●ガミラス戦役(後編3・地球の反撃)

 地球人類最後の希望「宇宙戦艦ヤマト」がイスカンダル星目指して飛びだった時、地球人類はまさにどん底にあった。
 現状が固定化された場合、地球人類が事実上滅亡するとされた予測日は、西暦(地球歴)2200年の11月。長く見ても、翌々年の新年が人類史の最後の年明けになるのはほぼ確実だった。
 しかも2199年夏に残存していた最後の地球防衛艦隊だった日本艦隊は、8月の冥王星沖会戦で壊滅。その後の遊星爆弾の迎撃率は、20%を切っていた。この艦隊は、地球及び月面を出撃する時50隻以上を数えていた。だが、行程半ばでガミラス軍の波状的な迎撃にあって数をすり減らし、冥王星空域にたどり着いたのは僅かに10隻。全ての脱落艦艇が撃沈したわけではなかったが、目的地手前たどり着けたのですら艦隊司令官沖田十三提督の機転あってこそだった。
 そして冥王星近辺での戦闘で生き残り帰還したのは、旗艦「えいゆう」ただ一隻でしかなかった。しかも悪いことに、この時の戦力のほとんどは、一時的に地球圏の遊星爆弾迎撃任務から外されたものばかりであり、艦隊壊滅イコール遊星爆弾の効果的迎撃が不可能という事も現していた。
 それを現すかのように、最後の地球艦隊が出発してから遊星爆弾が多数地球に落着するようになり、地球表面の破壊は加速度的に酷くなった。一時的にはともかく、長期的に耐えられる打撃ではなかった。
 反面、この時の一連の戦闘で、ガミラス軍の損害及び要補給が必要な艦艇などの消耗も激しかった。故に向こう数カ月間は、各地のガミラス軍は守勢防御に徹した。冥王星基地ですら、冥王星空域での防衛しかできないまでに稼働戦力が低下していた。これが後に「ヤマト」の幸運をもたらす呼び水ともなっていた。
 一方地球では、地熱エネルギーなどのおかげで、地下都市群は当面のエネルギーに心配はなかった。だが、徐々に放射能汚染で、地表に比較的近い一にある地下施設が使えなることも判っていた。地下都市の中には、放射能で汚染されきって沈黙していくものも数多く存在した。無論地表から救うことはかなわない。地下都市上層は、ガミラスの定期的な遊星爆弾投下により高濃度放射能で汚染され、入り口付近が破壊され、近づくことがかなわない場合が多かったからだ。例外は造山帯にある地下都市群だが、その多くはいまだ稼働しており、人類が最も生存している場所でもあった。その代表が、地球連邦政府の臨時首都が置かれていた日本列島だ。
 そのように、地表の自分たちの事ですらままならないまで追いつめられていた地球人類は、「ヤマト」が旅だった当初は最後の希望たる「ヤマト」の行方について積極的に知る術の多くをすでに失うほどだった。
 「ヤマト」が地球人類の肉眼で確認されたのは、「ヤマト」が火星に立ち寄った際、現地スタッフが見たのが事実上の最後だった。その後の地球人類側からの観測では、木星空域で波動砲の使用と考えられるタキオン粒子反応が確認された程度でしかなかった。「ヤマト」との直接連絡も、いまだ「ヤマト」以外に長距離タキオン通信装置がないため日を空けるごとに難しくなっていった。例外は、急造の波動エンジンを搭載した武装輸送船(軍艦改装)を送り出し、土星にて資材を届け者がランデブーに成功したぐらいだ。
 だが太陽系内での「ヤマト」の奮闘は地球人類を勇気づけ、ついには人類側が当面最大の目標としていた敵の打倒を知らせるに至る。
 あれ程地球人類を苦しめていたガミラス軍冥王星前線基地並びに駐留艦隊が、僅か1週間ほどの「ヤマト」との戦闘で根こそぎ殲滅されたのだ。しかも「ヤマト」の損害は許容範囲でしかない。まるで夢を見るような変転だった。
 当然ながらこの朗報は、近年希にない吉報となった。2199年11月をもって遊星爆弾が地球に襲来することがなくなったことを、「ヤマト」からの報告は誇らかに告げた。しかも続いてもたらされた冥王星駐留艦隊すら残らず殲滅したという報告は、太陽系において人類の活動を邪魔だてする存在がいなくなった事を意味していた。
 無論ガミラス軍はまだまだ他の宇宙に数多存在し、再びやってくる可能性は十分以上に存在した。だが、地球人類に様々な余裕が与えられた事は確実だった。太陽系外の彼方へとワープし連絡を絶った「ヤマト」に多くを知らせることはかなわなかったが、とりあえず人類文明滅亡まで丸一年というタイムリミットは以後適用されなくなった。代わりに設定されたリミットは、生物学的な視点での「地球滅亡」だった。つまりどちらにせよ、「ヤマト」の役目が軽減される事はなかった。「ヤマト」は地球を救わねばならないのだ。
 だが、地球人類が自由に宇宙に出られるという事は、ここ数年間の事を考えると劇的な変化となった。地球以外に残された、人類側の残存施設とそれらを結ぶ連絡路が自由に利用できることを意味していたからだ。
 さっそく地球に残された人々は、地中に残されたありったけの宇宙船(軍艦含む)を用いて活動を開始する。先導したのは、突貫作業で緊急修理が行われた一時は地球最後の稼働戦艦となった「えいゆう」だった。流石に戦闘艦の先導なくして、宇宙に出る勇気を持てなかったのだ。

