の鎮圧や制圧が主となるのだが、従来の警察レベルでは例え重武装であっても制圧が難しい場合が多かった。今まで必要性が低かったため、装備や人員が全く不足していたからだ。しかし宇宙での治安維持組織が地球防衛軍とほぼイコールだった事が、宇宙での重武装治安維持組織の成長を阻んだことは追記しておかねばならないだろう。
 そして、宇宙空間での対歩兵戦闘に長けたほとんど唯一の戦闘集団である空間騎兵隊の果たす役割は、日増しに大きくなっている。特に開発が始まったばかりの辺境星系などに潜伏した重犯罪者や犯罪者の拠点となっている場所の制圧では、文字通りの空挺降下や上陸作戦に匹敵する装備や戦力、戦術が必要な場合もあり、必然的に軍事作戦となり、空間騎兵隊の独断場ですらあった。
 しかも皮肉な事に、規模と活動の拡大に伴い、かつて求められていた“海兵隊”的な装備を亜数持つようになり、武装面でも著しく強化されつつあった。新型の重倍力服に始まり強襲揚陸艦や支援航空隊もすでに整備されつつあり、装備面での強化は数年前とは比べものにならない。しかしこの背景には、地球防衛軍全体がそれまでの艦隊決戦一辺倒の軍備から、様々な状況に対応できる事を求められるようになった事の現れと言えるだろう。
 そして今日、宇宙戦闘での陸戦組織存続のために成立した『空間騎兵隊』は、“騎兵隊”の名が示す通りかつてアメリカの広野を守った同名の組織に似た活躍場所を得たのである。


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