●ガミラス戦役
 (後編2・宇宙戦艦ヤマトとイスカンダルへの旅立ち)

 突如超光速のまま太陽系に突入してきた未確認宇宙船は、太陽系外縁で超長距離によるワープアウトに失敗したらしく、亜光速限界の速度のまま太陽系中心部に向かう。その後、木星重力で大きく減速。航行機能の一部が生きていたのか木星に捕らわれることなく、火星の重力に捕らわれる形でようやく惑星降下できる程度に減速が効果を現し、何とか火星表面に不時着した。
 地球ともガミラスとも違う宇宙船を前に、火星の現地近くにいた地球防衛軍部隊はファーストコンタクトを試みるも、1名が確認された搭乗員の死亡を確認したのみで終わってしまう。仕方なく現地隊員は、死者のDNAサンプルだけ採取すると可能な限りの丁重さで死者を弔い、直ちに上層部へと調査報告をあげた。
 だが搭乗員が直に持っていた記録媒体を回収し、地球防衛軍がようやく実用化したタキオン型量子コンピュータで解析してみると、驚くべき事実が次々と明らかになった。
 それは地球人類が初めて耳にする、地球外知的生命体からの友好的なメッセージだったからだ。
 そのメッセージは伝えた。遠路到来した彼ら(彼女ら?)は、大マゼラン星雲にあるイスカンダルという異星文明の人類。ガミラス帝国の少しばかり詳しい情報。イスカンダル星の正確な座標と、そこにまで至る大まかな航路図。そして超光速航行を可能とする完全な波動機関の設計図面。
 全ては驚愕の事ばかりであり、その記録媒体に記されていた最初のメッセージは、人類に大きな驚きと共に希望の灯火をもたらすものだった。
 恐らく女性であろう人物は、音声のみで静かに語り始めた。
 「わたしはイスカンダルのスターシャ」、この言葉で始まったメッセージは、イスカンダル星はガミラスの地球侵略と、滅亡の危機に瀕する人類の全てを深く憂慮し、地球人類とガミラスの和平の仲立ちをする用意があると言った。また、両者の即時戦争停止が無理ならば、せめて地球人類の絶滅を回避する手助けをしたいというものだった。
 この手段としてイスカンダル星は高い惑星改造技術を有し、高濃度放射能の迅速なる除去を可能とする「コスモクリーナーD(人類側翻訳名)」の現物並びに設計図面を提供できる、というものだった。
 これを虚言やガミラス側の謀略として片づけられなかったのは、添付されていた波動機関の設計図が科学者や技術者により本物だと断定された事と、遺体から採取されたDNAがそれまで血痕などから採取されたガミラス人のDNAサンプルとは違っていたからだ。しかもメッセージを携えた使者は地球人類と全く同じ姿をしており、旅の最後で壮絶な最後を遂げてもいる。感情面での否定論もすぐに沈静化した。
 無論、波動エンジンの設計図を送ってくれるなら「コスモクリーナーD」とやらを送ってくれなかったのだという感情論もあったが、そこにも理由があった。
 コスモクリーナーの設計図面は複雑で、イスカンダル側の宇宙船内のメモリーや携帯端末などに情報を入れることができなかった事、波動機関の現物は共に至った宇宙船という現物があるが、コスモクリーナーは装置の大きさとイスカンダル側の持つ宇宙船の規模から積載が無理だったことが理由だった。存在が嘘でない証に、理論と図面の一部も添付されていた。
 またイスカンダルは、自ら取りに来るだけの文明と技術力、そして勇気のない民族に、自分たちの優れた技術を与えるつもりがなかったとも言われている。
 コスモクリーナーの現物云々についてはともかく、受け取りにいくしか選択肢はなかった。もはや藁をも掴む以上の惨状なのだ。しかも地球人類に残された時間はあと僅か。即断即決で動くしかなく、最終的な決定を差し置いて急ぎ「Mプラン」の計画変更と新造宇宙船の緊急改造が始まった。使えそうな宇宙船がそれしかなかったからだ。
 この時地球人類にとって幸運だったのは、唯一使えそうな新造宇宙船が29万6000光年の旅程を行うに相応しい装備と設備を備えていた事だった。エンジンも設計図面から考えられる最大規模の物が選択できたのも大きな福音だった。
 この時地球人類側に疑問があったとすれば、イスカンダル型の波動機関にはワープ機関こそ備わっているが、何か付属のパーツが欠けている点にあった。
 これは新型機関の製造半ばで、何らかの増幅装置と大きな動力伝達装置の痕跡もしくは名残であると判明した。イスカンダル人は、自ら意図的に装置を外したか地球人類伝えなかったのだ。
 そしてこの疑問は、地球人類側が考えていた新兵器にまさに当てはまる装備であったことが判明した。
 ガミラスの破棄された艦艇を手に入れ解析に務めていた地球人類は、波動機関のエネルギーが簡単に兵器に転用できると考えた。宇宙一般ではそうでもないのだが、当時の地球人類が用いている各種光学兵器や大規模破壊兵器に比べれば、彼らが思い描いた新兵器は原理は単純、威力は絶大の筈だった。
 新兵器の一つは、「ショック・カノン(衝撃砲)」。もう一つは、宇宙規模での戦略的効果を持つ「波動砲」だった。
 もともと波動機関は、機関にほぼ直接噴射装置を設けるだけで、簡単に強力な推進装置となる性質を持っていた。燃料のいらないジェットエンジン、大気圏内での融合炉エンジンと似ていると考えれば分かりやすいだろう。そしてこの性質を応用すれば、相手に噴射エネルギーを投射できる事も意味しており、さらに無限に生み出される波動現象そのものは、エンジン噴射とほとんど関係なく利用可能であった。