 まず月面に至った人々は、月の地下深くに籠もって小惑星帯や火星に対する細々とした生産活動と補給さらには遊星爆弾の迎撃を続けていた付きの人々(ルナリアン)と合流する。ほぼ同時に状況を知った月の側でも同様の活動を開始しており、連動しての作業となった。太陽系内で「ヤマト」に最後の補給物資を届けたのも、月の彼らだ。その活動は地球より早かったほどだ。
 なお月面地下都市群は、ガミラスが来る以前、早くは21世紀後半には地下の鉱山都市跡に自らの安住の地を構えていた。自然の宇宙放射線から自らを効率的に守るためだ。このため地球の地下都市より設備も歴史も古く、また大規模なものも多かった。ガミラス襲来以前ですら、地下500メートル以上の場所に100万都市規模のものがいくつも存在したほどだ。当初地球連邦政府が月面地下都市の一つに首都を置いたのも、当然の選択とすら言えただろう。
 しかもガミラスの侵略以後、組成変更用ナノマシンなどを用いて都市周辺地盤を著しく強化コーティングし、さらに深くへと逃れた月面都市群での生存率は極めて高かった。しかも、大規模な人工タンパク質工場などを設置するなどして自給率も高く、太陽系内で最も快適なシェルター・コロニー群を作り上げていた。避難していた人々の数も、宇宙生活者を中心に2億人を数えている。
 加えて戦中は、ごく限られた場所以外ガミラスの爆撃が比較的軽かった事、防空体制の構築が早かった事などから、地球よりも状態ははるかに良好だった。このため、2198年以後の宇宙での活動の主力は、月面を中心としていたほどだ。ただし、宇宙への出口へと繋がる地表近くの爆撃は徹底しており、月面上での活動は極端に限定されていた。極論、地球人類社会の社会資本の大量存続こそが、この時期の月面地下都市群の使命だったとすら言えるだろう。事実、地球上で実質的に滅亡してしまった国のかなりが、月地下に自由政府や臨時首都を置いていたほどだ。
 そうした状態だったため、月の復活は早かった。
 月の全土では、すぐにもガミラスの目を気にすることなくエネルギー放射を行って現地プラントを最大稼働させ、様々な資材と簡便な宇宙船の大量建造と、必要な資材の生産を開始する。
 まずは、地表の放射能におびえる人々を救うことが先決だった。一定数の人類を生き残らせなければ、人類そのものが本当に滅亡してしまうからだ。なおこの時は、新たに製造されていた小型の波動機関がエネルギー源として大きな力を発揮していた。

