●ガミラス戦役
 (中編2・地球防衛艦隊の再建とガミラスの認知)

 西暦(地球歴)2196年以後、地球人類側は未知なる異星人の軍勢と戦うというより遊星爆弾を迎撃するだけの毎日となり、損害を降り積もらせていった。いまだ小惑星帯並びに地球圏の迎撃網は機能していたが、ガミラス軍が定期的に行う艦隊や航空機を用いた攻撃の前に徐々に損害を積もらせ、遊星爆弾の迎撃率を低下させていった。
 この頃までに地球及び月面の主要な場所の地下都市は一定レベルで完成し、地球人類の生き残りのほとんど全てが、地球か月の地下に疎開する事ができた。数にして約30億人。十年前の総人口の約6分の1以下に過ぎない数だった。
 しかも、富裕地域と貧困地域の格差などで地域ごとに大きな差があった。また疎開の際に人類同士がいがみ合う光景も日常茶飯事で、酷い場合は戦争行為に発展して自滅したり、大規模テロでせっかく準備された地下都市が地球人類の手によって破壊された例もあった。また施設が不十分なところを遊星爆弾の爆撃を受け壊滅する地下都市もあった。そうした様々な障害を乗り越えて地下深くに避難できた数が約30億人だったのだ。
 しかし人類側に希望の光が消えた訳ではなかった。地球並びに月面の地下プラントでは、懸命に軍事力の建設が行われていた。しかも、解析の進んだオーバーテクノロジーによって、さらに高度な兵器がいくつも生み出されつつあった。
 一方的に敗北を積み重ねていた地球人類ではあったが、戦うたびに敵異星人の物体や資料を持ち帰り、敵の優れたテクノロジーの吸収に務めていたのだ。
 特に土星沖会戦で捕獲された彼らの標準戦闘艦(デストロイヤー艦)は状態が良く、遂に人類は未知の動力機関である波動機関の現物を手にする事に成功する。
 当然ながら、波動機関を軸とした敵の兵器体系の解析にも弾みがつき、遂に地球人類は敵とハンデ付きながら対等な立場で戦える足場を得ることができた。
 またこの当時存在した二人の宇宙的天才の存在が、オーバーテクノロジーの解析と一般化に大きく貢献していた。二人は共に日本地区出身の技術者にして科学者で、天才的ひらめきと理解力によって次々新技術を人類のものとしていった。
 二人のすさまじさは、現物や現象を見ただけで用いられている技術や理論を半ば直感的に理解してしまうところにあった、とされている。この二人こそが、波動機関のオオヤマ、兵器開発のサナダと呼ばれる、大山敏郎と真田志郎だ。
 とにかく、そうした地球人類側の努力により、地球防衛軍の保有する兵器も飛躍的な向上を見せた。
 それまで有していたのが丸木船だとするなら、新たな船はガレー船だと言えるほどの進歩だった。無論敵が用いているのはガレオン型帆船となる。何しろこの時点で敵の用いる機関は、地球人類側では解析と現物製作が始まったばかりのものだったからだ。
 しかし新たに生み出された兵器は、同規模の相手ならば3対1程度で勝利できる可能性を持つ優れた兵器であった。用いられている装甲材、シールド、エンジン、搭載武器に関しては、数年前の兵器に比べれば格段の進歩と言えた。先端技術格差は、少なく見積もっても数百年と言われている。
 この頃製造された機動兵器は、主に三種類。一つは、新型の強固な装甲を備えた指揮用の大型戦闘艦。一つは、攻撃の主力となる高機動ミサイル艦。もう一つは、敵と互角に戦える機動力を持つ空間戦闘用の小型機だ。
 大型戦闘艦は正式名称を「M-21741式宇宙戦艦司令船」と言い、地球防衛軍史上初めて「宇宙戦艦」と呼ばれた艦種である。最も大きな特徴は、敵が用いてるものと同じ装甲材とシールド技術が用いられていた点にあった。残念ながらフェザー砲の威力がガミラスに比べて格段に低いものだったが、少なくともこれで一発命中しただけで風船のように破裂するという事態は回避できる強固な装甲を備えた艦艇となった。
 艦の規模は、敵の標準戦闘艦(デストロイヤー艦)と超大型戦艦の中間ぐらい。全長にして200メートルほどで、規模以外の点では何度か確認された敵の超弩級戦艦には到底及ばなかった。またこれ以上大きくすると、敵の機動に全く追いつけないため選択された船体規模だ。だが次世代艦では二倍近いの規模の艦が計画され、建造したドック群もそれに合わせて設計されていた。