 ただし波動現象そのものは、機関で発生するエネルギーを利用して装置から直に噴射しなければ高速での移動能力に欠けるため、別の手段で運動エネルギーを与えねば武器として対象に投射する事は難しかった。しかも、すぐに拡散してしまう性質を持っている。波動現象を突き詰めてしまえば、空間をねじ曲げる一時的な現象だからだ。かと言って、波動現象をエンジン圧のまま伝達しては、強固な装置が必要で規模も大きくなってしまう。
 そこで開発された方法が、電磁加速型の波動現象投射砲である。構造は、動力炉の付属装置で波動現象の塊を封入したパッケージを砲塔付近に移動させ、砲身内で解放された波動現象を電磁的に封じつつ電磁加速で投射するものだ。投射の原理は原始的で、古くからレールガンやマスドライバーとして利用されていたものだ。しかし構造が大きくなりがちで、連続投射能力に優れているとは言えないため、通常列強ではあまり使われることがない。
 また、地球人類はこの時点で気づいていなかったが、特別な措置を取らない波動現象だけを武器として使用する場合、大馬力の波動機関と連動させるか、波動機関内のタキオン濃度をかなり高めなくてはならなかった。通常列強は、波動機関のエネルギー生産を放射線触媒で補っているため、波動現象そのものを兵器として使うには威力が小さく、武器としてのコストパフォーマンスが悪かった。
 しかし当時の人類は、ガミラスが用いていると考えられた放射線触媒が放つ放射能を効果的に防ぐ術を知らない事もあり、ひたすらタキオン濃度を高める波動機関しか有しなかった。しかもイスカンダル型の機関も、触媒を使用しないものだった。それ故に、コストパフォーマンスに折り合いのついた通称「ショック・カノン(衝撃砲)」を一般兵器体系に組み込むことができたと言えよう。
 一方、地球側が究極的な破壊兵器と考えた「波動砲」だが、原理は重力制御で発射体(この場合艦そのもの)を完全に空間に固定してから、高圧縮したタキオン波動粒子を直接解き放つという強引ながら単純なものだった。
 装置自体の強度と耐久性、そして動力伝達装置を除けば構造も単純で場所もとらない事から、一部の列強でも採用されている。
 この装備が一部にとどまっている背景には、放射線触媒を使った波動機関の場合タキオン濃度が低いため威力がどうしても小さくなる事と、エンジン推力をそのまま投射兵器に転用するため、戦闘中である可能性の高い艦に隙ができやすいためだ。
 しかし、地球側はなりふり構っている場合ではなかったし、特に新造宇宙船の場合、たった1隻でガミラスの大軍と戦わなくてはならないと考えると、その装備も妥当だろう。また、地球の用いる波動機関の特性から、波動砲そのものの威力が高いことも地球側に装備させた大きな要因になっている。
 加えて、さらなる難点を挙げるなら、破壊力が大きいため星系内で使いづらく、強固にしなければならない構造の関係から高価になりがちな事だろう。多数の星系と大軍を擁する列強が、積極的に装備したがらないのは道理だった。コスト面で折り合いがつきづらく、リスクが大きすぎる破壊兵器なのだ。
 また新造宇宙船は、これら最新型波動機関に連動した新型装備の搭載もしくは改良工事と平行して、地球脱出用の移民船としての装備のいくつかを取り外し、汎用貨物倉庫兼格納庫を新たに設置している。
 格納庫は元々設置されていたものを増設した形で、この改造により戦闘機2個中隊18機を中核に、小型機なら約30機の搭載能力を持つことになる。このため格納庫区画は、艦中央部にまで及んでいた。これは当時建造されたばかりの地球側空母とほぼ同じ規模であり、新造宇宙船の汎用戦闘艦としての能力を飛躍的に向上させている。なお、艦尾下部に発進口が設けられているのは、元の格納庫がランチ用だった事に由来している。
 また改造及び建造促進のため、他の同型艦のパーツや資材を流用し、突貫工事での完成が急がれた。このため他の同型艦は、結局全て建造中止となっている。
 そうして就役を迎えつつあった新造宇宙船は、遂に竣工と命名式を迎える。新造宇宙船の名前は「ヤマト」。「宇宙戦艦ヤマト」と命名された。
 命名基準は当時の量産型戦艦「グローイ級」に則り、日本神話に出てくる英雄「日本武尊(やまとたけるのみこと)」にちなんで名付けられた事になっている。だが、誰もが信じなかった。
 それは建造場所となった秘密ドックが坊の岬秘密ドックであり、その付近には海面降下により露わとなった、かつての旧日本海軍の「戦艦大和」が無惨な姿をさらしていたからだ。
 誰もが「ヤマト」イコール「大和」だと信じた。なぜなら、船の基礎設計者自身(大山敏郎)が「大和」をモチーフとしていたと証言しているし、実際完成した際の外観のレイアウトも非常に似通ってもいたからだ。
 名称の事はともかく、西暦(地球歴)2199年10月8日、「宇宙戦艦ヤマト」はイスカンダル星目指して地球を発進した。
 人類が事実上滅亡するとされた予測日まで、ちょうど丸一年の日だった。


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