 そしてほぼ同時に、地球防衛艦隊の何度目かの再建も開始された。ガミラスは、一時的にいなくなっただけだと考えられていたからだ。
 今度建造させる艦艇は、今までとは一線を画した艦艇になる予定だった。全ての艦艇に「波動機関」を搭載することが予め決定していたからだ。無論設計も一新された。
 ネックは、新型機関の保有により10万トンクラスの大型艦すら建造可能になったにも関わらず、既存の建造施設、工作機械の規模から従来の規模に似た艦艇しか建造できなかった事だろう。また、新造艦の建造に先立って、残存している艦艇を用いた各種実験も再度行わなくてはならなかった。何しろ全ての新機軸を搭載した“宝の山”とすら言える「ヤマト」は、すでに遠く宇宙の彼方だ。無論数々の実験データ・実戦データを転送してくれてはいたが、また装備を作り実地で試すところから始めなければいけなかった。
 このため損傷しつつも地球もしくは月に残されていた、全ての「グローイ級」戦艦、「ウィンド級」突撃駆逐艦の突貫修理並びに近代改装工事が始まる。
 全艦に対する共通した改装は、ワープ装置を最初から組み込まない簡易型波動機関の搭載と動力系の刷新だった。その他、電算機、通信装置、探査装置、そして衝撃砲に関して特化した改装がそれぞれに施され、次々に再就役していった。とにかく従来と違い燃料庫が不要なため、多くのものがそれぞれの艦に搭載された。
 改装の結果は良好で、速力に特化した突撃駆逐艦「しまかぜ」は、極めて短時間でウラシマ・エフェクトを発生させずに光速の99%を達成し、地球人類を大いに驚かせた。この時点で、時間と空間を操れる事が明確に分かったからだ。
 また「えいゆう」は、備砲の全てを試作された16インチ連装ショック・カノンに換装し、ガミラスの残骸を用いた標的を完全に破壊する威力を発揮した。この16インチはさらに改良が施されて、後の新型戦艦に装備される事になる。また大破状態から改装復帰した砲撃型の「ペンドラゴン」は、波動砲実験艦となり小惑星の一つを消滅させている。
 そして地球地下都市の活動が一部再開され、月面地下工業都市群の全力再稼働が軌道に乗った2199年12月、遂に新型艦艇の建造が開始される。
 建造される艦艇は二種類。ワープ能力を備えた汎用大型艦と、太陽系内専用で運用される重武装艦だった。
 汎用大型艦は、新たに与えられた性格から俗称的に「戦列艦」と呼称された。複数の艦艇が横一線に並んで波動砲を投射して、一気に戦闘を決することが第一の運用目的とされたからだ。この点は、遙か古の同名の艦種と大きく違っている。
 艦の規模は、「グローイ級」を建造していた施設のほぼ限界サイズ。この時は重量と建造の手間を省く関係もあり、乾燥重量で8000トンクラスとなる。だが後の改良を受けられるよう大きな余裕を持った設計が施されていた。大幅な追加装備や増加装甲などを加えた重武装型として建造した場合、1万500トンを越える事になる。この時の装備には、「ヤマト」に搭載されたものより小型の波動砲(通常型)と、扱いやすい8インチサイズの連装衝撃砲、宇宙魚雷(高速ステルスミサイル)が選ばれた。
 クラス名には、当初過去数世紀の間地球上の国家が保有した事のある「戦艦」の名が当てられた。しかし後に、もっと大きな艦艇が続々と建造されるようになると名前負けするとの声が強くなり、地球の様々な自然現象名から名前が改めて取られた。2201年以後の艦名には、「ゆうなぎ」、「ミストラル」、「ハリケーン」、「メールストロム」「シロッコ」「ウィリ・ウィリ」などがあり、一部は「グローイ級」戦艦から名前を受け継いだものもある。
 いっぽう重武装艦は、その名の通りの重武装から「コルベット」と呼称された。「ウィンド級」の施設で建造可能な3000トンクラスの船体に、小型波動砲(威力は「ヤマト」の1/20程度)、小口径(5インチ)ショック・カノン、宇宙魚雷(高速ステルスミサイル)、各種対空フェザー砲など様々な装備が多数搭載された。このためにワープ機能を搭載できなかったのではないかと言われたが、ガミラスのデストロイヤークラスを完全に圧倒する能力を求めたら、この姿に行き着いたのだ。
 クラス名には、過去数世紀の間地球上の国家が保有した事のある「フリゲート」や「コルベット」、「巡洋艦」の名が当てられた。その後も一部に不満の声があったが特に変更される事はなく、太陽系内限定ではあったが長らく運用される事になる。
 以上、上記二種類の艦艇は依然赤い地球が目に入らないかのように急ピッチで量産が進められ、早くも2200年3月にはコルベットの一番艦が就役した。同4月には戦列艦の一番艦も就役し、一番艦就役から半年以内にコルベットはちょうど100隻、戦列艦は30隻がとりあえず建造された。数にしてガミラス軍太陽系方面にあった艦艇数の3倍の規模であり、再び数ヶ月前の状態にガミラス軍が復活したと想定しても、遊星爆弾を迎撃しつつ敵艦隊並びに拠点を短期間で破壊するには十分な戦力と考えられた。
 事実、2200年4月頃に太陽系外縁に襲来した中規模のガミラス艦隊(規模から偵察艦隊と思われる)を、建造されたばかりの戦列艦、コルベットで編成された艦隊が迎え撃ち(司令・土方竜提督)、敵が射程圏に入る前に波動砲の一斉射撃を行うという半ば奇襲的な攻撃で敵艦隊殲滅に成功していた。
 この時の勝利は、「ヤマト」を別格としたら地球防衛艦隊にとっての初めての完全勝利であり、地球人類に自信を取り戻させるには大きな効果があった。
 また新型艦が就役するまでの間は、地球軌道上に対遊星爆弾絶対防衛用の新型戦闘衛星(高出力フェザー砲装備)も多数配置され、防衛力の補完が行われている。