 艦の名称には、世界中の言葉で「英雄」を表す単語と、神話や伝説の上での英雄の名が当てられた。クラス名は、実質的な一番艦としてサンクトペテルブルグ地下工廠で就役したロシア語名の「グローイ」から「グローイ級」戦艦と呼ばれている。有名な艦には、日本地区が建造した「EIYUU(えいゆう)」がある。
 また同級には、派生型がいくつか建造されている。主に武装面を強化したもので、中でも指揮機能を減らして武装を大幅に強化した「レーザー砲艦」が何隻か建造された。同クラスが建造されたのは、よけるのが難しい大威力レーザー砲だけがガミラス艦と対等な砲撃戦が可能だったためだ。
 高機動ミサイル艦は、正式名称を「M-21881式宇宙突撃駆逐艦」と言った。レーザー水爆もしくは反物質弾頭を備えた宇宙魚雷(ステルス性の高い超高速ミサイル)を主装備とした高速艦艇である。大きさは、敵の標準戦闘艦(デストロイヤー艦)とほぼ同じとなる。
 70メートルほどの船体規模で雷撃艇並の速力と機動力を追求したため、この点において敵の艦艇のほとんどを上回っている。形状も船というよりは宇宙艇や空間戦闘機の発展型と言える形状をしている。また、「決戦兵器」として搭載された反物質弾頭の威力は大きく、命中すれば三次元レベルでの物理法則上破壊できない物は存在しない筈だった。
 艦の名称には、世界中の言葉で「風」や風による自然現象などを表す単語が用いられた。風ならば、地球上のどこにでも吹いているから、地球の団結を図るのに相応しいとされたからだ。クラス名は英語から「ウィンド級」駆逐艦とされ、有名な艦には日本地区が建造した風型17番艦の「YUKIKAZE(ゆきかぜ)」がある。
 空間戦闘機については、2195年頃から世界中の各地で開発されていたものが姿を現し始めていた。ただし試作と試験運用に思いの外手間取るものが多く、艦隊や拠点に量産配備されるのは2198年以後を待たねばならなかった。
 有名な機体に、グラマン社を中心に開発された「F-96」戦闘機、愛称「ブラックタイガー」やミツビシ社が中心となった「コスモゼロ」シリーズがある。なお、ミツビシの空間戦闘機の名称は0気圧、0重力で運用できる機体を名称で表したもので、95年に初飛行した同タイプの改良型の「タイプ52」は確認された全ての敵戦闘機を上回る格闘戦能力を持っていた。
 そしてこれらの空間戦闘機は、主に月面基地や小惑星帯基地群に配備され、制空権の獲得や奇襲的攻撃、さらには付近の偵察任務など広く用いられた。
 そしてここに挙げた兵器が、数百、数千の単位で量産されていたならば、少なくとも当面の戦局は完全に覆されると予測された。遊星爆弾の迎撃も十分に可能と考えられた。何しろ、三対一で何とか対抗できる兵器なのだ。
 しかし地球人類側の生産能力は、限られた地下施設を全力稼働させても一時期に数十の単位で艦艇を揃えるのがやっとの状態にまで落ち込んでいた。しかも日々の消耗の前に生産が追いつかず、じり貧は確実と言える状態だった。加えてガミラス側も、兵力を少しずつではあるが増強しており、2196年以後は対艦戦闘を主眼とした新たな艦艇(クルーザーやミサイル艦など)なども姿を見せるようになっていた。
 無論地球側は、これまでのように一方的にやられっぱなしではなくなった。そして地球人類側が戦闘力を備えると敵の戦闘意欲は増し、ついには向こう側から通信をさせるに至る。
 小惑星帯でのとある中規模戦闘の開始前、突如彼らは無線連絡を求め、回路が開かれると同時に傲然と宣言した。
 「我々は、大ガミラス帝国。偉大なるデスラー総統の統治する宇宙で最も強大な星間国家である。また我が艦隊は、大ガミラス帝国軍銀河系派遣艦隊所属、冥王星前線基地守備艦隊である。勇敢なる地球の戦士達に告げる。諸君らに勝ち目はない、直ちに降伏せよ。我々は勇者に対する礼儀を知っている。貴君らの勇猛さに敬意を表し、偉大なるガミラスの名に賭けて寛大な処置を約束するものである」と。