 一方、とりあえず「人類滅亡」を脱した地球人類だったが、さすがに復興は思うに任せなかった。
 地球表面、月面、火星、小惑星、木星、土星、それら多くの場所には、「高濃度放射能さえ除去できれば」という但し書き付きで、無数の資源、資材、プラント、様々な施設が存在していた。ガミラスは地球表面への遊星爆弾投下こそ最優先していたが、他の地域では地球人類が利用しないもしくは無視できる抵抗レベルになると、不思議と攻撃しなくなったのだ。
 ガミラス側としては、地球人類などいつでも殲滅できるので、まずは自分たちにとって一番必要な「惑星改造」を重視したに過ぎなかったのだが、地球人類にとっては予想外のうれしい誤算だった。てっきり、残らず破壊されているものと考えていたからだ。
 ただし、多くは高濃度放射能で汚染されてしまっており、なおのこと「ヤマト」帰還が待たれた。
 放射能さえ除去できれば、人類文明の復興と地球再建並びに太陽系開発は十分可能だとするだけのものが、高濃度放射能の中に存在しているのだ。

 そして、地球人類最後の希望である「宇宙戦艦ヤマト」の旅だが、航路は予想以上の艱難辛苦の連続だった。
 ガミラス軍の執拗な妨害、宇宙自然の脅威、様々な障害がそれこそ毎週のように「ヤマト」に襲いかかってきた。地球帰投時の乗組員の戦死者数が半数近かったと言えば、その苦労が少しは理解できるだろう。
 だがそうした苦境の中にあっても「ヤマト」は前へ進むことをあきらめず、ついには大マゼラン星雲イスカンダルへ干しと至り、そしてコスモクリーナーDを携え地球へと戻ってきた。
 その記録は「ヤマト」帰還によって初めて地球人類の知るところとなるのだが、戦いと航海の記録は当然として、さらに驚くべき事実を地球人類にもたらした。
 それはガミラス帝国の本星がイスカンダル星同様に大マゼラン星雲にあり、しかもガミラスとイスカンダルは同じ太陽系内の双子星だったというのだ。
 そして「ヤマト」は、地球人類にとって二重の意味での救世主となる。地球人類史上、最も価値ある勝利をもたらしたと言われた、ガミラス本星での戦闘にまで勝利して敵本星に壊滅的打撃を与え、事実上ガミラス帝国を滅亡させてしまったからだ。
 このためガミラス本土決戦のあった2200年5月以後、それまで太陽系への偵察もしくは小規模攻撃をしていたガミラス軍の姿が、突然見えなくなったわけだった。事情が判らないため変化を怪しんだ地球人類側が、近隣恒星系に戦列艦による調査艦隊をいくつも派遣したほどの変化の原因は、根本の原因が消滅した事にあったのだった。
 だが「ヤマト」は、こうも報告した。
 ガミラス帝国本星は壊滅させたが、依然両マゼラン星雲には多数のガミラス艦隊(※主力艦隊の予測数は1000隻規模。確認された最大規模の艦隊は約3000隻。しかも依然として多数の戦線を抱えている可能性大)が残存している可能性が大であり、地球に対して復讐の牙をむく可能性が十分に存在している、と。

 つまり、地球の復興は急務であり、同時に地球防衛艦隊の早期拡充もまたさらなる急を要するとなったのだ。


●地球復興と地球防衛艦隊再建 へ