 これまで、敵異星人の通信は痕跡程度しか傍受できなかった。それは彼らが、超光速粒子のタキオン粒子を通信媒介に用いているためと判明していた。いまだ人類が実用化できていないオーバーテクノロジーだ。それが向こうから通信を求めてきたということは、わざわざ地球人類側に技術レベルを落として通信した事を意味していた。しかも地球人類側の言語を難なく用いているということは、言語解析並びに自動翻訳も十分に行われている事も意味している。しかも、地球人類側の暗号通信も筒抜けと思われれた。何しろ通信は、地球防衛軍が最高度と考えていた暗号密度で行われて通信帯に割り込んできたのだ。とてもではないが、その時点の地球人類がかなう相手ではなかった。
 だがその時の地球側指揮官は、可能な限り冷静な返答を送り返した。
「我々は、地球連邦政府・地球防衛軍・地球防衛艦隊に所属する軍艦及び艦隊であり、乗員全ては軍人である。現場指揮官の一存では、例え我が部隊だけであろうとも降伏することはできない。また、あえて一個人として私見を述べさせてもらえば、侵略者に降ることは断じてできない」と。これに対して得られた返答は「了解した」の一言であり、その後の交戦により、直接交信を行った地球側の艦隊はガミラス側が自らの損害を無視した激しい攻撃により殲滅されている。
 この時の通信をもって、「未知なる異星人」は初めて「ガミラス帝国」並びに「ガミラス人」として地球人類側にも認知された。一方ガミラス側の公式記録は、この時をもって地球人類を「自然物」から「知的生命体」へと変更している。
 つまり、この時をもってガミラス側にとっての「戦争」が開始された事になる。時に西暦(地球歴)2197年、デスラー紀元101年の事だった。

 ガミラス側にとってようやく「戦争」となったガミラス戦役だが、戦況は圧倒的にガミラス軍優位だった。
 ガミラスにとって、辺境の弱小な戦力に過ぎない冥王星前線基地及び駐留艦隊だったが、新たな力を得た筈の人類にとっては依然として十分以上の脅威であり戦力だった。
 無論、地球人類側も懸命の戦いを行い、奇襲攻撃に成功したときなどは勝利した例すら存在した。沖田十三の率いた日本地区艦隊などは、敵デストロイヤー艦隊(艦数6隻)を奇計を用いて殲滅させたほどだ。しかし地球人類側が何らかの軍事的成功をおさめると、決まってガミラス側は戦意を高揚させて報復戦を挑み、また戦術及び戦力を増強してきた。軍事民族ガミラスの面目躍如たる姿ではあったが、地球人類にとっては全く厄介な敵だった。
 そして勝利しても敗北しても追いつめられていくという悪循環の中で、地球人類の戦力はいよいよ枯渇していった。しかも戦争中盤まで軍事の中心を占めていた、北米、欧州、中華、ロシアなど主要国はガミラス側の標的ともされて軒並み早期に戦力を枯渇させ、また地球表面の彼らの本土の被害も甚大なものとなっていった。月面深くにあるプラント群も、岩盤下の深い位置にある施設こそ無事だったが、表面付近の入り口の多くを破壊され、また他からの資源の搬入が難しいため生産力と戦力の送り出しを尻窄みのものとしていった。
 加えてガミラス側が、地球人類を放射能で自滅させるべく大挙宇宙に出ないように努力したため地下からの脱出もかなわず、地中深くに籠もらざるをえなくなった大国は徐々に沈黙を余儀なくされていった。
 そうした中、本土の被害が何故か少なかった日本の重要さが、急速に高まっていった。当初月面にあって重度の爆撃で甚大な損害を受けてしまった地球連邦政府は、2197年からは東京地下都市に仮首都を置く事になった。
 特に東京は、予めあらゆる災害に備えて計画・建設された強固な地下都市だった。加えて2187年の災害を教訓にして改良され、さらに贅沢な設備をいくつも備え、日本各地のと地下ネットワークまで完備していた。そしてその強度は2197年当時でも地球屈指で、古くから様々な設備が高度なレベルで揃っている事が、地球人類が最後の砦とするには好都合だった。
 そしていつしか、生産施設、軍事力、まとまった地域に強固な拠点(地下都市)とそれらのネットワークを維持していた日本地区は、地球連邦の中心として活動するようになっていく事になる。加えて、質の高い人的資源の多くがいまだ残されている日本人の価値は非常に高い事も、地球人類のとりあえずでの中心を占めることの一助となっていた。


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